二人の彼女がいる理由

二人の彼女がいる理由

last updateLast Updated : 2025-12-05
By:  G3MUpdated just now
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塚原範経は内気で人付き合いが苦手だが頭脳明晰な高校生。そして最先端の人工知能の開発者である。文化祭の準備のためにドローン搭載型光学迷彩機能付きのカメラを高校に持ち込んだせいで、校内の盗撮事件の嫌疑をかけられてしまう。居たたまれなくなった範経は家出を画策するが、意図を知った由紀と祥子の二人の彼女に拉致されてしまい……。 二人の彼女を持つ高校生、塚原範経の学園ハーレムものブラコン要素とドロドロドラマありのラブコメファンタジー、ここに開幕!

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Chapter 1

第1話 由紀

 唐崎由紀は幼馴染おさななじみの塚原範経を連れて帰宅した。

「お帰り」と母の裕子が出迎えた。「今日は祥子ちゃんと一緒じゃないの?」

「祥子ちゃんは今日、おうちの引っ越しなの」と言いながら由紀は框を上がった。

 範経の腕を引っ張って、長い廊下の奥へ入っていった。由紀を溺愛する父親が「女の子の部屋は二階でなくてはいけない」と言って、平屋の屋敷の奥にわざわざ由紀の部屋を増築した。だから廊下の突き当りに階段がある。

 由紀は範経の手首をつかんだまま階段を上がり、自分の部屋のドアを開けた。奥の窓際にあるベットに範経を押し倒し、スカートをひらひらさせながら腹の上に馬乗りになった。

「答えてもらうわよ」と由紀。

「何を?」と範経。

「今日の放課後、音楽準備室で川田先生と何を話していたの?」と由紀。

「先生の小説の感想を話したんだ」と範経。

「なぜ国語の先生と小説の話をするのに音楽準備室に行ったの?」と由紀。

「静かに話せるからって、川田先生が……」と範経。

 裕子はお茶とお菓子をのせた盆を手に由紀の部屋をノックしようとしたとき、由紀の大きな声が聞こえた。由紀は普段おとなしい娘なので裕子は少し驚いた。つい、聞き耳を立てた。

「それで川田先生と何を話したの?」と由紀。

 川田先生は小説家と二足わらじをはく国語の若い先生だ。

「先生の新刊の感想を話したんだ」と範経。

「新刊をいつ買いに行ったの?」と由紀。

「先生がくれたんだ、先週の金曜日に」と範経。

 裕子は範経が国語の先生からも目を掛けられていることに感心した。

「なんで範経にだけ新刊をあげるの?」と由紀。

「知らないよ」と範経。

「あら、そう。それで、それからどうしたの?」と由紀。

「それだけだよ」と範経が答えるや否や、パーンという音がした。裕子はびくっとした。由紀が範経の頬を張ったのだろう。

「私に隠し事するの?」と由紀。

「ごめん……」と泣き声で範経。

「それからどうしたの?」と由紀。

「先生と……先生と……」と範経。

「先生とキスしたんでしょ」と由紀。

「うん……」と範経。「でも……ぼく、そんなつもりじゃ……」

 と、そのとき、ドアをトントンとノックする音が聞こえた。

 由紀がダッと立ち上がってドアの前に駆け寄り、バンッとドアを開けた。お盆を持った母親が立っていた。

「いつからここにいたの!」と由紀。

「さっきからよ」と鬼の形相をした娘に裕子は答えた。

「お母さん、聞いていたのね!」と由紀。

「家じゅうに聞こえているわよ」と裕子。

 小柄な範経がベッドで身を起こし、左ほほを赤くしながら涙をぬぐっている。

「範経君がかわいそうよ」と裕子は部屋に入り、コーヒーテーブルにお盆を置きながら言った。

「お母さんは出てって!」と由紀は言い、母親を部屋から追い出してドアを閉めた。

 由紀はベットの縁に腰を掛けていた範経を再び押し倒した。

「範経、私の誕生日にキスしてって言ったら、まだ私達は子供だからダメだって言ったわよね」と由紀。「でも今日はキスしてもらうわ。祥子には悪いけど、でも川田先生に範経を取られるなんて許せない。もう、絶対に待たないから」

