「燃やして知らない霊にやるんだよ。霊に頼み事をするなら、まずは餌をやらないと」ゆみは言った。「夜になったら、誰かを使って教室に金と銀の冥銭を運び込んでもらいたいの」「僕も一緒に行く」「いや、臨に行ってもらうわ」ゆみは言った。「臨の命式は純陽で、霊は近づけない。それに、霊は彼の血を恐れてるから」「なんでそんなこと知ってるんだ?」念江は驚いた。「臨が生まれた時、小林おじいちゃんが占ってくれたの。彼は将来すごく役に立つって。だから昨日も無理やり臨を連れて行ったんだ」ゆみは言った。妹の話を聞くと、念江はすぐ臨に電話をかけた。呼び出し音がしばらく鳴ってから、臨はようやく出た。どうやら寝ていたらしく、臨は眠そうな声で答えた。「臨、夜にゆみとまた学校に行ってくれ」念江は穏やかに言った。「嫌だ!!」臨はすぐに目を覚まし、即座に拒否した。「絶対に行かない!自分たちで行って!俺は澈兄さんのところに行くから!」「いいよ。じゃあ来月の小遣い……」念江は笑いながら言った。「分かった、行くって!」念江がまだ言い終わらないうちに、臨は態度をがらっと変えた。「俺行くから、お小遣い止めないで……」臨は泣きそうな声で言った。念江に完全に弱みを握られている。隣のゆみは笑いをこらえながら、「グッジョブ」と親指を立てた。「姉さんもそばにいるの?」臨が尋ねた。「臨、用があるならさっさと言って。姉さんは忙しいの」ゆみは念江から電話を受け取って言った。「怖っ!そんなんじゃ、そのうち澈兄さんにも嫌われるぞ!!」「切るわよ?」ゆみは怒ったふりをした。「俺、いつ姉さんのところに行けばいい?」「まずは夕方に病院に来て」ゆみは言った。「あっ、ついでに晩ごはんもよろしくね。お代は念江兄さんが払うから!」念江は笑いながら頷いた。「念江兄さん、一つ聞いていい?」電話を切ると、ゆみは探るような目で兄を見た。「いいよ」「貯金どれくらいある?」念江は一瞬たじろいだ。ゆみがそんなことを聞いてくるとは思っていなかったのだ。「必要な額は用意できるけど、一体何に使うんだ?」念江は聞き返した。「佑樹お兄ちゃんとどっちが多い?」ゆみは答えず、さらに尋ねた。
突然、優しい声が背後から聞こえてきた。ゆみが慌てて振り向くと、前に、白い狐と一緒に現れた仙人のお姉さんが立っていた。「仙人のお姉さん、久しぶり!」ゆみは立ち上がり、明るく挨拶をした。「私は仙人じゃないわ」女性は優しく微笑んだ。「私は古月家の者で、澄華(きよか)と言うの」「澄華お姉ちゃんって呼んでいい?」ゆみは尋ねた。「うん」澄華は頷いた。「あなたさっき、四梁八柱の話をしてたわね。でもあなたは弟馬(ていば)ではないから、その道を歩むことはできないわ。あなたの運命は特別よ。小林さんのようにはなれなくても、天から授かった霊眼で、他に成すべきことがあるはずよ」「どういうこと?」ゆみは理解できなかった。「この世に未練のある霊たちは、それぞれ叶えられなかった願いがあるの。あなたの役目は、彼らの未練を解消し、あの世へ送ること。ただ、霊たちは簡単には言うことを聞いてくれないでしょう。大変な道のりになると思うわ」ゆみはようやく理解した。自分は人間と霊の仲介役なのだ。「澄華お姉ちゃん、一つ聞いていい?」ゆみは頷き、暫く沈黙してから尋ねた。「あなたが聞きたいこと、言われなくてもわかるわ」澄華は言った。「でもそれはあなたが自分で調べるしかない。霊が言うこと、全てが真実とは限らないから、彼らの言葉を全て信じてはいけない。気をつけて。安易に彼らが提示する条件に乗ってはいけない。中には本当の答えを教えてくれる霊もいるけどね」「タネちゃん、行くわよ」そう言うと、澄華はゆみの傍らにいた小狐を呼び戻した。主の呼び声を聞くと、子狐はすぐに立ち上がった。ゆみに向かってしっぽを振ると、澄華と共にゆみの目の前から消えてしまった。その瞬間、ゆみははっと目を覚ました。目の前には、携帯をいじっている紗子がいた。ゆみは目をこすり、ゆっくりと体を起こした。「もう起きたの?」紗子は驚いた。「私、どれくらい寝てた?」ゆみはぼんやりと尋ねた。「そうね……1時間も経ってないわよ」紗子は小さくため息をつき、携帯を置いて答えた。「十分。ちょっと買い物をしてくるね」ゆみは自分で頬をパンと叩いてから言った。「何を買うの?」紗子は不思議そうに尋ねた。「誰かに届けてもらおうか?」「
