ゼノンの出発はひっそりと行われた。
随伴するのは準聖騎士が一人だけで、たった二人の旅である。 当日、私は聖騎士の宿舎まで行ったが、ゼノンはすぐに出発してしまった。遠目に視線を合わせただけで、言葉を交わす暇もなかった。 代わりにアレクがやって来て、落ち込む私を励ましてくれた。「エリーさん、心配はいらないよ。あいつは誰よりも優秀な聖騎士だから。今回の任務はやっかいだが、ゼノンなら必ずやり遂げる。信じて待っていてくれ」
「うん、そうよね。私が元気をなくしていたら、ゼノンに心配かけちゃいそう」
心細いのはどうしようもなかったが、彼の気遣いが嬉しかった。
それからの私は日常に戻って、仕事に励んだ。 もらった婚約指輪は薬草園の仕事に向かない。仕事中は外して、それ以外の時間は身につけていた。 私とゼノンは今まで噂になっていたし、婚約指輪の宝石は彼の色。 事情を察した人たちがそれとなくお祝いを言ってくれたが、ゼノンが不在の今は素直に喜べなかった。やがて秋が終わり、冬になる。
三ヶ月は過ぎたが、ゼノンはまだ戻ってこない。 四ヶ月、五ヶ月。そろそろ冬も終わるというのに、ゼノンはまだ戻らなかった。 アレクも最近は不在がちで、準聖騎士の兄もよく家をあけている。 兵士たちは連日駆り出されて、薬草の供出命令は毎日のよう。 戦いが始まったのだと、実感できた。そうして半年。
冬が終わり、春が訪れる季節。とうとうゼノンが帰ってきた。
疲れ果て、消耗しきった姿で……。
ゼノンは準聖騎士に抱えられるようにして、皇都に戻ってきた。 女神様への報告の場に、婚約者の私も呼ばれた。「――以上の経過により、闇騎士を討ち取りました。奴が操っていた魔獣の討滅も完了し、帰投した次第です」
神殿の女神の間に、ゼノンの乾いた声が響く。
闇騎士は冥府の神のしもべだ。 女神様「ゼノン!!」 彼の魔力世界から追い出された私は、ベッドに寝かされたゼノンの手を取った。 呼びかければぼんやりと瞳を開ける。かすかに返事もしてくれる。 けれどもすぐにまぶたは下り、薄く開いたままの唇は言葉を紡がなくなってしまった。 もう一度魔力を通そうと思っても、強固な拒絶を突破できない。「何事ですか?」 医師に問われて、私は事情を説明した。 魔力に詳しくない彼では手が出せないと思ったが、藁にもすがる思いで対処法を問うた。「申し訳ありませんが、わたしの力では……」 医師の答えに落胆する。 けれど諦められるはずがない。ゼノンの命がかかっているのだ。 何としてでも治療法を調べて、冥府の神の呪いを解かなければ。「神……」 ゼノンは『人間の力では太刀打ちできない』と言った。 では神ならどうだ。女神様なら? 私は祈るような気持ちで、医務室を飛び出した。 女神様は私の話を聞いてくれた。 焦るあまり息が上がる私をなだめて、侍女がお茶を持ってきてくれた。「冥府の神の呪いですか……」「女神様は、ご存知でしたか」「ええ。過去の大戦で、何人もの聖騎士がこの呪いで命を落としました」「そんな! 女神様のお力を持ってしても、解呪ができないのですか!?」 ぎゅっと手を握りしめる。左手の婚約指輪が手に食い込むようだ。「本来であれば、あの呪いは即死、もしくはもってせいぜい数日のはず」 女神様は言う。「けれどもゼノンは長く持ちこたえています。そこに、解呪のヒントがあるかもしれません。エリー」 彼女の視線を受けて、私は背筋を正した。「ゼノンの魔力世界で、彼の人格に会ったと言いましたね。彼は明確に意識を保っていたと」「はい」
