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第615話
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離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第623話
そして、九条時也と復縁したことを告げた。その言葉は、まるで頭に金づちが落ちたようで、高橋は耳鳴りさえ覚えた。彼女はしばらく呆然としていた後、我に返って言った。「奥様、どうしてですか！同棲ならまだしも、九条様が飽きた時にはいつでも身を引けますけど、結婚したらそうもいきませんよ！」高橋は本当に悲しかった。彼女は涙を拭った。水谷苑は苦笑いしながら言った。「高橋さんも、私も彼と結婚するのは飛んで火に入る夏の虫ようなものだと思っているのね。それなら、どうして他に彼と結婚したがっている女性がいるのかしら？」高橋は慌てて言った。「それは、彼女たちは九条様を愛していないからです！お金目当てか、体の関係だけを求めているんです！奥様は違います。奥様はかつて......」高橋は言葉を詰まらせ、何も言えなくなってしまった。それでも、彼女はどうにか真実を打ち明けよとした。「奥様は、かつて九条様に大切にされていたのに、結局、全ては幻だったなんて......本当に悲しいことです」幻......水谷苑は青白い顔で、その言葉を噛み締めながら、力が抜けたように笑った。そう、自分と九条時也の愛は、幻だった。彼女は、それが本物だと思っていた。だけど、全ては水の泡だった。ただ九条津帆だけが、自分が十月十日お腹を痛めて産んだ九条津帆だけが、現実なのだ......水谷苑はゆっくりと九条津帆に顔を寄せ、強く抱きしめた。彼女は高橋を見て、真剣な声で言った。「今回、戻ってきたのは、あなたにお願いしたいことがあったからなの。どうか、断らないで」それを聞いた高橋は不安になった。水谷苑の世話をずっと続けてきた彼女は、水谷苑がどれほど辛い思いをしてきたかを知っていた。ここに来てそんな弱音を吐くのはきっとよほどのことがあったからに違いない。しかし、高橋は水谷苑から何も聞き出すことができなかった。結局、彼女は「何かあったら、私に何でも言ってください！お願いなんて言わないでください。私たちは家族同然じゃないですか」と言った。水谷苑は涙を浮かべながら頷いた。自分の体が日に日に弱っていくのが分かっていた。体が動くうちに、やらなければならないことを全て済ませておきたかった。彼女は九条津帆を高橋に預け、二階へ上がって服を着替えた。それは、20歳
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第622話
彼は眉をひそめながら、電話の相手に二三指示を出した後電話を切った。ミニバーの上に、薬の空箱が残っていた。九条時也はそれを手に取り、チラッと見るとすぐに効き目の強い薬だとわかった。彼は水谷苑を見て言った。「これはどうした？前まで生理痛で苦しんだことなんてなかったのに......今回はどうしたんだ？」水谷苑の心臓は激しく高鳴った。彼女はつばを飲み込みながら、小声で言った。「最初は買えなかったけど、お願いしたら、何とか売ってくれたんだ......」少し間を置いてから、続けた。「今回だけ、急に痛くなったんだ」九条時也はシート状の薬を指先で弄びながら、「この薬は胃に悪い。飲みすぎるな」と言った。何とかごまかせた。水谷苑は胸を撫で下ろした。......翌日、二人はB市に戻った。昼頃、黒塗りの車が豪華な別荘へと入っていった。高橋を初めとする使用人たちが、既に玄関前で出迎えていた。高橋の腕の中で大人しく抱かれていた九条津帆は丸々と太っていて、とっても可愛らしかった。九条津帆は母親の姿を見ると、両手を広げ、「マンマ、マンマ」と声を上げた。以前、水谷苑は時間はたっぷりあると思っていた。だから、九条津帆が九条時也の元で育てられていても、それほど寂しくはなかった。自分さえ無事であれば、いつかまた一緒に暮らせると思っていたからだ。しかし今は違う。彼女の人生は、終わりに近づいている。だから、余計九条津帆を抱きしめたかった。九条津帆を抱きしめた瞬間、その小さな体に触れ、匂いや温もりを感じた彼女は......九条津帆は、自分と血の繋がった、かけがえのない存在なのだとますます身に染みるようだった。取り乱していることは分かっていたが、どうしても抑えきれず、子供の首に顔を埋め、その温もりをしみじみと感じていた。そして、耐えきれず熱い涙が、静かに溢れ出てきた......あとどれくらい生きられるのか、あと何回九条津帆を抱きしめられるのか、わからない。しかし、抱きしめる度に、九条津帆に自分の顔を覚えていてほしい、母親に愛されていたことを覚えていてほしいと願った。「津帆！」この瞬間、水谷苑の心は張り裂けそうだった。日差しがどれほど暖かくても、冷え切った彼女の心を温めることはできなかった。九条時也は、眉をひ
