Masukエレナは焚き火の輪から少し離れた場所で、ポーチから黄金色の魔晶石を取り出していた。
掌に乗るほどの小さな石が、夜気の中で淡く光を返す。それを一つずつ、テントを囲むように地面へ置いていく。等間隔になるよう位置を確かめ、草をかき分け、また次の場所へ移る。その後ろには、一定の距離を保ったままシオンが立っていた。 「エレナ様」 「はい?」 「それは……一体……?」 シオンの視線は、エレナの指先から地面へ置かれた石へと落ちていた。 近くに魔物の気配はない。それでも護衛として外すつもりはないのか、彼は周囲への警戒を残したまま、エレナの作業を見守っている。 「あっ、これはですね。魔晶石というものです。でも、ただの魔晶石ではなくて、私の魔力を注ぎ込んだもので。これを置くと、魔物は嫌がって寄って来られないのですよ」 「そんな便利な物があるんですね」 「ええ。あっ、そうだ。シオンさん、こちらを」 エレナはそう言って、ポーチの中からさらに三つ取り出した。指先で包むように持ち、振り返ってそのままシオンへ差し出す。 「これは?」 「本日のお礼です。私をたくさん守ってくださいましたから。それに今も。ささやかな気持ちですが、受け取っていただけると嬉しいです」 シオンは一度エレナの顔を見て、それから差し出された石へ目を落とした。 「ありがとうございます」 静かな声で礼を述べ、三つの魔晶石を受け取る。 エレナが渡したそれは、どれも澄みきった黄金色をしていた。魔晶石は品質によって価値が大きく変わる。不純物の少ないものほど色と光が安定し、込められる魔力の通りもいい。 その中でも、今シオンの手にあるものは別格だった。聖堂の権威のもとで管理される品の中でも随一の質を誇る、最高品質の魔晶石。単体でも金貨五十枚に届きうる代物であり、そこへ未来の聖女たるエレナ本人の魔力が注がれているとなれば、希少価値はさらに跳ね上がる。 夜の森で気軽に手渡されるには、あまりにも重い品だった。 だが、そのやり取りに待ったをかけたのは、頭の内側から響いた別の声。 『待て、エレナ』 『ん? なに?』 エレナの指先が、次の魔晶石を取り出しかけたところで止まる。 『その魔晶石を渡すのは構わないが、その価値を君は分かっているのか?』 『え? 特に意識したことはないけど……』 『……』 『な、なに?』 『魔晶石、それも君が持っているそれは、かなり質が高い』 『う、うん』 『君の魔晶石は、一つで金貨五十枚は下らないだろう』 『え゙っ゛』 声にならない息が、エレナの喉で引っかかった。 手渡した直後の右手が、そのまま中途半端な位置で固まる。目の前では、受け取ったばかりの三つの魔晶石が、シオンの掌の上で静かに光っていた。 『それに加え、君の魔力が込められている。それだけで、下手をすれば倍以上の価値になる』 『そ、そ、そ、それほんと!? もう渡しちゃったよ!? ささやかなお礼にしては重すぎるって!!』 『君は、君自身の価値をもう少し考えた方がいい。無論、君だけではない。聖堂という背景も含めて、だ』 エレナの肩がぴくりと揺れる。 さっきまで素直に差し出していた手が、今度は胸元へ引き寄せられた。視線が自分のポーチと、シオンの手元をせわしなく往復する。 (えっ、えっ……そんなに!? 私、そんなつもりじゃ……) 少しの沈黙のあと、エレナはおそるおそる口を開いた。 「シオンさん。渡しておいてなんですけど……それを渡したことは、どうか内密に……」 「……? 分かりました」 シオンは不思議そうに一度だけ瞬きをしたものの、それ以上は何も問わなかった。受け取った魔晶石を丁寧にしまい込み、そのまま静かに頷く。 『ううっ……!』 『軽はずみな行動は控えた方がいいだろう』 『とは言っても……! なんで、エレンはそんなことに詳しいの……?』 『私は日頃、夜の街を歩いていたからな』 『でも、それなら私にだって……』 『君はすぐ眠ってしまうだろう……。いったい誰が君の身体をベッドまで運んでいると?』 そこまで聞いた途端、エレナの頬にじわっと赤みが差した。 視線がふらつき、唇が小さく結ばれる。ついさっきまで真っすぐ立っていた姿勢も、ほんのわずかに落ち着きを失っていた。 『しょ、しょうがないじゃん……!』 『……まあ、日頃の活動を見れば仕方ないとは思うが、もう少し……な?』 