チョロい彼女
記念日に、私は長谷川陸夫(はせがわ りくお)の大好物ばかりを食卓に並べた。
なのに、彼はまた約束を破った。
沈黙の後、私は慣れた手つきで、彼の高嶺の花、高坂沙耶(こうざか さや)のインスタを開いた。
【とある人を大絶賛!私が「電球が切れちゃった」って一言言っただけで、彼女そっちのけで飛んできてくれたの!】
【彼女より友達優先とか、マジ神対応じゃん?これからもそのままでいてね!】
投稿された写真には、椅子の上に立って、天井の電球を取り替える陸夫の姿が写っていた。
沙耶は両手で彼のを脚を支え、その顔は、彼の太ももの内側に、さりげなく顔を擦り寄せていた。
陸夫はそれを避けるでもなく、口元には淡い笑みさえ浮かべていた。
あまりに目に焼き付く光景だったけど、私はもう、以前のように泣き叫んだりしなかった。
ただ静かに「いいね」を押し、彼に別れのメッセージを送った。
けれど陸夫は、それを全く信じていないようだった。
「どうせ拗ねてるだけだろ。数日ほっとけば、俺がちょっと指を鳴らせば、すぐ機嫌直して尻尾振って戻ってくるさ」
でも、彼は知らなかった。
私が今まで簡単に機嫌を直したのは、ただ彼を愛していたから。
これからはもう、二度と彼の思い通りにはならない。