愛の季節は過ぎて
【跡継ぎとなる息子欲しさに、二人の赤ん坊を取り替えるほかありませんでした......】
黄ばんだ封筒、白地に黒々と書かれた文字が、藤堂雪奈(とうどう ゆきな)の目に突き刺さった。
物置の古い木箱にあった、何年も前の手紙が、雪奈の長年の疑問を解き明かしたのだ。
彼女と夫の藤堂陸斗(とうどう りくと)にはアレルギー体質などないのに、息子の藤堂耀太(とうどう ようた)はナッツ類にアレルギー反応を示した。
陸斗が何気なく口にしたことだが、彼の初恋の相手、篠原暁音(しのはら あかね)はピーナッツミルクティーを誤飲して窒息しかけたことがあるという。
箱の底に押し込められていた写真には、おくるみに包まれた赤ん坊が写っていた。その目尻には、雪奈と同じ朱色のぼくろがあった。
しかし、耀太の目尻には、そんなものはどこにもない!
雪奈は目を細め、おくるみのかすれた文字を必死に読み取ろうとした――「帝都児童養護施設」
やはり、出産後に看護師が言った「おめでとうございます、女の子ですよ」という言葉は、幻聴ではなかったのだ!
「雪奈、何してるんだ?耀太が昨日から角煮が食べたいって騒いでるぞ......」
陸斗の声が一階のリビングから聞こえ、足音がだんだん近づいてくる。
雪奈は慌てて涙を拭い、箱を元あった場所に戻した。
陸斗が後ろから雪奈を抱きしめ、声が絡みついてきた。
「ずいぶん長いこと何してたんだ?ん?」
雪奈は努めて平静を装い、「何でもないわ。ゴキブリを見つけただけよ」と答えた。
陸斗は彼女の手を取り、慣れた手つきで彼女の体を触れると、彼の呼吸は次第に荒くなっていく。
「ゴキブリなんて見て何が面白いんだ?もっといいものを見せてやろうか?」
雪奈はまだ大きなショックから立ち直れず、全身が止めどなく震えていた。