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第621話
水谷苑は、手首を掴まれて痛みを感じた。美しい女優の背中を見つめ、彼女はしばらくしてから、そっと言った。「何も怒ってないわ。そもそも、私に怒る資格なんて、ないんじゃない？」九条時也は少し不機嫌になった。その時、冷たい風が吹き、水谷苑は激しく咳き込んだ。九条時也は、彼女の薄着に気づき、眉をひそめた。「こんな夜更けに、一人で何をしている？」彼は辺りを見回して「薬を買いに行ったのか？」と尋ねた。水谷苑はドキッとした。バッグの中を見られるのが怖かったので、「ええ、生理が来て......お腹が痛いんだ」と曖昧に答えた。九条時也はそれを信じたようだった。彼は彼女に車に乗るように言うと、水谷苑は仕方なく、彼の後について車に乗り込んだ。車内は暖かかったが、他の女の香水の香りが残っていて、水谷苑は吐き気を催した。しかし、彼女は九条時也の機嫌を損ねたくないし、彼に注目されたくもなかったので、必死に我慢した。彼女は痛みで顔を青白くし、体を小さく丸めていた。しばらくの間、二人は黙っていた。ホテルの駐車場に着くと、九条時也が合図をした。運転手は事情を察して、先に車から降りた。そして、車の傍でタバコを吸っていた。元々狭い車内は、二人きりになったことで、さらに窮屈に感じられた。九条時也はタバコを取り出し、指先で弄んでいた。彼の指は長く、薄暗い車内でも、その仕草は美しく見えた。しばらくして、彼は水谷苑の方を向き、静かに言った。「水谷は、保釈された」水谷苑は驚いた。そして、嗄れた声で「ありがとう......」と言った。九条時也は彼女の目を見つめ、すぐに尋ねた。「俺たち二人の間には、『ありがとう』という言葉しか残っていないのか？苑、もし今、もう一度チャンスをやるって言ったら、お前は俺とやり直す？それとも、水谷を海外に行かせる、どっちを選ぶんだ？」突然、激しい痛みが彼女を襲った。水谷苑は顔を青ざめたまま、そっとお腹を押さえた。そして、力が抜けたように笑った。「どちらを選んでも、私にとって不条理な結果になるだけよ。時也、私は自分の決断を変えないわ」九条時也は、勢いよく顔を背けた。優しい表情は消え、険しい顔つきになっていた。彼はタバコを口にくわえた。そして、ゆっくりと火をつけた。火が灯り、暗い車内にオレ
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第620話
鎮痛剤。そう、鎮痛剤を買わなくちゃ。......香市の夜は冷え込んでいた。水谷苑はコートを着ていたが、それでも寒くて体が震えていた。病気のせいだろう。以前は、こんなに寒がりではなかった。街の至る所に、薬局があった。水谷苑は適当に一軒の薬局に入った。明るく照らされた店内に入り、彼女はレジ係に効き目の強い鎮痛剤を二箱欲しいと伝えた。レジ係は顔を上げもせず、香市訛りで言った。「強いお薬はあまりおすすめできません、もっと一般的に飲まれているこちらはいかがでしょう」彼女は札束をカウンターに置いた。40万円の現金だ。レジ係は驚き、辺りを見回してから、慌てて札束を手に取り、数え始めた......一枚一枚、それはかなりの枚数だった。水谷苑は、青白い唇で言った。「40万円で買える？効き目の強いお薬少し多めに欲しいの」「買えますよ！もちろんですよ！」レジ係は金をしまい込み、監視カメラから死角になるように、水谷苑に薬を五箱渡した。「でも、この薬は1日に2錠までですよ。それでも痛みが治まらなかったら、病院に行ってくださいね。お金には困ってないと思うけど、痛み止めを飲んでも、病気は治りませんから......」水谷苑は、かすかに微笑んだ。彼女は五箱の薬のパッケージを外して、中身だけ慎重にバッグにしまった。レジ係の女性は笑って言った。「薬を買うだけなのに、まるでスパイみたいですね。それに最近はクレカとか電子マネー払いが多いから、今時現金をこんなに持ち歩いてるなんて、珍しいですね！」水谷苑は、かすかに笑って言った。「携帯をなくしちゃって......」それに、彼女は世間話をする気分ではなかった。蛍光灯の光が彼女の頭上に降り注ぎ、長い影を作っていた。たった二日間で、彼女はかなり痩せこけてしまった......その後ろ姿は、寂しげで、虚しさが溢れていた。薬局を出ると、夜の風に吹かれながら水谷苑は思わず咳き込んだ。そして、まさか、こんなところで九条時也に会うなんて思ってもみなかった。あれはかつて、二人で乗っていた高級車に違いない。あの車の中で、かつて彼は自分を抱いた......しかし今となっては、彼の隣にはすでに、別の美しい女がいたのだった。きっと、ホテルに行くのだろう。水谷苑は静かに立ち尽くしていた。彼女の顔に
