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第268話
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火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける 第289話
「どうして深津市に来たのに、一言も連絡してくれなかったんだ？こっちももてなそうと思ってたのに」宗一郎は礼央を見て言った。「あなたたちも温泉に入りに来たのか？よかったら一緒にでもどう？」萌寧はこの業界で働いているので、当然宗一郎のことは知っている。萌寧は宗一郎に挨拶した。宗一郎も礼儀正しく応えた。宗一郎からはいつもそよ風のような穏やかな印象を受ける。萌寧は、この人がまさに噂通り、親しみやすい人だと感じた。礼央は真衣たちを一瞥し、薄く笑って言った。「山口社長のお客さんの邪魔はしないでおくよ」宗一郎は首を傾げて笑った。「いつからそんな他人行儀になったんだ？」礼央は深く宗一郎を見つめ、逆に聞き返した。「それほど俺らって仲良かったっけ？」礼央が望まないなら、宗一郎も無理強いはしない。萌寧が口を開いた。「失礼ですが、山口社長はお客様を――」宗一郎は「ああ」と頷き、ゆっくりと説明した。「こちらは九空テクノロジーの技術部門の人たちで、うちのバンガードテクノロジーのパートナーだ」「今回は深津市に用事があって、おもてなしの一環として彼らを連れて遊びに来たんだ」「すでにあなたたちも知っているはずだ。北城の政府プロジェクトで一緒だからな」パートナー？！！高史は目を丸くした。九空テクノロジーがいつからバンガードテクノロジーとパートナーになったんだ？！この件に関する噂は全く流れてなかったし、誰からも聞いていない。高史は目を細め、安浩を見た。安浩の冷静な表情を見て、高史はまた何かを悟ったようだ。常陸グループは業界内でも名高い存在であり、バンガードテクノロジーとの協業も橋渡しがあってこそ実現したことだ。九空テクノロジーだけでバンガードテクノロジーと提携することは絶対に不可能であり、彼らには当然ながら近道があるのだ。時には、後ろに家族がついているのは有利だと認めざるを得ない。真衣のようなどこからどう見ても駄目な人間が、あっさりと出世を重ねている。宗一郎たちは軽く挨拶を交わすと、先に入っていった。高史は深呼吸をしながら、真衣の背中を見つめて言った。「真衣はずる賢く得だけしている。この業界が真衣のような不真面目な者ばかりなら、一体誰が真剣に研究に取り組むんだ？」「どこに行っても人の力ばかり借りて、見せかけばっ
火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける 第288話
確かにそうだ。どんな上司がいるかで、どんな部下になるかが決まる。上司の指示がしっかりしていれば、部下もきちんと動く。「寺原さん、こちらの車にお乗りください」宗一郎の秘書が沙夜と安浩の手配を済ませた後、真衣を車のほうへ案内した。真衣は何も言わず、秘書の後について行った。秘書が後部座席のドアを開けてくれた。真衣が乗り込むと、少しだけビクッとした。宗一郎が後部座席に座りながら、仕事の書類に目を通していた。真衣は軽く唇を噛み、「山口さん」と挨拶した。「私がここにいるのが不思議か？」宗一郎は手にしていた書類を片付け、真衣の驚いた表情を横目で見た。宗一郎は薄く笑い、「緊張しなくていいよ。今日は仕事で忙しくて空港まで迎えに行けなかったから、温泉には付き合うよ」気配りが細やかで行き届いている。真衣はそっと唇を噛み、「そんなにお気遣いなさらなくても大丈夫です。私たちだけで回れますし、すでに十分なおもてなしをいただきました」と言った。宗一郎は、「構わない。仕事の合間に私もリラックスしたいし」と返した。宗一郎は笑みを含んだ目で真衣を見た。「遠方から来てくれたパートナーは久しぶりだ」宗一郎の顔には常に笑みが浮かんでおり、親しみやすい印象を与えている。権力のある立場に長くいる人にあるような強い威圧感がない。人によっては、自分の実力をあえて隠すことがある。こういう人は、ビジネスの世界では「能ある鷹は爪を隠す」と言われる。宗一郎がここまで言うと、真衣もそれ以上の社交辞令は言わなかった。温泉旅館に着くまで、車内の雰囲気は和やかで、気まずさは感じられなかった。真衣たちの車が止まると、すぐ後ろでも数台の車が停車した。真衣が横を向くと、見知らぬ車がそこに停まっているのに気づいた。ただ、先頭を走っているランドローバーから、見覚えのある人が降りてきた。湊。真衣は、ふと動きを止めた。案の定、すぐに萌寧と礼央が後部座席から降りてきた。後続の車には、高史と憲人も乗っている。礼央のマイバッハが崖の下に転落した後、礼央が市役所へ向かう際に使用した車は、彼のガレージにある車のうちの1台だった。ランドローバーのようなSUVは、明らかに礼央の身分にはふさわしくなかった。誰がこのような車種を好むかは明ら
