Masuk「あのー。もしかして皆さん、エアヴァクセンの町長、知ってる? ミアスト・スタット町長」
まだもがもがやっているアナイナの口を塞いだまま、ぼくは聞いた。
「知ってるも何も」
盗賊の一人が言う。
「俺らを追放したのはあの野郎だからな」
「え。もしかして……皆さん、元、エアヴァクセンの住人だったって、こと?」
一番若そうな盗賊が頷いた。
「俺はな、Bランクの町から栄転でエアヴァクセンに来た。スキルは水を操る「
そりゃすごい。水を自在に操る能力をレベル3000で持っていたら、十二分に町のために働けるだろう。
「だけど、移転者歓迎の式典、俺は腹を壊して休んだんだ。緊張からくる心因性のもので、一日休めばよくなるって診断だった。ところが、次の日俺を待っていたのは、追放処分だった」
「え……?」
「ミアストの野郎曰く、エアヴァクセンの住人に、
「……マジか」
「マジだ」
若そうな盗賊が大きく頷く。いや、若そうじゃなくて若い。栄転してすぐ追い出されて三年なら、十八かそこらかってことになる。
「オレもそう変わらねぇ。Aランクの町で生まれ、空中に光で絵を描く「
「私は範囲内にいる人間に決まりを守らせ、守らない場合は罰を与える「法律」。上限は4500。町長に「SSランクの住人に相応しい行動をとるように」と言う決まりを町に、と言われたが、そもそもSSランクに相応しい行動がどんなものか分からない、具体的に決まりを作ってくれと言ったら逆切れされた」
「儂は土地を肥やす「豊作」。上限は5000。全部の畑にスキルを使えと言われて逃げ出した。エアヴァクセンの畑全部にスキル使えというのは無理じゃろ」
「ボクは動物を食べられるようにする「
五人が五人とも、元エアヴァクセンの住人だったとは。しかも、ぼくよりはるかに役に立つスキルを持って……。
「問題がなければ、エアヴァクセンで平和に生きてけたんだ……」
「まあ、もうあの町に住もうっていう考えはないな」
「エアヴァクセンが理想にあふれ、よい町になろうと皆が努力していたのも今は昔、もう
「じゃあ、わざわざSSランクの町の傍で盗賊してるのは……」
「嫌がらせだよ、単純に」
スキル「水操」を持っていた盗賊、ヴァダーさんが言った。
「俺たちを追い出したことを後悔させてやる、ってな。それが俺たち「反エアヴァクセン盗賊団」だ」
「……聞いたこと、ない」
五人の盗賊団は苦笑いをした。
「仕方がないさ、儂が三十年前に作って、団員を入れ替えながら嫌がらせを続けてはきたものの、ミアストはともかく普通の住人は警備兵に守られているから、そういう盗賊団があるということすら知らん。一時は団員が十五人いたこともあったが、派手にやらかしすぎて徹底的に潰されて、囚われたり別の地方に逃げ出したりした。今ここに儂を入れて五人いるだけで奇跡だ」
団長のヒロントさんが渋い顔をして言った。
思えば、寝物語に聞く「盗賊」は、卑怯で薄汚くて臭くって恐ろしい、そういう存在だった。
だから、反エアヴァクセンを真面目に掲げる盗賊団がいるとも思わなかった。
「……月頭にここに顔を出すのは、実際には移転者への警告だ。相当上手く立ち回らないと町から追い出され帰る場所を失う、とな。ほとんどの移転者は栄転組で、そんな儂らの警告など聞かずに飛び込んで行ってしまうが……」
「後はあんたみたいな追放者のスカウト。……正直、エアヴァクセンの移転は無茶苦茶と言っていい。
「空画」と言うスキルを持つシエルさんも苦い顔だ。
「町を、造ればいいじゃない」
「アナイナ?!」
突然の一言に、盗賊団の全員が目を丸くした。
話される事実に呆然として思わずアナイナの口を塞いでいた手を放してしまった、その途端にアナイナが続ける。
「町がないって言うなら、町を造ればいいじゃない。みんなが平和に暮らせる、エアヴァクセン以上の街を」
