LOGIN「和臣の言うことは、確かに正しいと思う。だけど宮本さんは俺たちがここに来て、楽しそうにしているのを間近で見ていたから、急にサプライズしたくなったのかもしれないぞ」「キョウスケさん……。ありがとうございます、そうなんです」「ほらな!」 榊のナイスアシストに、宮本は瞳をキラキラさせながら声高に話しかける。「俺、また4人で出かけることができて、すっごく嬉しかったんです。しかもみんなでこうやって、走ることの喜びを分かち合えたのが、さらに嬉しさを引き出したというか……」 走ることになると嬉しさのあまりに口数が増える宮本を、橋本は微妙な面持ちで眺める。いつもなら自分だけが見ることのできる姿だけに、複雑な心境だった。「和臣さん、あの…この間一緒に出かけたときの罪滅ぼしに、俺に払わせてもらえませんか?」「罪滅ぼしなんて、そんなこと全然気にしてないですよ。ねぇ恭ちゃん!」「ああ。宮本さんにそんなふうに思わせているなんて、俺たちのほうが心苦しくなってしまう」「恭介、和臣くん、悪いが雅輝の気持ちを立ててやってくれないか? コイツ、言い出したらまったくきかない上に、話をややこしくする男だからさ!」 宮本の肩を叩きながら、いきなり話に割って入った橋本が、ふたりを納得させる話を展開させていく。(元はと言えば、俺が恭介に恋心を抱いたことが原因なんだから、この場合俺が払うのが筋なんだけど。代わりに雅輝が進んでしてくれたことに、感謝しないといけないな)「陽さん……」「いつもワンテンポ遅れるおまえが、こうして積極的に行動したこと、すごく嬉しく思う。ということで、俺はありがたく乗っかることにする」「じゃあ僕らも――」「そうだな、宮本さんありがとうございます!」 榊と和臣は宮本に向かって、丁寧に頭を下げる。「俺に頭を下げてる場合じゃないですよ。これから4人でレースをするんですから、闘志を燃やしてもらわなきゃ!」 偉そうに胸をそらす宮本に、橋本は苦笑いを浮かべながら指をさす。「コイツ、俺たちに勝つ気が満々みたいだぞ。雅輝に言われたとおりに、闘志を燃やしながら作戦を考えないとな」 4人でこれからおこなわれるレースを想像し、子どものようにはしゃぎながら話をしているうちに、サーキット場の準備が整ったことを、佐々木から声をかけられて知る。「横一列に並ぶよりも、実力差で縦に
☆☆☆ コースを下見するように、慎重に走った一周目よりも、少しだけスピードをあげて二週目を走行したお陰様で、ほどよくレースの雰囲気を味わえた4人は、ゴーカートを降りてから笑顔でヘルメットを外した。「意外と楽しかったな」 橋本が榊に話しかけると、興奮を抑えられないように弾んだ声をあげる。「ほんの少しだけアクセルを多く踏んだだけなのに、すごく早く走った気分になりました。二周目がめちゃくちゃ早く終わった感じです!」「恭ちゃん、上手に運転していたね。運動神経がいいせいかな、僕よりもカーブの曲がり方が良かったと思うよ」 3人で感想を言い合っているところに、佐々木が宮本と並んで傍にやって来た。完走後に、いろんなことで一番反応しそうな宮本が話に加わらなかったことを不審に思った橋本は、すぐさま話しかける。「雅輝、なにやってたんだ。おまえらしくなく、ずっとトロトロ走って……」「えへへ。実はテントで説明を聞いてるときに、佐々木さんからサーキットでレースができる話を聞いていたので、今こっそり申し込んできたんです!」「いつ間に……」「陽さんたちが盛り上がっていたときですけど。蚊帳の外で寂しかったっす!」 宮本はちょっとだけむくれながら、橋本に体当たりを食らわせた。寂しさを表すような体当たりは、橋本の躰を大きく揺らすものだった。「橋本さん、榊さん、コースにいるゴーカートがはけてからレースを開催しますので、もう少しだけお待ちくださいね」「げっ! 俺たちのために、サーキット場を貸し切りにするのかよ!」「宮本さんがポケットマネーを使ってくれたお蔭です」「佐々木さんっ!」 