『は、はあい……』 外から見れば、エレナは急に頬を染め、目を見開いたかと思えば、今度は気まずそうに視線を逸らしているだけだった。 すぐ傍らに立つシオンが、その変化に声をかける。 「あの……エレナ様。どうされました?」 「あっ……! いえ! なんでもありません……! ひとまず、こちらで結界ができ上がったので、皆さんの元へ戻りましょう……!」 「そうですね」 エレナはそう言って、最後に置いた魔晶石の位置をもう一度だけ確かめた。淡い黄金の光が夜の草むらに静かに沈み、その輪がテントの周囲を取り囲んでいる。 シオンも短く頷き、エレナの半歩後ろへ回った。 ふたりが焚き火の場所へ戻ると、残っていたシイナとグレンが顔を上げる。シイナは片手を軽く上げ、グレンもそれに続いた。 「エレナ様、おかえりなさい。シオン、護衛ありがとうな」 「いえ。私は傭兵として、エレナ様を護衛しているだけですから。もちろん、今後もお任せください」 穏やかな声でそう返したシオンの隣で、グレンが眠たげに首を揺らしていた。焚き火の明かりを受けながら、舟を漕ぐ寸前のように何度もこくりと頭が落ちる。 「今日はこれくらいにしよう。明日は『夜の街』へ向かう」 「夜の街……。そこは、どんな場所なんですか?」 エレナが首を傾げると、シイナの表情がわずかに止まった。 「えっと……。ま、まぁ、行けば分かりますよ。はは……」 (えっ……? 何その反応……) エレナの目がぱちりと瞬く。だが、シイナはそれ以上触れようとせず、咳払いをひとつ挟んだ。 「ひ、ひとまず! 今日はこれでお開きにしましょう。エレナ様は先にテントへお戻りください。私たちで、あと片付けをしておくので」 エレナの唇が、何か言おうとしてわずかに開く。 その前に、頭の奥から静かな声が届いた。 『……エレナ。今日はここまでにしよう。君がそういう扱いを嫌がることは分かるが、この場は彼らに任せてやれ。少しずつ、君も同じようにしていけばいい。向こうにしても、その方が余計な気を揉まずに済むだろう』 『……そうだね。エレンの言う通りかも。一日でそこまでしたら、みんなも困っちゃうよね』 エレナは小さく息を吐いて、素直に頷いた。 「では、皆さん。お言葉に甘えて、先に休ませていただきますね」 「ええ。エレナ様、いい夢を」 「皆さんも、いい夢を。おやすみなさい」 そう言い残して、エレナは自分のテントへと入っていった。 布の入口をくぐった瞬間、その足が止まる。 そこに広がっていたのは、テントという言葉から想像する簡素な空間ではなかった。内部は外観からは考えられないほど広く、四次元空間を利用した居住設備が整えられている。磨かれた床、整った寝台、浴室設備。厨房まで備わったそこは、もはや王宮の一室と呼んだ方が早かった。 「なに……これ……」 『…………』 エレンも一瞬、言葉を失っていた。 次の瞬間、エレナの目がきらりと輝く。 「エレンっ!! すごいよ!! これ! ボタンを押したら、勝手に料理が転送されてくるみたい!」 『……なるほど。ここではいつでも作りたての食事にありつけると。だが……やはり高いな』 「そうだね。だから今日は川魚にしたのかもね」 エレナは部屋の中を見回し、それからくるりと浴室の方へ向き直った。 「よしっ! 早速お風呂に入ろう!」 弾む足取りで浴室へ向かうと、エレナは壁のボタンに指先をそっと触れた。すると、温かな湯が音もなく注がれ始め、あっという間に広い浴槽が満ちていく。 彼女は軽やかに衣服を全て脱ぐと、シャワーのお湯を頭から浴び始めた。熱い湯が髪を伝い、首筋から肩へ、背中を滑り落ちていく。火照った肌に湯が当たるたび、小さな水滴が弾け、彼女の柔らかな膨らみを優しく濡らしていった。 鼻歌が自然と零れ落ちる。 「〜♪ ふふっ……気持ちいい……」 『……ずいぶんご機嫌だな』 「ふふ、まぁね」 シャワーを終えると、エレナはゆっくりと浴槽に足を入れ、湯の中に身を沈めていった。まず膝から太もも、そして腰のラインが湯に包まれ、最後に豊かな胸がゆっくりと湯面に沈んでいく。 「はぁ……」 熱い湯が身体の芯まで染み渡る感覚に、彼女は思わず甘い吐息を漏らした。湯の中で胸がふわりと浮かび上がり、湯面に柔らかな波紋を広げる。火照った肌が湯の熱でさらに上気し、肩から胸元にかけてほんのり桜色に染まっていた。 