母になる未来を奪った夫は他の女と後継を作った
盛沢市の社交界の奥様たちは、みんな西園寺凪(さいおんじ なぎ)の幸運を羨んでいた。
なぜなら、凪がただ宝石を「きれい」と一言言っただけで、西園寺秀智(さいおんじ ひでとも)はその宝飾店を丸ごと買い取ったし、凪が日光浴をしたいと言えば、翌日には島を買って彼女専用のリゾートに変えてしまうほどだから。
しかも、秀智は彼女一筋を貫き、結婚して7年、浮気は一切せず、メディアからも「盛沢市一の純愛男」と呼ばれるほどだった。
しかし、誰も知らない。凪がもう1か月も、独りでベッドに入り、枕を涙で濡らす日々を送っていたことを……
今日もまた、眠れぬ夜が明けた。
疲弊し切った様子で、目の前の食事を見つめる凪。
そんな凪を見かねた家政婦の田中和子(たなか かずこ)は、ホットミルクを凪に渡しながら言った。「あの女、昨日も旦那様に色仕掛けをしてましたよ?
たかが旦那様の子供を身籠っただけのくせに、そのことを理由にして1ヶ月も旦那様を独り占めするなんて!」
和子は憤りを露わにしながらも、凪を心配そうに見つめる。
「奥様。もし我慢できないようでしたら、人を使ってあの女に痛い目を見せることだってできるんですからね?」
凪は力なく微笑むと、静かに口を開いた。
「私は大丈夫だから。それより、こないだ手に入った最高級品のオーガニックサプリを彼女に届けてくれる?
『西園寺家のために、子供を産んでくれてありがとう』って」