しれっと内情を暴露した佐々木に、宮本が止めに入ったがすでに遅し。和臣が宮本の傍に慌てて駆け寄り、ぐいぐい袖を引っ張った。「宮本さんひとりで決めるなんて、あんまりですよ! みんなで出かけているんだから、ちゃんと僕らに相談しなきゃいけないことです」 和臣の持つ大きな瞳でキツく睨まれた宮本はピキンと固まり、視線だけで橋本に助けを求める。(おーおー、可愛らしい和臣くんに怒鳴られて、雅輝のヤツすっげぇ困ってる。たまには俺の苦労を思い知りやがれ!) 宮本からのヘルプをやり過ごすべく、橋本が明後日のほうを向くと、榊が和臣を宥めるように頭を撫でた。
☆☆☆ 安全のために、きちんとヘルメットを装着後に、ゴーカートにそれぞれ乗り込む。前を先導する佐々木の後ろには榊を筆頭に、和臣、橋本、宮本の順番で縦に並んで走行することになった。 出発する前に「ゆっくり走りますので、焦らずついてきてくださいね」と言われていたこともあり、ついていくのに支障のないスピードで佐々木が走行するお蔭で、榊が安心して運転していることを、コーナーでのハンドリングやブレーキ操作で橋本は感じとった。(和臣くんも当然問題なしだが、一番の問題児はいったい、どんな運転になっているやら――) 大きなコーナーのあとはちょっとした直線コースだったので、橋本は素早く振り返り、宮本の様子をチェックしてみる。「……アイツ、なにやってんだ?」 思わず呟いてしまうような運転を、宮本が背後でしていた。橋本の後ろをピッタリついていると思っていたのに、実際はかなり後方を走行しているだけじゃなく、微妙な蛇行運転を繰り出している状態。 遅い理由はそのせいなのが丸わかりだったが、どうしてわざわざ小刻みにハンドルを切っているのか、そこのところの理由がさっぱりわからなかった。(もしや、タイヤのグリップ力を調べているのか。それともタイヤと路面の相性を調べているのかわからないが、雅輝がクレイジーな走りをしていないだけ、まだマシだと言える……) なにも見なかったふうを装うべく、橋本はすぐに前を向き、和臣の後ろを模範的に走行する。距離をあけて背後を走っている走り屋の恋人に、俺の真似をしろと言わんばかりの丁寧な運転を見せつけたのだった。
「ありがとうございます。恭ちゃんでも、最後まで走ることができそうな距離でよかったね!」「和臣に俺の心配をされるとは、思いもしなかった……」「だって恭ちゃんはペーパードライバーなんだから、心配して当然でしょ」「榊さん、大丈夫ですよ。普段乗らないからこそスピードを出しちゃいけないと体が自然とセーブするので、危ない運転にはならないと思います」「そうなんですか。だったら普段運転する僕らは、気をつけなければいけないですね」 人当たりのいい佐々木の対応に、和臣は緊張せずに相づちを打ちながら嬉しげに笑った。「雅輝の場合はどうなるんだろうな。普段の乗り方を考えると、コーナーを突き破ってしまうような気がする」「陽さん酷い! そんな危ない運転、俺は絶対にしませんからね」「宮本さんのご職業はなんですか? 普段の乗り方って……」 疑問に思ったのか、橋本と宮本の会話に割って入った佐々木。きょとんとした表情で、目の前にいる面々を見やる。真相を知っている榊と和臣は、互いに顔を見合いながら苦笑いを浮かべていた。「えっと俺は、トラック運転手なんです……。大きい車を運転してるからって、荒っぽいことは危ないからしていないというのに」「ちなみに俺はハイヤー運転手で、隣のコイツはペーパードライバーだから、俺が代わりに運転手してる。和臣くんは会社の営業で、時々乗るんだったよな?」 しどろもどろに答える宮本を他所に、橋本は榊たちの分まで丁寧に説明をして、佐々木の返答を待った。「あ~ドライバー同士だから運転のことについて、お互いいいネタになりそうですね」「そうなんです! 陽さんは本当に容赦なく、いろいろ突っ込んでくるから」「容赦なくコーナーに突っ込んでいるのは、どこのどいつだよ?」 普段見ることのできるふたりの様子に、榊は笑いを堪えながら話しかけた。「はいはい、そこまで! おふたりが仲良くしているせいで、佐々木さんが困っているでしょう。そろそろ本題に入らせてあげたらどうです?」「恭介悪い。雅輝は無視したままでいいから、佐々木さんどうぞ本題に移ってください」 食ってかかりそうになっている、宮本の視線を完全無視した橋本はきちんと前を向き、営業スマイル全開で佐々木と対峙する。そのことでしょぼくれた宮本と、崩れることのない微笑みを頬に湛える橋本、気を遣いまくる榊と和臣という微妙なカ