「いいわよね?」

 由紀は範経に覆いかぶさって唇を合わせた。互いの舌先が触れたとき、由紀は我を失った。夢中で範経の首筋を両手で抱きかかえて押さえつけた。由紀の舌先が範経の口の奥にずるりと入ったとき、範経の体が脱力した。由紀は範経の舌を舌先に感じながら、範経の背中を優しくなでた。

 由紀は起き上がるとシャツとスカートをさらりと脱いでから、範経のズボンのベルトを外した。

「由紀ちゃん、だめだよ……」と範経。

「もう一回言ったらまた叩くわよ」と由紀。「早く脱いで」

 由紀は範経の隣に並んで布団をかぶった。

「避妊を……」と言った範経の口を由紀がキスでふさいだ。

……

 日が暮れたころ、部屋のドアがノックされた。

 由紀が「入らないで!」と言う前に母親の裕子が入って来て、ベットの前であきれ顔をした。

「あなたたち、すぐにお風呂に入りなさい。その間に布団を片付けておくから」と裕子が言った。なぜかすでに沸いていた風呂に二人で入った。

 裕子は風呂から上がった由紀と範経を居間に呼んだ。裕子は由紀に避妊薬を飲ませ、「お父さんには内緒にするのよ。これからはちゃんと避妊をしなさい」とくぎを刺した。

 裕子は二人に夕飯を食べさせ、おどおどとした範経を帰らせた。

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第1話 由紀
 唐崎由紀は幼馴染の塚原範経を連れて帰宅した。「お帰り」と母の裕子が出迎えた。「今日は祥子ちゃんと一緒じゃないの?」「祥子ちゃんは今日、お家の引っ越しなの」と言いながら由紀は框を上がった。 範経の腕を引っ張って、長い廊下の奥へ入っていった。由紀を溺愛する父親が「女の子の部屋は二階でなくてはいけない」と言って、平屋の屋敷の奥にわざわざ由紀の部屋を増築した。だから廊下の突き当りに階段がある。 由紀は範経の手首をつかんだまま階段を上がり、自分の部屋のドアを開けた。奥の窓際にあるベットに範経を押し倒し、スカートをひらひらさせながら腹の上に馬乗りになった。「答えてもらうわよ」と由紀。「何を?」と範経。「今日の放課後、音楽準備室で川田先生と何を話していたの?」と由紀。「先生の小説の感想を話したんだ」と範経。「なぜ国語の先生と小説の話をするのに音楽準備室に行ったの?」と由紀。「静かに話せるからって、川田先生が……」と範経。 裕子はお茶とお菓子をのせた盆を手に由紀の部屋をノックしようとしたとき、由紀の大きな声が聞こえた。由紀は普段おとなしい娘なので裕子は少し驚いた。つい、聞き耳を立てた。「それで川田先生と何を話したの?」と由紀。 川田先生は小説家と二足わらじをはく国語の若い先生だ。「先生の新刊の感想を話したんだ」と範経。「新刊をいつ買いに行ったの?」と由紀。「先生がくれたんだ、先週の金曜日に」と範経。 裕子は範経が国語の先生からも目を掛けられていることに感心した。「なんで範経にだけ新刊をあげるの?」と由紀。「知らないよ」と範経。「あら、そう。それで、それからどうしたの?」と由紀。「それだけだよ」と範経が答えるや否や、パーンという音がした。裕子はびくっとした。由紀が範経の頬を張ったのだろう。「私に隠し事するの?」と由紀。「ごめん……」と泣き声で範経。「それからどうしたの?」と由紀。「先生と……先生と……」と範経。「先生とキスしたんでしょ」と由紀。「うん……」と範経。「でも……ぼく、そんなつもりじゃ……」 と、そのとき、ドアをトントンとノックする音が聞こえた。 由紀がダッと立ち上がってドアの前に駆け寄り、バンッとドアを開けた。お盆を持った母親が立っていた。「いつからここにいたの!」と由紀。「さっき
last updateLast Updated : 2025-11-14
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第2話 祥子