澈が病院から出てきた時、もうすぐ夜が明けようとしていた。医者の話によれば、澈は肋骨が二本折れ、足も骨折し、古傷に新しい傷が重なり、長い療養が必要とのことだった。話を聞き、ゆみは思わず拳をきつく握りしめた。最初はただ、自分の考えのせいで澈との関係に壁ができていただけだった。しかし、今、澈に大きな借りを作ってしまった。……澈は病室に運ばれても、まだ麻酔の効果で眠っていた。ゆみは黙って彼の傍らに座り、じっと見つめた。「姉さん、少しメご飯食べて休んだら?念江兄さんと佑樹兄さんにはもう連絡しといたから。看護師を手配してくれると言ってたし、心配しないで」そう言いながら、臨は買ってきた朝食をゆみに手渡した。ゆみは無言で受け取り、静かに口に運んだ。そんな姉を見て、臨は胸が苦しくなった。「姉さん、俺……」ゆみが食べ終えると、臨は口を開いた。「言いたいことがあるなら、言いなさい」ゆみが顔を上げた。「俺にできること、何かないかな?少しでもいいから。姉さんがそんなだと、俺も辛い」「本当に困ったら、あんたを頼るわ。でも今はまだ解決策も思いつかないの」ゆみは無理やり笑顔を作って言った。「わかった」臨は頷いた。「学校に行かなきゃ。姉さん、無理しないで。何かあったら連絡して」「うん」臨が去ってすぐ、紗子がやってきた。紗子はゆみに近づき、彼女の目の下のクマを見て眉をひそめた。「ゆみ、無理し過ぎだよ」紗子はゆみの隣に座り、ベッドに横たわっている澈を見て言った。「紗子ちゃん、一つ分からないことがあるの」ゆみはソファに背を預けた。「何?」「……いや、やっぱ何でもない」ゆみは何か言おうとしたが、結局それを飲み込んだ。「ゆみ、今朝、念江さんと佑樹さんから少しだけ話を聞いたわ。幽明の話はわからないけど、それ以外ならできることは何でも手伝うわ」「今夜、澈くんを見ていてほしい」ゆみの目は決意に満ちていた。「私があいつを探し出す!」「澈くんを傷つけたあの……『霊』?」紗子が尋ねた。「あいつ、また澈くんを狙ってくるかもしれない」ゆみは頷き、周囲を見回して異変がないことを確認し、声を潜めて言った。「また?」紗子は驚いた。「澈くんはもうこんな状態なのに、まだ
「姉さん!!正気かよ!?」臨は真剣な表情で言った。「ガソリンが漏れてるんだぞ!?爆発するかもしれない!今は近づいちゃダメだ!!」ゆみは狂ったように臨の手を振り払おうとした。「でも──でも……澈を見捨てるなんて、私にはできない!!全部私のせいなのに……黙って見てはいられないわ!!」「……だったら、僕が行く!」臨はゆみをぐいっと後ろに引きずり込み、反論させる間もなくタクシーへ走り出した。ゆみもすぐに体勢を立て直し、臨の後を追った。タクシーに駆け寄った臨は、窓から血まみれの顔で這い出そうとする澈を発見した。「澈兄さん!手を貸せ!引っ張り出すぞ!」澈は歯を食いしばりながら手を伸ばした。「運転手さん……運転手さんがまだ中に……」「そんな場合じゃねえ!早く!」臨が力を込めて引っ張ると、ちょうど到着したゆみも澈の腕を掴んだ。二人がかりでようやく澈を後部座席から引きずり出した。だが、澈のズボンは血で染まっており、足はひどく損傷していて立つことすらできないようだった。「姉さん、僕が背負う!手伝って!」臨が素早くしゃがみこむと、ゆみは澈の体を支え、その背中に澈を乗せた。それからゆみは、周囲に集まっていた見物人に向かって叫んだ。「お願い!!運転手さんがまだ中にいるの!助けて!!」最初は躊躇していた人々も、彼女の必死の声に、一人、二人、そして三人と手を貸しに走った。何人かが力を合わせ、車内に取り残された運転手をなんとか引っ張り出し、車から遠く離れた安全な場所まで運んでいった。ゆみたちは、運転手のことなんて気に留めず、自分たちのタクシーに澈を乗せて叫んだ。「東恒病院へ!急いで!」「わ、分かりました!!」運転手は急いで車を発進させ、スピードを上げて病院へと向かった。車中、ゆみは澈の血まみれの顔を見つめながら、涙が止まらなかった。震える手を彼の頬に伸ばそうとするも──触れることができなかった。暗い車内では、どこに傷があるのか分からず、下手に触れて痛みを与えてしまうのが怖かったのだ。「澈……ごめん……ひとりで行かせるべきじゃなかった……本当に、ごめんね……」嗚咽混じりの言葉に、澈は微かに目を開き、苦しそうに呼吸しながら答えた。「……大丈夫……泣かないで……」ゆみの視線は、
