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第28話:特注品の衣服

작가: 渡瀬藍兵
last update 최신 업데이트: 2025-06-08 19:01:15

──次の日の朝。

昨夜の喧騒が嘘のような、静かな光が部屋に差し込んでいる。窓辺に置かれた包みに気づき、私はそっと手を伸ばした。司祭様から預かった、新しい衣服だ。昨日はいろいろなことがありすぎて、すっかり忘れてしまっていた。

包みを開くと、ふわりと一枚の羊皮紙が滑り落ちる。インクの香りが、微かに鼻を掠めた。

「お手紙……?」

そこに綴られていたのは、見慣れた司祭様の、温かい筆跡だった。

──────────

エレナ君へ

事の経緯は、魔法研究所の所長殿から伺ったよ。

君のその身に起きた奇跡と、これから始まるであろう過酷な旅について。きっと、心の相棒であるエレン君と入れ替わるのが困難な時もあるだろう。

そこで、旅立つ君への餞別だ。

今、君が手にしているであろう衣服は、私が旧知の職人に頼んで仕立てさせた特注品でね。纏う者の魔力に呼応し、その姿形、果ては色までをも変化させる仕掛けが施してある。

これさえあれば、君がエレナとして祈る時も、エレン君が戦士として剣を振るう時も、姿を繕う必要はないはずだ。

旅路は長くなるだろう。

君は「聖女らしくあろう」と、その細い肩に全てを背負い込むかもしれない。だが、どうか無理だけはしないで欲しい。私にとって君は、聖女である前に、どこにでもいる、夢見る普通の女の子なのだから。

いつでも、仲間を頼りなさい。

追伸

いざという時のために、君でも扱える業物の短刀を二本、贈らせてもらう。君たちの旅に、神の導きがあらんことを。

アンドレス

──────────

「……司祭様」

ぽつり、と零れた声は震えていた。次から次へと涙が溢れて、手紙の文字が滲んでいく。私のこと、ちゃんと見ててくれたんだ……。

手紙を丁寧に畳んで胸元にしまうと、私は新しい衣服へと、そっと袖を通した。

それは、一点の曇りもない純白の聖衣。

身体の線を拾わないゆったりとした仕立てだが、その簡素さには、神に仕える者としての清廉さが宿っている。

肩を覆う短いケープの中心には、金糸で縁取られた十字の紋章。

それは着用者の信仰と役目を無言のうちに物語る、唯一の装飾だ。

腰には一本の素朴な革ベルトが巻かれ、裾から覗くのは頑丈そうな革のブーツ。祈りの場だけでなく、実務にも耐えうることを想定した作りが見て取れる。袖口と裾を縁取る控えめな金のラインが、質素な意匠の中に、確かな品格を添えていた。

「短剣まで。二本も……」

(二振りか。悪くない。短剣ならば、司祭の言う通り、いざという時に君でも扱えるだろう)

「……うん。エレンや皆みたいには戦えないけど……。ねえ、エレン。今度、戦い方を教えてほしいな」

(……ああ、分かった。最低限、その身を守るための護身術は教えよう。だが、忘れないでくれ。戦場に立つのは、私の役目だ)

「うん! ありがとう、エレン!」

***

宿のロビーに降りると、シイナさんがすでに壁に寄りかかって待っていた。

「おはよう、エレナさん。それが、ミストが届けてくれた服か」

「はい。……その、変じゃないでしょうか?」

不安げに尋ねる私に、シイナさんは僅かに目を細め、ふっと笑みを漏らした。

「はは、よく似合ってる。大丈夫だ」

「ありがとうございます。それと……昨日みたいに、私のこと“エレナ”って呼んでください」

「……咄嗟のことでつい呼んでしまったんだが……ああ、そうだな。俺たちに、もう遠慮はいらない」

その言葉に、胸が少しだけ温かくなるのを感じた。

***

やがて全員が揃い、私たちはテーブルを囲んで次の目的地について話し始める。

「次の目的地は、“記憶の街メモリス”だ」

シイナさんの言葉に、場の空気が一瞬、張り詰めた。

「……メモリス?」

シオンさんが低く呟く。表情はいつも通り凪いでいるのに、その声には聞き逃せないほどの揺らぎがあった。

「何か、気になることでも?」

私が尋ねると、彼はほんの一瞬だけ視線を彷徨わせ、すぐに取り繕うように口を閉ざした。

「……いえ。特には」

歯切れの悪い返答。明らかに何かを隠していると、私ですら分かってしまった。

「私、直接行ったことはないんですけど……記憶を“買ったり売ったり”できる街だって、聞いたことがありますよ?」

好奇心に目を輝かせながら、ミストさんが会話に割り込む。

「記憶の、売買……?」

「ええ! 例えば、研究に不要な記憶をぜーんぶ売っ払って、そこに別の天才科学者の知識をインストールする! なんて使い方も可能だとか!」

(その発想が怖すぎるんだけど……)

思わず私が引いていると、シイナさんが冷静に釘を刺した。

「記憶は脳の機能と複雑に絡み合っている。安易に弄れば、人格そのものが崩壊しかねん」

「ふむ、理屈は理解できますが……それでも! 可能性の獣には抗えないのですよぉ!」

「……記憶を消したいなら、私のトンファーで叩いて消して差し上げますが」

淡々としたシオンさんの言葉に、ミストさんが勢いよく飛び退いた。

「待ってください!? それだと全部の記憶が彼方へ行っちゃうじゃないですか!」

「ご入用でしたら、いつでも」

「あなたって人は、いつもその涼しい顔でとんでもないこと言いますよね!?」

「ま、面白そうじゃねえか。俺は賛成だぜ、メモリス」

あっけらかんと笑うグレンさんの一言で、空気は再び和らいだ。

「決まりだな。だが、メモリスでは慎重に行動しろ。記憶はな、人間の“最後の砦”だ」

シイナさんの言葉を合図に、私たちは立ち上がる。

(シオンさん……あの時、ほんの一瞬だけ顔が強張っていた。あの街に、一体何が……?)

私の思考は、自然ともう一人の自分へと繋がっていく。

(記憶、か……そういえば、エレンも……)

その瞬間、心に直接、彼の声が響いた。

(……記憶そのものに執着はない。だが……そうだな。私が、どこの誰だったのか。それには少し、興味がある)

(エレン……)

そう。私の半身であるエレンは、記憶を失っている。

物心ついた時から、彼は私の中にいた。けれど、彼が誰で、どこから来て、なぜ私と共に在るのか。私は何も知らない。

あの街に行けば、何か一つでも、手がかりが見つかるかもしれない。

(……まあ、私が何者だろうと、やることは一つだ。エレナ、君を守る)

(……うん。ありがとう、エレン)

私たちは“記憶を扱う街”メモリスへ向けて、歩き出した。

***

まだ陽も高い時間だというのに、夜の街の入り口には、人だかりができていた。

普段は夜の帳の中でしか会えないはずの彼らが、わざわざ朝の光の中へ出て、私たちを見送りに来てくれたのだ。

『本当に……ありがとうございました……』

代表の方が深く頭を下げると、他の住民たちも一斉にそれに倣う。

『……また、いつでもいらしてください。私たちは……あなた方を、心から歓迎します……』

その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなった。

夜を生きる彼らにとって、この朝の光は決して心地よいものではないはずだ。それでもなお「感謝を伝えたい」というその想いが、この街には確かに溢れていた。

私たちは静かに一礼し、次の目的地へと、決意を新たに歩みを進めた。

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