 翌日の朝、範経が登校のために家を出た。一つ目の角を曲がったところで、クラスメイトの椿祥子に出くわした。「待っていたのよ」と祥子。「昨日の夕方に胸騒ぎがしたけど、引っ越しで家を出られなかったの。すぐ行ってあげられなくてごめんね」 祥子は体が大きくておっとりした性格だが、人並外れて勘がするどい。範経は何も言わず、祥子の大きな胸に飛び込んだ。「範経、何があったの?目を見せて」と言い、範経の頭を両手で押さえた。互いの額がぶつかるほど顔を近づけて、祥子は範経の目の中を覗き込んだ。「おめでとうって言いたいけど、このまま学校に行かせるわけにはいかないわ。家に来てちょうだい」と言い、範経の腕をつかんで祥子は自分の家に引き返した。「引っ越したばかりで散らかってるけど、入って」と祥子。 母親の真理子が「どうしたの?」と玄関に出てきた。土間には段ボール箱がまだ積んである。祥子と範経は靴を脱いで家に上がった。「範経と大事な話があるの」と祥子。「しばらく入ってこないで。それとお母さんの避妊薬を後でちょうだい」と言って範経の手を引いて二階へ上がった。 …… 祥子は範経を自分の部屋に入れた。「だめよ、範経。逃げないで。あたしだってずっと待ってたんだから、ちゃんと彼女として扱ってもらうわ」と言いながら、さっさと自分の制服を脱いだ。 祥子は範経の制服を手慣れた様子で脱がせた。痩せた範経の体を両手で抱きかかえた。「何も怖がらなくていいのよ。何もやましいことはないわ。何があっても、あたしが範経を守るから」 祥子は範経を抱えたままベットで横になった。「だからあたしを範経のものにして」祥子は範経と向かい合わせになり、目を見つめた。瞳の中を覗き込んだまま、仰向けになり範経を体の上に載せた。「いいのよ」 …… 昼前になって、下着姿の祥子と範経が一階のリビングに降りてきた。祥子は、困った顔をしている真理子に「お薬ちょうだい」と言った。祥子は受け取った錠剤をコップの水とともに飲みこんだ。「新しいシーツが欲しい」と祥子。「後で出しておくわ」と真理子。「シャワーを浴びるてくる」と祥子。「学校はどうするの」と真理子。「シャワーを浴びたら行くわ」と祥子。「それなら昼ご飯を食べていきなさい。今、用意するから」と真理子。  真理子は簡単な食事を用意した。ダイ
last updateLast Updated : 2025-11-14
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第3話 二人の彼女
 放課後の人気のない中庭で由紀と祥子は向かい合い、範経は池の縁に腰をかけていた。「抜け駆けするつもりじゃなかったのよ」と由紀。「わかってる。だけどビンタはかわいそうだよ」と祥子。「つい、かっとなってしまったの。範経は、川田先生とキスしたことを隠してたのよ」と由紀。「そうだね。あたしも気がつかなかった」と祥子。「範経には、あたしたちをだます気がなかったようだけど」「それは分かってる。あんなことは初めてだったみたいだし」と由紀。「範経を問い詰めたけど、本当に突然のことだったみたいね。キスされたのは」「そうだね」と祥子。「直接、川田先生と話すしかないわ」 範経は呆然と二人の会話を聞いていた。どうしてこんなことになってしまったのかと。 確かに範経は子供のころ、この二人の女の子の世話を焼いたことがある。それは魔が差したというか、何かの気まぐれだった。ちょっとした同情心だったに過ぎない。二人から好意を向けられたが、面倒くさいので極力知らない顔をしていた。だが、いつのまにか、範経がどちらかを選ぶまで、二人とも彼女ということになっていた。 それでも、なんとなく心地がよかったので、ずるずると時が過ぎてしまった。だが昨日と今朝の出来事は成り行きだからと言って済まされることではない。その上、行為の事実を二人の母親が知っている。もう戻れないところまで来てしまった。「範経、いくわよ」と由紀。「川田先生と話をしに行くよ。聞いてたでしょ?」と祥子。
last updateLast Updated : 2025-11-14
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第4話 音楽準備室