「すごく気持ちいい……」 湯気が白く立ち上り、彼女の火照った肌に甘くまとわりつく。エレナは目を閉じ、唇を少し開けながら、湯の温もりに全身を委ねていた。まるで内側から溶かされるような心地よさが広がっていく。 『旅と言うには、随分と快適すぎる気がするが……』 「昔はそうだったのかもしれないけど、今は違うよ? こうして……あったかくて、気持ちよくて……誰かと一緒にいるだけで、十分旅だと思うな」 しばらくして湯から上がると、エレナは柔らかなタオルで身体を拭い始めた。湯でしっとり火照った肌にタオルが滑るたび、胸の柔らかい曲線が一瞬だけ強調され、桜色に染まった肌が艶やかに光る。 「よしっと、これで寝る準備もバッチリ」 ローブの裾を軽く払い、エレナはふかふかのソファへ身を沈めた。柔らかな布地が背を受け止め、肩からゆっくりと力が抜けていく。 長い一日の輪郭が、少しずつ滲んでいく。瞼の重みが増し、呼吸が穏やかな波に変わる。柔らかな金髪が頬にかかり、指先がふっと力を失った。 微睡みは、誘うというよりも、迎えに来るようだった。 旅も、こんなふうにくつろげるのなら悪くない。そんな満ち足りた気配をそのままに、エレナの意識はゆっくりと微睡みへ沈んでいく。────エレナの視点──── 石造りの螺旋階段を、私たちは息を切らしながら駆け上がっていた。 ごつごつとした壁が、手に持つ灯りの光を不気味に反射している。下層から響いていた激しい戦闘音は、もう聞こえない。石段を踏みしめる足音と、荒い息遣いだけが、神殿の静寂を破っていた。 「グレンさん、大丈夫ですかね……!?」 ミストさんの不安そうな声が、静寂に包まれた階段に響いた。その声には、仲間への深い心配が込められている。 「……きっと、大丈夫!」 何の確証もない。けれど、私の胸の奥で、温かい光のようなものが「大丈夫だ」と囁いていた。それは昔から私の中に宿る、聖女としての直感のようなもの。 「私の直感が、そう告げてるの!」 「えぇ!? そ、そんな直感が……!?」 ミストさんが驚きの声を上げる。 (私も原理は分からんが……エレナには、その力が間違いなく備わっている。運命そのものを、その祈りの力で強引にねじ曲げてしまうような、不思議な力がな。だから、今回もきっと大丈夫だ) エレンの声が、私の内側で静かに響いた。 (うん……!) 彼の言葉が、私の直感を後押ししてくれる。 「それなら良いが……慢心はするなよ」 シイナさんが、冷静に釘を刺した。 「未来が見えるからと、それに胡坐をかいて行動するようでは、今の暗明の聖女と何も変わらないからな」 「……うん、そうだね。私は、この直感を絶対に正しいなんて、傲慢なことは思わないよ」 私にできるのは、この直感を信じつつ、でも決して過信しないこと。神様のお導きを感じながらも、自分の足で歩むこと。 「そこが、エレナさんの素敵なところですね」 シオンさんが、静かに微笑んだ。 その時、長く続いた階段が終わり、私たちの目の前に、だだっ広い広間が見えてきた。天井は高く、月光が差し込む窓から、青白い光が石床を照らしている。 「きっと、ここにも残りの騎士が待ち構えていることだろう」 「その時は、私が残ります」 シオンさんの言葉に、ミストさんが待ったをかける。 「いやいやいや! そこは私でしょうー!!」 「……?」 シオンさんが、心底不思議そうに首を傾げた。 「そのお顔はなんですかァァ!?」 「いえ……だってあなたは、戦いがあまり得意な方ではないでしょ
**────エレナの視点────** 「じゃあ皆、各々準備してくれ。五分後にはここを出て、リディアさんを助けに行くぞ」 シイナさんの力強い言葉に、私たちは一斉に頷いた。この小さな家の中に、静かだが確固たる決意が満ちている。みんなの表情に迷いはない。先ほどまでの混乱が嘘のように、今は一つの目標に向かって心が結束していた。 五分という短い時間の中で、私たちはそれぞれの装備を確認し、心の準備を整える。月光が窓から差し込み、武器の金属部分を青白く照らしていた。この静寂が、嵐の前の静けさのように感じられてならない。 「準備はいいか? 今回、ジンが大方の騎士は無力化してくれたという話だ。恐らく…すぐに四騎士との戦闘になるだろう」 シイナさんの声に緊張が走る。四騎士——この国の最強戦力との戦いが待っているのだ。 「ここの騎士たちの数は多かったからね。