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第16話:初めての野宿

Author: 渡瀬藍兵
last update Last Updated: 2025-05-23 19:01:01

次から次へと現れるスケルトンとの激しい戦闘は、思った以上に長く続いた。

ようやく最後の骨片が地面に砕け散り、森に不気味なほどの静寂が戻ってくる。

「はぁ……はぁ……終わった、か……。思ったより、骨のある奴らだったな」

額の汗を手の甲で拭いながら、シイナさんが珍しく息を切らして呟く。彼の鉄製ガントレットも、あちこちが欠けて無数の傷が刻まれていた。

「マジでとんでもねぇ数だったぜ! 切っても切っても湧きやがって……!」

グレンさんは武器を放り出すと、そのまま地面に大の字になって倒れ込み、ぜえぜえと荒い息を繰り返している。彼の炎の剣も、今は勢いを失って、頼りない灯火みたいに揺らめいていた。

「ひとまず脅威は去りましたが、この場所は危険です。もう少し開けた、見通しの良い場所で野営の準備をしましょう」

シオンさんだけは、乱れた呼吸ひとつ見せず、冷静沈着な声でそう提案してくれた。私たちは力なく、でも深く頷いて、重い足を引きずった。

***

スケルトンたちの襲撃地点から少し離れた、比較的開けた場所を見つけた私たちは、例の不思議なキューブ「ハコベール」から手際よくテントを取り出し、設営を始める。

私も不慣れながら、シオンさんに手伝ってもらって、なんとか自分の寝床を確保できた。

「よし、これで一晩くらいは大丈夫だろう」

シイナさんが最後のペグを打ち込み終え、満足げに自分のテントを見上げて手を叩く。彼のテントは、いかにも機能的で無駄のないデザインだ。

でも、私はそれだけじゃ少し心許なくて、念のために四方の地面に聖属性を込めた魔石をそっと置いて、簡易的な結界を張ることにした。淡い金色の光が円を描いて、私たちの野営地を優しく包み込む。これで、邪悪な気を持つ魔物は、そう簡単には近づいてこられないはず。

「おー、すげえなエレナ! やっぱ聖属性の魔法って便利なんだな!」

焚き火の準備をしながら、火種に炎の魔力を慎重に送り込んでいたグレンさんが、私の結界を見て、いつものように屈託なく笑ってくれる。

「はい……でも、グレンさんたちみたいに、直接的な攻撃にはあまり向いてなくて……。どうしても、援護や守りが主になってしまうんですけど」

それは、私の偽らざる本音。

みんなが前線で体を張って戦っている間、私は後方で祈ったり、結界を張ったりするくらいしかできない。

それが、少しだけもどかしかった。だけど。

「全然それでいいんです。エレナさんのその力があるから、俺たちも安心して前に出られるんだ。あの光の弓も、本当に助かりました」

シイナさんが、私の気持ちを察したみたいに、優しく笑いかけてくれる。

その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

「はい。シイナの言う通りです、エレナさん。特にアンデッド系の魔物に対しては、あなたの聖なる力は、我々のどんな攻撃よりも効果的に作用する。ご自身を卑下なさる必要など、どこにもありません」

いつもは口数の少ないシオンさんまでが、静かに、でも力強く私の背中を押してくれる。その真っ直ぐな眼差しに、私は俯きそうになる顔を上げた。

なんだろう。心が、ぽかぽかする。

みんな、こんな私をちゃんと仲間だって、認めてくれてるんだ。

(ふふ……私も一部始終見ていたが、滅多に実戦経験のない君にしては上出来だった。弓の腕も、以前より格段に上がっていたぞ。十分に誇っていい)

エレンまで、心に直接響く声で、まるで頭を撫でてくれるみたいに優しく言ってくれる。

……もう、みんなして、甘やかしすぎじゃないかな?

でも、その言葉が、今の私には何よりも嬉しくて、頬が自然と緩んでしまうのを止められなかった。

「さて、今夜はもう休もう。予定通りなら、明日には最初の目的地、“夜の街”の領域に着くはずだ」

シイナさんが、パチパチと音を立てて燃える焚き火を見つめながら、皆に休息を促した。

「シイナさん」

その言葉を聞いて、私はひとつ、ずっと気になっていたことを聞いてみることにした。

「その、“夜の街”って……一体、どんな場所なんですか? 教会の書物にも、あまり詳しい記述がなくて……」

私の問いに、その瞬間、焚き火を囲む空気が変わった。

え? 気のせいかな。今、みんなの顔からスッと表情が消えたような……。さっきまでの温かい空気が、嘘みたいに張りつめている。

何か、まずいことでも聞いちゃったんだろうか……。

「……そうだなぁ……」

シイナさんは、少しだけ言葉を選びながら、どこか歯切れ悪く答える。

「まあ、文字通り、夜になると活発になる街、とだけ覚えておいてくれればいい。詳しいことは、着いてから説明する」

その表情からは、何かを隠しているような、あるいは言いにくいことがあるような、そんな雰囲気が見て取れた。すごく、引っかかる言い方だ。

でも、グレンさんもシオンさんも、何も言わずに焚き火の炎を見つめている。

これ以上聞くのは、今はやめておいた方がいいのかもしれない。

みんなが一緒なら、きっとどんな場所だって大丈夫。

私はそう自分に言い聞かせて、そっと小さなテントの中に入り、寝袋に潜り込んだ。

***

テントの中は、外の冷気から守られていて、思ったよりも温かい。

寝袋にくるまって目を閉じると、今日の戦いのこと、仲間たちのこと、そしてエレンのこと……色々なことが頭の中を巡る。

(みんな、本当に強いね……。私、ちゃんとついていけるかな……)

私は静かに、心の中の相棒に問いかけた。

(ああ。まだそれぞれ粗削りな部分もあるがな。だが、個々の潜在能力は悪くない。特に、あのシイナという男は面白いものを持っている)

エレンの、どこか満足げな、それでいて厳格な評価。

エレンはいつも私には優しいけど、戦いに関しては本当に容赦がない。でも今日は……ほんの少しだけ、仲間たちのことを褒めてくれた気がする。それが、私にとっても嬉しかった。

(エレナ、おやすみ。……少しだけ身体を借りて、周囲を巡回してくるよ)

その、いつものように力強く、そしてどこまでも優しいエレンの言葉を最後に――

私の意識は、深い森の静寂と、焚き火の微かな暖かさに包まれるようにして、安らかな眠りへとゆっくりと落ちていった。

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