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10.二人の視線

last update Last Updated: 2025-04-23 07:06:09

 ルキと蛍は校舎の裏手から急な斜面を下る。

 校舎正門側の国道は人通りは少ないながらも、追ってが来るとしたら十分な道幅だ。カーナビを使ったらまず最初に誘導する道がここだろう。

 その反対側。

 防風林の杉を越え、小高い丘一つ降りれば、地元民も夜間は普段使わない農道がある。

蛍は枝木を一本折り手にすると、それを目の前で八の字に動かし進む。小さな虫や蜘蛛の巣などはこれにかかり随分歩きやすくなる。

「公的機関は丸め込んでるって話じゃ無かったのか ? 」

 蛍は前を見たまま、苛立ちを隠して背後のルキに問う。

「今来てる連中ね。警察とか、そういうんじゃないのさ。

 俺たちの母体を潰したい他の奴ら」

「どちらにしても、ろくな奴じゃないだろうな」

「そう言うなよ」

 スマートフォンのライトだけで斜面を歩く。

 闇深く、流石に二人分の足元全部とはいかない。

 チラチラ照らされる部分をパズルのように繋ぎ、記憶しながら足場を探す。

「おとと。それにしても、参加してくれて礼を言うよ。ケイが拒絶したら、俺の見込み違いかと思っちゃうところだったんだ」

「……それさ」

「ん ? 」

 ふと、蛍の足が止まる。

「俺、そんな分かりやすいのか ? 」

 ルキは直ぐにその言葉を理解した。

「周りにはバレてないんじゃないの ?

 現に香澄ちゃんと仲良くしていたのは、自分を普通に見せる為の擬態だったんだろう ? でも、今日の一件を見た観覧者と俺たち運営、あとは美果ちゃんもかな。

この全員の目には、君は確かな異質に見えたかもしれないね」

「異質……」

「普通に暮らしたいなら、身の回りから固めるとかね。一般人と同じ暮らしさ」

「やってる。でも親父が……」

 そこまで言い、口を紡ぐ。

 ルキが何を仕出かすかまだまだ読めたものじゃないからだ。蛍としても父親の重明にそこまでの恨みは無いのだ。

 単純に詮索されたくないだけ。蛍が異常にしても、普通の親子と関係性は変わらない。思春期らしい悩みなのだ。

「親御さんかぁ……誤魔化すのは容易じゃないね。成程」

「忘れてくれ」

「ふふ。分かってるよ。別に何もしないし、俺は何も止めもしない」

 木に掴まりながら足場を踏みしめ、二人は再び歩き出す。

「……いつからこんな事を ? 」

「先代がしてた事はよく知らないけれど、俺は七年前から引き継いだんだ。以前は金持ち
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    ケイはシリアルキラーなのか シリアルキラーっていうのはいわゆる連続殺人犯。 定義は、複数の被害者がいること。 犯行後に一定期間が空き、また犯行を始める。 被害者が三人以上いる事。 これらが判断基準です。ゾディアックやアンドレイ・チカチーロがこのタイプかと思われます。マスマーダーってのもあって、大量殺人犯の事です。 一日に四人以上殺す者を言うんです。通り魔なんかが町中で大量殺人を犯すのがこのタイプ。 チャールズホイットマンがまさにそうでした。鐘楼からライフルで撃ちまくる……。 ふらっと出かけてさっくり殺るケイに、このタイプには当てはまりません。 三章で蛍は、一度に中野を含めた四人を殺めましたが、動機や何を主体に動いたかは連続殺人犯の衝動的な波によるものです。多く殺ろうとか、そういう意思は無関係です。 シリアルを食べるようにお手軽に犯行を犯してしまう、という事でシリアルキラーという事ですね。スプリーキラーってのもいて、それは短時間で場所を移動しながら殺し回る者である。津山三十人殺しがそうです。マスマーダーに近いかと思われますが、場所を移動しまくる、という点が違いますね。シリアルキラーの中でも分類があって、オーガナイズド型とディスオーガナイズド型があります。後者のシリアルキラーは衝動的で、その場にある物を使いったり、遺体を隠そうともしない。一匹オオカミタイプで友人も少なかったりする。しばしば精神障害があったり、犯行に決まった手口ないといった具合。で、しばしば過剰な暴力と、ときに屍姦などの性的暴行を伴う……と。 そうなると、蛍はシリアルキラーであり、ディスオーガナイズド型ということになるのかもしれませんね。ナイフは愛用してますが、無ければこだわらないし、性倒錯からの犯行でもあります。あくまでフィクションですから「混合型です」と言ってしまえば早いのですが、少しプロファイルや社会分類などの文献を参考にているので、折角なので書いてみました( *´꒫`)

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