アパルさんと一緒に光の輪に入った瞬間、なんていうか、浮遊感? があって、次の瞬間には森の拓けた場所にいた。 唖然としている、アパルさんを更に真面目にしたような人。「久しぶりだな、サージュ」 アパルさんが軽く手をあげて挨拶する。「アパル……本当にアパルなのか?」「ああ」「あの大きな浮遊物体は何なんだ? 君、あれに乗ってきたのか?」「ああ。グランディール。私たちの町だ」「町?」 不審そうにアパルさんを見て、そしてこっちに視線が移る。それで思い出したように、アパルさんはぼくの腰を押して自分の前に出した。「彼が町長。クレー・マークンだ」「随分と若い……いや幼いというか……」 そりゃ十五になったばかりですから。「町長、彼はサージュ・ビズダム。エアヴァクセンを抜けて、森を拓いて生きている放浪者……私の幼馴染で、師匠だ」 不審そうにぼくを見る目。町長と言うのが納得できないんだろうな。「盗賊団を捨てたのか?」「いや、全員で盗賊をやめた。今はグランディールで待っている」「上でか?」 サージュさん、顔でも態度でも、ぼくが疑わしいと思っている。そりゃあなあ。盗賊団は一番若くてもヴァダーさん十八歳。しかも団長のヒロントさんを差し置いてぼくみたいなのを町長に据えた理由が分からない、と言ったところかな。「町長はあなたの奥さんの同類だ。規模はもっとすごいが」「ファーレの……?」 少し考えて、ピンと来たらしく、目が丸くなった。「低上限レベル?!」「ああ。しかもレベル1でMaxだ」 ひゅっとサージュさんは息を飲みこんだ。「本当か」「本当だ。それで成人式当日に町を放り出された」「町長め」 サージュさんが舌打ちする。「知識の使い方を未だに間違っているのか」「間違っているというか、都合のいいように解釈しているのだな。上限レベルの真の意味も知らない」 アパルさんが露骨に嫌そうに顔を歪める。「知っていればそこの町長君を手放すこともなかったろうな」「偉そうなくせに早とちりで勘違い。所詮俗物。人の上に立つ器ではないさ」 何か勝手に進む会話に、今度はぼくが疑問顔だ。「……ああ失礼。置いてけぼりにしてしまったようだ。改めて自己紹介させてもらう。俺はサージュ。スキルは「知識」で、レベルは1500だ」「ク
「これで、町長はお兄ちゃん。名前もグランディールに決まった」 アナイナは満足そうに言って、みんなを見回した。「これから、どうする?」「住民を集めるんじゃないの?」「いや、必要なものがある」「えー?」 自分の考えを反対されるのに慣れていないアナイナが。割って入って来たアパルさんに口を尖らせる。「何よ」「町の売りだよ」「空飛ぶ町ってのじゃダメなの?」「そうじゃない。ただ空を飛ぶだけじゃ、町の売りにはならないんだ」「なんでー?」「だって、不便なところもあるだろう? 今のところ、下に降りるにはグランディールを下ろしてやらないといけないし、上り下りする時にいちいち動かさなければいけない」「あ、そっか」 納得するしかない言葉を言われて、うん、とアナイナが頷く。「その不便さを背負ってでもこの町に引っ越してきたいという、こう、背中を押す何かがなければ、人は来ない」「じゃあ、みんなが来たいと思う素敵な何かを考えなきゃならないの?」「そう」 さすがのアナイナもこの難問にいつもの適当な答えを出せず、悩んでしまう。「売りはさておいて、人を呼ぶとして足りないものは?」 ヴァダーさんの言葉に、ヒロント長老苦笑い。「足りないものばかりだねえ」「食い物で足りないのは?」「肉。それと、種」 ヴァダーさんの言葉にマンジェさんが即答する。「これまでは森の中だったから獣は狩り放題だったけど、今は違う。鳥を狩る道具もない。あと、畑があって、だん、もとい、長老の「豊作」があっても、植える種がなきゃ穀物や野菜は育たない」「肉や種は買い入れるしかない、そして買うだけの金がない、と」「そういうことだ。ボクの食獣もまず獣がなければ使えない」「獣は「まちづくり」の中に入らないの?」「町民が自動で増えたりしてないから入らないんだろう」 アナイナの単純な疑問とアパルさんの明快な答え。「町民を招き入れる広さはどうなるんだい?」「それは「まちづくり」の中に入るだろう。最初に我々七人が住める町を町長が祈って出てきたのがこれだ、一人入れてみないと分からないが、恐らくは広がるかと」 シエルさんの疑問にこれまたアパルさんが切り返す。「あと、単純に人手が足りない」 これまたマンジェさん。「七人暮らせるだけの畑があったとしても、畑作に関わる人間が少なければ人は養えな
