Masuk「鳥との相性、ねえ」 パサレは笑顔で奥に引っ込むと、何羽かの伝令鳥を連れてきた。 伝令鳥は赤い羽根と黒い目の鳥だと何となく認識していたけど、こうやって並べられると、違いがあるのがわかる。 炎のような赤さの鳥。柔らかそうな羽毛を持つ鳥。黒い瞳が潤んで見える鳥。本当に千差万別、一羽ずつ個性がある。 赤が強ければいいのかな、と思っていたけど、これは確かに違うわ。赤と言ってもマゼンダ色に近いものもあれば、血のように赤いのもいるし、朱色もいる。赤って色々あるんだなあ。(町長、町長) 肩を小突かれて、口が開いたままなのに気付いた。慌てて閉じて鳥を見る。「鳥との相性って、どうやってみるんです?」「フィーリング。感性ですね。ああ、この子だという確信です。個人的な伝達をするのであれば、余計お客様のために頑張るという子を選ぶべきですね」「そっか……鳥だって生き物だもんな、気に入った人に為に頑張ろうって思うんだろうなあ……」「そうです。この子たちにも好き嫌いや相性がありますからね。長く付き合うならば、鳥にとっても人にとっても幸せでなければ」 うん、そうだよな。町だって同じだ。元からいた人も新しく来た人も幸せでないといけないよな。とりあえずは元ファヤンス組とそれ以前の人たちが上手く混ざり合うか。それだな。 おっと、これはとりあえず心の中に納めておこう。今は伝令鳥だった。「どの子がいいのかな……」 じっと目を覗き込む。 黒い目がくりっくりっと動きながら見返す。 あ、かわいい。 アナイナ、好きそうだなあ。 い、いやいや、今回はアナイナのプレゼントを選んでるわけじゃなくて、自分が使う伝令鳥を買うんだった。 十四年間わがまま放題なあいつの兄をやっていた癖がまだまだ抜けない。「乗せてみます?」「? 乗せ?」「はい」 パサレはぼくの見ていた一羽をすくう様に持ち上げて、ぼくの肩に乗せた。 あ、結構重い。 羽根の感触が頬に当たってくすぐったい。「ちょっと違うみたいですね」 ひょいっと肩からすくいあげられる。 次に隣の伝令鳥を乗せる。 と、明後日の方向からバサバサバサッと羽音がした。 止まり木に停まっている一羽が、バサバサと羽根を広げている。「あら。乗りたいの?」 バサバサバサバサ。 自己主張が激しいな。「乗せてみます?」「あ、お願いし
ピーラーとデスポタの拉致監禁事件がすべて解決してから数日が経って。 ぼくはアパルとリューとアレを連れて、スピティを訪れていた。 言っとくけど、別にピーラーとデスポタが気になったわけじゃない。あいつらはもう関わりたくない。放浪者となったデスポタがどこで野垂れ死んでも関係ないし、ピーラーがメァーナスでどういう扱いを受けているかも興味はない。 目的は二つ。 一つはピーラーが取り下げた注文の代わりに、今度トラトーレ商会で受ける注文を聞きに来た。 トラトーレはソファに座るぼくたちに向かって立ったまま頭をペコペコ下げまくっていた。「本当に申し訳ない……。そして本当に感謝します。私の仲介した相手があのような事件を起こしたというのに……まだ我々トラトーレ商会と取引をしてくれるとは……」「私の頭を殴ったのはピーラーであってトラトーレ商会長ではありませんから」 ぼくはにこやかに言った。「そしてまだ注文が来ているというのにトラトーレ商会と縁を切るようなことは出来ませんよ」「まこと……まっこと感謝しかありません……! これから先は客も選ばせてもらいます! 決してグランディールに損をさせるような真似は致しませんので!」「心配はしていませんよ、トラトーレ商会長。我々はトラトーレ商会を信じていますので」 トラトーレ商会長は泣きそうな顔で頭をもう一度深々と下げる。「で、次の注文があるならば」「は、はい、ピーラーの注文取消しで、注文が殺到しておりまして」 その中からトラトーレが依頼してきたのは、SSランクの町の町長夫人の飾りタンス。服道楽の奥方らしく、今まで集めてきた衣装を丁寧に片付けられる物が欲しいそうだ。 ちょっと難しい注文だけどピーラーのそれに比べりゃ簡単だ。 契約書を交わして、そして聞いてみる。「いい伝令鳥が欲しいのですが、お勧めはありますか?」「伝令鳥ですか。フォーゲルに行かれては?」 トラトーレがにこりと笑う。「フォーゲルは鳥の町。食用鶏から伝令鳥まで、いいものを取り扱っております。我々の伝令鳥もフォーゲルに注文して手に入れました」「ほう、鳥の町」「一般認知度は低いですが、高レベルの町の上層部にはよく知られておりますよ。いい伝令鳥や宣伝鳥を繁殖させ、売っております。宣伝鳥も購入するといいでしょうな。グランディールが取り込んだ陶器を売るため