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第619話
彼は乱暴だった。ソファの上、カーペットの上、至る所に彼の仕業の痕跡が残っていた。大きな窓ガラスには、彼女の口から出た血がついていた......しかし、九条時也は何も気づいていなかった。彼の欲求を満たすことに夢中で、彼女がもうすぐ死ぬことなど、知る由もなかった。その夜、彼は帰ってこなかった。彼女は冷たいベッドに横たわり、窓の外の月を眺めていた。そして彼女は、残りの人生を数え始めた。九条時也の傍にいれば、すぐに死んでしまうだろう......もしかしたら半年、あるいは、あと2、3ヶ月と持たないかもしれない九条津帆......そう、自分にはまだ九条津帆がいる。B市に戻ったら、九条津帆に何年分もの洋服を買い揃えよう。これから先毎年、母親が買ってくれた新しい服を着られるように。それから、絵本も買ってあげよう。九条時也に新しい女ができたら、きっともう九条津帆のことは構ってくれなくなるかもしれないから。幸い自分の手元には、まだ少しお金が残っていた。それを高橋に預け、九条津帆のために貯金しておいてもらおう。万が一なことがあっても、愛する九条津帆が苦労しないように。九条津帆、可愛い九条津帆......そんなかわいい子をどうして心置きなく置いて逝けるのだろうか？夜、彼女は熱を出した。幸い、熱は下がったが......朝になって、彼が帰ってきた。体には、かすかに香水の香りが残っていた。伊藤恵美と同じ香水だ......彼の首筋には、キスマークがついていた。こうやって、自分を苦しめているの？残念ね、自分はもうすぐ死ぬのに。時はすでに午前9時。当初予定していた結婚届を提出するまで、あと1時間。水谷苑は小さな声で言った。「着替えてくるわ」彼は彼女の手首を掴み、彼女の目を見て尋ねた。「何も聞きたいことはないのか？」水谷苑は切なげに微笑んだ。「聞いたところでどうにもならないでしょう？あなたが私を傷つけたくないと思っているのなら、浮気などしないはずだし......済んでしまったことを今更私にどうこう聞かせる必要はないわ」九条時也は彼女から手を放した。水谷苑は急いでクローゼットに行き、10分ほどで着替えた。薄化粧もして、顔色を良く見せた。突然、下腹に激痛が走った。彼女は下腹を押さえてドアにもたれかかり、呼吸もでき
離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい 第618話
彼は容赦なく、彼女を打ち砕けた。水谷苑は、されるがまま目を少し見開いた。冷たい窓ガラスに白い手をついて、窓の外のきらびやかなネオンを眺めていた。華やかで、眩しかった......それに比べて、自分は、なんと惨めなのだろう。自分の背後で、こんな酷いことをしているのは、本当に九条時也なの？あんなに優しかった九条時也が？はじめの頃は、指一つ触れるのもためらったのに、今はこんな場所で、自分をまるではしたない女みたいに扱っている。「時也......時也......」水谷苑は咳き込み、赤い血が透明なガラスに付着した。激しい痛みに耐えるために、彼女は何度も何度も彼の名前を呼んだ。しかし、呼んでいたのは、今の彼ではなく、彼女がかつて愛した彼だった。彼女を傷つけることなどない、優しい九条時也。初めて体を重ねた夜、彼女を一晩中優しく愛撫してくれた九条時也。あっなぜ、まだ終わらないの？これで何度目だろう、なぜ彼は終わらせてくれないの......自分が苦しんでいることを、彼は知っているはずなのに。痛みで意識が朦朧とする中、彼女は床に放り出された。支えを失い、柔らかいカーペットの上に倒れ込んだ。しかし、それで終わりではなかった。男はソファに座り、彼女に奉仕するように命じた。彼は服を着たまま、ベルトだけを外していたから、彼女に、それを直させようとしていた。水谷苑は、かすかに微笑んだ。高橋に言われた言葉を思い出した。「奥様、九条様の機嫌を損ねたくなかったら、お兄様のお話はしない方がいいですよ。お兄様の話が出ると、九条様は必ず奥様に八つ当たりしますから」今、彼女はそれを身をもって体験していた。しかし、どうでもいい。どうせ自分は癌で、もうすぐ死ぬのだ......死ぬ前に少しぐらい苦しんでも、構わない。九条時也に殺されれば、水谷家と九条家の因縁も終わる。これは、水谷苑にとって、人生で最も屈辱的な瞬間だった。かつては、兄に大切に育てられた彼女だったのに、今は、男の目の前で裸同然の姿でひざまずき、彼の体を丁寧に拭き、ファスナーを上げている......彼のベルトは硬くて、うまく扱えなかった。でも九条時也は焦らないようにと、彼女の手を取り、やり方を教えていた。彼女もそれに従うように、丁寧にやり方を覚えていた。
