元カレ復縁懇願、されど私は億万長者妻
億万長者、鷹司誠一郎(たかつかさ せいいちろう)の妻となって二年。ようやく、元婚約者の星野寛祐(ほしの かんすけ)が、私との結婚の約束を思い出したらしい。
私設の邸宅前には、黒塗りの高級車がずらりと並んでいた。運転手たちが次々と荷物を降ろした。ブランド時計、宝石、オーダーメイドのドレス、果てはグランドピアノまで。
寛祐はバラの花びらが舞い散る中で、意気揚々と私に告げた。
「心瑚。言っただろう。咲良さんとの間に子供を作ったのは、兄貴が事故で亡くなり、彼女が義姉として我が家の血筋を残したいと願ったからだと。
赤子が生後一ヶ月を迎えたばかりだ。彼女との約束は果たした。だから、すぐに迎えに来たんだ」
私は温水プールに浸かっていた。産後のリハビリ運動を終えたばかりで、寛祐など構っている暇はない。
寛祐は眉をひそめ、まるで物分かりの悪い子供を諭すような口調で続けた。
「不機嫌なのは分かっている。だが、君は桐生家のお嬢様だ。何一つ不自由していない。夫を亡くしたばかりの咲良さんを、少しは哀れんでやれないのか?
二年待たせたのは悪かったが、俺は今、戻ってきた。三日後に式を挙げる。君がまだ俺を想っているのは知っているさ。でなければ、そんな挑発的なビキニ姿で俺に会うはずがない」
全てを掌握しているかのような彼の態度に、私は思わず笑ってしまった。
「あの人を追い出しなさい。私の水泳の邪魔よ」
馬鹿馬鹿しいにも程がある。
私は鷹司グループの跡取りを生んだばかりで、誠一郎がわざわざ私と子供を帰国させ、両親に顔を見せようとしていたのだ。
まさか、こんなくだらない疫病神に遭遇するとは。