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48.忘れられていた脅威

ผู้เขียน: 望月 或
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2025-05-14 16:22:52

『そうそう、自己紹介がまだでしたわね。私は「フェニちゃん」よ。宜しくお願いしますわ』

「フェ、フェニちゃん様……? その猛々しいお姿、獣神様……ですよね……?」

『ノンノン、「様」はいらないですわ。「フェニちゃん」とお呼び下さいな』

「――は、はいっ。宜しくお願いします、フェニちゃん」

『ウフフフッ』

(コイツ……。本名隠して『フェニちゃん』呼びを強制しやがった……)

「……ん? そう言えば……リィナお前、目が見えてるのか!?」

「あ……うん。フェニちゃんが私を生き返らせてくれたんだよね? その時に視力も治してくれたみたい」

『私の「蘇生魔法」は条件が厳しい分、全てを蘇らせますわ。両手両足を失っていても元通りになりますわよ』

「そっか……。良かった……良かった、リィナ……!!」

 笑顔になったヴィクタールは、リシュティナをギュッと抱きしめる。

「……あのね、“魂”だけになっている時、ヴィルの様子を知りたくて、ここに留まってたの。けど、強制的に空の上に引っ張られていって……。必死に抵抗したけど、力が強くて……」

「……! そ、それで……?」

「もう駄目だと思った時、空からお母さんの声が聞こえたの。『貴女はまだこちらに来てはいけないわ。貴女を心から待っている人がいる。その人のもとへいきなさい』って――。気付いたら、目の前にヴィルがいたの」

「……そう……そうだったんだな……。――ははっ、お前の母さんにすっげぇ感謝だ」

 ヴィクタールはそう言って目を潤ませて笑い、リシュティナを更に強く抱きしめる。

「……苦しいよ、ヴィル……」

「もっとお前に触れてたいんだ、リィナ。お前がちゃんと生きてるって実感させて欲しい。お前の温もりをしっかりと感じたい」

「ヴィル……」

 リシュティナの首筋に顔を寄せるヴィクタールに、彼女は頬を染めつつもようやく違和感を持った。

(そう言えば……さっきの“アレ”も、今も……。“魅了”解除の薬が効いてない? それとも飲んでないの? もしかしてあの騎士さん、ヴィルに渡せなかった……?)

「……ヴィル、あの――」

「お二人共、仲睦まじく戯れ合うのは大いにやって頂いても結構ですが、何か重要な事をお忘れではありませんこと?」

「え……?」

 リシュティナはフェニクスの言葉にキョトンとし、辺りを見回す。

 そこに沢山の人達がいる事に、今気付いた彼女は驚いて声を
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  • 弟と婚約者に裏切られた不運の王子は、孤独な海の娘を狂愛する   44.海の悪魔

    「は……はははっ! 死んだか……? 死んだのか!? あぁ良かった、これで海獣神様のお怒りも鎮まるだろう! ――ねぇ兄上、どんな気持ち? 悲しい? 辛い? 思いっ切り泣き喚いてもいいんだよ? アハハハッ!」 崖から降りてきたスタンリーが、リシュティナを抱きしめたまま少しも動かないヴィクタールに、愉しげな声音で言葉を投げた。「…………」 ヴィクタールが徐ろに、スタンリーの方を振り返る。「な――」 スタンリーは、ヴィクタールの表情を見て絶句した。 ヴィクタールは無の表情で、虚ろな瞳をこちらに向けていた。焦点が合っているようで合っていない。「な……何だよ……何だよその顔は……。――悲しめよ!! 悔しがれよ!! 泣き喚けよっ!! 僕はそんな顔を見たかったんじゃない……っ!!」 ヴィクタールはスタンリーに負けると、いつも小さく微笑っていた。 悔しがる事も悲しむ事も無く、「お見事でした」と、ただ優しく微笑って。 スタンリーは、次第にそれが許せなくなった。 そんな顔をされては、いくら毎回勝てたとしても、全然勝った気がしなかったからだ。 自分が勝った後、兄の悔しがる顔が――悲しむ顔が見たい。 それを見る事が出来たなら、自分はようやく兄に“本当に勝った”という実感が心から味わえるだろう。 “妾の子”である自分でも、正妻の子である兄に勝てるんだという実感が―― ……その思いは日に日に強くなり。 いつしかそれは、『兄の悔しがる顔や悲しむ顔が見たい』という、ただ単純な目的へと掏り替わっていった。 それを見たいが為に徐々に手段を選ばなくなっていったスタンリーは、“人”から外れた“狂気の道”へと足を踏み入れていったのだった――「違う違う違うっ!! 僕はそんな顔を兄上にさせたかった訳じゃない……!!」 絶叫し、頭を抱えて蹲ったスタンリーのもとへ、ヘビリアが駆け寄ってきた。「スタンリー様が悲嘆に暮れてどうするんですかぁ? ともかく、これであたし達殺されずに済んだんだから良かったじゃないですかぁ。ウフフッ」 機嫌良く言葉を弾ませたヘビリアを、光の灯らない紫色の瞳で一瞥したヴィクタールは、視線を腕の中のリシュティナに移した。「……馬鹿だなぁ、アイツら」 ヴィクタールは、リシュティナの青白く冷たい頬を優しく撫でながら、ポツリと呟く。「海獣神ネプトゥーの“愛