堂々と恋人を放置して、佐々木と盛り上がることに不安を覚えた榊が話しかけると、橋本は肩を竦めながら呆れたように答えた。すると和臣が羨ましそうに宮本の様子を眺めつつ、ぽつりと零す。「僕ははじめての人に対して、どうしても身構えちゃうので、宮本さんがすっごく羨ましいです」「和臣、俺が宮本さんみたいに、ああやってほかの人と盛り上がっていたら、おまえは入ることができないだろう?」「そんなこと、僕には絶対に無理だよ」「つまりだ。蚊帳の外に居続けられる橋本さんのメンタル、すごいと思わないか?」「あ……、確かにそうかも!」 榊のひとことにより、宮本から自分に矛先が移ったことで橋本はドキマギしながら、羨望のまなざしを注ぐふたりを見やる。「恭介、変なことを和臣くんに吹き込むなよ。俺はそんなに、ご立派な人間じゃねぇし……」「だったら密かに、ヤキモチ妬いていたんですかねぇ」「恭介っ、てめぇ! あとでオデコ百叩きの刑だからな!」「陽さん?」 忍び笑いする榊に橋本が怒鳴り声をあげたら、宮本がやっとそれに気づき声をかけた。「なんでもねぇよ。おまえは気にせずに話を続ければいいだろ」 思いっきり顔を背ける橋本の頬に宮本は手をやり、容赦なく抓った。「いででっ! なにするんだ?」「よそ見をしてほしくなかったんです。話を聞いてください」「すみません。僕が宮本さんとゴーカートの話で盛り上がってしまって……」 済まなそうに謝った佐々木に、榊が苦笑いを浮かべながら口を開く。「いえいえ。宮本さんはそういう話が大好きだっただけですし、おふたりの邪魔になるかと思って、あえて車の話題に俺らはついていかなかっただけですので、そこのところはお気遣いなく」「それでは失礼して、説明を続けさせていただきます。今回は体験走行ということで、ひとり一台ゴーカートに乗っていただき、僕のあとについて2周走ることになります」 流暢に説明を終えた佐々木に和臣はきちんと向かい合い、緊張を隠すように両手に拳を作りながら話しかける。「コースの長さは、どれくらいあるんですか?」 人見知りする話を事前に聞いていたので、積極的に質問した和臣を見て、橋本と榊は意味深に目配せしてから微笑みあった。ふたりのその様子を、宮本は微妙な面持ちでじっと眺める。「一周400mです。二周するので800m走行することになります
*** 町はずれに作られたゴーカートのサーキット場は、周りを森林が取り囲んでいるお蔭で、どんなにエンジン音が響いても気にならないところにあった。プレオープンということもあり、そこそこのお客様が来場していて、それなりに賑わっている様子に、橋本を含めた4人も自然と笑顔になる。「陽さん見てください。大人と子ども別々に、サーキット場があるみたいですよ」「助手席で事前にパンフを見ていたくせに、どうして気づかなかったのかわからないな」「えへへ、サーキットのコーナーの難解さに見惚れてしまって、それ以外の情報を全然読んでなかったっす☆」「クレイジーな走り屋の雅輝らしいと言えばいいのか……」「橋本さんと宮本さん、和臣が呼んでます。ちょうど受付が終わったみたいですよ」 大きなテントで受付を終えた和臣の傍で、榊が手を振りながら大きな声をあげてふたりを呼び寄せる。弾んだ足取りで合流すると、受付の奥から係員が出てきて説明をはじめた。「いらっしゃいませ! 今日はよろしくお願いします。どうぞこちらに」 誘導する係員に連れられ、小さなテントにぞろぞろ入った。