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第46話
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離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた 第604話
「社長、どうします……」電話の向こうから、蓮司の代理人の声が聞こえてきた。蓮司は冷たく言った。「わかった。二分間待ってくれ」相手は、彼が交渉するのだと理解し、待つことに同意した。2グラムの濃縮特効薬で1億5千万ドルが手に入るのだ。これほどの大きな取引は滅多にない。病院の廊下の突き当たりで。蓮司は雅人の番号に直接電話をかけ、その場で問い詰めることにした。相手はすぐに出た。蓮司は怒りを抑え、歯ぎしりしながら言った。「橘、てめえだな？『極楽散』の特効薬を買い占めて、俺に手に入れさせない気か！よくも俺を悪辣だなんて言えたもんだな、てめえこそ人間の皮を被った畜生じゃねえか！俺に復讐したいなら好きにしろ、だが透子に手を出すんじゃねえ！透子は無関係だろ！今すぐ彼女を助けなければならないって分かっていて、わざわざ特効薬を買い占めるなんて、てめえに良心はないのか？！」ウェスキー・ホテルのプレジデンシャルスイート。電話に出た途端、いきなり罵詈雑言を浴びせられた雅人は、眉をひそめ、その顔は黒く沈んだ。もし彼のアシスタントがその場にいたら、上司が完全に殺意を抱いていると分かっただろう。――新井蓮司、本当にいい気になりやがって！新井のお爺さんの顔を立てて、何度も我慢してきたというのに。それが、何度も自分の頭の上で好き勝手やりやがって。本当に自分に免罪符でもあるとでも思っているのか？雅人は冷たく言い放った。「新井蓮司、大人として、自分の言葉には責任を持ってもらおうか」「はあ？責任だと？Rex……tachi、その名前は聞こえたんだぞ！てめえじゃないって言うのか？！」蓮司は、彼が認めないのを聞いて、すぐに証拠を突きつけた。「『極楽散』の特効薬を買わせなかったとでも言うつもりか？てめえ以外に、誰がこのタイミングで俺の邪魔をするんだ！」雅人は、こめかみの血管がぴくぴくと動き、怒りがこみ上げてくるのを感じた。蓮司は、彼の中ではすでに一方的に「死人」扱いだった。先日殴ったのは、まだ手加減が過ぎたようだ。いっそ、そのままあの世へ送ってやればよかった。「僕が特効薬を買ったのは事実だ。だが、お前に買わせないためじゃない。むしろ……」雅人は怒りをこらえて説明しようとしたが、最後のところで言葉を止めた。あのクズに説明する必要
離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた 第603話
男は続けた。「それに、今回の失敗はそもそも俺のせいじゃない。あんたがあの女にボディーガードがついてるなんて、事前に言わなかったからだ。もう一度チャンスをくれ。次は絶対にしくじらない。前回は連れ去ってから始末するつもりだったが、今度は白昼堂々、路上で仕留めてやる」その声は低く、陰湿だった。美月は黙り込んだ。確かに、今すぐ他のプロの殺し屋に連絡する当てもない。それに、本来はこのSIMカードはしばらく使わず、どこか別の場所に隠しておき、この騒ぎが収まるのを待つつもりだった。美月は冷たく言った。「あなたに払った手付金は返してもらわなくていいわ。任務失敗の口止め料だと思って。意味は分かるわよね？」男はそれを理解し、保証した。「成功しなければ、残金はいらない。その間、こっちから連絡もしない。万が一捕まっても、あんたのことは絶対に吐かない」美月の声は氷のようだった。「じゃあ、やりなさい。今度こそ私をがっかりさせないで。徹底的にやってちょうだい」そう言って、彼女は電話を切り、SIMカードを取り出した。しばらくはこのカードを使う必要はない。透子の死が確認できたら、残金を中間口座に振り込むだけだ。彼女が支払った手付金は1億6千万円。口止め料としては十分すぎる額だった。夜の闇が深まる頃、病院では。透子が薬を盛られてから、すでに二時間以上が経過していた。蓮司はずっとその場を離れずにいた。彼はすでに海外の組織と連絡を取り、高額で特効薬を購入する準備を整えていた。取引は、金と品物の同時交換だ。彼の部下が相手と交渉している間、蓮司はそれを傍聴していたが、相手が何度も何度も値段を吊り上げてくるのが聞こえてきた。蓮司は険しい表情で言った。「払え。たとえ1億ドルだろうとくれてやる」その声は、脅すように低かった。「だが、奴らに警告しろ。もし薬が偽物だったり、効果がなかったりしたら、新井グループの報復を覚悟しろ、と」彼の部下がその言葉をそのまま伝えようとした、まさにその時だった。蓮司は、電話の向こうの相手が別の電話に出たような気配を感じ取った。途切れ途切れの英語の中から、他にも特効薬を欲しがっている人物がいることを、彼はなんとなく聞き取った。しかも、相手の口調は尊敬の中に畏怖が混じり、その人物をひどく恐れている様子だった。そし