 範経は職員室に入り、川田孝子に二人で話をしたいと言った。「いいわよ。十分後に音楽準備室に来て」と孝子はうれしそうに返事をした。 範経は由紀と祥子に引きずられるようにして準備室に入った。 孝子が「お友達を連れて来たのね」と言った。「川田先生、お話があります」と由紀。「何かしら?」と言いながら、孝子は由紀たちに近づいた。「しらばっくれないでください!」と由紀。 孝子は少し驚いた顔をした。「範経君、こちらにきて」と言いながら、まるで子犬をあやすように手元に引き寄せ、黒縁の眼鏡をはずして範経の目の奥を覗き込んだ。「あら、範経君、大変だったようね。昨日から二回も女の子に押し倒されるなんて」と言って、孝子はふふふと笑った。「それで、話って何かしら?」「範経を放して!」と由紀。「なんで範経を抱きつくのよ!」「見てなかったの? 範経君が私の胸に寄りかかってきたのよ」と孝子。「あら怖いわ。範経君、行きなさい」と言って範経の背中を由紀の方へ軽く押した。 由紀が強く範経の手首をつかんで孝子を睨んだ。「川田先生、なぜ昨日、範経とキスしたんですか?」と祥子。「見てたの?」と孝子。「ブラスバンド部で噂になっています」と祥子。「盗み見した人がいたのね」と孝子。「ごまかさないでください!」と由紀。「私、わかるのよ」と孝子。「何をですか?」と祥子。「キスをすると、相手が考えていることが分かるのよ」と孝子。「ふざけないでください!」と由紀。「許さないわ……」「冗談よ。範経君に忠告してあげたの」と孝子。「何の忠告ですか?」と祥子。「範経君が校内で盗撮していると職員室で噂になってるのよ」と孝子。「え!」と由紀。「どういうことなのか、話してください」と祥子。「いいわよ。でもその前に範経君の手首を放してあげたら。痛そうよ」と孝子。 由紀がはっという顔をして手を放し、祥子が弘樹を抱きかかえた。「いつもそうしてあげるといいわよ」と孝子。「それで先生は範経に確認したの?」と祥子。「そうよ。疑っているわけではないけれど」と孝子。「範経が盗撮なんて、するわけないじゃないですか」と祥子。「インターネットの闇サイトで、うちの高校で撮られた写真が売られているらしいわ」と孝子。「だからって、なぜ範経が犯人だなんてことになるんですか!」と由紀。「最近、範経君が
last updateLast Updated : 2025-11-14
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第5話 校庭のベンチ
 川田先生から音楽準備室で忠告を受けてから、一週間が経った。放課後、範経は校庭のベンチで由紀に膝枕をされて寝ていた。「出席確認で名前を呼ばれなかったわね、範経」と由紀。「うん。先生も疑ってるんだ、ぼくのこと」と範経。「教育者が聞いてあきれるよ」と祥子。「由紀ちゃんと祥子ちゃんも、ぼくといると皆に嫌われちゃうよ」と範経。「大丈夫よ。私たちは先生の受けがいいし、被害者なのよ」と由紀。「え、そうなの?」と範経。「うん。それに、あたしたちの着替えの写真がネットに出回ってた。由紀はともかく、あたしの下着姿なんて誰が見るんだろう?」と祥子。「祥子ちゃんはかわいいよ。それより早く犯人が見つかればいいのに」と範経。「そうね。それにしても、カメラマニアっていうだけの理由で、範経が疑われるなんて変だわ」と由紀。「盗撮が始まった時期に、ぼくが学校でカメラを持ち歩いてたから」と範経。「できすぎた偶然だわ」と由紀。「そもそも範経が盗撮する理由がないよ。裸なら私たちがいつでも見せてあげられるから」と祥子。「そうね。それに違法に写真を売らなければならないほど、お金に困ってないわ」と由紀。「ぼくは盗撮なんて面倒くさいことをしない。でも教員たちはぼくのことをよく知らないから、状況証拠ってことで疑ってるみたいだね」と範経。「範経はいつも他人事ね」と由紀。「ぼくは由紀ちゃんと祥子ちゃんがいれば十分だよ」と範経。「あたしも、私たちの時間を誰からも邪魔されなくてうれしいよ。範経がみんなからシカトされてるおかげで独占できてる」と祥子。「確かにそうだけど」と由紀。 クラスメートの遠藤猛が友人を連れて近づいて、由紀と祥子に声をかけた。「二人はなぜいつも範経を庇うんだ?」と猛。「うるさいな。ひがんでるのか?」と祥子。「庇ってるわけじゃない。そもそも範経は犯人じゃないわ。友達だから一緒にいるだけよ」と由紀。「妬けるね」と猛。「うらやましいだろ」と範経。「上から目線だな。お前のそういう人を見下したところが嫌いなんだよ」と猛。「そりゃ悪かったね」と範経。「ほんとうに腹立つ奴だな。盗撮犯のくせに」と猛。「ぼくじゃないよ」と範経。「あなたたち、何しに来たの? ケンカを売りに来たのなら、どこかに行ってちょうだい」と由紀。「今年の文化祭の実行委員会のメンバーにな
