もう愛する理由はない
婚約者・祖浜進介(そはま しんすけ)にブロックされてから、55日が経過した。
私は、八年も待ち続けた結婚式をキャンセルした。
その間、彼はうつ病を患った幼なじみ・石塚ニナ(いしづか にな)と共に、K寺で心の療養をしていた。
彼は長年参拝客が絶えなかったK寺を、半年間も閉鎖させた。
一方で、私は彼の突然の失踪により記者に追い詰められ、家にも帰れなくなった。
やむを得ず、私は彼を探しにK寺まで行った。
しかし、「寺の静けさを乱すな」と言われて、山から追い出された。
真冬の寒さの中、私は山のふもとで気を失い、命の危険にさらされかけた。
目を覚ましたとき、私は見た――
進介が自らの手でK寺の境内に、愛の象徴である無数のバラを植えている姿。
半年後、彼はようやく下山し、ニナを連れて帰ってきた。
そして、彼女と一緒に植えたバラを、私との新居に飾りつけたのだ。
私はただ冷ややかな目で見つめている。
彼はまだ知らない――
私がもうすぐ別の人と結婚することを。