火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける 第287話
安浩は沙夜をチラッと見て、やや困ったように沙夜に微笑みかけた。「真衣にこれ以上プレッシャーをかけないで」安浩は真衣に優しい目を向けた。「できる範囲でベストを尽くせばいい。勝てれば尚更良いけど、負けても何も失うことはない」本番が差し迫っているからこそ、もっとリラックスするべきだ。真衣は安浩を見た。「私のメンタルはそんなに弱そうに見える？」安浩は温厚な人で、常に本質を見抜き、他人の立場に立って考えることができる。だが、メンタルの話となると、真衣はあの日の夜に礼央が言った言葉を思い出さずにはいられなかった。真衣はメンタルを鍛える必要があると。真衣はその言葉を気に留めていなかった。しかし、繊細な人だとつい深読みしてしまうものだ。「ただ君が緊張しているんじゃないかと思って」安浩は真衣の肩を軽く叩いた。「メンタルってのはな……」「これだけ一緒に長く仕事をしてきて、君が顔色を変えて慌てているところを見たことがないから、きっと大丈夫だな」真衣は、安浩が今まで出会った中で一番冷静沈着な人だ。どんな状況でも動じることなく、感情を抑え、理性的に行動できる。ただ、真衣は理性的に見えるけど、その裏で彼女が本当は何を感じてるのかは、誰にも分からない。真衣は唇をゆがめて、かすかに微笑んだ。もし真衣のメンタルが弱かったら、とっくに高瀬家で鬱病にかかっていただろう。一行は深津市に到着した。多くの参加チームも大会二日前に到着している。宗一郎が手配したのはミラージオ・インターナショナルという、VIP専用の高級ホテルだ。ホテルで、真衣は多くの見覚えのある顔ぶれを見かけた。みんなこの大会に参加する者たちで、大半がこのホテルに宿泊しているようだ。真衣たちの部屋は、最上階にあるプレジデンシャルスイートで、一人一部屋ずつ用意されている。宗一郎本人ではなく、彼の秘書が真衣たちを空港からホテルまで送った。ホテルの部屋に着いた後。沙夜は目を見張った。「山口社長、本当に太っ腹だね」沙夜は名家出身で、こうした光景は見慣れているが、宗一郎の気前の良さには驚かされた。宗一郎の秘書は礼儀正しく微笑んだ。「本日、社長は業務で多忙のため、直接皆さんにご挨拶ができず申し訳ございませんでした。今夜は温泉にご招待します」秘書が恭しく言った。
火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける 第286話
「礼央、さっき寺原さんたちも食事に誘えばよかったのに。一応協業パートナーなんだから」萌寧がお箸を置いて言った。「あの二人もまだ食事をしていないようだったし」礼央は淡々と視線をそらした。「真衣は俺たちと一緒に食事したいとは思っていないだろう。わざわざ真衣の機嫌を損ねる必要もない」萌寧は一瞬固まってしまった。よく考えてみればその通りで、二人は離婚したばかりだから、今はとてもセンシティブな関係にある。離婚は真衣の本意ではなく、あくまで引き止めてもらうための手段に過ぎなかった。真衣は礼央がそれを受け入れるとは思わず、まさか本当に離婚するとは予想もしていなかっただろうね。今頃後悔しているに違いない。それに、礼央と仲良くしているのを見たら、やはりいい気分にはなれない。一緒に食事する気にはなれないのも当然ね。そう考えると、萌寧の顔に薄い笑みが浮かんだ。高史が小声で言った。「あんな女が俺たちと一緒に食事する資格なんてないさ。自分の身分をわきまえろっつーの」-安浩は片手をポケットに突っ込み、真衣と一緒にレストランを出た。階段を下りながら、安浩は冷たい口調で言った。「盛岡社長のやつ、口が悪すぎる」いわゆる人を見下すタイプだ。真衣はあまり気にしなかった。人の中にある先入観は巨大な壁のようなものであり、自身の立場や実力に関わらず、軽んじる者はどこまでも真衣を軽んじるのだ。安浩は、礼央たちの界隈の人々はとても奇妙だと思った。いつも偏見を持って人と接する。「真衣の本当の身分を知ったら、きっと目を丸くしてびっくりするんじゃないか？」真衣は階段を見つめながら降りていき、安浩にそう言われると、彼を一瞥した。真衣はどうでもいいというような表情で笑った。安浩は分析した。「外山さんは今、礼央さんという後ろ盾を得て、着実に地位を上げている。さっきの個室にいたのは業界内でも優秀な人材ばかりだった。国際宇宙設計大会に向けて、かなり本格的に準備を進めているはずだ。決勝進出を本気で狙っているんだろう」この種の大会は、かなり前から綿密な準備が必要になる。萌寧はすでに地区予選に出場しているため、各種提案についても十分に分析や研究をしていると考えられる。現在集まっているメンバーは、迫る国際宇宙設計大会に向けた最終的な準備を進めているものと思わ