last updateLast Updated : 2025-11-15
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第6話 玲子
 翌日の昼休みに、唐崎由紀は教室でクラスメイトの遠藤猛に再び声をかけられた。「唐崎さん、映画のチケットがあるのだけど、明日の土曜日どうかな?」と猛。「悪いけど、用事があるの」と由紀。「また範経かい?」と猛。「あなたには関係ないでしょ」と由紀。「あいつと付き合ってるわけじゃないんだろ?」と猛。「そんなお遊びじゃないわ」と由紀。「俺はまじめに交際を申し込んでいるんだ」と猛。「だから嫌なのよ」と由紀。「なぜだよ」と猛。「自分は成績よくてスポーツができて見かけもまあまあだって思ってるのが顔に出てるからよ」と由紀。「客観的に見て事実だろ。何が悪いんだ」と猛。「悪くないわ。ただ嫌いなだけ」と由紀。 ……「また振ったんだ。由紀ってもてるよね」と祥子。「うんざりだわ」と由紀。「ねえ、週末にどんな用事があるの?」と学級委員の滝沢玲子が尋ねた。「私の家でお食事会よ」と由紀。「私も入れてくれないかしら」と玲子。「それはできないわ」と由紀。「なぜ?」と玲子。「範経がいるから」と由紀。「でも混ぜてくれてもいいじゃない。仲良くするから」と玲子。「だめよ、あなた範経をシカトしてるじゃない」と由紀。「だってこの雰囲気じゃ話しかけられないわ」と玲子。「隣の席なのにガン無視なんてひどすぎるでしょ。今日だって範経があなたの消しゴムを拾った時も」と由紀。「ごめんなさい。次からちゃんと話すから、いいでしょ? こっそり入れてよ」と由紀。「今回はダメ。範経の誕生日会だから。あなたがハピバースデーツーユーって一緒に歌うなんて不自然すぎるでしょ。いくら範経だって興ざめしちゃうわ」と由紀。「それもそうね、残念だわ」と玲子。「なぜそんなに塚原君と仲がいいの? いつからの知り合いなの?」と玲子。「小学生の時からよ。私は勉強も運動も苦手ないじめられっ子だったのよ」と由紀。「今からでは想像もつかないわ」と玲子。「引っ込み思案の私を、範経がかばってくれたのよ。苛められたら助けてくれた。それ以来友達なの。それだけのことよ」と由紀。「そうなの。ちょっと信じられないわ。あの陰気な塚原君がいじめっ子と戦うなんて」と玲子。「範経は強いわ。でもそれを人には見せない」と由紀。「そうなのかしら。小っちゃくて痩せてるけど」と玲子。「体格なんて問題ではないわ。人間の価値は力の
last updateLast Updated : 2025-11-16
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第7話 招待
 祥子が教室に入ってきた。「由紀、待った? 玲子も一緒か」と祥子。「あなたも明日、塚原君の誕生日をお祝いするの?」と玲子。「そうだよ。あいつは最近辛い思いをしてるから、たっぷり甘やかしてやるんだ」と祥子。「どんな光景か見てみたいわ」と玲子。「ベタベタ引っ付いて、雰囲気が盛り上がったら押し倒すんだ」と祥子。「いやだ、いやらしい」と玲子。「そんないい方したら、玲子が誤解するでしょう」と由紀。「ああ、いっそのこと範経を食べてしまいたい」と祥子。「まるでストーカーだわ」と玲子。「あたしはどこまでも追いかけていくよ。今度家出したら捕まえて、私の家に監禁するんだ。そして私だけのものにする」と祥子。「家出?」と玲子。「このままだと、きっとまた家出するわ」と由紀。「前もしたの?」と玲子。「そうよ。時々ふらっといなくなるの」と由紀。「今回もそろそろやばい」と祥子。「家出したら、あなたたちが探しに行くの?」と玲子。「もちろんよ。でもその前に、わたしたち三人で他の高校に転校しようと思ってるの。明日、範経を説得するつもりよ」と由紀。「あなたたち、転校しちゃうの? そんなのいやよ!」と玲子。「仕方ないわ。このままでは範経がかわいそうでしょ」と由紀。「でも、あなたたちまで転校しなくてもいいじゃない! それに私も塚原君の話し相手になってあげられるわ。だから考え直してよ」と玲子。「いまさら遅いよ。今日が限界だったんだ。ストレスで熱を出してぐったりしてる。