でも、気を付けて」 ジンさんが軽やかに言葉を続ける。 「流石に全部を倒すわけにもいかなかったから、十人程度は残ってるはずだから」 「それでも、そんなに多くの騎士を戦闘不能にするなんて……」 私は驚きを隠せなかった。一人でそれほどの騎士を相手にするなんて、どれほどの実力者なのだろう。 「はは、聖女様に褒めてもらえるなんて。なんだか嬉しいよ」 ジンさんの表情に、子供のような無邪気さが浮かんでいる。しかし、その奥に潜む何かが、私の心に小さな不安を芽生えさせた。 「ね、念の為に聞くのですが……殺しはしてないですよね……?」 恐る恐る尋ねた私の質問に、ジンさんの表情がふっと変わった。まるで別人のような、冷たい光が瞳に宿る。 「……剣を抜いた以上、お互いの命が尽きるまで刀を振り合うべきだと僕は思っているんだ」 その一言に、背筋が凍りつくような恐怖を感じた。ジンさんの声音には、戦いへの狂気じみた情熱が込められている。私の心臓が、ドクドクと激しく鼓動を刻んでいた。 「でも……今回は大丈夫。殺してないよ」 そう言って見せる笑顔は、まるで何事もなかったかのように穏やかだった。しかし、その急激な変化が、かえって不気味さを増している。 (今回は……? ということは、普段は……?) 心の奥で、暗い想像が渦巻いていた。 * * * 五分後。静寂を破って、私たちは行動を開始した
**────エレナの視点────**「という訳なんだ」ジンさんの軽やかな口調で語られた残酷な現実に、私の心は氷のように凍りついてしまった。リディアさんが捕らえられて、処刑される。その事実が、どうしても受け入れることができなかった。「そ、そんな……嘘ですよね??」私の声が震えている。まるで悪夢から覚めたいと願うかのように、その言葉にすがりついた。「……こんな時に嘘なんてつかないよ」ジンさんの飄々とした口調が、現実の重さをより一層際立たせる。「……くっ!!!」シイナさんが拳を強く握りしめ、歯を食いしばっている。その青白い顔に、激しい怒りと悲しみが刻まれていた。「皆は先にこの国を脱出してくれ……!俺は……俺はリディアさんを助けに行く!!」シイナさんが勢いよく立ち上がり、扉に向かって歩き出そうとする。その瞳に宿る決意の炎は、誰にも止められないほど激しく燃えていた。「待てよ!!そんなの俺たちだって同じ気持ちだ!」グレンさんが力強く立ち上がる。彼の声には、シイナさんに負けないほどの強い意志が込められていた。「ええ……彼女には計り知れないほど多大な恩があります。なので……グレンと私でリディアさんを救出に向かいます」シオンさんの顔に、鋼のような決意が浮かんでいる。「シイナ、あなたこそエレナさんやミストさんと共に先に脱出してください」「だめだ!今回はパーティリーダーの責任として、俺が行く!」「シイナ!」「俺が、彼女を助けてすぐに戻ればいいことだろう!」「おいシイナ!俺がやられたテッセンとかいうやつの事を忘れたわけじゃないだろ!?少し落ち着け!」三人の激しい言い争いが、小さな家の中に響き渡る。誰も一歩も引かない様子で、感情のままに言葉をぶつけ合っていた。「あわわわわ……みなさん!こんな時に言い争ってる場合じゃないですって!」ミストさんが慌てて三人の間に割り込もうとするが、激しい感情の渦に巻き込まれ、弾き飛ばされてしまう。「ぎゃー!!」(みんな……冷静さがすっかり抜けて、これじゃあ救える命だって救えないよ……!)(それに……私だってリディアさんを助けたいのに……)私の心の中で、やりきれない想いが渦巻いている。みんなの気持ちは痛いほど分かるけれど、このままでは誰も救えない。そう考えていた、まさにその瞬間だった。私の意識が、まるで深い
**────ジンのの視点────** やる気か、と。僕は心の中で、小さく呟いた。 ここは冒険者ギルド。依頼と情報が交差する、いわば中立の聖域だ。そんな場所で騎士が刀を抜き、殺し合いを演じようというのだから、面白い。実に、面白い。 僕は向かってきた騎士の剣戟をいなすどころか、その勢いを逆に利用して体ごと弾き飛ばした。空中で無様に体勢を崩した彼の喉笛へ、僕は逆手に持ち替えた刃を、まるで吸い込まれるかのように滑らせる。「がぁっ……!」 声にならない呻きを漏らし、騎士が床に崩れ落ちた。