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13:町歩きデート1

last update Last Updated: 2025-06-15 11:57:14

 最近、私とゼノンは時々、休日に一緒にお出かけをしている。

 前みたいに少し足を伸ばしてピクニックをすることもあるし、町歩きの時もある。

 聖騎士として日々重圧にさらされているゼノンの息抜きのためだ。

 今日は町の市場で買い物をしようという話になって、出かける準備をしていた。

「エリーは最近よく出歩くようになったね」

 鏡の前で髪をとかしていると、兄がひょっこりと顔を出した。

「まさか恋人ができたとかじゃないだろうね……?」

「違う違う、友だちだよ」

 正確に言えば推しで教え子で大事な人だが、そんな言い方をすればシスコンの兄がヒートアップするのは目に見えている。

 私は顔立ちはせいぜいちょっと可愛い程度だし、髪色も赤毛でごく普通。緑の目もありふれたもの。ついでに性格も普通。

 魔力がまあまあ高い以外は普通人間なのに、なんで兄はシスコン化したんだろうか。解せぬ。

「友だちか。ボーイ『フレンド』?」

「もう、うるさいな! 行ってきまーす!」

 しつこい兄貴を振り切って、私は家を飛び出した。

 休日の活気ある町を歩く。

 こうしてみれば確かに漫画の皇都と同じ風景なのだけど、戦いで荒廃していた漫画と違って今は人々の笑顔であふれている。

 やっぱり漫画と現実は違う世界なんじゃないかと、最近は特に思う。

「エリーさん!」

 待ち合わせ場所の広場ではゼノンがもう待っていた。

「ごめんね、待った?」

「いいえ、今来たところですよ」

 彼はいつもそう言うけれど、私が先に着いたためしは一度もない。

「さあ、行きましょうか」

「うんうん。今日はね、市場の東側にあるエリアに行ってみようと思うの。美味しい屋台があるって同僚が言ってたんだ」

「それは楽しみです」

 市場の東エリアは雑多な地区で、雑貨から魔道具までいろんなものが売られている。

 私はかわいい雑貨が好きだし、もちろん魔道具も興味がある。

 こうしてお店を
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