世間的な‘嫁姑問題’になりそうだったけど、それも払拭されて私たち家族は別宅で新生活です。「おじい様、おばあ様とはそんなに頻繁には会えなくなるけど、代わりにお父さんとお母さんがみっちりいるからなぁ!」 そう大翔さんが言うと、すかさず大輝がツッコンだ。「お父さん、仕事しなくていいの?」「っ……お父さんは仕事が休みの時にみっちり遊んでやるからなー」 双子の男の子・大志(ひろし)と女の子・大海(ひろみ)、瞳の色が緑です。 もはや遺伝の神秘です。 「翔子だけ名前に大きいって文字が入ってない!」 と、言われた。 うーん、子供ってこういうの気にするんだよなぁ。「翔子、内緒なんだけど翔子だけお父さんの名前からもお母さんの名前からも漢字が一つずつ入ってるんだけどなぁ。不満?」「あ…、翔子だけだ!内緒にする!」「うふふ、いい子ね!」 大翔さんに似てチョロい子だわ。年齢のせいかな?まだ小学生でもないもんね。 大輝は来年小学生になります。虐められるといけないのでインターナショナルスクールです。英会話ができるように。そのうち大翔さんと英語で喧嘩するかもなぁ?なーんて思ってます。 幼稚園のうちはまだ珍しい瞳の色の可愛い男の子。って印象だったけど、小学校だと周りと違うだけでイジメの対象になっちゃったりするもんね。大翔さんがそうだったみたいだし。 やだ、うちの子はみんなインターナショナルスクール通い? 私だけが英会話が碌にできないということになるのかしら?秘書としてはできるけど、実用的にはちょっと…。私のはビジネス英会話よね。英会話スクールに通おうかしら?大翔さんに要相談案件ね。仕事もしなきゃなんないし。家事もあって、育児に英会話?大変かなぁ? なんて考える心の余裕がある程、私は今幸せ一杯です‼6人家族だし。多い?養える財力があるからいいのよ☆
妊娠がお義母様にコントロールされているのが何だか癪だ。妊娠で精神が不安定なのかな?「また産休で文子が仕事から抜けてるから、仕事が捗らない!」 って愚痴ってるし。仕方ないじゃん大事な書類渡すときになっていきなり悪阻とか困るし。私は‘軽い方’みたいだけど妊娠初期に無理はできないし。 安定期に入ったら働きたいって相談してみようかな?「おかーさんがずっといえにいてくれてうれしい!」 って大輝に言われるとなぁ。決心が揺らぐ。男の子だけど可愛いし(多分まだ)。 季節が巡って私は臨月となった。 子供って成長するの速いなぁ。小さかったはずの大輝がお兄ちゃん顔してるよ。 トラジェット家御用達の産婦人科は生まれる前に性別を教えてくれる。今度は女の子らしい。「大輝―。妹が産まれるんだってー」と、伝えたら、「僕は全力で可愛がって、僕が守るんだ」と応えてくれた。それはいいんだけど、ワガママっ子とかブラコンにならないようにしてね。 これもお義母様の企みのようでなんとも言えない。 大翔さんに話したいけど、仕事が大変そうだし。子供に罪はないもんね。子供が欲しかったことは事実だし。 結局話すことが出来たのはこの子が産まれた後。この子の名前は『翔子』になりました。この子も瞳の色が緑なんだよね。ポッとでの覚醒遺伝で大翔さんの瞳の色が緑なのに、この遺伝子強くない?私の遺伝子弱いのかなぁ?「なるほどね、二人ともおふくろの陰謀(盛った薬)でできた子供みたいで、なんか癪にさわるというか、だろ?」「まぁそうなんだけど。薬があったから子供達がいる。みたいな?それはちょっとイヤなのよ」「確かにね。大輝は完全に媚薬の影響だとしても、翔子は違うよな?でもおふくろが絡んでいるのが気に入らないと?」「翔子だって、スポーツドリンクになんか盛ってあったかもでしょ?なんか気に入らないのよ。子供達は好きよ?」「俺だって子供達は好きだ。しかしなぁ。なんだか薬がないと『妊娠しません』ってみたいだな」「そう!それよ‼違和感の正体」「試すか?」「吝(やぶさ)かじゃナイデス」 そんなことで、薬とは無縁に私は妊娠した。それも双子。大翔さんは大喜び。義両親も喜んでいました。「子供部屋が手狭になってきたわねぇ?」「いい機会だし、文子が出産した後独立したいと思う。家事は文子もできるし。なんなら家
