愛してたのは本当、別れても後悔しない
温もりの余韻に包まれた後、南條紗良(なんじょう さら)はようやく気づいた。桐生直樹(きりゅう なおき)が避妊していなかったことに。
妊娠してしまったかもしれない――その恐怖に震える紗良をよそに、直樹は笑いながら言った。
「うちと南條家は犬猿の仲だろ?子どもができれば、君のお父さんも認めざるを得ないさ。堂々と君を嫁にもらえるってわけだ!」
顔を真っ赤にしながらも、紗良は直樹の好きにさせてしまった。
だがある日、彼の親友たちの話を偶然耳にしてしまう。
「さすが直樹さん、やり口がえげつないね。妊娠させて捨てるとか、紗良の評判は地に落ちたし、南條家の面目も丸つぶれだ!」
直樹は鼻で笑いながら答える。
「誰が紗良なんかに、真琴の優秀卒業生代表の座を奪わせたってんだ。あいつのせいで真琴は傷ついて、海外にまで行く羽目になったんだぞ?このくらい当然だろ。俺は真琴のために、きっちり復讐してやってんだよ」
家族に隠れて、三年間も直樹の秘密の恋人でいたことを思い出し、紗良は羞恥と怒りで胸が張り裂けそうになった。
悔しさに唇を噛みながらも、涙をこらえ、震える手で電話を取る。
「……お父さん。言ってた政略結婚、私……受けます」