星はもう、月の光を求めない
九条星良と黒澤誠の結婚式当日、彼の幼なじみ・雨宮紗耶が九条家ビルの30階から身を投げ、地面に叩きつけられて命を落とした。
式は、そのまま進行された。
結婚してからの三年間、誠は、星良の望むものをすべて与えた。だが、もともと笑わないその顔は、さらに不気味なまでに冷えきっていた。
そして、妊娠三ヶ月のとき。
突然、星良の父が失踪し、行方不明となったという知らせが届く。
警察に向かうと思いきや、誠が車を走らせたのは山の上だった。
車が山頂に着いたとき、彼女の目に飛び込んできたのは、車の後部に縄で繋がれ、血まみれの姿で山道を何度も引きずられていた父の姿だった。
全身に痣と出血、口や耳からも血が流れ、地面に倒れた父は今にも息絶えそうだった。
駆け寄ろうとした星良を、誠はためらいなく縛り上げた。
彼の子を身ごもっていたにもかかわらず、自らの手で彼女を車で引きずり回したのだ。
足の間から流れた鮮血が、両脚を真っ赤に染めた。
彼女は、山中で命を落とすことはなかった。
彼は星良を地下室に閉じ込め、下半身の汚れの中には、彼女の赤ん坊がいた。
星良はネズミやゴキブリに囲まれたまま生かされ、足をかじられ、何度も絶望の淵に追いやった。
やがて、息をする力すら残されていなかった……
目を覚ました星良は、誠と結婚前の過去に戻っていた。
まだ誰もが誠を「九条家の婿養子候補」と呼んでいたあの頃。
星良は静かに笑い、涙を流した。
「……黒澤誠。今度こそ、絶対にあなたなんか選ばない」