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第33話:入門審査

작가: 渡瀬藍兵
last update 최신 업데이트: 2025-06-10 19:02:26

白亜の城壁が天を衝き、その威容を誇る“記憶の街”メモリス。私たちは今、その巨大な門の前で、門番による入場審査の列に並んでいた。

行き交う人々の数も、これまで見てきた街とは比べ物にならない。その分、警備兵の眼差しは鋭く、その一糸乱れぬ動きからは、この街の鉄壁の守りが窺えた。きっと、ここで暮らす人々は、確かな安心の中で日々を過ごしているんだろうな。

私たちの前で順番を待つ人々の中で、ひときわ声を張り上げている男がいた。知性の高さをひけらかすような口調の、神経質そうな眼鏡の中年男性だ。

「まだなのか!? いつまで待たせるつもりだ! 早くメモリスに入れろと私は言っているのだ!!」

隠す気もない苛立ちを、門番に容赦なくぶつけている。

「申し訳ございません。ただいま審査の途中でして……今しばらくお待ちを」

門番は丁寧に対応するが、男性の不満は収まる気配がない。そんな中、別の門番がこちらへ向かって声をかけてきた。

「お待たせいたしました。ベルノ王国魔法研究所、シイナ様ご一行の審査が完了いたしました。こちらへどうぞ」

その声を聞いた瞬間、眼鏡の男性がカッと目を見開き、怒声を張り上げた。

「まてまてまて!! なぜ私より後に来たその若造どもが、先に通されるのだ!? 説明しろ!!」

門番は表情一つ変えず、静かに事実だけを告げる。

「申し訳ございません。この方々は、我々にとって“賓客”にあたられますので」

「はぁ!? 馬鹿馬鹿しい! 私の時間が、あのような旅人風情の若者たちより軽いとでも!? 私の研究成果の報告が遅れることの損失を、貴様らは理解しているのか!?」

怒鳴り散らすその声が、広場に不快に響き渡る。

(……うわぁ、すごく嫌な感じの人……)

思わず眉をひそめてしまった私に気づいたのか、ミストさんがいつもの笑顔で言った。

「そういう人の言葉は、聞き流した方がいいですよっ!」

「なんだと貴様!!?」

男性の顔が、怒りで一気に赤く染まる。今度はその矛先を、まっすぐ私たちへと向けてきた。

「君たちには分かるまい!! 私の研究が、この街の未来にどれほどの貢献をもたらすものなのか! 一刻を争う重要な案件なのだよ!! それを君たちのような輩のせいで遅らされるなど――断じて許せるか!!」

早口でまくし立てる男性に、ミストさんがわざとらしく、深いため息をついてみせた。

「……はぁ」

そして、満面の笑顔のまま、その言葉の刃をズバッと言い放つ。

「そんなふうに“時間がどうのこうの”って文句を垂れ流している方が、よっぽど無駄だと思いますけど? 研究者である前に、人としての“品性”を身につけることをおすすめしますっ!」

「わ、わ、私に品性がないだと!? き、きさまぁぁ!!」

今にも殴りかかってきそうな勢いで踏み込もうとした、

その瞬間――

シイナさんが、無言で男性の肩を掴んだ。その瞳には、絶対零度の光が宿っている。

そして次の瞬間、何のためらいもなく――男性を地面へ突き飛ばした。

ドサッという鈍い音と共に、男はみっともなく尻もちをつく。

シイナさんは冷たい視線でその男を見下ろし、静かに言い放った。

「……あんたの研究成果がどれだけ立派かは知らない。だが、それを判断するのはあんたじゃない。この街の人間だ。俺たちに八つ当たりされても迷惑だな」

「き、きさまぁ!! この私を突き飛ばしたな!? ただで済むと――」

怒りに震える男性の眼前に、シイナさんはポケットから一枚の術紙を突きつけた。

「文句があるなら、ここへ言え」

術紙を受け取った男は、そこに浮かび上がる文字を見て、一瞬で顔色を変える。

紙面には淡い魔力の刻印が走り、《ベルノ王国 魔法研究所 研究員 シイナ・フォン・ブラウン》の名が、静かな光を放っていた。

「っ……ベ、ベルノ王国の……魔法研究所ォ!?」

その場にいた誰もが、ぴりついた空気の変化を感じ取っていた。

(……そっか。私はベルノ王国にいたから感覚が麻痺してたけど……あの国の魔法研究所って、本当に特別な場所なんだ……)

つまり……。

(この男は、シイナやミストより立場が下という訳だな)

エレンが心の中で、冷静に事実を分析していた。

「……落ち着かれましたね。では、こちらへどうぞ」

門番の言葉に背中を押されるようにして、私たちは静かに門をくぐった。

こうして、私たちは――ついに“記憶の街”メモリスへと、足を踏み入れたのだった。

***

「わぁ……」

門をくぐった私は、目の前に広がる光景に思わず息を呑んだ。

どこまでも続く、白亜の街並み。清らかな水路が縦横に走り、太陽の光を反射してきらきらと輝いている。建物の一つひとつが、まるで芸術品のように重厚で、美しく磨き上げられていた。

広さも、景観も、そこに流れる空気の気品も。

これはもう“街”というより――一つの完成された“王国”だ。

「なんじゃあこりゃあああああああ!!!!?」

「すっごくないですか!? やっぱり街じゃなくて国ですよ、ここ!!??」

グレンさんとミストさんが、子どものように目を輝かせてはしゃいでいる。

「お前ら……少しは落ち着け」

呆れたように言うシイナさん。

……でも、このやり取りが、私たちの日常で、なんだかすごく安心する。

「とりあえず、俺はこれから魔法研究所の書類を、メモリスの研究所支部へ届けてくる」

「あっ、ここにも研究所の支部があるんですね」

「ああ。だから俺は、まず研究報告に──」

その、言葉の途中だった。

──ヴィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!