まったくサージュの言う通り。「……ごめん」 それしか、言葉は出なかった。「謝ってほしいわけじゃない。理由が聞きたいんだ。町の場所をピーラーやデスポタのような連中に勘付かれたかも、という状況で、私たちを呼ばなかった理由を」「そっ、それは町長は悪くないっす!」「そうだ、町長が一緒に来なければ、オレたちだけで行ってしまって、捕まえられたことすら勘付かれない可能性があった!」 アレ……? リュー……? なんで、ぼくを庇って……?「……アレ、リュー、気持ちは分かるが、ここは町長に分かってもらわなければならない」 サージュは二人の方を見て、ぼくに向き直る。「町長、何故貴方は、危険がある可能性が高い下に、明らかに少ない人数で降りたんだ? それは、町長として、明らかに不用意な行動だ」「……悪いと、思ったんだ」「悪い?」「サージュもアパルもスピティとかで疲れ切っているのに、確実に危険がある訳でもないことに付き合ってもらうのは……申し訳ないって」「町長」 サージュの目が、灰褐色の瞳が、ぼくを真剣に覗き込んできた。「貴方は、町の長というだけではない。グランディールと言う生き物の、頭なのだと自覚してほしい」「サージュ……?」「町というのは生き物だ。町は手や足を失っても生きていられる。再生すらできる。しかし、頭だけはそうはいかない。頭なしでは何もできない。別の頭を持ってきても上手くつながるとも限らないし、つながったとしても頭の命令を手足が聞くようになるまでには時間がかかる。その間に天敵に狙われる」「…………」「貴方がグランディールの為を思って外に出るのなら、俺かアパルを同行させるべきだった。手足が動くことを、頭が申し訳なく思う必要はないんだ。むしろ手足が動かず頭が潰される方が痛い」 何も言えない。何も言い返せない。 ぼくはサージュかアパルを連れていくべきだった。いや、そうしなければならなかったんだ。 ぼくは町長。そしてスキルでこの町を造った。 ぼくがいなくなったら、スキルがどんな風になるか分からない。下手すれば百人強がまとめて路頭に迷うかもしれなかったんだ。ぼくの無茶のせいで。「……分かってくれたのならそれでいい。アナイナの連絡、リューとアレの行動もあって、こちらは対応も対策も立てられた。だけど二度、三度と同じ幸運があるとは限
「私を副町長にしないか?」 あ。予想通り。「む、無論、君の方針に従う。私の町長経歴は長い。若い君の役に立てる!」「貴様! 俺様を差し置いて……!」「ど、どうだね? 私を活かしてみる気は……」「ありませんね」 ぼくは起き上がらず答える。「さすがに若くて経験の浅い私でもわかりますよ。副町長という立場から少しずつ切り崩して行って町を乗っ取ろうって考えでしょう? グランディールには優秀で私の考えを実行して行ってくれる頭脳が複数人いますのでね、わざわざ他所から元町長を引っ張ってこなくても十分です」「クレー町長!」 デスポタの声はひっくり返っていた。 ぼくが断るとは思ってなかったのか? グランディールで町長の座に返り咲き、Aランク以上の町長になろうと思ってたんだろうけど、アパルやサージュじゃなくても気付くよその猿芝居。「ああ、優秀な頭脳がいるからこそ私をここで言いくるめて無理矢理にでも副町長の座を得ようと思っていたんですかね? 生憎、私も、彼らも、そこまで馬鹿じゃありませんよ。町民をごっそり引き抜いた町の元町長なんて危険分子を副町長に就けるなんてありえませんよ」 ましてや人を拉致監禁しといてその被害者に採用を望むなんて、どうかしている。「わ、私の知識は役に……」「あなたが町の役に立つというなら、食堂の下働きをしてください。