บททั้งหมดของ 「ゴミ出しに行ってくる」――夫の帰りが、日に日に遅くなっていく: บทที่ 21 - บทที่ 30

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21話 盗んだのは、どちら

問い合わせから、さほど時間を置かず、最初の記事が出た。〈ベストセラー作家・汐、アシスタントの原稿を横取りか〉藤崎紗月と高瀬莉奈の名前が並んでいた。莉奈が実質的に作品を書いてきたが、利益配分で対立すると、紗月は代表取締役の夫まで追い出した。そんな内容だった。汐は、顔も本名もほとんど公にしていない筆名だ。作品の後ろにいるほうが落ち着いた。直人は一度の資料配布で、その境界をすべて開け放った。古い取材写真、会社の登記上の住所、結婚した年まで、記事に載っていた。社員のグループチャットにも、連絡が溜まった。直人を信じると言う人はいなかったが、どう答えればいいのかという質問が続いた。紗月は新しい暫定代表を通じ、一文だけ伝えた。〈個別の問い合わせには答えず、資料はすべて法務へ送ってください〉その文を書く手が、自分のものではないようだった。以前は社員の人数さえ直人に聞いていた。今は、彼らの生活まで揺らがないようにしなければならない。記事の根拠は、直人が用意した想定問答と、莉奈の名のある作業表だった。資料調査を担当した記録が、巧妙に『共同執筆』へ変えられていた。作業表そのものは、本物だ。時代背景を調べ、誤字を確認し、紗月が頼んだ場面の参考写真を集めた記録。直人は嘘を作るとき、事実を丸ごと捨てない。隣につける説明を、ひとつ変える。だから、知らない人にはもっともらしく見えた。知らない番号から電話が続いた。出ないと、メッセージで質問が来た。〈高瀬莉奈氏の原稿を、ご自身の名で発表した事実を認めますか〉〈一ノ瀬怜司氏とは、いつから交際していますか〉問いは、すでに答えを決めていた。紗月はスマホを伏せた。直人は、動揺して一言でも言い損なうのを待っているのだろう。以前なら、まず悔しさを訴えた。でも今は、口を開く順序も記録になると知っていた。二本目の記事に、あの写真が使われた。元の広い画面にはいたはずのラウンジスタッフも、二人の間の空間も切り落とされていた。見出しだけでは、密室で会ったように読める。会社のアカウントで呼び出された事
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-23
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22話 名前を取り戻す一文

紗月は、告知をすぐには消さなかった。直人のアクセス権は回収してある。それでも、予約投稿と接続の記録を残す必要があった。サイト側と弁護士が画面を保存し、サーバー資料の保全を求めてから、ようやく非公開にした。その間にも、スクリーンショットは何百と広まった。「病歴の無断公開は、別に対応できます」真紀が言った。「ただ、最初に正すべきなのは、誰が書いたのかという問題です。感情に任せた説明は控えましょう」「わかっています」そう言っても、喉の奥は乾いていた。最初の流産で休載を知らせた日、読者には私事としか伝えなかった。二度目は、作品の質を高めるための準備期間と書いた。直人は誰にも知られないようにしようと言い、病院の領収書まで自分で保管していた。あの気遣いが、今日のための資料集めだったとは思いたくなかった。最初から計画していたはずはない。それより怖いのは、かつて本気で自分をいたわった人が、必要になった途端、その時間を武器にしたことだった。紗月はパソコンを開いた。九年前の第一作の初稿から、最新作まで。フォルダは年ごとに整理されている。最初の一文を書いた日、編集者へ送ったメール、戻された校正稿、さらに直したファイル。順番に残っていた。作家には、完成した本よりはるかに多くの、失敗した文章がある。消した場面、間違えた設定、徹夜で変え、朝になって戻した結末。文体より真似しにくいものがあるとしたら、その過程だった。検証用のフォルダには、完成稿より捨てた資料のほうが多く入った。手描きの人物の動線、スマホに録音した台詞の候補、編集意見を受けても採用しなかった結末。日付順にまとめていく。自分だけが知る秘密だと主張するより、あとから他人には作れない順序を見せるほうが、正確だった。当時の担当者だった怜司のメールには、人物の選択をもう一度考えてみようという短い意見があり、その下に紗月の長い返事が続いていた。〈この人は、許すのではなく、自分の人生を選ぶんです。だから、戻りません〉二十六歳の自分が書いた言葉に、しばらく手
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23話 騙されたことは、免罪符にならない

