遡ること三日前。ワシに異変が起きて、剣の中に戻ってしまったのじゃが……その時何がワシに起きていたかと言うと……さっきまで魔物を気持ちよく倒しておったのに。何が起きているのかさっぱりわからないのじゃ。確かに普段以上に魔力を消費して、使っておったのは確かじゃが……剣の奥底からいつもなら感じられないようなものを感じ、それに引きずり込まれたようじゃった。「んっ…… いったい何が起きたのじゃ。 魔物を倒して憂さ晴らしをしおったのにのぅ」片手でこめかみのあたりを押さえ、頭痛を振り払うかのように頭を左右に振ってみたのじゃが……「っぅ…… なんだか少し頭が痛いのぅ……」周りを見回してみたのじゃが、真っ暗で何も見えないのぅ。剣の中に入った感覚があったから、剣の中なのじゃろうが……いつもなら、外の様子は伺えたのじゃが、今回は何も見えないし聞こえてこないのぅ。耳を澄ましてみたが、何かしら微かに聞こえてきた。「……ル……! だい……うぶか?」あれはあやつの声かのぅ。心配しているようじゃが……「案ずるな!」暗闇に響き渡るような大きな声で答えてみたのじゃが、聞こえていたかはわからんのぅ。音もかき消されるような静寂の暗闇が広がっておるしのぅ。本当にここはあの剣の中なのじゃろうか……この感覚はあやつと出会う前の剣の中の感覚に似ておる。最近はこんなことはなかったのに、何故じゃ……それに手足に何かが絡みついているようにも感じるのぅ。そいつらが引っ張っているようにも感じる。ワシは引っ張られる方向に歩を進めてみた。どこまでも続く暗闇と静寂。ただ引っ張る感覚は徐々にはっきりとしてきた。それとともに、多くの亡霊のような手が浮かび上がってきた。「こいつらはなんじゃ。 ワシと共にいっしょに封印されておる何かかのぅ」さらに引っ張ってくる亡霊のような手が伸びている方向に向かってみた。そうすると思念体のようなものが目の前に現れた。ワシの何十倍もある大きな思念体じゃった。そこから手が数十本もうねうねと生えておる。マリーじゃったら卒倒しておったのぅ。「なんじゃ、お前は。 何故ここにおる? 何故ワシを呼び寄せるのじゃ?」思念体に向かい言葉を投げかけてみたのじゃが……「……は……お……か……」意思はしっかりとありそうな雰囲気はしておるが
ねえさまと魔物を倒しに行ってから3日ほどたちました。しかし一向にねえさまは封印された剣から出てきませんわ。本当に心配です。毎日剣に寄りそっていますが、反応もありませんわ。マリーでは剣に入ったねえさまとやり取りは出来ないですから、余計にもどかしいです。アグリ……じゃなかったあいつも日々コンタクトを取ろうとしているようですが……微弱な反応はあるようですが、はっきりとしたことは言ってくれないらしいですわ。「ゾルダもこんなことでくたばるタマじゃないだろ? 大丈夫だって」とあいつは言うのですが、やっぱり心配だわ。そう思って寄り添ってはいるのですが、マリーに出来ることはなく本当にもどかしいですわ。「マリー、そこでずっと寄り添っていても仕方ないし、魔物でも討伐しにいかないか?」「はっ? なんでこんな時に魔物を倒さないといけないのですの? 何を考えているの?」あいつはねえさまが大変な時に何を言うかと思ったら……そういう思考になるのはよくわかりませんわ。「いや……だってゾルダを止められなかったのは俺だし。 俺が強くなれば、多少は話を聞いてくれるかもしれないと思って。 それに、剣の中にいるんだし、俺が剣を使って戦えば一緒に戦っていることになるはず。 戦闘していればうずうずして出てくるんじゃないかな?」しっかり聞いてもあまり論理的ではないですわ。でもあいつはあいつなりに考えての行動なのかもしれませんわ。「わかりましたわ…… マリーにはまだ言っていることはよくわかりませんが、ついて行きますわ。 あなたに死なれたら、ねえさまに怒られてしまいますからね」「じゃ、行こうか。 ゾルダも一緒にな」と言って、ねえさまが入っている剣を持ち、魔物たちの討伐に向かっていきました。道中、急にマリーが復活する前までの話を少しだけあいつがし始めました。「最初のころは、ゾルダもすぐ魔力切れというかなんというか…… 力は圧倒的なんだけど、長続きしなかったんだ。 たぶん封印の影響かなんかだろうね」あいつは懐かしそうな顔をして話を続けました。「でも長く一緒にいたからなのか、持ち主の俺が強くなってきたからなのかわからないけど…… そういうこともなくなってきてさ。 戦うのが楽しいのか、どんどん魔物を倒すようになってきて」ねえさまは以前から強い相手がい