一生下働きで。それならばグランディールに入れましょう」 黙り込んでしまったデスポタに代わって、今度はピーラーが叫んでくる。「デザイナーを! デザイナーを譲ってくれれば何でもやる! 金でも、名誉でも、俺様に与えられるものならば、何でもだ! グランディールにとっても悪い話じゃないだろう! 芸術の町メァーナス一番の俳優の勧める町という!」「何でもやるんですか?」「ああ!」「ならば、これからメァーナスの町へ行き、自分は新しい町のデザイナーが欲しかったので、その町長の頭を殴って拉致監禁し脅しましたと触れて回ってください」「…………!」 ピーラーの顔色は赤かな、青かな、紫かな、それとも白かな。 ピーラーはスキル「演技」を持っていると聞いた。それを使えばまた話は違っただろうに、ぼくみたいな小僧に「演技」しても無意味だと思ったんだろうなあ。残念だけど、例えあんたが「演技」してきても、町長の仮面は見抜け
声の主の姿は見えないけど、相当頭に来ているのは分かる。「一生でも閉じ込めておけば? ぼくが死んだ時点で何も手に入らないことが確定なんだ。こちらはグランディール町長の意地に賭けてもイエスとは言わない。監禁でもなんでもすればいい」「ク・ソ・ガ・キ・がああ~!」 ピーラーが切れる寸前。でも、まだここから出す気はないらしい。 いや。 ……出せない? 町長の仮面のおかげで冷静な頭が、一つの答えを導き出す。 サージュが語ったピーラーやデスポタの性格からして、拉致する時に一発ぶん殴った程度じゃ気は済まないはず。 なのにこの空間に閉じ込めて、手出しをしない、ということは……? ……そう。手出しをしないんじゃなくて、出来ないということじゃ? 閉じ込めたら出せない? いやそれじゃ最初からぼくをここに閉じ込めたりはしないはず。町民を取り戻すにもシエルを連れていくにもぼくのサインと印が必要。だけどこの空間には契約書もペンもない。契約書を書くには一旦ぼくを外に出させないといけない。いずれはぼくを出さなきゃ二人とも目的達成できない。 なのに出さないってことは……。 ……いや、ちょっと待て。 この二人、あの時、言ってたよな。 ってぇことは……。「残った町民にも見限られた気分はどうです、デスポタ町長?」「な?!!」「あと、追っかけはどうしましたピーラー氏?」「ぐ!!?」 ……この声の調子だと……予想通り……。「やはり、外にいるのはお二人だけ……お二人の身を守る誰かも、手伝ってくれる誰かもいないということですか」 ぼくは喉の奥で笑ってやった。「まあ……そうでしょうねえ。町長殿は陶土と町民を引き換えにした方。残った町民ももう協力する気はないでしょうね……。町民を取り戻す計画、立てたはいいが誰も協力しなかった、そんなところでしょうか?」「でっ、出鱈目を……!」「ピーラー氏のお連れの方々がいらっしゃらないのも、長い間尽くした人間を役立たずとあっさり切り捨てたせいでしょうね……。哀れなことだ。一人切られれば次は自分の番かも知れない、だったらこっちから捨ててやる、そう思った人は案外多かったんでしょう……。Dランク以下の町長と二人してやっと成人になったばかりの人間一人拉致するために自分の手を汚すなんて、世界一とも言われている俳優のや
「三流だと?! 小童が!」 デスポタが完全に頭に来ている。「人の町から人を奪わなければ町にもならない小童が!」「その小童に人を奪われたのはどなたです?」「なんだとぉ!」「それに、こちらは何も悪いことをしていません。そちらが引き渡す町民の重量分の陶土を引き渡す。印を押した契約も交わした。それの何処が問題です?」「町民をごっそり持って行った!」「何処に契約違反が?」「町の大多数を持って行っていいとは書いていない!」「私の記憶が確かなら、契約書には、自分の意思で町を出たいという町民を受け取る、というものでしたが? そしてこちらは町民の受取書を渡し、お約束の陶土もお渡しした。ファヤンスにいたくない町民がそんなにたくさんいたというのに、町長殿はお気付きにならなかったと?」 たっぷり、沈黙。 多分、激怒状態だな。怒りが暴走して頭が飛んで、何と言えば自分の感情を表現できるのか悩んでいる。