莉奈が来たのは、その夜だった。玄関の暗証番号を変えていたので、家には入れなかった。インターホンの画面の中で、帽子を深くかぶっていた。『先生、少しだけ話をさせてください』「弁護士に連絡してください」『湊を連れて、行くところがありません。部屋のお金まで押さえられたって』「今すぐ出ていけとは言っていません。契約終了の手続きと猶予期間は、代理人からお伝えします」『私も、直人に騙されたんです』紗月は答えなかった。莉奈が、透明な書類袋をカメラの前へ持ち上げた。『直人の使っていたタブレットと、会社の書類を持ってきました。先生の署名画像の元ファイルもあります』紗月は書類より先に、莉奈の後ろを見た。「湊くんは、今どこに?」『姉に預けています』「その、お姉さんの子だと言ったんでしたね」莉奈は目を伏せた。『あのときは、そう言うしかなくて』「いいえ。そう言うと、選んだんです」ドアは開けなかった。真紀に連絡し、安全に資料を受け渡せる場所を決めた。本当に証拠を持ってきたのか、直人が仕掛けた別の罠なのか、まだわからなかった。三十分後、二人は真紀の事務所で向かい合った。最後に会場で見たときとは、別人のようだった。化粧は落ち、爪先は噛みむしられていた。しかし、やつれた顔で責任まで消えるわけではない。「ページオンの株式は、高瀬さんの名義ですね」真紀が聞いた。「名前だけです。通帳も会社印も、全部、直人が持っていました」「何も知らずに、名義を貸したということですか」莉奈はうつむいた。「知っていました。先生の会社から入金されていることも。あとで作品の利益から返せばいいと、言われて」「発表会のあと、直人さんには会いましたか」「はい。どうして何も使えなくしたのか、聞きました。少し待てばいいって。それから、代表は私だから、調べられるのも私が先だって……」
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-24
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24話 「また書けばいいでしょう」

和子は、予告もなく来た。ドアを開けずにいると、警備室の前で待つというメッセージが届いた。紗月は真紀へ行き先を知らせ、マンションのロビーへ下りた。姿を見るなり、和子は声を落とした。「あの日の話、録音したの?」「はい」「目上の人の話を、黙って録音するなんて」「私も参加した会話です。何も偽らず、そのまま提出しました」「それでも、先に言うべきでしょう」「先に言っていたら、本当のことを答えてくださいましたか」和子は答えなかった。手首には、去年の誕生日に紗月が贈ったブレスレットがあった。母が最近元気がないから、代わりに選んでやってほしい。直人にそう頼まれた品だ。結婚してから毎月、生活費を送った。盆暮れには旅行代を渡し、病院の予約も取った。和子はいつも、娘ができたみたいだと言って、紗月の手を握った。その手で会社の金を受け取り、莉奈の産後ケア施設の残金を払った。「直人は、家に来た?」「来ていません。どうしてですか」「電話にも出ないのよ。会社を追い出されて、口座まで押さえられたんでしょう。夫婦で相談もせず、生きる道を絶つなんて」「会社の金を流用し、私の署名を偽造したからです」「偽造だなんて。全部、直人に任せていたじゃない。一度代わりにサインしたくらいで、刑務所に入れる気?」「十二作品と、これから書く作品まで渡す署名でした」「あとで戻すと言っていたわ。事業なら、一時的に名義を変えることもあるでしょう」和子は、前と同じように行為の名前を変えた。横流しした金は、借りた金。偽造は、代わりの署名。六年の不倫は、父親としての責任。「ページオンが受け取ったお金は、お義母さんの口座にも戻っています」目が揺れた。「あれは、湊の誕生日に使うからって、直人が一時的に預けただけ」「では、そのとおり捜査機関に説明してください」「家族の情でしたことを、全部罪にするの?」「家族なら、私のお金を隠していいわけではあり
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-24
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25話 これからは、弁護士を通してください