「次は…… ヘルハウンドの群れだそうだ。 作物が食い荒らされるらしい」ギルドからの情報に目を通し、ゾルダたちに伝える。「っ…… なんだ犬っころか。 そう大したことないのぅ」なんだか一瞬ゾルダが顔を歪めた気がしたけど……もう一回確認すると、いつものゾルダの顔だった。見間違いだろうか……マリーもいつも通りベッタリで特に何かある感じはしていないようだ。俺の勘違いならいいんだけどね。その後、俺たちはヘルハウンドがいると思われる森へと足を運んだ。ゾルダの魔力探知を頼りに群れの位置を把握する。「群れが分散し始めたようじゃ。 ワシらを囲って追い詰める気かのぅ」「それなら、俺たちはどうする? 俺たちも散らばって、それぞれ個別に戦っていくか?」囲われて一度に相手するより、個々を倒す方がよっぽど安全だ。そうゾルダに提案はしたものの……「いや、ワザとワシらを囲わせる。 一斉に襲い掛かってきたところで、ワシが一網打尽にしてくれるわ」と言って一向に俺の話を聞かない。輪をかけて「素晴らしい作戦ですわ。 さすがねえさま」とマリーがゾルダを後押しするから余計にだ。ただ俺はちょっと気になっていた。さっきのローパーの時もそうだし、スパイダーの時もそうだ。なんかゾルダの気持ちが上ずるというか力み過ぎというか……いつも以上にパワーが出ている気がして、心配になる。ザコと言う割には火力がデカいのである。二日酔いの所為とかならいいんだけど……「犬っころたちがだいぶ範囲を狭めてきたのぅ こちらを追い詰めておるつもりじゃろうが……」ゾルダはニヤニヤしながら、ヘルハウンドの気配を追っている。あの顔を見ていると、普段と変わらない。俺の取り越し苦労で済むならいいんだけど……そうこうするうちに、ヘルハウンドの群れが俺たちを周りにわんさかと集まり始めた。八方塞がりの状態に取り囲んできた。「ゾルダ、大丈夫か? 逃げる隙間もないぐらい囲まれちゃったけど……」「案ずるな。 問題ないのぅ。 犬っころたち、追い詰められていることも知らずにのこのこと出てきおった」ゾルダはそう言うとより一層笑顔になっていく。「さてと、そろそろ頃合いかのぅ。 これで全部のようじゃな」ヘルハウンドの群れがすべて現れたところで、ゾルダがしかけていく。「|闇の雷《
最初はこいつらじゃのぅ。蜘蛛じゃ蜘蛛じゃ。蜘蛛がいる街のはずれの森に到着したのじゃ。「えっと、依頼書を見ると…… 『スパイダーが大量発生。 森に木を伐りにいけなくなっているので何とかしてほしい』らしい」こいつらは一つ一つは大したことはないのじゃが……集団で行動するのでのぅ。連携されると少々厄介ではある。「まぁ、焼き払えば問題なかろう」「マリーも手伝いますわ」「おぅ、そうか、そうか。 それは嬉しいのぅ。 でも、マリーの出番があるかのぅ」「周りも焼き尽くさないようにしてくれよ」あやつも心配性じゃのぅ。仕方ないから多少は配慮してあげるのじゃが、そう上手くいくかはワシは知らんぞ。「そろそろスパイダーの巣かな。 大量発生と言うから100匹ぐらいかな」100匹なんて少なかろう。あいつらの繁殖能力はとてつもないからのぅ。「バカを言うな、おぬし。 あいつらがそんな少ないはずないじゃろ」「もっと多いの?」「たぶんじゃがな……」そんな話をしておるからじゃ。ふと周りの気配を察知すると大量のやつらじゃ。「そろそろお出ましじゃぞ」前方からもそもそとスパイダーが現れよった。その数……数えるのも疲れるほどじゃ。森の隙間と言う隙間にモゾモゾと這ってきてあらゆる隙間を埋め尽くしておる。「うわぁ。 こんなにいるの? 