温泉旅行ってなんか色っぽいというか艶っぽいよね。 畳にお布団。大翔さんがせっせと布団をくっつけてる―‼そこまでする?「温泉に入ってきますね」「ここは時間によって男湯と女湯が入れ替わるらしい。因みに部屋風呂も温泉だ!」 大翔さんがドヤ顔をしているけど、大翔さんの手柄じゃないでしょ? とはいえ、湯上りの浴衣とか艶っぽいと思う。「文子、その姿は他の男に見せたくないな」 え~?これからお土産を買いに行こうと思ったのに。大輝が楽しみにしてるよ?「それなら、私は湯上りで浴衣姿の大翔さんを見てみたいです。あ~あ、お土産を買いに行こうと思ったんだけどなぁ。大輝が楽しみにしてるんだよなぁ」 大翔さんはチョロかった。 温泉街を浴衣姿の二人でデートするような感じになった。「そういえば、ちゃんとしたデートってしたことありませんでしたね」「ああ、そういえばそうだな。これがいい機会か。それにしても文子の姿を他の男の目に触れさせるのは……」「あら、私だって大翔さんの浴衣姿を他の女性の目に写すのは嫌ですよ?」「そんな可愛いこと言ってると、後から後悔するんじゃないか?」 この後はまた温泉に入りたい。外でちょっと体が冷えたから。「温泉に行ってきますね。大輝が好きそうなお土産があってよかった」「温泉なら部屋風呂に入ればいい。一緒に入るか?」 覚悟を決めた方がいいんだろうか?「まぁ、カラダを温めるだけだし、部屋風呂に一人(・・)で(・)入りますね」「ちっ」 大翔さんの舌打ちが聞こえましたが、まぁどうせこの後翻弄されるんでしょ?「大翔さんも冷えてるんでしょうから部屋風呂へどうぞ。お布団で待っていますね?」 ラストに小声で言ったのに、猛烈な勢いで部屋風呂へと入って行った。お風呂で溺れたりしないよね? ちょっと長風呂だから様子を窺うと、案の定のぼせかけていた。 旅館の女将さんに事情を説明すると、『新婚さんあるあるですね』と笑って介助グッズみたいなものを渡してくれた。あまりに新婚さんに多い事例だから、そういうセットが出来たみたい。 「大翔さん大丈夫ですか?コレ、オデコに貼ってください。あと、カラダの水分が不足しているでしょうからスポーツドリンクを飲んでください。後は……」「文子!後は文子が欲しい」 これまたストレートだなぁ。「オデコに貼って、スポーツ
「えーと?」「難しく考えると難しいな。そうだなぁ。大輝の弟妹がほしい!というのはどうだ?」 それはまた直接的と言うか、なんというかロマンの欠片もないですね。「私はただ守られて生活するのは嫌です」「うむむ、どうすれば?」「またトラジェットコーポレーションで雇ってください!」「秘書をしてくれるのか?歓迎するが、その間の育児はどうする?」「大翔さんのお母様がやりたがるのではないのでしょうか?それと、大輝の瞳の色についてですが、イジメられるのですか?でしたら、小学校からインターナショナルスクールで学べばよいのでは?英会話もマスターできるでしょうし、一石二鳥ですよ。気が早いですか?」「うちのおふくろならそうだな。休日には思いっきり遊んでやろう」 こうして私は反町文子からトラジェット文子になった。 息子の大輝もトラジェット大輝。 私はトラジェットコーポレーションでまた働けるようになったわけですが、働くときは‘反町文子’の名前で働いています。 たくさん溜まっていたはずの有給が大輝が病気になったとか怪我をしたとかの連絡で、どんどん消化されていく。 大輝も「おかあさ~ん!」と特に問題はないと思うんだけど、そういう時にはいつもニコニコのお義母様がちょっと睨んでくるから、正直なところ怖い。美人て睨むと怖いものだと思う。 最近、大翔さんが不穏なことを言いだしている。「そろそろ、大輝に弟妹がいてもいいと思うんだよな~」 ……情操教育としても兄弟がいた方がいいと思いますけど、直接的ですね。誘うならもっとロマンを身につけてください。「最近、なかなか二人きりになることがありませんね。仕事の時は絶対誰かいるし、家に帰っても同じ。二人で旅行に行きませんか?遠くは無理でも近場の温泉旅館にでも1泊で」「文子―‼」 抱きつかれました。「おとーさんズルい!ぼくも~!」 と、大輝も抱きついてきます。正直なところ重い……。物理的にも。 大翔さんは物凄い速さでいつ旅館に行くのかを決めてしまい(私の生理周期とかも考慮済み)、あっという間に旅館に行くことになりました。「うふふっ、二人とも大輝のことは任せてちょうだい。私は二人目は女の子がいいと思うの」 そんな明け透けに言わなくてもいいじゃないですか!「え?ぼく、いもーとができるの?」「弟かもしれないわよ?」