紗月は、一人では上がらなかった。真紀が警察に状況を伝え、警備員二人が玄関の外で待った。直人の荷物をすべて運び出す前だった。暗証番号は変えていたが、手元に残していた非常用の鍵で入ったらしい。紗月は録音を始め、ドアを開けた。直人は食卓に座っていた。酒の瓶は見えない。顔だけが赤く、前には結婚写真のアルバムが開かれていた。寝室のクローゼットの、いちばん上にしまっていたものだ。わざわざ二人の写真を探して出したことが、おかしかった。1704号室へ通っていたあいだは、一度も開かなかっただろう。最初のページは新婚旅行の写真だった。風で髪の絡んだ紗月を見て、直人が笑っている。あの笑顔まで全部嘘だと決めつけられたら、むしろ楽だったかもしれない。でも、あのとき彼が幸せだった可能性と、今日の裏切りは、同時に存在する。あの日幸せだったとしても、今日の裏切りは消えない。「人まで連れてきたのか」「外にいる」「俺が何かすると思って?」「わからない。今のあなたを、私が知っていると思う?」直人はアルバムを閉じた。「座って。十分でいいから話そう」紗月は玄関に近い椅子に座った。直人はその距離が気に入らない様子だったが、何も言わなかった。「母さんに会った?」「うん」「あの人の言うことは聞くなよ。昔から口が悪いんだから」「湊くんの存在を知っていて、隠していたのは本当だった」「俺が言うなって頼んだ。母さんまで巻き込むな」初めて、自分の選択だと言った。けれど、次の言葉はもう違った。「最初は、こんなに続くとは思わなかった。流産してから、紗月は俺を遠ざけてばかりだっただろ。俺にも、息をつける場所が必要だったんだ」「病院から帰った日も、あの人に会ったの?」「そんな聞き方、するなよ」「いつからって聞いても、答えないから」「最初の何回かの日付なんて、覚えてるわけないだろ」「子どもができたのは、
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-25
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26話 泣くのは、取り戻したあとで

直人が出ていくと、家は静かすぎた。警備員が非常用の鍵を預かり、真紀は翌日、錠前ごと交換するよう勧めた。うなずいたものの、紗月はしばらく食卓の前から動けなかった。結婚写真のアルバムは、直人が広げた場所に残っていた。ソファには愛用していた毛布が畳まれ、浴室にはシェーバーがある。靴箱の一角も、彼の靴で埋まっている。一人いなくなったことを、物たちは知らないようだった。紗月は靴にも服にも触れなかった。外へ全部ぶちまけたい衝動は、一瞬だけだった。引き取る期限と方法を、弁護士を通じて決めればいい。怒りから、新たな争いを作りたくはなかった。アルバムは捨てず、クローゼットの上にも戻さなかった。箱をひとつ持ってきて、ほかの書類と一緒に入れた。今夜、何を捨てるかまで決めなくていい。スマホには、不在着信が溜まっていた。直人が十二件、和子が四件、知らない番号が七件。社員や取引先からの連絡も続く。直人と和子の連絡先を代理人に伝え、通知を切った。翌日から、会社を立て直す作業が本格的に始まった。紗月は三年ぶりに、汐文コンテンツのすべての席をゆっくり見て回った。会議室、編集室、資料室。働いているのは十一人。名前は知っていても、何をしているかは直人の説明でしか聞いたことがなかった。コンテンツ運営担当の佐伯美咲が、最初に立った。「先生、私たちも、外注費に問題があるとは知らなくて。社長が直接決裁していたので……」「社員を責めに来たわけではありません」「会社は、これからも続くんでしょうか」周りの視線が、一斉に集まった。紗月は用意してきた答えを伝えた。「正常な契約と連載は維持します。給与も遅らせません。その代わり、各自が持つ業務記録は、漏れなく提出してください。責任を取るべきことがあれば、記録に従って判断します」不安そうな顔が、少しずつ緩んだ。直人は、自分がいなければ会社は止まると言った。けれど会社は、それぞれの仕事をする人たちがいるから動いていた。彼が一人で握っていたのは、会社そのものではない。
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-25
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27話 幸せだった日も、あった