門まで行った、その光景。 塀で囲まれた部分と、門のすぐ外。 さっくりと切り取られたようになって、その先に地面がない。(まさか?!) その、まさかだった。 恐る恐る切り取られた先を見下ろすと、下には緑のもこもこ。森だ。 つまり……浮いている!「うっそ、本当に……」 盗賊団の皆さんも、ぼくと同じ思いだったらしい。「本当に空を飛ぶとは……」「嘘だろおい……」「なんで……」 呆然とした声が空に流れていく。 真下の山肌に洞窟が見えることから、今はこの町は真上に浮いているようだ。 それだけでとんでもない話だ。 しかも、それがぼく一人のスキルで。 レベル1、Maxの力で。SSランクの町に相応しくないと追い出された力で。 町長に見せてやりたいと思ってたら、風景が流れ出した。 この方向は……。「わ、ストップ、ストップ!」 明らかにエアヴァクセンへ向かい出したので、慌てて声に出して止める。 風景が流れなくなったのを確認して、ぼくは胸をなでおろす。「よかった~……焦った~……」「クレーくんの思った通りに移動することも出来るんだ……」「すごいな。世界中を回ることだって可能だ」「えー、なんで? なんでやめるの?」 アナイナが不満げに声をあげた。「町長に見せびらかすチャンスなのに」「今行ったら空の飛べる人たちに乗り込まれて町を奪われて終わりだよ」 アパルさんもうんうんと頷く。「捨てて逃げて、もっといい町を造ればいいじゃない」「クレー君が造って動かせると知れば、町長がクレー君を確保に動く。それこそ神殿の御神体のように扱われ、奴以外の誰にも会えないよう閉じ込められて町を操ることを強制されるだろう。場合によっては人を操るスキルの持ち主で……」「分かった。うん。お兄ちゃんをエアヴァクセンに行かせちゃいけない」 アパルさんの説明でやっとアナイナが納得してくれた。 アナイナが納得するなんて、さすがはアパルさん、勉強好き。説得が上手い。「あのさ」 ぼくは恐る恐る声をあげた。「一つ、いい?」「勿論」「本当に、町にしない?」 アナイナ以外全員年上、町から追い出されて苦労した人たちを前にこれを言うのは度胸が要った。でもぼくは言った。「この町はランク外。だから、紹介状もランク確認もいらない
ほっとしたぼくの耳に届いてきたのは、雄叫び。 なんだ、何があった? 何かあった? 服を着替える暇も惜しく飛び出すと、町はそのままで、並んだ六軒の家の一軒で、ヴァダーさんが雄叫んでいた。「ヴァダーさん?!」「家が……家が消えていない! 町も消えていない!」 ……そうだね、ヴァダーさん、ぼく以上に心配していたからね。目が覚めたら夢だとか消えてたとか。「さて、これからどうしよう」 変な場所に町を造っちゃったなあ……。 森の奥深く、野獣や魔獣が平気で出る場所。エアヴァクセンに気付かれない土地。他の町との交流しようがない僻地。 確かに畑があって獣を捕らえて捌く場所があって水も豊かな町になっているけど、見た目だけ。住人七人は正直町とは言えない。村ですらない。寄合だ。「う~ん」「どうしたの?」「いや、色々と」 この返事はアナイナのお気に召さなかったらしい。グイっと耳を引っ張られる。「痛い」「お兄ちゃん、わたしに言えないこと考えてたの?」「いや、そうじゃなくて」 言っても仕方のないことを考えてたんだけど。 アナイナは納得せず更に耳を引っ張る。身長差があるから結構痛い。「アナイナ、痛い、痛い」「じゃあ言ってよ。わたしに内緒で何悩んでるの」「言っても仕方ないから……」「言ってみなきゃわからないでしょ?」 家の前でわーわーやっていると、ヴァダーさんの雄叫びで起き出した人たちも集まってきた。「どうしたんだね?」「ヒロント団長」「お兄ちゃんが考え事があるのになんでわたしを頼ってくれないのかって言ってたの」「頼れないんだよ……」「この町に、何か問題でも?」 久しぶりにベッドで寝たというマンジェさんが不機嫌そうに言う。「いや……場所が、良くないんじゃないかと」「場所?」「他の町とも離れてるし、人がなかなか来れないところだし……」「ああ、そうだな」 シエルさんも難しい顔をする。「町と言うには人口もないし増える予定もないし……。一目この町を見れば、是非とも住みたいという人が出てくるんだろうがなあ……この素晴らしい町……」「最低でも五十人。町と名乗るにはあと四十人近い人間がいるが、追放者を呼び込むにしても街道からも遠い……」 アパルさんが唸る。「いっそ、町ごと持ち歩ければいいんだけど」 ぽつりと呟いたぼくの言葉に、アナイ
