ワンダーパヒューム

ワンダーパヒューム

last updateLast Updated : 2025-06-18
By:  羽馬タケルUpdated just now
Language: Japanese
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5月上旬、季節外れの夏到来でエアコンの故障に気付いた高畑瑞穂は、上司である和田マネージャーのはからいで、とある電器屋を紹介してもらう。 古田と名乗ったその男は、格安でエアコンを提示し、この出来事がキッカケで瑞穂は和田マネージャーと古田の二人と距離を縮めていく事になるのだが……。 29歳アラサー、彼氏ナシ、ちょい個性的、香水大好き、イケメン上司、風変わりの無愛想電器屋。 過激描写アリ? 等身大のオトナ女子の恋愛模様を描いた、甘酸っぱい恋愛小説。

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Chapter 1

・プロローグ

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──この匂い、凄く落ち着く。

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────────────────────

「……ちょっと、勘弁してよ」

リモコンを握りしめたまま、瑞穂はため息をつくと、額に浮き出た汗を左手でおもむろに拭った。

引っ越し当初以来、ルームメイトのごとく瑞穂と共にこの部屋で生活を共にしてきた、エアコン。

しかし、寿命が来たのか、エアコンは電車の走行音のような物々しい音を立てながら、カビ臭い吐息を排出するのみであった。

まだ5月だというのに、NHKの集金みたく望まれていない、季節外れの真夏日到来。

汗まみれになりながら、就労。

カーディガンを着て出社した自分を激しく呪いながら帰宅し、心身共にリフレッシュとばかりに、スーパーで買った「ざるラーメン」をエアコンの効いた部屋で食べ、缶ビールを一杯。

発汗作用のある入浴剤を入れたお風呂でデトックスを行い、アイスで涼を得て就寝。

そんな、ささやかな野望を抱いていた瑞穂であったが、目の前で展開されている「エアコンの故障」という現実は、瑞穂のその野望を粉微塵にまで破壊した。

帰りの電車で見た、スマートフォンの天気予報によると、このふざけた真夏日はまだ3日も続くらしい。

──となると、何も手を打たなかったら丸三日間。

ずっと、ビニールハウスみたいに蒸し暑いこの環境で、寝起きし続けなけりゃいけない訳?

「……あり得ない」

舌打ちをしながら、瑞穂はエアコンの電源を切ると、収納スペースとなっているクローゼットから扇風機を取り出し、カバーとなっているゴミ袋を力任せに引きちぎった。

そして、続く形でコンセントを挿し込み、扇風機のスイッチを押すと、生ぬるい温風を顔面に浴びながら、瑞穂は一人沈思する。

繰り返すけど、まだ5月だ。

この休みにリフレッシュ、とばかりにGWに旅行に出かけたものだから、貯金も心もと無い。

言うまでもなく、夏のボーナスはまだ先だから、エアコンを買い換えるという選択肢は極力取りたくない。

──となると、修理か。

瑞穂はテレビの横に置かれているカラーボックスからクリアファイルを取り出すと、そこに入れてあるエアコンの説明書を探した。

エアコンの説明書は、程なくして見つかった。

が、説明書と同封していた保証書の期限は、やはりというか、三年前に切れていた。

「引っ越ししてから、ずっと使ってたしな……」

説明書からエアコンに瑞穂は視線をやると、立ち上がり、クリアファイルをカラーボックスへと戻した。

そして、ソファーに置いたバッグからスマートフォンを取り出すと、瑞穂は扇風機の真向かいへと戻ってくる。

スマートフォンの液晶画面を立ち上げ、検索サイトに

「エアコン 格安 修理」

と、瑞穂は入力すると、表示された幾つかのサイトの詳細を、それとなくといった感じで順に確認していった。

しかし、「高額な追加請求をする業者が近年増加しております」という文言にひるんだ瑞穂は、スマートフォンの画面表示を消すと、扇風機から発せられる温風を、しばらくの間、何をするともなく浴び続けた。