気色悪っ」あやつはあまりの多さに気持ち悪そうにしておる。「マリーもこんなに多いのは初めて見ますわ」薄気味悪いと言わんばかりのマリーじゃ。このワシもあまりいい気分はせんが……「ザコが大量にいてもザコはザコじゃ。 さてと、一気に薙ぎ払うぞ。 マリーはあっち側をやってくれるかのぅ」「了解しますしたわ」そういうとワシとは反対の方にマリーは向かっていった。「さぁ、暇つぶしに憂さ晴らしの開始じゃ! 闇の炎(ブラックフレイム)!」赤黒く光った炎を手のひらに詠唱すると、瞬く間に膨れ上がっていく。「ちょっとデカくないか」あやつはあまりの大きさにびっくりしておる。「ちょっと溜まったものがあるからかのぅ。 そう気にするな」そして膨れ上がった炎の玉を無数におるスパイダーに打ち込む。放たれた炎はスパイダーに触れるやいなや、次々と跡形もなく燃やしていく。その道筋には何も残らず焼き尽くされていく。「んーっ ザ
「うぅ……」朝起きると頭がガンガンするのじゃ。昨日はアスビモがいろいろと引っ掻き回してくれたおかげでむしゃくしゃじゃった。ちょっと憂さを晴らそうとあやつとマリーを連れて飲みに行ったのはいいのじゃが……「ねえさま、大丈夫ですか?」ワシを心配そうにマリーが駆け寄ってくる。「大事無いのじゃ……」そうは答えてみたものの、頭痛は収まる気配がないのぅ。いっそのこと頭を吹っ飛ばしたいぐらいじゃ。「あれだけ飲めば、そりゃ二日酔いにもなるよ」あやつは呆れた顔をしておる。「あれぐらい、以前は問題なかったのじゃぞ。 封印の所為じゃ」「はいはい。 封印の所為ですねー」あやつはワシの事を適当にいなしおって。「おぬしのその言い方が気に食わんのぅ。 ワシをなめおってからに」頭が痛いこともあって、ワシの顔はさらに厳しい顔になり、あやつに視線を向ける。「悪かった悪かった。 でも、次からは気をつけろよ。 いい加減、自分の体の事を理解しろって」同じことを繰り返すワシはアホとでも言いたげだ。あやつはワシに向かって説教をしよる。「説教なぞするな! ワシを誰だと思っておる! ……っいてて……」思わず大声を出しあやつに文句を言う。が、頭の痛みが増してくるのぅ。「偉大なる魔王様で。 元だけどな」あやつはさらに煽ってくるのじゃが……それを見ていたマリーが「おい、お前。 これ以上ねえさまのことを侮辱すると、ただでは済ましませんよ」と間に割って入ってきおった。マリーは本当に出来たいい子じゃのぅ。「ごめん、冗談だから」あやつもマリーの勢いに押されたのか、平謝りをしておった。「ところでじゃ…… いつまでこの街におればいいのじゃ」先に進む目途がたたんのは如何ともしがたいのじゃ。「あぁ……それは国王の使者が来るまでかな そう、カルムさんが伝言していったし」はぁ?あのじじいはまったく何を考えておるのじゃ……「それだとまだしばらくここに居ないといけないのか? それは、嫌じゃ」「嫌だと言われてもなぁ……」アスビモとの出来事でだいぶ消化不良を起こしておるのじゃ。こう暴れ足りないというかなんというか……「アスビモの奴が一戦交えんからこうなるのじゃ。 こうモヤモヤするので、暴れたいのじゃ」「マリーもねえさまと一緒ですわ」マリーもワ
余はゼド。この世界を恐怖に突き落とす魔王である。150年ほど前には勇者を相手に引き分けて少々深手を負ったが……傷が癒えた今、再びこの世界を恐怖のどん底に陥れてくれるわ。まずは手始めにアウレストリア王国を陥落させるべく、部下たちに命じた。報告を受けておるが、戦果は上々のようである。このまま一気に攻め落とし、世界征服の足掛かりとするのだ。「ゼド様、緊急の報告がございます」近衛兵の一人が慌てて駆け寄ってくる。「なんだ。さっさと申せ」「はっ、南方面の攻略をしていた四天王の一人クロウ様が倒されたとのことです」「何?」余の側近のであるクロウがやられただと。ふん、四天王の中では一番弱かったしな。だから一番楽そうな南を任せたのだが、結果も出せないとは。「報告ご苦労。 さがっていいぞ」これは南方面の戦略を立て直ししないとな。ここは東方面を任せているメフィストに任せるか。