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6. ワンコとカレーライス

last update publish date: 2026-09-09 21:29:58

「うおっ……なんだ、この美味いメシは?!」

 コウヤは、目を輝かせながら、注文したカレーライスを食べている。

 食欲をそそるスパイスの香りが私の方にまで漂ってくる。

 今、私とコウヤは、レストランで向かい合って、座っていた。

 朝からコーヒー以外何も口にしていないので、二人とも空腹だった。

「美味しそうに食べるわねぇ。

 あなたの異世界には、ないの? カレーライス」

(私もカレーライスにすれば良かったかな)

 私は、自分の注文したサラダとパスタを食べながら、コウヤに訊ねた。

「俺のいた世界では、肉が主食なんだ。

 こんな美味いメシを食べたのは、生まれて初めてだ」

 コウヤは、あっという間にカレーライスを平らげると、お代わりを注文した。

(っていうか、支払いするの私なんだけど)

 私がパスタを食べ終わる前に、コウヤは、2皿目のカレーライスを平らげてしまっていた。

 3皿目を頼もうとするコウヤを止めて、私は、ずっと聞きたかったことを聞いてみた。

「それで......コウヤは、いつ自分のいた世界へ帰るの?

 っていうか、帰れるものなの?」

「ああ、帰れる。

 でも、帰る時は、ファムも一緒だ」

 にこっと笑いかけられて、思わずつられて私の頬も緩む。

「......って、違う違う。

 なんで私も一緒に行かなきゃいけないのよ。

 ってか、さっきから気になってたんだけど、その〝ファム〟って呼び方、何?」

「<運命の女神ファムファタル>のことだ。

 あんたは、俺の番つがいになる女だからな」

「つまり、愛称ってわけね。......いや、ならないからね?

 ってか、番つがいって、意味分かって言ってる?

 結婚するってことよね??」

 もしかしたら、コウヤのいた世界では、別の意味をもつ可能性もあるかもしれない。

 そう思い、念ため聞いてみた。

「番つがいは、共に子を生し、一生を添い遂げる相手という意味だ。

 俺たち<獣人ベスティアン>は、生涯をただ1人の相手だけと決めたら、死ぬまで離れることはない」

 コウヤが真っ直ぐ私を見つめて言うので、私は、どきっとした。

「ふ、ふぅーん......ロマンチックなのね。

 でも、そんな大切な相手を簡単に決めちゃっていいの?

 私たち、知り合ったばかりよ」

「簡単なんかじゃない。行き倒れてた俺を助けてくれたのは、ファムだけだ。

 皆、俺を見ても、知らない顔をして通り過ぎて行った。

 俺は、ファムに出会えなければ、きっとあのまま死んでいた」

(まぁ、一見死んでいるみたいだったし……まさか生きている犬だとは思わなかったのかも……)

 私も、たまたま転んだから生きている犬だと気付けたのであって、気付かなければ、素通りしていたかもしれない。

 ……いや、さすがにそれはないか、と思い直す。あれだけ大きな犬が転がっていたら、少なくとも生死の確認くらいはしただろう。

 犬を飼っていたことのある私には、どうしても見過ごせなかった。

 それにしても、あのまま放置するというのは、いささか冷たすぎる。

「そう言えば、なんであんな所で倒れていたの?

 その割には、結構すぐに復活してたけど......」

 スプーンを舐めていたコウヤが、困ったような顔をする。

「俺たち<獣人ベスティアン>は、酸に弱いんだ。

 この世界の雨には、酸が多く混じっているらしい。

 雨に濡れて、力が出なくなってしまい、倒れた。

 俺の居た世界の雨は平気だったから、迂闊うかつだった」

 酸性雨というくらいだから、雨に酸が混じっているのは当たり前のことだと思っていたけれど……どうやらコウヤの居た世界は違うらしい。おそらく、この世界よりも環境が綺麗なのだろう。

 私は、ちょっとだけコウヤの居た世界に興味をもった。

「だから、お風呂に入れたら元気になったのね。

 でも、どうしてわざわざこんな異世界まで来て、番つがいを探すのよ。

 自分の居た世界に女性はいないの?」

「いや、女性の<獣人ベスティアン>もいる。

 でも、<獣人ベスティアン>同士の婚姻は、血を濃くしすぎてしまうんだ。

 その所為で、先祖返りをしてしまう子供が増えて、かなり深刻な問題になっている」

「先祖返り?」

「人としての理性を失い、ただの獣になってしまうことだ。

 俺たちは、元々、人間と獣の間に生まれた生き物なんだ」

 ぐふっ、と私は思わず、飲みかけていた水をふきだしそうになたt。

「そ、それは、あんまり想像したくない話ね……」

「だから、こうして異世界へ来て、人間の女性を探している」

 何だか話を聞けば聞くほど、話が壮大になり過ぎて、あまりついていけない。

「……ん?

 ってことは、コウヤ以外にも、この世界へ来ている<獣人ベスティアン>が居るってこと?」

「その可能性はある。

 でも、この世界へ来ている同胞がいるかどうかは、俺には分からない」

 私は、最後のパスタを食べきると、ぱんっと音を立てて合唱をした。

「とにかく、コウヤが早く自分の居た世界へ帰れるように、

 私が運命の番つがいを探す手伝いをすればいいのね!」

「いや……俺の番つがいは、ファムだけなんだが……」

「よっし、そうとわかれば、婚活サイトに登録して~……」

「ファム……? 俺の話、聞いてないね……」

 悲しそうな目を向けてくるコウヤを無視して、私は、スマホから婚活サイトを検索した。

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