「電器屋に行くしかないか」

瑞穂は、ポツリと呟いた。

修理にせよ、買い換えるにせよ、その後のアフターサービスを考えれば、やはり家電量販店だ。

ネットで、素性の分からぬ適当な業者に修理を依頼して、高額な修理費を請求されるだけならまだしも、女独り身のこの部屋で変な事をされたら、悔やんでも悔やみきれない。

·

──こういうのは、目先の金額で決めるんじゃなく、やっぱり名前のしっかりしたトコロに頼むべきだよね。

瑞穂は立ち上がると、汗まみれの衣服を洗濯機へと投げ入れ、部屋着であるTシャツとジャージにそそくさと着替えた。

そして、手首に巻いたヘアゴムで髪の毛を束ねると、台所に行き、買ってきた「ざるラーメン」の調理に取り掛かる。

「ダメだ、暑い……」

しかし、立ち上る湯気に気を削がれた瑞穂は、一度コンロの火を止めると、先程クローゼットから引っ張り出した扇風機を、今度は台所まで移動させた。

「明日の朝、シャワー浴びなきゃいけないかな……」

扇風機の温風を浴びながら瑞穂は呟くと、「ざるラーメン」の麺を煮えたぎった雪平鍋へと放り込む。

二分程、麺を熱湯の中で泳がせると、瑞穂は麺をざるにこし、冷水と氷でもって、麺にまとわりつくぬめりを丹念に取り除いていく。

続けて付属のゴマだれを器に入れ、製パン会社のキャンペーンでもらった皿に、先程冷水でしめた麺を盛ると、瑞穂はその二つをしかめ面でTV前のリビングテーブルへ持っていった。

