輝く私の背中に、夫は必死に追いつこうとした
新浜市の上流社会の頂点に立つ天野家の夫人である天野紬(あまの つむぎ、旧姓は綾瀬、あやせ)は、その夫・天野成哉(あまの せいや)との関係は、礼儀正しく整っているにもかかわらず、どこか他人行儀で、温度のないものだった。
結婚して三年。紬は海原と新浜の間を絶えず行き来し、いつかは夫と子供の心に寄り添える日が来ると、ひたむきに願い続けてきた。
しかし待ち受けていた現実は、成哉が別の女性をかいがいしく世話する姿だった。
夫が息子の手を引き、その女性のために祈りを捧げ、自分との約束をすっかり忘れてしまう光景を、紬はただ呆然と見つめるしかなかった。
やがて紬は、すべてを諦めた。きっぱりと離婚を切り出し、家庭を捨てた。
高級ドレスを纏い、しなやかで気品ある立ち居振る舞いで、海原市の富豪たちのサロンを悠然と歩む彼女は、まるで別人のように輝いていた。
ほどなくして、海原市の名門の御曹司までもが紬の魅力に心を奪われ、彼のプロポーズの報せは瞬く間に海原のメディアを埋め尽くした。
そのときだった。後悔に苛まれたのは、他ならぬ成哉だった。
その夜、成哉は紬を壁際へと追い詰め、目を赤くしながら低く言い放った。
「紬、俺たちはまだ離婚していない。他の男と結婚するなんて……俺が許したとでも思っているのか?」