周囲の手を借りて、ゼノンを医務室へと運び込む。 すぐに医師が呼ばれて診察が始まった。「医術の診察の範囲内では、大きな異常はないようです」 診察を終えて医師が言う。「あとは魔術士殿の見立て次第ですが、十分な休養を取ればいずれ治るかと思います」 私は黙って首を振った。そうであってほしいが、そうだとはとても思えない。「魔力を介しての診察を行います。身体に異常がないのであれば、魔力や精神に損傷があるのかもしれません」「お願いします」 少し迷って、指に婚約指輪を嵌めた。これがあればゼノンをより感じられると思ったのだ。「ゼノン、これから魔力を触るからね。違和感があったら教えて」「……はい」 ゼノンは意識があるが、どこかぼんやりしている。女神様に報告した際は、きっと気力を振り絞っていたんだろう。「あ……その指輪。僕のこと、忘れていなかったんですね……」「忘れるわけないでしょう。……ゼノン?」 彼はふとまぶたを閉じて、それっきり答えなくなってしまった。「…………」 眠っているだけだと信じたい。緊張の糸が緩んで寝てしまっただけだと。 彼の手を握る。ひやりと冷たい。 私はゆるく目を閉じて、彼の魔力に同調を始めた。 ゼノンの魔力はよく知っている。この三年、訓練の時間を通して何度も読み取ってきた。 地属性は広大な大地に。 氷属性は降り積もる雪と霜に。 そして闇属性は夕暮れに降りる夜のとばりとして、彼の世界を形作っている。 十五歳で彼の訓練を始めた時、この世界は寒々しい光景だった。 けれどそれから時間をかけて、ゼノンは変わった。 大地は豊かな緑の野に。 降り積もる雪は雪下に生
ゼノンの出発はひっそりと行われた。 随伴するのは準聖騎士が一人だけで、たった二人の旅である。 当日、私は聖騎士の宿舎まで行ったが、ゼノンはすぐに出発してしまった。遠目に視線を合わせただけで、言葉を交わす暇もなかった。 代わりにアレクがやって来て、落ち込む私を励ましてくれた。「エリーさん、心配はいらないよ。あいつは誰よりも優秀な聖騎士だから。今回の任務はやっかいだが、ゼノンなら必ずやり遂げる。信じて待っていてくれ」「うん、そうよね。私が元気をなくしていたら、ゼノンに心配かけちゃいそう」 心細いのはどうしようもなかったが、彼の気遣いが嬉しかった。 それからの私は日常に戻って、仕事に励んだ。 もらった婚約指輪は薬草園の仕事に向かない。仕事中は外して、それ以外の時間は身につけていた。 私とゼノンは今まで噂になっていたし、婚約指輪の宝石は彼の色。 事情を察した人たちがそれとなくお祝いを言ってくれたが、ゼノンが不在の今は素直に喜べなかった。 やがて秋が終わり、冬になる。 三ヶ月は過ぎたが、ゼノンはまだ戻ってこない。 四ヶ月、五ヶ月。そろそろ冬も終わるというのに、ゼノンはまだ戻らなかった。 アレクも最近は不在がちで、準聖騎士の兄もよく家をあけている。 兵士たちは連日駆り出されて、薬草の供出命令は毎日のよう。 戦いが始まったのだと、実感できた。 そうして半年。 冬が終わり、春が訪れる季節。 とうとうゼノンが帰ってきた。 疲れ果て、消耗しきった姿で……。 ゼノンは準聖騎士に抱えられるようにして、皇都に戻ってきた。 女神様への報告の場に、婚約者の私も呼ばれた。「――以上の経過により、闇騎士を討ち取りました。奴が操っていた魔獣の討滅も完了し、帰投した次第です」 神殿の女神の間に、ゼノンの乾いた声が響く。 闇騎士は冥府の神のしもべだ。 女神様
逃げようとした私を押さえつけて、ゼノンは笑みを浮かべる。 でもそれはいつものように穏やかなものじゃなくて。 焦りと隠しきれない欲望とで、ギラギラとした光を目に灯していた。「大丈夫。ちゃんと入ります。根本まできちんと挿れて、しっかり繋がりましょうね」「あ、あ……」 みちっ、と音を立てて先端が入ってきた。濡れそぼった私の内部は、待ちに待った愛しい人に喜んで絡みつこうとしている。 ずぶ濡れだったおかげで、前半はすぐに飲み込めた。「エリーさん? 大丈夫ですか?」 ゼノンの心配そうな声がする。自身の快楽を押し殺して、私を気遣ってくれている。 揺れる彼の瞳を見たら、恐怖はすっと消えていった。 この優しい人を、精一杯受け入れなければ。 みしみしと音を立てて彼が入ってくる。狭い道を無理矢理にこじ開けながら。 苦しい。痛い。まるで体が内側から裂けてしまいそう。「ふは……」 深呼吸をしてやり過ごす。体の力を抜けば痛みはだいぶマシになった。 ゼノンはゆっくりと腰を進めて、とうとう最奥までたどり着いた。 顔を上げれば、ゼノンと私の下腹同士が密着している。 