「えっと。アパル、さん?」 綺麗に焼けた焼き魚の身を歯でむしり取りながら、アパルさんは「ん?」と言う顔をした。「スキル学を、勉強してらっしゃったんですか?」「んん? んん、まあ。「法律」なんてスキルのせいか、色々学ぶことが楽しくてね。盗賊に身を落としても勉学だけは捨てられなかった」 身を噛んで飲み込んでから、アパルさんは頷いた。そう言えば宴会前、洞窟から大量の本を家に移動させていた。どうやってあれだけの本を持って出られたのかちょっと不思議な気がする。 それはさておこう。今欲しい情報はそれじゃない。「スキル学って、どんなことを勉強するんですか? 確か「スキル学におけるレベルか上限1の噂話を、昔、聞いたことがある」とか仰ってましたね。レベル上限が1の法則。それ以上上げる必要がないからの1なんだって……」「ああ。スキル学の古い文献でそう言われている……。でも、多分、君の欲しい答えは、私が学んだスキル学にはないと思う」 目を丸くしたぼくに、ほろ酔い状態のアパルさんは苦笑した。「スキル学は、スキルについて研究するものだけど、スキルで何ができるかの実験などではないんだ。伝説や伝承を集めて、どんなスキルがあってどんな風に役立ったか、過去のことを調べる学問なんだ」「過去……」 ぼくは、スキル学はエアヴァクセンがやっているように、スキルの持ち主を集めてどんなことができるのか試す学問だと思っていた。だから、アパルさんの手を借りれば、この意味不明のスキルを理解できると思っていた。 だけど、違うらしい。 本来のスキル学は過去のデータを集めるものらしい。「だから、君が君のスキルとレベルで何ができるか、と言う未来を予測することはできない。実践してみないことには」「実践……」 アパルさんは器の酒を空けて、袖で口元を拭う。「その実践については、まったくもって悔しいことにエアヴァクセンが世界一なんだよ。あの町長は町を富ませ、SSSランクになることを悲願としている。だからこそ、スキルの成長研究に金を注ぎこんでいるんだ」 ……その町長に見限られたんだから、ぼくも相当なもんだろうなあ。「少しでも分かること、ありますか?」「そうだねえ……」 アパルさんは木の器を傾けながら唸る。「スキルとは、この世界を創り上げる精霊神が、気に入った人間に与えると伝承ではある。それ
盗賊団の皆さんが感動と号泣と荷運びを終えたところで、ぼくとアナイナがいる家にやってきた。 手に手に、焼けた魚だの炙った干し肉だの多分酒が入った壺だのを持っている。「……えーと?」「飲もう!」「えーと」 シエルさんの端的な言葉に悩んでしまったぼくに、ヒロント団長が笑いかけた。「儂らだけの町を造ってくれたお礼と、儂らのこれからを祝って、宴会をしようと言う話になった。主役は君だ。来てくれるかな?」「そ……」「喜んで!」 ぼくより先にアナイナが返事した。「アナイナ……」「こういう時はね、盛大にお祝いするのがいいの! みんなもそれを願ってるの! 何がどうあってもこの町を造ったお兄ちゃんがこの宴会の主役なの! お兄ちゃんがいないとお祝いにならないの!」「そういうことだよ、クレーくん」 ヒロント団長が大きく頷いた。「何のお返しにもならんが、せめて感謝させてくれ。エアヴァクセンから出てきたばかりの君らの舌には合わんかも知れんが、今儂らにできる精一杯で感謝させておくれ」「……じゃあ……うん、お邪魔じゃなければ……」「おいおい、妹さんも言っただろう、君が主役だと」 主役……ねえ。 ぼくは結構地味な子供だった。エアヴァクセンでは同年代の子供を集めて一緒に教育するけど、その中でもかなり目立たない方にランクインしていた。集団行動で町の外へ見学に行った時に、ちょっと用足しに行った隙に忘れられてみんな帰ってしまって、両親が慌てて迎えに来たことがある。 主役なんて、なったことない。 でも……一応この宴会は、ぼくの「まちづくり」に感謝してってことなんだから、ぼくが主役になるのかなあ。「行こ、お兄ちゃん!」 アナイナが手を引っ張って、盗賊団の皆さんがぼくを担ぎ上げて、わっしょいわっしょいと町の広場へ向かった。 宴会は、本当に素朴なものだった。 町の広場に火を焚いて、そこで肉や魚を炙りながら食べる。食料を持たされなかったぼくには半日ぶりの食事で、「食獣」のマンジェさんが美味しくしてくれている。 盗賊団……と言っても反エアヴァクセンを掲げたこの人たちは、話に聞く盗賊団と違って、移転者狙いでも旅をするのに必要な金と荷物は残すらしい。つまり、森の奥に金銀財宝を積み上げてさらってきた女を侍らせて……と町から離れて贅沢三昧、とは縁がない人たち。 狩った野獣や







