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第403話

作者: 桜夏
「必要ない。重大な案件は株主総会で決議し、小さな案件は役員が直接決めればいい。どうしても承認者が見なければならないものは、ここに持ってこさせろ」

これで執事も返す言葉がない。蓮司を助け出すための、別の口実を考え始める。

しかし、彼が何かを思いつく前に、新井のお爺さんが再び口を開く。

「透子に電話をかけろ」

執事。「はい」

彼がスマホを取り出して番号をダイヤルしようとするその時、新井のお爺さんがまた言った。

「いや、やめておけ。わしにはそんな面目がない……」

彼は蓮司のために許しを乞うつもりも、彼女に示談書を書いてもらうつもりもない。ただ、代わりに謝罪したいのだ。

しかし……

今となっては、透子に電話することすら、合わせる顔がないと感じる。

もともと、透子には申し訳ないことをした。無理やり孫に嫁がせ、その後も何度も傷つけてしまった……

透子が今回、直接警察に通報し、警察署でも自分に連絡しなかった。彼女の意図は分かる。自分に口出ししてほしくないのだ。

蓮司の行いは、あまりにも度を越している。彼の肉体を抑えることはできても、その心を抑えることはできない。まさかインターネットを使ってストーカー行為に及ぶとは。

新井のお爺さんはため息をついて言う。「食事を下げてくれ。食欲がない」

執事は言う。「旦那様……」

「何も言うな。お前があの子を幼い頃から見てきたのは知っている。だが、わしもあいつの実の祖父だ。今回ばかりは、決して甘やかすわけにはいかん」

新井のお爺さんは手を挙げて制する。

「この十日間で、あいつに灸を据えてやる。出てきてまだ同じことを繰り返すなら、また放り込んでやるまでだ。

新井家の子孫はあいつ一人ではない。わしがあやつでなければならないと思っているのか?

博明の一家に連絡しろ。明日の晩、本邸で食事をすると」

その言葉を聞き、執事は何か言いたげだが、結局は口をつぐむ。

旦那様は本気で怒り心頭だ。

若旦那様、若旦那様、あなたは本当に……

なぜそこまで執着なさるのか。なぜ自ら墓穴を掘るようなことを……

十日後に出てこられた時、万が一、新井グループの勢力図が変わっていたら……

……

一方その頃。

透子は警察署を出る。すでに夜も更けているため、彼女はタクシーを拾って帰路につく。

彼女は道中、理恵に今日あったことを話す。す
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