一念の果て
幼馴染み・黒沢蓮也(くろさわ れんや)の忠誠を試すため、義妹・速水柚葉(はやみ ゆずは)は彼に薬を盛った。
そして私・速水根音(はやみ ねおん)を、彼の部屋へと突き入れた。
蓮也の苦悶に満ちた姿を見るに忍びず、私は彼の解毒剤となることを、自ら選んだ。
柚葉は意地を張って家を飛び出し、残虐なマフィアのボスのもとへ嫁いでいった。
私が身籠った後、蓮也は止むを得ず私を妻としたが、それからというもの、私を恨み続けるようになった。
十年という長きにわたる夫婦生活の中で、彼は常に私と息子に対し、冷たい言葉を投げつけた。
だが、異国で洪水に遭遇したあの日、彼は力の限りを尽くして、私と息子を岸へと押し上げた。
彼のその手を掴むことができず、沈みゆく私に、彼は最期の眼差しを向け、こう言った。
「もし、すべてをやり直せるのなら、二度と俺の解毒剤になるな」
私の胸は張り裂け、意識を手放した。
そして再び目を開けた時、私は柚葉が蓮也に強烈な媚薬を盛り、私たちを一部屋に閉じ込めた、あの日に舞い戻っていた。