冷蔵庫から、室温とは対照的に冷えきった缶ビールもリビングテーブルへと持っていくと、瑞穂は先程台所に移動させた扇風機を今度はTV前に移動させる。

「……いただきます」

扇風機の送風ボタンを押しながら瑞穂は独りごちると、TVのリモコンを手に取り、スイッチを入れる。

適当にチャンネルを変え、特に目を引く番組が無いと判断した瑞穂は、DVDレコーダーに録画された芸人のトーク番組を眺めたまま、缶ビールを一息に飲み干した。

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・プロローグ
· · · · · · ──この匂い、凄く落ち着く。 · · · · · · · ──────────────────── 「……ちょっと、勘弁してよ」 リモコンを握りしめたまま、瑞穂はため息をつくと、額に浮き出た汗を左手でおもむろに拭った。 引っ越し当初以来、ルームメイトのごとく瑞穂と共にこの部屋で生活を共にしてきた、エアコン。 しかし、寿命が来たのか、エアコンは電車の走行音のような物々しい音を立てながら、カビ臭い吐息を排出するのみであった。 まだ5月だというのに、NHKの集金みたく望まれていない、季節外れの真夏日到来。 汗まみれになりながら、就労。 カーディガンを着て出社した自分を激しく呪いながら帰宅し、心身共にリフレッシュとばかりに、スーパーで買った「ざるラーメン」をエアコンの効いた部屋で食べ、缶ビールを一杯。 発汗作用のある入浴剤を入れたお風呂でデトックスを行い、アイスで涼を得て就寝。 そんな、ささやかな野望を抱いていた瑞穂であったが、目の前で展開されている「エアコンの故障」という現実は、瑞穂のその野望を粉微塵にまで破壊した。 帰りの電車で見た、スマートフォンの天気予報によると、このふざけた真夏日はまだ3日も続くらしい。 ──となると、何も手を打たなかったら丸三日間。 ずっと、ビニールハウスみたいに蒸し暑いこの環境で、寝起きし続けなけりゃいけない訳? 「……あり得ない」 舌打ちをしながら、瑞穂はエアコンの電源を切ると、収納スペースとなっているクローゼットから扇風機を取り出し、カバーとなっているゴミ袋を力任せに引きちぎった。 そして、続く形でコンセントを挿し込み、扇風機のスイッチを押すと、生ぬるい温風を顔面に浴びながら、瑞穂は一人沈思する。 繰り返すけど、まだ5月だ。 この休みにリフレッシュ、とばかりにGWに旅行に出かけたものだから、貯金も心もと無い。 言うまでもなく、夏のボーナスはまだ先だから、エアコンを買い換えるという選択肢は極力取りたくない。 ──となると、修理か。 瑞穂はテレビの横に置かれているカラーボックスからクリアファイルを取り出すと、そこに入れてあるエアコンの説明書を探した。 エアコンの説明書は、程なくして
last updateLast Updated : 2025-06-15
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・Chapter(1) クロエは封印ッス
「おはよーございます」 抑揚を欠いた声で挨拶を述べて瑞穂は出社すると、入浴する親父のように緩慢な動作で自らのデスクへと腰掛けた。 パソコンの電源を入れ、ログインパスワードを入力すると、瑞穂は睡眠不足を少しでも解消させる為、組んだ両手の上に頭を載せ、仮眠をとる。 「眠そうだな」 その時、瑞穂の後ろから声が聞こえてきた。 「……はい」 瑞穂は寝ぼけまなこで、ゆっくりと後ろを振り返る。 見慣れた、ポール・スミスのスーツ。 くっきりとした二重まぶた、高くそびえ立った鼻。 嗅いだ人間の心を取り込むような、ブルガリ・プールオムの香り。 我が営業二課のエースである和田マネージャーが、口元を曲げながら瑞穂を見下ろしていた。 「眠いッス……」 仮眠を妨害された瑞穂は、唇を尖らせながら和田マネージャーに対して返答する。 「その様子じゃ、殆ど寝てないって感じだな。 なんか、変な事でもしてたのか?」 「してませんよ、そんな事」 和田マネージャーのブラックジョークに、瑞穂は苦笑いを浮かばせながら反論した。 「ウチの、エアコンが壊れたんですよ。 昨日、真夏みたいに蒸し暑かったでしょ。 だから、掃除はまだしてなかったんですけど、その場しのぎって感じで電源を入れたんですね。 けど、何か変な音が鳴るだけで、全然涼しくならなくて……。 何か、水漏れとかもしてましたし。 で、仕方ないから、昨日は扇風機だけで寝たんですけど、あまりにも暑くて殆ど寝れなくて……。 それで、今、こんな状態って訳ですよ」 「窓、開けたら、少しはマシになるだろ?」 「ウチ、二階なんですよ」 「なるほど」 アクビ交じりの瑞穂の弁を聞き終えた和田マネージャーは、納得した、といった様子で顎に手をあてた。 「まっ、朝礼までには何とかしますから、出来ればそっとしておいて下さいよ」 両腕を高く上げて伸びをしながら、瑞穂は和田マネージャーへと向き直る。 「朝にシャワー浴びたりとか、野菜ジュース飲んだりとか、柑橘系の香水つけたりとか。こっちも、気を引き締めるように、それなりに色々何とかしてますんで」 「あっ、そういえば確かに今日の高畑さんは、いつもとは違う匂いがするな」 和田マネージャーが、鼻をひくつかせる。