突如として、グレンさんの懐から、鼓膜を突き破るような凄まじい轟音が鳴り響いた。

あまりの爆音に、私たちは思わず両耳を塞ぐ。

「えっ!? な、なにごと!?」

「何の音だこれは!?」

「な、なんかの警報か!?」

周囲を歩いていた人々も、一斉に耳を押さえながら、何事かと音源を探し始める。

「こ、こ、この圧倒的な耳への破壊力…っ!!グレンさん…! 早くそのツナガールを使ってくださいぃぃぃぃ!」

ミストさんが耳を押さえて叫ぶ。

グレンさんが顔をしかめながら、腰に付けられた魔道具の応答ボタンを押すと、そこから白衣の男性がホログラムのように浮かび上がった。

――ベルノ王国魔法研究所・所長。

『やぁやぁ!!! 元気にしているかい、諸君!!?』

元凶は、あまりにもいつも通りの、能天気な調子で私たちに話しかけてくる。

「し、所長っ!!!」

シイナさんが、思わず声を荒らげた。

『ん?? なんだい、シイナ君?』

「なんだい、じゃありませんよ!! なんですか、この馬鹿みたいに大きな音は!!」

ほんとだよ……耳がキーンってしてる……。

「本当にうるさかったですよ……。私も耳をやられました」

シオンさんまで静かに怒ってる。これは相当だ……。

『いやぁ~、戦闘中でもしっかり聞こえるように、魔物を威嚇して追い払えるくらいの音量に設定しておいたんだよ!』

「そもそも戦闘中に悠長に通信に出られるはずがないでしょう!? 俺たちを殺す気ですか!?」

シイナさんのツッコミが、爆音の余韻が残る街に木霊する。

『いやほら、私もこうして通信してる間にも、命の魔力が枯渇して死にそうだからさぁ……一瞬たりとも無駄にしたくないじゃない!?』

確かに、画面越しの所長さんの顔がどんどん青ざめている。

というか、グレンさん! 横で見たら、グレンさんの目から光が消えて虚ろになっていってる!!

「それはもう欠陥品なので、今すぐ改良してくださいよ!!!!」

『いやぁ~、でもこの不便さも、使っているうちにだんだん愛おしくなるだろう?』

「「「「なりませんっ!!!!」」」」

パーティ全員から、一斉にツッコミが飛んだ。

『むぅ……仕方ない。今回はこの辺りで一度切ろう……!! 良い旅を……ゲホォッ……!』

通信が切れる直前に聞こえた、今にも事切れそうな咳。

そして、ついに力尽きて地面に崩れ落ちるグレンさん。

「ま、まじで……俺の魔力、ほぼ全部吸われた……」

所長さんが電話をかけてきただけで、一人の犠牲者と、数多の鼓膜が失われていく……。

とんでもない人が作ったものを、私たちは持たされているんだな……。

***

けたたましい騒音が去ったあと、衛兵の一人が慌てた様子で私たちに駆け寄ってきた。

「い、今の音は一体!? とてつもない轟音がしていると、住民から多数の苦情が届いておりますが……!」

そう言いながらこちらを見回した衛兵の目が、白目をむいて倒れているグレンさんを捉える。

「ど、どうされました!? こちらの方は一体……!?」

「実は……」

シイナさんが、世界の真理に触れてしまった哲学者のような、どこか遠い目で事情を説明し始めた。

***

「……なるほど。それはまた、とんだ人騒がせな所長さんで……。皆様、ご苦労さまです……」

事情を聞いた衛兵は、深い、深いため息を漏らし、心からの同情を込めた眼差しをシイナさんへと向けた。

「いえ……もう慣れていますので……」

その一言に、衛兵がさらに気の毒そうな表情を浮かべる。

「状況は把握いたしました。ひとまず、この方は私たちでお預かりします」

そう言って彼は口笛をひとつ――ピィーーッ!! と鋭く吹き鳴らした。

すぐに別の衛兵たちが小走りで駆け寄ってくる。

「そちらの方を、休憩所へ!」

「はっ!」

声をそろえると、二人の衛兵がグレンさんを担架に乗せ、そのまま静かに運んでいった。

残った衛兵は私たちに向かって、背筋を伸ばして完璧な笑顔を作る。

「――ようこそ、メモリスへ。どうぞ、ごゆるりとお過ごしくださいませ」

そう言って、一礼して去っていく。

「…………」

その場に残された私たち。

誰もが何かを言いかけて――でも、言葉にならなかった。

あまりにも、想定外すぎる歓迎だった。

もはや、ここが“記憶の街”の玄関口だということすら、忘れそうになるほどに。

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