今までのパターンだと、このまま家を出てもおかしくないんだ」と祥子。「そんなひどいことになってるなんて、知らなかったわ」と由紀。「あんたなら平気だったのか? クラスの誰からも、先生からも一日中無視されて。それが一週間以上も続いてるんだ」と祥子。「やっと範経が来たわ」と由紀。「滝沢さんもいたんだ」と範経。「塚原君、ごめんね」と玲子。「何かあったの?」と範経。「ずっと無視してて、ごめんなさい」と玲子。「気にしてないよ。君が悪いんじゃないし」と範経。「でも、……。ごめんなさい……ごめんなさい……」と玲子。「泣かなくてもいいじゃないか。どうしたの?」と範経。「あーあ、話すんじゃなかったよ」と祥子。「ひょっとして、ぼくのこと?」と範経。「そうだよ、範経がいかにかわいそうかって説明したんだ」と祥
last updateLast Updated : 2025-11-18
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第8話 由紀の父親
 唐崎由紀は、クラスメイトの椿祥子と滝沢玲子をつれて、玄関から家に上がった。由紀はドアの開いた応接間に顔を出した。「友達を連れてきたわ、お父さん」「入ってもらいなさい」と父の隆行。「お久しぶりです」と祥子が応接間に入り、頭を下げて挨拶をした。「祥子ちゃん、いらっしゃい」と隆行。「こちらは、滝沢玲子ちゃん。同じクラスで学級委員と生徒会役員をしている優等生なのよ」と由紀が紹介した。「よく来てくれたね。議員の滝沢家のお嬢さんかい?」と隆行。「そうです」と言って、玲子はにっこり微笑んだ。「由紀、彼女を巻き込んで大丈夫なのか」と隆行。「私たちは何も変なことをしていません」と由紀。「お邪魔させてくださいと、私がお願いしたのです」と玲子。「いや、食事会のことじゃない。範経君のことだ。彼は普通じゃない。危険な人物だ」と隆行。「何を言うの、お父さん!」と由紀。「今回の盗撮の件は濡れ衣だろう。彼は、冗談でもそんな悪戯をしないことはわかっている。だが彼なら盗撮の犯人を見つけることは容易いはずだ。なぜ何もしない?」と隆行。「女子更衣室や女子トイレで、こそこそもの探しなんてできないからって言っていたわ」と由紀。「そんな彼らしくもないことを信じているのか? 家捜しならお前と祥子ちゃんに頼めるはずだ。そもそも彼は犯人の見当がついている。あえて様子を見ているのだろう。だから彼はしばらく姿をくらまして、ほとぼりが冷めてから戻ってくるはずだ。転校の手続きは必要ないよ」と隆行。「お父さんは範経のことを誤解しています!」と由紀。「由紀、お父さんの言うことは正しいよ。わたしはそんな範経が好きなんだ。あいつは冷静な観察者で、誰よりも現実を見通すことができる。わたしの心の中も……。そして無駄なことは何もしない」と祥子。「その通りだ。彼は君たちのような女の子を手玉に取るくらい造作もない。だから怖いのだ、由紀」と隆行。「範経は冷酷非道な人ではありません」と由紀。「彼はおとなしくてやさしい男の子に見えます」と玲子。「彼は、他人からそう見えるように振る舞っているんだよ。彼は由紀や祥子ちゃんよりずっと勉強ができる。小学校や中学校にほとんど通っていなかったのに、授業についていけなかったことがない。真面目に試験を受けないから実力がわからない。というか、彼は自
last updateLast Updated : 2025-11-19
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第9話 転校の書類
「範経君が来てくれたわよ」と母の裕子が、応接間の入り口で言った。「こちらに通してくれ」と父の隆行。「範経君、よく来てくれたね」と言って隆行は範経を迎えた。「お久しぶりです。お招きをありがとうございます」と範経。「早く入りなさい。そこに座って」と隆行は自分の向かいの席に座るように促した。「今回はひどい濡れ衣を着せられているようだね」「そうなのです。すっかり、まいってしまいました。女子生徒の写真がインターネット上でばらまかれるたびに周りの目が冷たくなって、いたたまれません。家では母親や姉さえ口をきいてくれなくて」と範経。「だからまた家出かい?」と隆行。「お見通しなんですね」と範経。「娘から聞いたんだよ。