三か月後、紗月は家庭裁判所の調停室で、直人と再会した。その間、一度も直接会わなかった。会社の資料を返してもらう日も、双方の代理人だけが立ち会い、捜査機関での聴取も日程を分けた。直人は週に一度ほど手紙を送ってきたが、真紀が保管し、手続きに必要な内容以外は伝えなかった。紗月は週に一度、カウンセリングを受け始めた。眠れない夜が続き、玄関の開く音だけで体がこわばった。カウンセラーは、直人を許せとも、早く忘れろとも言わなかった。初めて、自分の回復に締め切りを設けない練習をした。三か月経つと、一人で買い物をし、一食作って食べることも、少しずつ馴染んできた。それでも今朝は、水さえうまく飲み込めなかった。直人は痩せていた。高価なスーツではなく、皺のあるシャツ。指輪も腕時計もなかった。紗月が入ると立ち上がったが、挨拶はしなかった。代理人がそれぞれ席につき、最終的な条件の確認が始まった。汐文コンテンツの株式名義と議決権は紗月にある。結婚前に創作した作品の著作権も、紗月の固有の財産として整理された。一方、婚姻中の会社の価値の形成や共有財産については、直人の寄与も一部認められ得た。しかし、受け取ってきた給与や賞与も踏まえて清算し、さらに会社へ返還すべき流用金や損害賠償を別に負うことを考えると、彼の手元に残るものは、ほとんどなかった。不倫したからというだけで、すべての財産を取るわけではなかった。正常に働いた期間の貢献は認め、ともに作った預金も法に従って分けた。その一方で、会社から持ち出した金は会社へ返し、偽造や不倫による損害は、別に責任を負わせる。正確に分けることが、初めは悔しかった。騙した人にも、認めるべき取り分がある。それが理不尽に感じられた。それでも、復讐という名で、他人の分まで取らないと決めた。自分のものが戻るところに、線を引いた。直人側の弁護士は、刑事告訴の取り下げを条件に、財産分与の請求を放棄する案を出した。「お受けしません」紗月は即答した。直人が、初めて彼女を見た。「少しだけ、二人で話させてください」代理
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-26
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28話 作家・汐、もう一度

離婚しても、事件は終わらなかった。直人は、代表者として通常の外注契約を結んだだけだと主張した。だが、ページオンには翻訳者も編集者もいなかった。成果物の大半は、紗月や社員がすでに作った資料の名を変えただけ。請求書の日付と送金、その直後に莉奈の個人カードの代金が引き落とされた時刻も、つながっていた。署名については、紗月が黙認していたと話を変えた。しかし、自ら『便宜上した』と認めた通話の録音、未来の日付が書かれた契約書、署名画像の元ファイルの所在が残っていた。説明が変わるたび、確かめる記録が増えた。消したファイルより、サーバーやメールに残る痕跡のほうが多かった。捜査機関は、ページオンへ流れた金と偽造された契約書を一つずつ調べた。会社のパソコンから資料を消そうとした履歴。署名画像を挿入したファイル。莉奈へ責任を押しつけるメッセージ。順に証拠となった。莉奈も、業務上横領や著作権侵害への関与を調べられた。協力しても、責任は消えない。ただ、タブレットと会話記録を提出し、被害金の一部を返したことは、捜査で考慮された。報道に、湊の名前も顔も出なかった。直人が流した資料には『子ども』という表現が一部残っていたが、紗月側は子どもに関する取材には、何も確認しなかった。ストーリアの公式発表も、作品と契約の問題だけに絞られた。1704号室の猶予期間が終わる前に、莉奈は姉の住む地方へ引っ越した。紗月は弁護士を通じて、その事実だけを聞いた。和子から、長い手紙が一度来た。直人が悪いのは認めるが、刑だけは軽くしてほしいという内容だった。最後には、湊にも祖母が必要だと書いてあった。返事はしなかった。その代わり、自分の住まいを移した。不動産会社は広くて高い部屋も見せたが、二部屋と、長く日が差すリビングがあれば十分だと伝えた。仕事部屋のドアが寝室と向き合わない間取りも、気に入った。誰が寝ているかを気にしながら、夜中に静かにキーを打つ必要のない家だった。契約の条項を、すべて自分で読んだ。わからない文は、仲介担当者と弁護士に聞き直した。以前なら直人が早く署名しろと急かしていたことに、二時間かかった。
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-26
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29話 仕事の話をしない夜