それとも……しかし、こうもっと強い奴はいないものか。どいつもこいつも弱くて役立たずばかりで困る。もっと余を満足させてくれる奴はいないのか。どう持ち駒で国を滅ぼそうと思案しているが、手元の駒が少なくて困る。そんなことを考えていた時に、あいつが余のところに来た。「これはご機嫌麗しゅうございます、ゼド様」「おい、アスビモ。 余のどこが機嫌麗しいのか。 どいつもこいつも使える奴が少なくてかなわん」「これはこれは申し訳ございません。 私としたことが…… ゼド様の表情はいつも変わらずクールでいらっしゃるからつい……」アスビモは喰えん奴だ。だが余のために提案をしてくれる数少ない使える奴でもある。「世辞はいい。 今日は何の用だ」「はっ。 先日懐かしい方々にお会いしまして。 その報告にと参りました」懐かしい?どんな奴と会ったというのだ。「それがどうしたのだ。 余が懐かしむ奴などいない」「ゼド様、そう言わずにお聞きいただければと。 本当に懐かしい方々でしたので」アスビモはもったいぶる言い方をしてくるな。「だからどうしたいうのだ。 余は機嫌が悪いのだ。 これ以上、余に絡むのであれば……」「大変申し訳ございません。 すぐに終わりますので、ご猶予を」「で、誰なんじゃ。 その懐かしいというのは」「はい、ソフィア様とマリー様です」「なーにー
アウラさんが倒れたということで、フォルトナとカルムさんはシルフィーネ村に帰っていった。帰り際にカルムさんが国王からの伝言とのことで話があった。「国王様からの言伝です。 『ムルデでの状況は逐一報告を受けている。 立て直しが必要との認識で、国から任命した者を現地に派遣する。 到着するまで、しばし街で休んでいてくれないか』 とのことです」国王のおっさんは休みまで指示か。勇者はどこかのブラック企業の社員なのか。あっ、ブラック企業は休みの指示をしないから、ブラックではないか……それならまだホワイトだ。ってホワイトでもないだろう。一人でノリツッコミをしてしまう。となると、これは交代するまで、ここに居ろってことかな。仕方ないなぁ……と、心の中ではいろいろ文句は出てくるが、いったんは従おう。「了解しました。 国王が派遣してくる人たちを待って、次の地に向かおうと思います」そうカルムさんには伝えておいた。ゾルダは相変わらず剣の中に引きこもっている。マリーも「ねえさまが出てこないなら、マリーもここに居ても仕方ないわ」と言って、兜の中に入ってしまった。そうなると、何をしたものかと思う。そう言えば、こっちの世界に来て、一人になるのは初めてかもしれない。なんだかんだで誰かしらが周りに居た。久しぶりの一人なので、街へ出てのんびりとしてみるか。そう思い、剣や兜は宿屋に置いて、ぶらりと街へ出た。街へ出てもそうやることがある訳でもない。こっちの世界は娯楽は本当に少なく、飲み食いぐらいしかないように感じる。実際に俺も食事が一番の楽しみになりつつある。それでも向こうの世界に比べるとパターンは少ないし、味も質素である。ここまで来るのに野営も多くて、より質素な食事も多かった。最初はサバイバル感が出て、気持ちも高揚して美味しく感じたけど、今はまぁ、普通に感じる。だんだん前の世界の味も恋しくなるが、ないものねだりは出来ない。ここに適応していくしかないんだが、それでもやっぱり恋しくなる。かと言って、俺自身があまり料理は上手くないので、作るにも限界があるしな……そんなことを考えながら街をブラブラと歩いていた。ランボたちの一件が終わった直後の街。横暴な領主がいなくなったこともあり、最初に来た時よりかは活気があるように感じた。でも大勢の
