愛も憎しみも、もう残っていない
三歳のとき、両親はちょっとしたすれ違いから、お互いに浮気をした。それをきっかけに、二人は業界でも知られるほど、憎しみ合う夫婦になった。
相手を傷つけるために、両親は私を犠牲にして、何度も痛めつけた。
五年間で、母に骨を折られたのは三回。父に、わざと置き去りにされたのは五回。喧嘩の最中に、海に投げ込まれたことも一度ある。
やがて両親は、そんな生活にも飽きた。そして、別のやり方で苦しめ合うことにした。
離婚し、それぞれ新しい子どもを養女に迎えた。
競い合うように愛情を注ぎ、機嫌を取るようになった。
その結果、私はいちばん余計な存在になった。両親がお互いのことを思い出したとき、殴られ、罵られる。八つ当たりの相手として。それが、私に残された唯一の存在価値だった。
私が生きる支えにしていたのは、生まれたとき、両親が一緒に贈ってくれた小さなお守りだけだった。
そこには、健やかに、穏やかに生きられますように、という願いが込められていた。それが、私に残された唯一の温もりだった。
十歳になったとき、誰かがその最後の心の支えを奪おうとした。
必死に抵抗し、その結果、脾臓を破裂させられた。
両親が駆けつけたとき、地面には血が広がっていた。
それを見て、二人とも、嫌そうな顔をした。
「枝野美咲(えだの みさき)……自分をこんな姿にして。本当に、父親と同じで気持ち悪い」
「誰が気持ち悪いって。もう一回言ってみろ。その乱れた格好を見ろ。お前と同じで、みっともないじゃないか」
私の助けを求める声は、激しい喧嘩の声にかき消された。身体は、だんだん重くなっていく。
気づいたときには、あたりは静かになっていた。
二人も、ようやく喧嘩をやめた。