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chapter10

作者: 水沼早紀
last update 最終更新日: 2025-06-10 11:00:11

「……はあ」

 ため息ばかりが漏れるある日の平日。

「おい、佐倉ぁーっ!」

「はっ、はいっ!なんでしょう部長!」

 私、もしかして何かやらかした!?

「佐倉、お前は一体なにをしてるんだ!この報告書間違いだらけじゃないか!」

「えっ!?」

 ウソ……!?間違いだらけ!?

「全く何をしてるんだお前は! 一体何年働いてるんだ!新入社員か!」

「す、すいません……!すぐに直します!」

「四年も働いてるお前がミスをするなんてな……。今日中に作成し直して持ってこい!」

「はいっ……申し訳ありません!」

 もう、何で私が怒られなきゃイケないの……!?

「……はぁあああ」

 デスクに戻ると無意識に出てしまうため息。思わずデスクにうなだれる。

「ちょっと瑞紀、アンタ一体どうしたのよ?今日のアンタなんか変よ」

「はぁ……自分でもよく分からないのよ」

「はぁ?なに言ってんのアンタ。 頭おかしくなった?」

「だって……色々あったの」

「色々ってねぇ。 大体、自分の事情を会社に持ち込むんじゃないわよ。だからミスするのよ」

「うっ……」

 沙織、今の一言かなりグサッときた。でもまさしく、その通りなんだけど……。

「全くもう、らしくないんだから」

「……ねえ、沙織」

「ん?」

 私は沙織に「後で相談乗ってくれる?」と問いかけると、「なに?何かやらかした?」と冗談混じりに聞いてくる。

「違うよ!ちょっと聞いてほしいことがあって……」

「分かったわ。じゃあ昼休みに聞いてあげる」

「ありがとう」

「早く報告書作成し直しなよ。今日中なんでしょ?」

「あ、そうだった……」

 はあ……大変だ。

「ため息ついてないで早く仕事しなよ?終わらなくなるから」

「うん、そうだね」

 なんか沙織って、私のお母さんみたいだな。本当に頼りになるし、なんかそばにいるだけで安心する。

* * *

「ブッ……! あ、アンタ!今なんて言ったっ!?」

 昼休み、私は英二から告白されたことを沙織に話した。

「だから……好きだって言われたの」

「誰に?」

「……英二に」

 そう言うと、沙織は驚いたような顔で私に「英二!? 英二って、前川英二のこと!?」と聞いてくる。

「う、うん。その英二」

 沙織はお茶を飲みながら、「いやぁ、驚いた。まさか英二が、アンタを好きだったなんてねぇ?」と私を見てくる。

「まあ確かに、私も酔っ
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