学校の正門まで来ると、ゆみは澈をタクシーに乗せて見送った。その後、自分と臨も別のタクシーを拾い、家へ向かった。タクシーの中で、ゆみは眉をひそめたまま、今夜得た二つの手がかりを考えていた。一方の臨はすでにゆみの膝の上でぐっすりと眠りこけていた。ゆみはその髪を指でいじりながら、沈黙のまま思考を巡らせた。幽霊たちの話では、あの幽霊は最近来たばかりで、一ヶ月も経っていない……そして私の周りに頻繁に現れるということは、私について来た可能性が高い。でも私に危害を加えないのはなぜ?クラスメートを襲ったのは、彼女が私と衝突したから……なら澈は?あの時私が澈に怒っていたから、あの幽霊も澈を襲った?ということは……この幽霊は私の知り合いか、それとも……私のことが好きなのでは?ゆみは突然鳥肌が立ち、無意識に臨の髪を強く掴んでしまった。ダメ……そんなこと、絶対に許さない!「痛っ!!」臨は飛び起き、頭を撫でながら文句を言った。「姉さん!いきなり髪を引っ張るなよ!」「ごめんごめん、ちょっと考え事してたの」「考え事?」臨は不思議そうに聞いた。ゆみは自分の考えを臨に話した。臨は少し考えてから言った。「姉さん、前に言ってたよね。幽霊って、すっごく執着するって」「そうよ。彼らはもう人間の思考じゃないのよ。何かに執着すると、そっちに突っ走っちゃうの」ゆみは説明しながら、突然目を見開いた。「待って!」「またかよ!びっくりさせるな!」臨は飛び上がらんばかりに驚いた。ゆみは急いで運転手の席を叩いた。「運転手さん!引き返して東恒病院までお願い!」「え?まさか夜通し付き添うつもり?」「あの男の幽霊、澈を見逃すはずがないわ!」ゆみは焦った様子で携帯を取り出し、澈に電話をかけた。臨は目を大きく見開いて言った。「そんなのあり得ないだろう!」しかし、ゆみの不安は的中した。通話が──繋がらなかった。「どうして……!」ゆみは繰り返し電話をかけた。そのたびに、手の震えも大きくなった。「姉さん……落ち着いて、きっと気のせいだって。ちょうど電波が悪いとか……」「あり得ない!学校から病院まで20分かかるのに。乗車してまだ10分も経ってないわ!電話に出られないはずがない!」
ゆみは階段を下り始めた。「湖の方に行ってみよう。何か分かるかもしれない」臨はすぐに彼女の後を追った。彼は、ゆみの服の裾をぎゅっと掴んで放そうとしなかった。さらに澈の腕もつかんで、二人の間に挟まれて頭を下げて歩いていた。「見えない……見えない……」「黙ってなさい。その方があんたのためよ」臨は、その言葉を聞くとすぐに口を閉じて静かになった。中庭の湖に到着すると、ゆみは周りを見渡した。すると、いくつかの幽霊が話をしているのを見かけた。彼女は振り返り、澈に言った。「ちょっと話を聞いてくる。臨のこと、ここで見ててくれる?」「わかった」そしてゆみは幽霊の元へ歩み寄り、彼らと同じようにしゃがみ込んだ。「お二人さん、ちょっと伺いたいことがあるんですが」幽霊たちは怪訝そうに彼女を見上げた。「ええ、見えてます。だから前置きは省きますけど──この湖、ここで誰か亡くなってますよね?」男の幽霊は、うんざりしたように彼女を見て言った。「この学校で人が死んだことのない場所なんてあるか?寮だって毎年死者が出てるぞ」ゆみは目尻をピクッと動かした。「いや、そうじゃなくて……強い怨念があって、人を害してる幽霊とか──この湖に、そういうのはいないかって聞きたかったんです」「……自殺で怨念が弱い奴なんか、いねぇだろ」「……」ゆみは言葉を失った。うわっ、めんどくさい幽霊だ……ゆみは深く息をつき、感情を抑えながらさらに問いかけた。「……例えば、特にヤバいのとか、いますか?」「いるよ。ひとり、女の幽霊でな。あいつ、見た目は普通で優しそうに見えるけど、あれが一番危ねぇんだ。でも溺死じゃない。暴行された後に窒息死させられたんだ。機嫌が悪いと人間を弄ぶ」「……」いや、聞きたい話とはちょっとズレてきてるんだけど……たぶん、この幽霊が言っていたのは、さっき出会ったあの女の幽霊のことだろう。だが、相手の方から関わってこないなら──わざわざこちらから面倒を呼び込むつもりはなかった。これ以上聞き込みができそうにないと判断し、ゆみは去ろうとした。その時、傍らにいた女の幽霊が口を開いた。「あの……私、この学校のものじゃない男の幽霊を見たことあるわ」ゆみは足を止め、女の幽霊に視線を向けた。女の