離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた 第602話
常識的に考えれば、妹から頼まれただけだろう。二人は友人なのだから。もちろん、自分も透子が大変だと聞けば手を貸すが、それでも。わざわざあんな聞き方をするなんて。 聡は唇を引き締めた。母の意図は理解できなかったが、深くは考えないことにした。その頃、ウェスキー・ホテルのプレジデンシャルスイートでは。美月はキャビネットの奥深く、手帳に挟んで隠していたSIMカードを取り出していた。彼女はバスルームへ入ると、内側からしっかりと鍵をかけた。彼女はその男の番号に電話をかけた。一度目は誰も出なかった。メッセージを送ろうとしたその時、相手から折り返しの電話がかかってきた。「スマホが水没して、新しいのに替えたところだ」男の、どこか焦ったような息遣いが聞こえてきた。「この役立たず！」美月は開口一番、罵声を浴びせた。「さっさと片付けろって言ったでしょう。この数日、何の成果も上げられなかったくせに、今日は失敗するどころか、捕まりかけたなんて！こんなに頭が悪いと分かっていたら、あなたなんか雇わなかったわ！大金を払って、この体たらくは何よ！」雇い主からのいきなりの罵倒に、男も追い詰められて言い返した。「だったら、あんただって、あの女にボディーガードがついているなんて、事前に言わなかったじゃないか！しかも、全員訓練された連中で、陰でしっかり守ってやがる。あいつらが出てこなきゃ、とっくに成功してたんだ！」その言葉に、美月は動きを止めた。男が失敗した原因が、透子にボディーガードがいたからだとは思いもしなかった。てっきり、通行人に見つかって通報されたのだとばかり思っていたのだ。「私も知らなかったわ」美月は悔しそうに歯を食いしばった。ボディーガードを差し向けたのが誰かなんて、考えるまでもない。蓮司の他に、いったい誰がいるっていうの？まさか、あの男がこっそり人を遣って透子を守っていたなんて。一体いつから？自分の雇った男が何日も張り込んでいたのに気づかなかったとは、よほど腕の立つ連中らしい。美月は続けた。「あなたのヘマで警察に目をつけられたのよ。さっさとどこかに隠れなさい。あなたが捕まったら、こっちまで足がつくわ」「マスクもサングラスもしていた。防犯カメラには映っていない」「まだチャンスがあると思ってるの？一度失敗したの
離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた 第601話
「『演技性パーソナリティ障害』という言葉をご存知ですか？」それは、警察が彼に告げた言葉だった。雅人は深呼吸をして目を閉じた。疑いたくもないし、信じたくもなかった。脳裏に、普段の妹と自分のやり取りや、両親とビデオ通話をしているときの様子が浮かんだ。彼女の一挙手一投足、彼女の笑顔が……雅人は、どうしても妹と「陰湿で悪辣」という言葉を結びつけることができなかった。電話の向こうからアシスタントの声が聞こえてきた。「でも、思うんですけど、女同士の争いって、結局はお互いに嫉妬したり、馬鹿にしたりするんじゃないですか。男に裏切られたなら、その男に直接仕返しすればいいのに。どうして女同士でいがみ合うんでしょうね」雅人はその言葉に我に返り、唇を引き締めて黙り込んだ。確かに、もし自分だったら、まず新井蓮司というクズを去勢してやるだろう。妻がいながら、二度も他の女性に手を出し、自ら不倫に走ったのだから。広々とした道路を進むベントレーの車内。聡が問いかけた。「朝比奈は、どうして直接新井を拉致しなかったんだろう。透子を拉致したところで、新井が彼女と結婚するとでも思ったのか？」理恵は答えた。「さあね。狂人の思考回路なんて、まともな人間には理解できないでしょ」彼女は心の中で思った。美月は弱い者いじめで、強い者には逆らえないだけなんだろう。本気で新井蓮司を拉致でもしたら、新井家が黙っているはずがない。きっと彼女をただでは済まさないだろう。しかし、透子は違う。彼女には大した背景も後ろ盾もない。だからこそ、美月は容赦なく手を下せたのだ。だが、美月は忘れているのだろう。透子にだって、頼れる人がいないわけではない。自分たちのような友人だって、誰か一人でも彼女を叩きのめせるのだ。あの新井蓮司というクソ男でさえ、少なくとも最後まで責任を追及する手助けはするはずだ。そうこうしているうちに家に着き、兄妹は家の中に入った。聡は二階へ上がり、理恵は柚木の母と、透子が被害に遭ったことについて話し始めた。それを聞いた柚木の母は、ひどく心配した様子で尋ねた。「そのお友達は、もう危険な状態は脱したの？」理恵は答えた。「今は生命維持装置でなんとか持ちこたえているだけ。まだ特効薬が見つかっていないの」「あの薬は国内では禁止されているから、