火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける 第285話
真衣はすぐにグラスをとり、「恐縮です」と言った。宗一郎は上品に微笑んで、「謙遜しないでくれ」と返した。彼らは長く話し込むことはなく、宗一郎は他の用事があるため、早めに離れた。宗一郎が去った後、安浩はドアの外を見つめ、眉をひそめて言った。「山口社長はあまりにも積極的だから、かえってどこか不自然だな」ビジネスマンは鋭い感覚を持っており、少しでも人が良すぎると、必ず罠があると思ってしまう。真衣は安浩が少し困惑そうにしているのを見ると、立ち上がって笑いながら言った。「先輩がいつも山口さんの業界での評判が良いって言ってたじゃない。もしかしたら山口さんの人柄が本当に非の打ちどころがないのかもしれないね」「もし評判が悪かったら、九空テクノロジーが最も落ちぶれていた時に手を差し伸べたりしないでしょ？」あの時、宗一郎は確かに見返りを求めず、九空テクノロジーに目立った実績がないまま、即座に出資を決断した。当時の安浩でさえ、宗一郎があれほど寛大に出資し、さらに原材料まで提供するとは思っていなかった。ただ残念なのは、両社の本社があまりにも離れているため、深い関係を築くことができないという点だ。出資による利益関係だけが維持されている。確かにそうだと、安浩も思った。宗一郎の言葉を借りれば、彼は人材を大切にしているのだ。天才が挫折するのを見過ごせない宗一郎は、業界の先輩として、助けられることにはできる限り手を差し伸べる。何しろ、この業界で一人の優秀な人材を育てるのは非常に難しいことであり、宗一郎はその事情をよく理解しているため、手を差し伸べたのだ。安浩が口を開いた。「とにかく、今の山口社長と我々は友人関係と言える」真衣は薄く微笑んだ。「山口さんのためにお土産を用意しよう。彼は私たちのためにできる限りのもてなしをしてくれる。だから、こちらもあまり無礼な態度はとれない」特に、宗一郎が自ら足を運んで真衣たちを招待したから。なおさらその誠意に応えないといけない。宗一郎と接するたびに、真衣は確かに春風のような心地よさを覚える。人間は誰かと話していて心地よいと感じるとき、それは相手が自分に合わせてくれているのかもしれない。宗一郎は確かに立派な方で、先を見通す力と広い心を持っている。真衣と共に個室から出ながら、安浩が言った
火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける 第284話
「自業自得ね」真衣は淡々と言った。「あんな悪事を平気でやるなんて、いつかこうなるって分かってたはずよ」-コンテストが間近に迫っていた。真衣はノースアイを引き連れて加賀美先生と打ち合わせをし、コンテストに出る際の戦略について話し合った。会議が終わる頃、安浩が会議室のドアをノックした。安浩は真衣を見て言った。「山口社長が来たよ」山口さん？真衣は驚いた。こんな時に山口さんが来るなんて、一体何の用だろう？事前に来るとは聞いていなかったけど。真衣は加賀美先生に挨拶してから、会議室を出た。「どういうこと？」安浩は説明した。「国際宇宙設計大会がもうすぐ始まるから、出張で来たんだ。地区予選の時から真衣に会いたがってよ」真衣はハッとし、驚いたように安浩を見た。「山口さん、私がソフィアだって知ってるの？」地区予選の時、宗一郎の部下たちは真衣たちの控え室に来て、ソフィアに会いたがっていた。当時、真衣は自分も出場していることを明かさなかった。安浩は首を振りながら言った。「山口社長は頭の切れる男だ。過去の協業を通じて、君の実力はよく分かっている。地区予選のとき、控室で山口社長の部下が君を見かけた。そこから、君も出場していると自然に察したんだ。今回の決勝は南部の都市で行われる。僕たちのプロジェクトの第一期目も終了したし、プロジェクトの進捗状況を確認したいのかもしれない。山口社長がすでに場所を取ってあって、もう僕たちのことを待っているから、一緒に行こう」宗一郎は優秀なビジネスパートナーと言える。彼は一度出資したプロジェクトについては、いちいち口を出すようなことはない。真衣に断る理由はなかった。真衣は安浩とともに、とあるレストランの個室に到着した。宗一郎は全身黒の服装で統一されており、二人が来るのを見ると、穏やかで柔らかな表情を浮かべた。「お待たせしました」「いいえ」宗一郎は穏やかに言った。「ここに座っていると心が落ち着くね」宗一郎は品があり、紳士的で、器の大きい人だ。真衣たちはプロジェクトについて話し合った。宗一郎は軽く笑い、漆黒の瞳で真衣を見つめた。「緊張しなくていいよ。私はプロジェクトの視察に来たわけではないから」宗一郎は淡々とお茶を注いだ。「国際宇宙設計大会にあなたも出場すると聞いた。地