事件の始まりから、一年が経った。判決の要点を記した真紀のメッセージは、朝早く届いた。紗月は読んで、お疲れさまでしたと返し、スマホを置いた。何年の刑になったかは、大切なことだった。けれど、その数字を待つために一年を生きたわけではない。会社が回収できたのも、被害額のすべてではなかった。1704号室の契約から返還された金、差し押さえた預金、直人名義の資産を合わせ、約七割。残りは民事判決に従い、引き続き返さなければならない。失った金がすべて戻らなくても、紗月の人生が失敗したわけではなかった。金より先に、戻ってきたものがある。直人には、業務上横領、有印私文書偽造・同行使などの罪で、拘禁刑三年の実刑判決が出た。一部は返還されたものの、長期にわたる犯行と、紗月の創作者としての立場まで奪おうとしたことが、不利に考慮された。莉奈の刑には、保護観察付きの執行猶予がついた。保護観察の中で社会貢献活動にも取り組むことになった。被害金の返還義務と、著作権侵害の民事上の責任は残った。ページオンは廃業し、作家としてのデビュー契約はすべて取り消された。紗月は、判決を聞くために裁判所へ行かなかった。その日は、新作の完結日だった。最終話の公開予約を確かめ、社員と小さなケーキを分けた。新しい代表は四半期の決算を直接説明し、紗月はわからない項目を通り過ぎなかった。初めは会計用語をひとつ聞くだけでも勇気が要ったが、今は質問を恥ずかしいとは思わない。汐文コンテンツは規模を縮めた。無理に進めていた海外事業を二件やめ、紗月が直接確認できる作品と二次利用事業を残した。売上は直人が代表だった最後の年より減ったが、実際の利益と資金繰りは、むしろ安定した。月末には、社員がそれぞれの業務記録を共有した。紗月も執筆が遅れるときは、隠さず知らせた。すべてを一人で抱えず、自分の権限も手放さない。その形が、少しずつ定着していた。完結当日、新作はサイトの総合一位になった。記念イベントには、長年の読者、編集者、ともに働いた制作陣を招いた。紗月は壇上で作品の話をした。事件については、すでに区切りのついたことです、とだけ答えた。
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-27
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30話 ゴミ出してくる

三か月後、紗月は新居に残っていた、最後の箱を開けた。あの夕食のあと、怜司とは週に一度会った。映画がつまらなければ途中で出たし、それぞれが選んだ本を交換して読んだ。返信が遅くても、彼は理由を聞かなかった。紗月も忙しいときは、来週にしようと自分から言った。ひと月経ったころ、怜司が、きちんと付き合いたいと言った。「感謝と取り違えているのではと心配なら、もう少し待ちます」「感謝はしています。でも、それだけの人と、毎週夕食は食べません」紗月から手を差し出した。怜司は口元を少し緩め、その手を取った。重なった指に、紗月はそっと力を込めた。その日、玄関先で彼が尋ねた。「キスしても、いいですか」「はい」初めての口づけは、短く、慎重だった。唇が離れても、紗月は目を閉じたまま手を握っていた。過去と比べなくていい、今の気持ちだった。目の前の箱には、結婚写真、新婚旅行の土産、直人の古い名刺、使われなくなった会社印のケースが入っていた。引っ越しの日には決められず、収納へ押し込んだものだった。紗月はリビングの床に座り、一つずつ取り出した。写真の二人は笑っていた。その笑顔まで嘘とは呼ばないことにした。あのとき幸せだった自分まで否定したら、直人に奪われる時間が、もっと増える気がした。写真は写真として残り、結婚は終わった。別々の事実だった。両親と一緒の写真を数枚抜き、別にしまった。残りは紙とビニールに分けた。額縁からガラスを外し、金属の留め具を取り除く。直人の名刺は、迷わず紙の箱へ入れた。印鑑のケースは、すでに処分済み扱いだと会社に確かめてから、可燃ゴミの袋に入れた。玄関の暗証番号を押す音がした。本棚の組み立てを手伝ってほしいと、今朝、紗月が一時的な番号を送っていた。怜司は受け取っても、本当に入っていいのかと確認した。煩わしいくらい確かめてくれることが、紗月には心地よかった。「来たよ」買い物袋を持った怜司が入ってきた。一か月前から、二人は敬語をやめていた。初めて『紗
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