由紀にせがまれて、転校の書類を取り寄せている」と隆行。「申し訳ありません。でも、その必要はありません」と範経。「私もそう思うのだが、一応説明しておこう。君たちの学力なら、この地域にある、そこそこのレベルの私立高校にいつでも転校できる。だが、できればそんなことはしないで欲しい。先生方も望んでいないだろう」と隆行。「私はお嬢さんにご迷惑をかけるつもりはありません。しばらく学校を休めば、ぼくが犯人でないことがわかります」と範経。「私は君に家出を勧めるわけにはいかないよ。娘からの冷たい視線で私は死んでしまう。それなら転校をすべきだ」と隆行。「お嬢さんに悲しい思いをさせるつもりはありません。必ず戻ってきます」と範経。「そうだな。でも複雑な気分だよ」と隆行。「わかります。空気を読んで、この機会にぼくがいなくなるべきなんでしょうね」と範経。「飛びぬけて優秀な人間の定めだよ。愚かな父親の繰り言だと笑ってくれてかまわない」と隆行。「お父さん、いい加減にして!」と由紀。「話はこれで終わりだ。ゆっくり遊んで行ってくれ。泊まっていくなら夕飯も用意するから」と言って隆行は笑顔になった。「わかったわ、お父さん。さあみんな、私の部屋に行きましょう」と由紀は範経と祥子と玲子を連れて応接間を出た。 ……「ごめんね、お父さんが変なことを言って」と由紀。「いいや。お父さんは、ぼくのことを子ども扱いしないから好きだな」と範経。「由紀は大事にされてるんだよ」と祥子。「そうよね。とっても真剣に心配してたわ」と玲子。「ぼくは危険人物だからね」と範経。「何言ってるのよ
last updateLast Updated : 2025-11-20
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第10話 拉致
 由紀は範経と祥子、玲子を自分の勉強部屋に案内して三人を座布団に座らせた。「範経君って本当は勉強ができるんだ」と玲子。「そんなことないよ。隣に座ってるんだから知ってるだろ」と範経。「だとしたら、由紀ちゃんのお父さんが言ってたことは嘘なの?」と玲子。「買いかぶりすぎだよ。というか警戒しすぎだね、お父さんは」と範経。「範経にはいろいろ前科があるから」と祥子。「過大評価だよ」と範経。「だとしても、放っておいたら何をするかわからないわ」と由紀。「ひどい言われようだ」と範経。「でもこれから家出しようとしているのでしょう。十分、危険人物だわ」と玲子。「範経、家出してどこに行くつもり?」と由紀。「どこって、今まで通りその辺をうろうろだよ」と範経。「山に行くの、それとも公園?」と由紀。「まだ決めてない」と範経。「危ないからやめて!」と由紀。「大丈夫だよ、たぶん」と範経。 由紀が範経のほほをひっぱたき、バシッという音がした。「痛っ」と範経が顔を手で押さえて床に伏せた。「ふざけないで! その弱った体でどこに行くつもりよ! 心配する私たちのことも考えて!」と由紀が上から見下ろす態勢で叫んだ。「ごめん。でもそれが一番いい方法なんだ」と範経。「今回はだめだ。範経は疲れ切ってる」と祥子。「でも転校するのはいやだ」と範経。「分かってるわ。範経、だからこっちに来て」と由紀は立ち上がって範経にベッドを指で示した。「どうして?」と範経。「あなたは体調が悪いのよ。ここに横になりなさい」と由紀。「こう?」と範経。「そう、いい子ね。お願いだから、私のお願いを聞いて」と由紀。「何で、のしかかってくるの?」と範経。「祥子、手を押さえて! 私が抱きついてるから。足も縛るのよ!」と由紀。「祥子ちゃんって怪力だわ」と玲子。「何感心してんだよ! 助けて!」と範経。「これでいいわ」と言って、由紀は手足を縛られて横になっている範経を見下ろした。「何がいいんだよ、こんなことして」と範経。「こうでもしないと家出しちゃうでしょ。私がつきっきりで世話をしてあげるから、何も心配ないわ」と由紀。「そんなことしても、何も解決しないよ」と範経。「学校のことは私たちが何とかするわ」と由紀。「手足を縛られて泣きそうになってる範経ってかわいい」と祥子。「祥子ちゃんってサデ
last updateLast Updated : 2025-11-20
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