中にはパイプ椅子と机がそれぞれ4つずつ置かれていて、先客でふたつ埋まっていた。「どうぞおかけください。えっと榊さんおふたりに、橋本さんと宮本さんですね。係員の佐々木と申します」 1番左の椅子に宮本が颯爽と座り、その隣を橋本が陣取ると、榊、和臣の順で席が自然と決まった。「ここで使用するカートは、大人用と子供用で分かれておりまして、大人用には200ccエンジンを搭載しています」「へぇ。結構馬力が出るんじゃないですか?」 身を乗り出すように嬉々として宮本が訊ねると、佐々木は瞳を輝かせながら声を弾ませて答える。「そうなんですよ! ゴーカートは路面と近いので、自動車とはまた違った迫力がありますし、体感速度は120キロくらいあるんです」「120キロか、ワクワクします! それだけスピードが出るなら、コーナリングも難しくなっちゃいますね」(雅輝のヤツめ、120キロくらいじゃワクワクしないクセに、よくもまぁそんなに楽しげに話せるもんだな)「恭ちゃん、120キロも体感速度があるんだって。大丈夫?」「う〜ん。あまり感じないように、アクセルを思いっきり踏まなきゃいいだけの話だろ……」 上がりまくる宮本のテンションを他所に、榊と
※これは橋本が江藤と宮本弟に逢った日の夜におこなった、出張先にいる雅輝と熱いメッセージを交わした内容です 『雅輝、ただいま。今、大丈夫か?』「陽さんおかえりなさい。あとは寝るだけなんで大丈夫です。今日もお仕事お疲れさまでした」『お疲れ!さっきシャワー浴びて、ノンアルコールビールを飲んでるとこ。お前こそ、長距離の運転疲れていないか?』「そこまで長距離じゃないから平気。俺はオレンジジュースで乾杯」『カンパイ!あのさ今日の午前中、ハイヤーを走らせていたら、江藤ちんと雅輝の弟に偶然会った』「マジで!よく見つけられたね」『スーツ着てるし、平日の午前中なんて絶対に仕事中だろ。それなのにデー
※これは一緒に暮らして、初めて迎えたクリスマスのお話になります。「うへぇ、うんざりするくらいに疲れた。だけど家に帰ったら大好きな陽さんがいるんだって考えるだけで、そんな疲れが吹き飛んじゃうんだから不思議」 デコトラのハンドルを握りしめながら、自然とクリスマスソングを歌ってしまう宮本。その歌が上手なのか下手なのかは、皆様の想像におまかせします。 マンション近くの駐車場にトラックを停めて、助手席に置いてあった荷物を手に、急ぎ足で帰宅する。 甘いものが苦手な橋本を考えて、イチゴのショートケーキ1個とクリスマスプレゼントを持ってる宮本は、まんまサンタの気分だった。「ただいま~! ってあれ?
※ここからお話を現代に戻します(^_-)-☆ 隣から聞こえてくる宮本の寝息を橋本は愛おしく思いながら、閉じていた瞳をゆっくり開き、壁にかかっている時計に視線を飛ばした。「ぐっすり寝たと思ったのに、まだ6時前じゃねぇか。睡眠時間4時間で目覚めたくなかった……」 シルク素材でできたパジャマの袖を意味なくにぎにぎしながら、小さな声で呟いた。 宮本とお揃いのパジャマは色違いで、つい最近購入したばかりのものだった。ちなみに橋本はグレーで、宮本は濃紺。今まで揃いのものを買ったことがなかったのもあり、最初の内は身に着けるたびに、ふたりで照れてしまった。 ちなみにこのパジャマを購入した経緯は、朝
「や…め…っんん、ここじゃだっ、駄目だ。狭ぃ」「きっと大丈夫ですよ。上半身は俺が押さえ込めばいいだけですし、陽さんの片足を背もたれに引っかければ、狭さも上手いことカバーできますって」 笑いながら告げると、それまで大人しかった橋本が腕の中で暴れはじめる。「やらしすぎる。そんな恰好させられる、俺の身にもなってみろ。恥ずかしいに決まってるだろ。絶対に嫌だ!」 視線を鋭くしているのに頬を少しだけ染めるという、表現しがたい可愛い顔で抵抗されるだけで、宮本の闘志に火がついた。力任せに橋本の躰をソファの上に押し倒して、素早く跨る。「ちょっ、いつも動きが緩慢なのに、こういうときに限ってお前は!」