--アグリやゾルダたちがムルデの街についたころのシルフィーネ村に時を戻す。--シルフィーネ村ではいつもと変わらずアウラが長としての仕事をこなしていた。勇者様とフォルトナは、もうどの辺りまで行ったでしょうか……旅路が苛酷になっていなければいいのですが……勇者様とお付きの人か旅立ってだいぶ経ちます。あとから追いかけたフォルトナも勇者様に追いついたとの報告は受けています。勇者様のお邪魔をしてないでしょうか。多少は心配ですが、私に比べたらしっかりもののあの子のことなので、大丈夫でしょう。そんなことを考えながら、家の執務スペースで書類を確認しています。相変わらず私のところに持ち込まれる話も多くて……えーっと、これはまた話を聞きに行きましょう。これは……当面は問題なさそうですね。後回しにしておきましょう。私も一人しかいないですから、申し訳ないですが、優先順位は決めさせてもらっています。そのことで特に何か言われたこともないので、問題ないでしょう。そうなると、このお願いが喫緊の課題になるのかな……書類整理をしていると、大きな音でドアを叩く音が聞こえてきました。「ドンドン! ドンドンドン!」誰でしょう。何か急ぎの話でしょうか。「おい、長。 長はいるか?」大きな声が響き渡ります。「はーい、少々お待ちくださいね」急いで入口に向かうと、オンケルがそこに立っていました。「おー、いたいた。 忙しいのに悪いな」オンケルは申し訳なさそうな顔をしながら私に話しかけてきました。「いえいえ~。 何事でしょうか」オンケルは村一番の大工の棟梁です。そんなオンケルが慌てて私に伝えたかったことなんでしょう。「実はな、公園の遊具が壊れてしまっていてな。 あのままではいつか子供たちがケガをしちまう。 早めになんとかしてあげたいんだが、直しちまってもいいか?」そういうことなのですね。もっと深刻な何かかと思っていましたが、案外身近なことで良かったです。ホッとしましたが、子供たちの安全も村では重要なことです。ケガをしてしまったら大変です。「そうですね。 オンケルが出来るなら、修理していただいても問題ないですよ。 それより、オンケルの方が忙しくないですか?」「あっしは大丈夫です。 今の現場は若い衆でなんとかなってますので」オンケルはド
母さんが倒れたらしい。何があったんだろう……「ねぇ、カルムさん、母さんが倒れたってどういうこと?」伏目がちなカルムさんに母さんの容態を確認してみたけど……「私も先ほど初めて聞いたので、なんとも……」普段あんまり物事に動じないカルムさんが動揺している。カルムさんにとって母さんは絶対だしねー。かなり心配なのだろうなー。「そうなんだー うーん…… 母さんも心配だけど……」ちらっとアグリの方を見てみる。アグリはボクの目配せに気づいてくれた。「俺たちの方は心配しなくてもいいよ。 アウラさんのところに帰ってあげなよ」アグリ、そうじゃないって。引き留めてくれれば、ここにいる理由が出来るのに……そう思う反面、母さんの容態も気になるし……葛藤してどうしていいかわからなくなるよー「そういえば、カルムさん。 ボクが帰らないといけないほど母さんは危ないの?」帰ってきてほしいってよっぽどなのかなー。「倒れられた経緯は聞いていないですが、命に別状はないとのことでした」「それはよかったー。 でも、それならなんでボクが戻らないといけないのかなー」命の危険はないなら、なんでボクを呼び戻そうとしているのだろうか……そこがなんか腑に落ちないんだよなー「それでもしばらくは動きが取れないとのことで…… 村長の代理を、フォルトナお嬢様にしてほしいらしいです」「えーっ、ボクが村長代理? 無理無理無理無理むーりー!!」ボクなんかが代理しなくても、他にもっと出来る人いるでしょ!なんでボクなのよー「フォルトナお嬢様のお家は、代々シルフィーネ村を束ねてきているのです。 他の方ですと、人々が納得しないかと……」確かにそうだけどさーそれでも、ボクが代理なんてまだ早すぎるよ。「うーん……」母さんは心配だけど、村長の代理はなー……考え込んでいるとアグリがボクに諭すように話をしてきた。「フォルトナ、村長の代理うんぬんは置いて、アウラさんの様子を見に帰ったら? 命に別状はないとは言え、動けないほどなら大変だと思うよ」それはボクもわかっているよーわかっていても、なかなかと踏ん切りがつかないこともあるんだって。「うーん……どうしたらいいかなー」こんな時にゾルダが割って入ってきて、いろいろと煽ってくれると幾分気も紛れるのにさーさっきから姿を消し