あんなに大きな杭だったのに、すっかり私の中にある。少しお腹に力をいれれば、その大きな存在が感じられる。 それが何だか嬉しくて。 くすくすと笑ってしまった。「エリーさん?」「大丈夫。平気よ。ゼノンと一つになれたと思ったら、すごく嬉しくて」「……!」 正面から抱きしめられた。深く口付けを交わし、胸と胸とを密着させて。二人の間の隙間を全て埋めて。「動きますね」 ゼノンがゆっくりと腰を動かし始めた。 苦しさは増したが、それ以上に喜びが勝った。 きゅんきゅんと胸を締め付ける喜びに体は応えて、奥の奥から愛液があふれ出す。「ゼノン、ゼノン、大好きよ…&
「本当に、なにしたの……」 本日二度目のセリフ。 まだぷるぷると体を震えさせている私に、ゼノンは嬉しそうな笑顔で答えた。「女の子の気持ちいいところですよ。イッたときのエリーさんのかわいい様子ときたら。もう一度やっていいですか?」「嫌! 気持ちよかったけど、けっこう苦しかったんだから。もうやめて」「と、言われましても。まだまだこれからですよ。それに……」 彼は私の足を押し広げて、あらわになった秘所に指を滑らせた。「……!」 途端に走る快楽に、私は身を強張らせる。 けれど私の意思とは裏腹に、ソコはゼノンの指を飲み込んだ。あっさりと。自分からくわえこむように。 濡れそぼった肉はゼノンの指に吸い付いて、離すまいとしているようにすら感じられた。「ひっ……!」 僅かな違和感とぬるぬるとした快感に思わず身を引けば、ゼノンが優しく髪を撫でてくれる。「痛くないですか?」「……大丈夫」「少しだけ、指を動かしますね」 彼は肉ひだの表面を撫でるように指を動かしていく。穴になっているそこも、深入りはせずにあくまで撫でるだけ。 あふれ出る粘液がゼノンの指に絡みついて、ぐしゅぐしゅ、くちゃくちゃと音を立てる。 それはどんどんあふれていって、とうとうお尻の方まで流れていった。「……ゼノン」 もどかしい快感の波に翻弄されながら、私は囁きかけた。「私ばっかり気持ちよくて、駄目だよね。ゼノンはどうしたら気持ちよくなるの?」「…………」 指を行き来させていたゼノンは、ふと穴に差し入れた。指を二本に増やして。 ぐるりとかき混ぜるように動かす。「ひぃっ……!」 思わず上が
「今の、よかったですか? ここかな?」 彼の指が茂みに滑って、割れ目の入口あたりを撫でる。 とたんにぴりぴりとした強い感覚が走り、私は彼にしがみついた。「そこ、駄目! 変な感じなの」「痛かったりはしていません?」「それは大丈夫、でも……」「じゃあ、もう少しやってみましょう」「ああっ!」 ゼノンの指が茂みをかき分けて、その場所を何度も擦り始めた。 二本の指で割れ目を開くようにして、埋まっていた小さな芯をほじくり出して。「あ、あぁ、いやぁっ、駄目、やめて、お願い、ゼノン、お願いだから!」 そんなつもりじゃないのに腰がくねる。大事な部分が熱くて、とろとろと何かがこぼれている。 ゼノンはいつもは私のお願いを聞いてくれるくせに、今だけは手を止めようとしない。「ああぁ、いやぁ――――」 ビクンと体が跳ねた。頭が真っ白になって、太ももの肉がぴくぴくと動く。 涙にまみれた目でゼノンを見ると、とても楽しそうな顔をしていた。 「なに、したの……」 少ししてやっと落ち着いてから。私は必死にゼノンを睨んで言った。 でもまだ体に力が入らない。迫力はなかっただろう。「女の子の気持ちいいところを、試してみました」 ゼノンは目を細めて笑っている。「触っている最中のエリーさんは、気持ちよさそうで色っぽくて。もう一度やっていいですか?」「やだよ! だって頭が変になりそうだったのよ? 体が熱くて勝手に腰が動いちゃって、あああ恥ずかしい……」 手近にあった毛布を引っ張るが、取り上げられてしまった。「すごく可愛かったです。それにほら」 割れ目の少し奥、肉ひだを指でなぞられて、私は小さく悲鳴を上げた。「びしょ濡れです。感じてくれたんですね、嬉しいなぁ」 にんまりと細められた目は、ネコ科の大型肉食獣のよ