古い写本をめくるみたいにこの話を噛み砕いてみると、作者は
アルヴァレスの起源を単なる一回の事件ではなく、何層にも重なった物語として描いている印象を受ける。物語内部では、第一に皇族や英雄の系譜を辿る『古王年代記』風の伝承を用いて創始者たちの伝説を提示する。次に、遺跡や碑文の断片を通じて考古学的根拠を示す手法で、文明の断絶と再興という時間の流れを埋める。 さらに、作者は政治的な動機や権力争いを忘れずに描写しており、
帝国と呼ばれる体制が如何にして正当性を得たかを語るために、文書改竄や英雄譚の利用といった現実的な要素も織り込んでいる。私はこの混交が好きで、伝説と史実が揺れ動くところに物語の味わい深さがあると感じた。結果として、アルヴァレスは単純な起源史ではなく、記憶と捏造、遺骨と碑文が折り重なった「作られた過去」として提示されている。終わり方も明確に切らず、読者に残る余韻が巧妙だった。