分娩室に一際大きな泣き声が響き渡る。「男の子ですよ。頑張りましたね」 ああ、CEOの瞳の色が遺伝してしまったようだ。 今は閉じているけど、ちらっと見えた瞳の色は緑……。この子も学校でイジメに遭ったりするのかな? この子の名前―――反町大輝(ひろき) CEOの名前から一文字もらいました。いずれは父親について知りたがるのかな?財産分与とかそういうのとか無関係に生活してほしいな。 ドカドカと産婦人科にそぐわない足音が聞こえてくる。「反町文子の病室は?」 この声は……CEO?「文子、やっと探し出した」「ゴメンなさい。大翔さんに無断で子供を産んでしまって」「いや、それよりも。なんの相談もなく仕事を辞められた方が大打撃だよ。文子が抜けるとなんか仕事のミスが多くて参った。おかげで来るのがこんなに遅くになってしまったよ。本当は文子が辞めて結構すぐに居場所を特定していたんだが、仕事が回らなくてこんなにおそくなってしまったよ。すまない!で、俺の子供は?」 心なしか大翔さんがワクワクしているように見えます。「おそらく新生児室にいると思いますが。あの、本当にごめんなさい。あの子、瞳の色が緑なんです!」「それは!俺の子って感じでいいな‼」 いいの?「それと、名前なんですけど、大翔さんの名前から一文字頂き『大輝』にしたんです。今は反町大輝です」「そっかぁ。とりあえず新生児室に行ってみよう!」 そう言って大翔さんは新生児室へと向かっていった。―――そうよね今はというかずっとあの子は‘反町’大輝なのよ。期待しちゃダメよ。「文子……ガラス越しに新生児を見てもどの子が我が子か分からなかった…」 私もそうよ。みんなしわくちゃで寝てるし。「それで、今後の事なんだが……」 わかってるわよ。トラジェット家とは関わりなく慎ましく生活していくわよ。その示談金かしら?ドラマだと「要らないわよ!」とか言うけど、私は有難くもらうわよ?これからの生活を考えるとお金は必要だもの。いくらあっても無駄ではないわよ。「文子、これからの人生俺の伴侶として生きてほしい。俺は二人とも大切にするし、文子の事を大切に思っている。愛しているんだ!」 病院で愛を叫ばれた。病室だったのが救いだけど、タイミング悪く「授乳ですよ~」と看護師さんが大輝を連れて来ていた。―――これは、明日から看護師の
私はあんなに入社したかったトラジェットコーポレーションを退社した。 退社届には『一身上の都合により』と書いた。まさか『CEOの子供を妊娠してるから』とは書けない。 両親には、しばらく内緒にしておく。もともと密な関係じゃないし、大丈夫だろう。 あ、家賃がもったいないからもっと格安の家に引っ越した。治安が良くて、インフラが発達していて、病院が近くにあり買い物がしやすいところ。 そうなると、家賃は結構高くなっちゃうけど、あのマンションだとCEOが押し掛けてくるかもしれないから。自意識過剰かな? CEOに買っていただいた物は全てネットで売り払い、引っ越しの費用とした。こないだ一回しか着ていない服……も売った。 今後はシングルマザーになるつもり。 そのつもりで役所の手続き(結構面倒)とかをした。***************「はぁ?反町が退社?なんで?」「それが…『一身上の都合』とだけ書いてあるのです」 俺を出し抜くとは……。トラジェットの名に懸けて探し出してやる! 俺は俺の腹心の男に『反町文子』という女がどこでどんな生活をしているのか探し出せ。というように指令を出した。実家の人間を使うと『婚約者に逃げられた』とか妙なことを言いだすから面倒だ。 この会社に不満が?もしくは俺に不満があったのだろうか? ……おふくろの媚薬のせいか?あいつには珍しいミスとかしてたもんな。 数日後、俺の腹心の男は信じられない事実を俺に突き付けた。「反町文子さんは、妊娠をしています。どうやら貴方の子のようです。現在は住んでいたマンションを引き払い、隣町のアパートで暮らしています。全ての手続きを自分一人でするつもりのようです」 なんてことだ……。俺の子供……。原因はそれか。 俺は結婚はしたくない。結婚すれば今のように仕事が制限されると思ったから。 あぁ、反町は薬の影響だから子供が出来たと思っているんだったな。 俺は……俺はここまで力を入れて探し出そうとするほど反町を想っている。お前はどうなんだ?俺に都合よく考えれば俺を想ってくれているから子供を堕ろそうとしないのか?「誰だ?この書類はミスだらけじゃないか!」「スイマセン!この子は入社したばかりで……」「教育はキチンとするように。まったく研修でやっただろうに。反町が抜けただけで仕事が捗らないな」 これは事