遅れて来る春に抱かれて
すみれは「白血病」を患う恋人の遼介を救うため、何度も自分の血を差し出してきた。だがある日、彼が健康そのものの姿で、初恋の紗英と一緒にウェディングドレスを選んでいるのを目撃してしまう。
「彼専用の血液バンクは、もうとっくに私のものになってるのよ」紗英が投げつけたのは、ガラス片の散ったトウシューズだった。
遼介もまたすみれにそれを履かせ、「踊ってみろ」と迫る。
足裏が切り裂かれたとき、彼の「心配そうな演技」は、招待客の目を欺くためのものにすぎなかった。
「代役が愛を語る資格なんてある?」すみれは空の輸血パックを揺らし、告げる。
「この病院はうちのものよ。彼が病気を装っていたのは、すべて私のためなの」
その録音を隠し持ち、すみれは初恋の蓮と結婚する決意をする。かつて「盲目の少年」だった彼はすでに視力を取り戻し、二千億もの結納金を用意して三年間彼女を待っていたのだ。
結婚式当日。遼介は両親を人質にすみれを脅すが、山道での逃走劇は蓮のヘリに阻まれる。
事故の後、神谷家は破滅し、泥にまみれて膝を折った遼介を背に、すみれは蓮が差し出す代々受け継がれてきたバングルを受け取り、唇を重ねる。
「遼介、今度こそ、私の世界から消えて」