  • 弟と婚約者に裏切られた不運の王子は、孤独な海の娘を狂愛する   43.呼び声はもう届かない

     ヴィクタールは息が切れるのも構わず、崖に向かって全力で疾走していた。 やがて見物者であろう、人々の固まりが見えてくる。 その中にリシュティナの名を呼び、騎士達に取り押さえられている貴族の男がいた。(あれは……リントン侯爵? 一体何を――いや、今はそんな事はどうでもいい)「――大丈夫、ありがとう。先にお母さんの所にいくね?」 鈴の転がるような心地良い声が耳に届き、ヴィクタールはバッと崖の先に目を向ける。 そこには剣を手に持つスタンリーがいて、その前には会いたくて堪らなかった人物が、リントン侯爵の方を見て微笑んでいた。「リィナッ!!」 ヴィクタールは、有らん限りの声で彼女の名を叫んだ。 風で前髪が揺れ、露わになっていたリシュティナの両目が大きく見開き、その美しい瞳から大粒の涙が零れ出る。「――っ!!」 涙を流しながら、自分の名を声に出さず叫ぶリシュティナに、ヴィクタールの胸が愛しさで一杯になる。 声を出していたならば、その感情の強さに、この場にいた全員が“魅了”の力に耐え切れず意識を失っていただろう。 その時、舌打ちしたスタンリーが素早く動き、リシュティナの腹部を手に持つ長剣で貫いた。「……ッ!!」 ヴィクタールがはち切れんばかりに目を見開く中、すぐに剣は抜かれ――こぽ、と血を吐き、リシュティナの身体が後ろによろめく。 そして、その身体は崖の上から消えた。「リィナァッッ!!」 ヴィクタールは地面を強く蹴り、全速力で駆け出す。 そして、勢い良く崖の上から飛び降りた。「リィナ……ッ!!」 落ちていくリシュティナに懸命に手を伸ばす。「ヴィ……ル」 ヴィクタールの声に気付いたリシュティナが、よろよろと腕を伸ばした。 その手をガシッと掴み、彼女の身体を引き寄せ自分の腕の中に閉じ込める。 そして、すぐに受け身を取った。「リィナ、息を止めろっ!!」 瞬間、ザブンッ! と二人は勢い良く海の中に落ちた。 ヴィクタールはリシュティナを抱えたまま、海面を目指し必死に上に向かって泳ぐ。「――プハッ!!」 海面から顔を出したヴィクタールは、リシュティナも顔を出させ、息つく間もなく今度は浜辺に向かって泳いだ。 浜辺に辿り着いたヴィクタールは、リシュティナを抱き抱えると駆け出し、草が生えている柔らかな場所に彼女を下ろした。 そして、