last updateLast Updated : 2025-06-15
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・Chapter(2) ドキドキ
地獄のような連日の熱帯夜に耐え、ようやく迎えた土曜日。 瑞穂は、国道沿いのドトールのテーブル席でアイスコーヒーを飲みながら、待ち人である和田マネージャーを、チラチラと入口に目をやりながら待っていた。 自動ドアが開く。 「いらっしゃいませ」と、型通りの言葉を発する店員。 朝焼け前の夜空を想起させる、蒼いシャツ。 ディッキーズのチノパン、vansのスニーカー。 普段見る、ポール・スミスのスーツ姿とはまた違った和田マネージャーが、そこにはいた。 何気ない私服であったが、和田マネージャーが着るとそれは、瑞穂の心を捕らえて離さない、魅力的なモノへと変化する。 時刻は、9時50分。 待ち合わせ時刻の、10分前であった。 「早いね。 ゴメン、ひょっとして待ったんじゃない?」 和田マネージャーは、ハムチーズとアイスコーヒーが載ったトレイを持ちながら歩み寄ってくると、開口一番瑞穂に尋ねた。 「いえ、アタシも本当に今、来たトコでしたから」 瑞穂は手を振り、和田マネージャーの弁を否定する。 「それなら、良かった」 和田マネージャーは安堵の表情を見せると、瑞穂の向かいの席に腰掛け、アイスコーヒーにシロップを入れる。 「しかし、昨日も暑かったよね。 高畑さん、大丈夫だった?」 「ホント、最悪でした……」 ふぅ、とため息をついた後、瑞穂はしかめっ面で言葉を継いだ。 「一昨日はまだマシだったんですけど、昨日は昼間に雨が降った、っていうのがあったからですかね? 部屋の中がサウナみたいにジメジメしてて、夜中に何回も目が覚めましたよ。 で、少しでも何とかしようと、濡れタオルで身体拭いたりとか、冷感敷きパッドを買ってきたりとかしたんですけど、ホント『焼け石に水』って感じでした。 汗、全然止まらなかったですし。 明日から、また涼しくなるみたいですから、取り敢えず熱帯夜からは解放されるんですけど、夏、この状態がずっと続くと考えたら、頭が痛くなりましたよ。 だから、電器屋を紹介する、って言ってくれた和田マネージャーには、感謝しています。 また暑くなって、あの熱帯夜が来たら、この間和田マネージャーが言ってたみたいに『暑くて寝れなくて、仕事出来ませーん』って、ホント言いかねない状態でしたから」 「そりゃ
last updateLast Updated : 2025-06-17
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・Chapter(3) 古田電器の古田です。
電器屋は瑞穂らが思っていた以上早く、マンションへとやって来た。 道にさほど迷わなかったのか、瑞穂がマンションに帰宅するとほぼ同時に、和田マネージャーのスマートフォンに、「もう、近くまで来ている」という電話があったのだ。 「角に、ガソリンスタンドがあっただろ? そこを右に曲がったら、一階に美容院が入ってるマンションがあるから……」 淀みない口調で電器屋をナビゲートする和田マネージャーのその様は、瑞穂に改めて胸の高鳴りを覚えさせた。 「失礼します」 11時前、和田マネージャーに連れ添われる形でやって来た電器屋は、アコースティックベースのような低い声で言った。 良く言えば、クール。 悪く言えば、どこか無愛想。 それが、電器屋に対して、瑞穂が最初に抱いた第一印象であった。 汗を防ぐ為なのか、頭に巻かれたタオル。 タレ目、ところどころに見られる無精髭。 全身から発せられる、男の匂い。 黒いTシャツの上に水色の作業着と、いわゆる「ガテン系」と呼ばれる風貌に身を包んだ電器屋は、壁の上部に備え付けられたエアコンに目をやった後、おもむろに懐へと手を入れた。 「古田電器の古田と言います。よろしくお願いします」 先程の低い声色を保ったまま、電器屋は告げると、取り出した名刺を両手で瑞穂に対して差し出す。 「よろしくお願いします。 スミマセン、急にご無理を言いまして」 瑞穂は名刺を受け取ると、型通りの言葉を電器屋である古田に対して返した。 「コイツ、高畑さんとタメなんだ。同い年。 トシが一緒だから、エアコンに限らず家電で何か困った事があったら、今後相談してみたらいいんじゃない?」 その時、瑞穂と古田のやり取りを見ていた和田マネージャーが、仲人のように親身といった様子で、二人に対して言う。 「そうですね。 じゃあ、また何か困った事があれば、古田さんに相談させてもらいますね」 その和田マネージャーの言葉に瑞穂は、取り敢えず、といった感じの愛想笑いを浮かばせながら、返答をした。 「じゃ、早速ですが、ちょっとエアコンの方を見させてもらいますね」 一方、古田は「我関せず」とばかりに、エアコンに対して一直線に向かうと、真下に養生シートを敷き、自身の任務であるエアコンの点検へと取り掛かる。 ·
last updateLast Updated : 2025-06-18
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