離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた 第600話
「佐藤さん、連絡先を交換しましょう。透子に何かあったら、すぐにメッセージしてね」あの最低な蓮司が知らせてくれるなんて期待できない。大輔の方がずっと頼りになるし、話も通じるし、自分に敬意も示してくれる。大輔はスマホを取り出し、丁寧に連絡先を交換した。「じゃあ、行くわね。メッセージ、忘れないでよ」理恵はエレベーターに乗り込みながら、念を押すように言った。大輔はお辞儀をして見送りながら言った。「はい、必ず送ります」エレベーターのドアが閉まり、兄妹は家路についた。車内、理恵はずっと、誰が親友に危害を加えたのかを考えていた。警察の取り調べでは、美月の犯行ではないとされているからだ。「本当に二人目なんて思いつかないわ。透子って、普段誰かの恨みを買うような子じゃないし。友達だって数えるほどしかいないし、付き合いもすごく狭いのに、誰が彼女を狙うの？まさか、旭日テクノロジーの同僚？それも考えにくいわ……」……後部座席の隣で。聡は妹の独り言を聞きながら、唇を軽く引き締め、黙って聞いていた。病室で見た光景が、頭から離れない。同時に、普段の透子との会話を思い出していた。礼儀正しく、控えめな時もあれば、追い詰められて皮肉たっぷりに反論する時もある。どちらにしても、とても生き生きとした人間だった。それが今、病院のベッドに横たわっている。彼女が、少し触れただけで壊れてしまいそうなほど、儚い存在だったことに、改めて気づかされたようだった。「ねえ、お兄ちゃん、聞いてる？誰が透子を襲ったと思う？」理恵は隣にいる兄に顔を向けた。相手は何か考え込んでいて、何をそんなに真剣に考えているのか分からなかった。聡は答えた。「分からない。俺は、お前ほど透子の人間関係を詳しく知らない。唯一、最近起きたことといえば、美月の件だけだ。極楽散のようなものは海外で出回っているが、東南アジアから密輸される可能性も十分ある。朝比奈本人にそれを手に入れる手段がないとしても、彼女が雇った人間が、その種の薬を持っている可能性は否定できない」その言葉を聞き、理恵は眉をひそめて尋ねた。「彼女にそんなお金、どこにあるの？留置所から出てきたばかりでしょ？前のモデルの給料で、そんな大金があるわけないじゃない」聡も、不思議だと感じていた。以前、彼女
離婚まであと30日、なのに彼が情緒バグってきた 第599話
以前、透子が聡に料理を作ったことや、聡がわざとらしく彼女に買ってもらったカフスを見せびらかしたことなどは、まだ「言い訳」できた。しかし、蓮司は、透子の顔に浮かんだあの赤みと、恋する乙女のような恥じらいと戸惑いを、この目で見てしまった……ーーまさか、透子は一方的に聡に好意を持ったのか？その考えが頭に浮かんだ瞬間、蓮司の体はこわばった。この衝撃は、二人が付き合っていると知るのと何ら変わらない。彼は、窓際に立つ男の横顔を見つめた。身長、体格、見た目、家柄、そして個人の実力……蓮司は歯を食いしばり、聡が非常に手強いライバルであり、自分とほとんど差がないことを認めざるを得なかった。駿が相手なら百パーセント勝てるとしても、聡が相手では……今、蓮司は本物の危機感を抱いていた。聡が永遠に透子を愛さない限りは。しかし、二人が会った回数や接し方を思い返し、透子の清らかで美しい姿を思う。同時に、細くて小柄な体は、男の守りたい気持ちを最も刺激する。だから、彼女を嫌いになる人間などほとんどいないだろう。それに加えて、聡と透子は頻繁に連絡を取り合い、透子が事故に遭えば彼は人一倍心配し、あれこれと尋ね、特効薬探しまで手伝い、当日には病院まで駆けつけた。……以上のことから、彼はすでにこう確信していたーー聡は透子に絶対好意を抱いている。たとえ恋人未満でも、ただの友人ではない、と。同じ時間、窓辺にて。集中治療室は面会禁止で、聡は外から見ることしかできない。病床に横たわる痩せた女性は、呼吸マスクをつけ、まるで息も絶え絶えで、孤独に見えた。横顔から、青白い肌が見え、首には青い血管さえ浮かんでいる。ーーまるで、壊れた人形のようにもろい。聡はただ、瞬きもせず、無表情で彼女を見つめていた。何を考えているのか、まるで我を忘れているかのようだった。その時、そばで足音がし、同時に、不機嫌な声で追い払う言葉が聞こえた。「いつまで見てるつもりだ？用がないなら帰れ。ここで邪魔するな」聡が振り返ると、そこには顔を曇らせ、あからさまな敵意を向ける蓮司がいた。聡は彼を子供っぽいと感じた。まあ、自分より五歳も年下なのだから、大人になっていないのも無理はない。彼は改めて相手を見て、可笑しくなった。今の蓮司は、羽を広げた見苦しいクジャ
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