表現のさじ加減を探るにあたって、まずは“何を見せて何を隠すか”の線引きから始めるのが有効だ。描写を露骨にしなくても、身体の小さな反応や視線の交差で十分に
劣情は伝わる。言葉よりも細部に頼ることで、読者の想像力が働き、余白が深い情緒を生む。ある作品、たとえば'ノルウェイの森'のように、沈黙や間の取り方で欲望や喪失をにじませる手法はとても参考になる。私はこうした“間”や省略を意図的に使うことが多い。
文体では短い断片文や逆説的な比喩を用いると効果的だ。胸の高鳴りをそのまま描写するより、布の擦れる音や指先が触れる瞬間の温度差に焦点を当てる。行為そのものを細かく描く代わりに、前後の情景や会話を通して読者に補完させると、品性を保ちつつ強い共感を生める。私は何度も削って余分を落とし、最後は読者の想像に委ねる形に仕上げることが多い。
倫理面も忘れてはいけない。合意や感情的リアリティを損なわず、キャラクターの尊厳を守る表現を心がけている。編集段階で第三者の目を借り、過度な性的化やステレオタイプに陥っていないかを検証するのも自分を律する一手だ。こうして育てた控えめな描写は、時に露骨な説明よりもずっと強い余韻を残してくれると感じている。