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17.隣、いい?②

作者: 鷹槻れん
last update 最終更新日: 2025-09-05 18:14:23

 この人は言動が読めない。

 というか、色々ちぐはぐな気がして……何だか近くにいるだけで、居心地が悪くてそわそわする。

 奏芽《かなめ》さんも初対面の時から割と強引だったけど……言動に一貫性があったからかな。こういう気持ちの悪さは感じなかった。

「あの、でも私……」

 それで何とかお断りしようと思ったのだけど、相手は全然引き下がってくれないの。

 今ほどこの場に四季《しき》ちゃんがいない事や、奏芽《かなめ》さんがいてくれない事を心細く思った瞬間はない。

 私は太ももに載せた膝掛けをギュッと握ると、大好きな奏芽《かなめ》さんの顔を思い出しながら、気持ちを落ち着かせるようにゆっくりと息を吐き出した。

 それから、頑張って顔を上げると、

「……ごめんなさい。私、本当にこういうの、すごく苦手なんです。なので……ほ、他の方を当たって下さい」

 男性の顔を真っ直ぐに見つめて、そう言ったの。

 あえて、「当たっていただけないですか?」という婉曲的な表現は避けたけど……私の想い、通じた……かな。

 彼は私の言葉に小さく息を飲むと、何故かとても意外だという顔をして……。

 確かに、奏芽さんや四季《しき》ちゃんに出会う前の私なら、ここまで強く食い下がられたら押し切られてしまっていたかもしれない。でも今は違うから。

 そこまで思って、でもどうして初対面なはずなのに、そんな顔をされてしまったんだろう?って不思議に思う。

 今のって……まるで私

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