「坊主、貴様が素直にデザイナーを差し出さなかったのが悪い。今からでも遅くない、貴様の町のデザイナーを俺様に寄越せば、此処から出してやる」「無駄だと思いますけどね」「無駄じゃない。貴様らは金を得る。俺様は素晴らしい専属デザイナーを得る。問題は……」「うちのデザイナーははっきり言いましたよ。金持ち一人の好みしか作れない専属デザイナーなんてお断りだって」 またも、沈黙。 多分、いつも注目されている俳優だから、ここまできっぱり断られるとは思わなかったんだろう。 あと、「小童」「坊主」扱いしてることから、誰も味方がいない状況で脅せば町民もデザイナーも簡単に手に入ると思っていたんだろう。「小童、ファヤンスを戻せ! でないと貴様をこの場で殺すぞ!」「……甘く見られたものだ」 確かにぼくは若いというか幼い。見た目が幼いので、なおさら舐められる。そのための無表情、そのためのアパルやサージュ。 でも、若かろうが幼かろうが、百人以上の町民の上に立つ町長だ。「私が守らなければならないのは私自身ではない。町民だ」 盗賊やってたことがばれたら大変なことになる人たちから、ファヤンスから逃げてきた人まで、守る責任が町長にあるんだ!「自分の益しか考えてない貴方に、町民を一人たりとも渡すわけにはいかない!」「な?!」「町長を舐めるな!」
門まで行った、その光景。 塀で囲まれた部分と、門のすぐ外。 さっくりと切り取られたようになって、その先に地面がない。(まさか?!) その、まさかだった。 恐る恐る切り取られた先を見下ろすと、下には緑のもこもこ。森だ。 つまり……浮いている!「うっそ、本当に……」 盗賊団の皆さんも、ぼくと同じ思いだったらしい。「本当に空を飛ぶとは……」「嘘だろおい……」「なんで……」 呆然とした声が空に流れていく。 真下の山肌に洞窟が見えることから、今はこの町は真上に浮いているようだ。 それだけでとんでもない話だ。 しかも、それがぼく一人のスキルで。 レベル1、Maxの力で。
ほっとしたぼくの耳に届いてきたのは、雄叫び。 なんだ、何があった? 何かあった? 服を着替える暇も惜しく飛び出すと、町はそのままで、並んだ六軒の家の一軒で、ヴァダーさんが雄叫んでいた。「ヴァダーさん?!」「家が……家が消えていない! 町も消えていない!」 ……そうだね、ヴァダーさん、ぼく以上に心配していたからね。目が覚めたら夢だとか消えてたとか。「さて、これからどうしよう」 変な場所に町を造っちゃったなあ……。 森の奥深く、野獣や魔獣が平気で出る場所。エアヴァクセンに気付かれない土地。他の町との交流しようがない僻地。 確かに畑があって獣を捕らえて捌く場所があって水も豊かな
「えっと。アパル、さん?」 綺麗に焼けた焼き魚の身を歯でむしり取りながら、アパルさんは「ん?」と言う顔をした。「スキル学を、勉強してらっしゃったんですか?」「んん? んん、まあ。「法律」なんてスキルのせいか、色々学ぶことが楽しくてね。盗賊に身を落としても勉学だけは捨てられなかった」 身を噛んで飲み込んでから、アパルさんは頷いた。そう言えば宴会前、洞窟から大量の本を家に移動させていた。どうやってあれだけの本を持って出られたのかちょっと不思議な気がする。 それはさておこう。今欲しい情報はそれじゃない。「スキル学って、どんなことを勉強するんですか? 確か「スキル学におけるレベルか上限1
盗賊団の皆さんが感動と号泣と荷運びを終えたところで、ぼくとアナイナがいる家にやってきた。 手に手に、焼けた魚だの炙った干し肉だの多分酒が入った壺だのを持っている。「……えーと?」「飲もう!」「えーと」 シエルさんの端的な言葉に悩んでしまったぼくに、ヒロント団長が笑いかけた。「儂らだけの町を造ってくれたお礼と、儂らのこれからを祝って、宴会をしようと言う話になった。主役は君だ。来てくれるかな?」「そ……」「喜んで!」 ぼくより先にアナイナが返事した。「アナイナ……」「こういう時はね、盛大にお祝いするのがいいの! みんなもそれを願ってるの! 何がどうあってもこの町を造ったお







