問い合わせから、さほど時間を置かず、最初の記事が出た。〈ベストセラー作家・汐、アシスタントの原稿を横取りか〉藤崎紗月と高瀬莉奈の名前が並んでいた。莉奈が実質的に作品を書いてきたが、利益配分で対立すると、紗月は代表取締役の夫まで追い出した。そんな内容だった。汐は、顔も本名もほとんど公にしていない筆名だ。作品の後ろにいるほうが落ち着いた。直人は一度の資料配布で、その境界をすべて開け放った。古い取材写真、会社の登記上の住所、結婚した年まで、記事に載っていた。社員のグループチャットにも、連絡が溜まった。直人を信じると言う人はいなかったが、どう答えればいいのかという質問が続いた。紗月は新しい暫定代表を通じ、一文だけ伝えた。〈個別の問い合わせには答えず、資料はすべて法務へ送ってください〉その文を書く手が、自分のものではないようだった。以前は社員の人数さえ直人に聞いていた。今は、彼らの生活まで揺らがないようにしなければならない。記事の根拠は、直人が用意した想定問答と、莉奈の名のある作業表だった。資料調査を担当した記録が、巧妙に『共同執筆』へ変えられていた。作業表そのものは、本物だ。時代背景を調べ、誤字を確認し、紗月が頼んだ場面の参考写真を集めた記録。直人は嘘を作るとき、事実を丸ごと捨てない。隣につける説明を、ひとつ変える。だから、知らない人にはもっともらしく見えた。知らない番号から電話が続いた。出ないと、メッセージで質問が来た。〈高瀬莉奈氏の原稿を、ご自身の名で発表した事実を認めますか〉〈一ノ瀬怜司氏とは、いつから交際していますか〉問いは、すでに答えを決めていた。紗月はスマホを伏せた。直人は、動揺して一言でも言い損なうのを待っているのだろう。以前なら、まず悔しさを訴えた。でも今は、口を開く順序も記録になると知っていた。二本目の記事に、あの写真が使われた。元の広い画面にはいたはずのラウンジスタッフも、二人の間の空間も切り落とされていた。見出しだけでは、密室で会ったように読める。会社のアカウントで呼び出された事
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-23 อ่านเพิ่มเติม