  • 弟と婚約者に裏切られた不運の王子は、孤独な海の娘を狂愛する   42.愛しき貴方の声

     リシュティナは騎士達に連れられて、崖の上に立っていた。 そこから少し離れた所に、国王や重鎮と貴族達、城の者達や、見物に来た町の人達が集まっている。「――名乗り出てきてくれて嬉しいよ、『セイレン』の血を引く娘。まさか君がそうだったなんてね。声を変えていたのかい? 全然気付かなかったな」 スタンリーが嘲笑いながら、身動きしないリシュティナのもとへ歩いていく。 そして彼女の茶色の前髪を掻き上げ、光の映らない蒼色の瞳を見ると、口の端を持ち上げる。「君、こんなに可愛かったんだね。ホント声に騙されていたなぁ……。やっぱりあの時、兄上の目の前で君を抱けば良かった。失敗したなぁ。兄上の酷く悔しがる姿を拝めたのに……すごく残念だ」 耳元でそう囁かれ、リシュティナの身体がゾクリと大きく震えた。 くつくつと嘲笑いながら、スタンリーは一歩後ろに下がる。 そして、腰に差してある鞘から剣を引き抜いた。 その時、国王が一歩前に出て、スタンリーに強く言葉を発した。「スタンリーよ、その娘を殺めるのはよせ! やはりどう考えてもおかしい。海獣神様は国民の命を進んで奪うような、そんな無慈悲な方では無い。この提案には何か“理由”がある筈だ。まずは海獣神様のお声を聞こう。それからでも遅くない。剣を下ろせ、スタンリー!」「はっ、何を今更。こういう場合、神様は“人の命”を捧げると喜ぶって相場が決まってるんですよ。いくら父上でも邪魔しないで貰いましょうか」「スタンリーッ!!」「――兄上の悲しんで悔しがる顔を見れる絶好の機会なんだ。こんな機会、みすみす逃す訳にはいかないんだよ」 最後の呟きはスタンリーの口の中で消え、誰にも聞かれる事は無かった。「――さて、兄上が気付いてここに来る前にさっさとやってしまうよ。邪魔されちゃ困るし。城で留守番の騎士達には口留めしておいたけど、念の為に……ね。兄上、君が死んだと知ったら、どんな顔をするかな? 悲嘆に暮れるかな? 泣き喚くかな? それを考えるだけでニヤけちゃうよ。ククッ」「…………」 ――今頃、彼は騎士さんに預けた“魅了”解除の薬を飲んでいるだろう。 あの騎士さんは、「必ず渡す」と言ってくれた。優しそうな人だったから、約束通り彼に渡してくれただろう。 “魅了”解除の薬は、レヴァイが見つけて持って来てくれた。間に合って良かった……。 だ

  • 弟と婚約者に裏切られた不運の王子は、孤独な海の娘を狂愛する   41.渡された小瓶

     父との謁見が終わった後、自分の部屋に連れてこられ、それからほぼ監禁状態で当日を迎えてしまった。警備が厳重で、手洗いに行く時も見張りが付き、逃げる事も出来なかった。「リィナ、心配してるよな……。町でずっと待っててくれてるだろうし……。城から外に連れ出される時に強引に逃げるか? ……いや、すぐに警備兵に矢を射られて失敗する可能性が高いな……」 やはりあの時、馬車に乗らずリシュティナと逃げていれば良かったのか。 それとも護衛達に立ち向っていけば良かったのか。 今更色々悔やんでも、後の祭りだ……。「リィナ……会いたい……。お前にすごく会いたいよ……。――ごめんな、必ず戻るって約束……守れねぇかも――」 ヴィクタールがベッドに突っ伏してボソリと呟いた時、扉からノックの音が聞こえ、「失礼致します」 と、一人の初老の騎士が入ってきた。 ヴィクタールはのそりと起き上がり、気怠げに騎士に問う。「……もう時間か?」「いえ、ご報告に参りました。貴方様は解放となりました。海獣神様が気に入るであろう、その身を捧げる人物が現れましたので」「は……? どういう事だ……?」 ヴィクタールは、騎士に怪訝な表情丸出しで問い返した。「昨日の夕方、海獣神様の愛し子である、『セイレン』の血を引く者が自ら名乗り出てきたのです。ヴィクタール殿下の代わりに自分がこの身を捧げる、と。美しい声と、『セイレン』の特徴である神秘的な蒼色の瞳で、彼女が『セイレン』の血を引く者である事が証明されました。国王陛下は悩んでいたのですが、彼女の幾度の懇願に押され、最終的には了承しました」「……は……? まて……待てよ……。ソイツは……。ソイツって――」 『セイレン』の血を引く者。 美しき声。 神秘的な蒼色の瞳。 彼女――“女”。 思い当たる人物は、一人しかいない――「その娘から、ヴィクタール殿下へと。“魅了”を解除する飲み薬だそうです。即効性だからすぐに服用して欲しいと。そして、自分を忘れて幸せになって欲しい、と。今まで本当にありがとう、と。そう言伝を預かりました」 騎士はそう言いながら、ヴィクタールに透明の液体が入った、小さな小瓶を手渡した。「儀式はもうすぐ始まります。場所は王城の裏手にある崖の上です。それでは私はこれで失礼致します」 騎士は敬礼すると、静かに部屋を出て行った。

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