口からごぼりと泡を吹き、痙攣する手足が、彼の命が尽きかけていることを示している。 仲間の一人が一瞬で無力化されたというのに、残された騎士たちは状況が飲み込めていないらしい。驚愕に見開かれた目が、滑稽なほどにこちらを向いていた。「き、貴様っ! 正気か!?」「あはは、面白いことを言うね、君。先にその物騒な鉄の獲物を抜いたのは、そっちじゃないか」「そ、それにしてもだ! 我々騎士に刃向かうなど、あってはならないことだぞ!?」「残念だけど、僕はそんな立派な冒険者様じゃない。僕はジン。世界を渡り歩く、ただの傭兵だからね」「ジン……!?」 その名に、騎士の一人が息を呑んだ。どうやら僕の名も、多少は裏の世界に知れ渡っているらしい。「くそっ……! やられて黙っていては、騎士の名が廃る! こいつも捕縛しろ!」 別の騎士が、その手に蒼い水の魔力を纏わせながら、僕へと突進してくる。ギルドの中で属性魔法を放つ? ああ、本当に、愚かだな。「はぁ……後悔しても、知らないよ」 僕は腰に差した愛刀「雪月花」の鯉口を切ると、一閃、抜き放った。 (鳴神式抜刀術――神威の型。) 空気を切り裂く音だけが響き、騎士の右腕が、ごとり、と鈍い音を立てて石床に転がった。「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!! お、俺の腕がァァァァッ!!」 やかましいね。腕の一本や二本、飛んだくらいで喚くなんて。自分から仕掛けておきながら、いざ返り討ちに遭えば獣のように吠え立てる。弱者の典型だ。「お、お前……! 自分が何をしたか、分かっているのか!?」「さっきも言ったはずだよ。先に始めたのは、そっちだってね」 僕は刀身に付いた血を振るい、ゆらり、と笑みを浮かべた。「まだまだ足りないな。……もっと、殺り合おうよ」 ああ、い
(この声に気配……覚えがある)エレンの意識が、私の奥底で警戒の炎を燃やし始める。(私もそう感じてた……なんだか、すごく(身に覚えがあるような……)(確か、夜の街で我々を襲撃してきた傭兵……名は確かジン……と言ったか)その名前を耳にした瞬間、あの記憶が、鮮血のように鮮やかに脳裏へと蘇ってきた。霊たちが彷徨う夜の街で、昼間の平穏な探索が一変した瞬間。突如として現れた謎の傭兵——。その圧倒的な実力は私には理解の範疇を超えていたけれど、エレン曰く、これまで戦った敵の中でも別格の強さを誇っていた……と。(そ、その人がなんでこんな場所に!? まさか、私たちを追ってきたの!?)(さあな。だが……敵意は微塵も感じられない。それに何か重要な情報を知っているようだ)(ここは一か八か、直接対峙してみるのも選択肢の一つだろう)「エレンが敵意は感じないから……出てみるのも一つの手だって……」私はシイナさんに、内心の不安を隠しながらそう告げる。「敵意を感じない……か。グレンもミストも意識を取り戻したことだし、直接話してみるか?」シイナさんの声に、慎重な判断力が込められている。(ああ、そうしてみてくれ)「そうして見てほしいって……」エレンの助言をそう伝えると、シイナさんが深く頷き、警戒を込めて扉の前へと歩を進めた。「何用だ」シイナさんの声が、扉越しに響く。「あれ、やっぱりいるんじゃないですかー」その飄々とした口調に、底知れない余裕が滲んでいる。「やあ、僕はジン。リディアっていう方からの重要な伝言があるんだけど、扉を開けてもらえないかな?」「残念だが、こちらにも複雑な事情があってな。このままでお願いしたい」シイナさんの慎重な対応に、扉の向こうから軽やかな笑い声が響く。「……あーそっか、いまこの国から追われてるんだっけ。それなら心配しなくていいよ」「大体の騎士は僕が片付けたから」「な、何だと!?」シイナさんの声が、驚愕に震える。「えっ!??」私も思わず声を上げてしまった。「ま、待て! この国の騎士一人一人は精鋭と言っても過言ではないほどに優秀だ。それをお前は単身で制圧したというのか?」「はは。まぁ確かにこの国の騎士はよく鍛錬されていたね。でも、僕も実力には自信があるんだ」その軽やかな口調で語られる内容の恐ろしさに、私たちは言葉を失った
**────エレナの視点────**次の日。「みなさん!!!!本当にご迷惑をおかけしました!!!」「本当に面目ねぇ……!!!今回迷惑かけた分は、必ず挽回するぜ!」二人が目を覚ましたんだ。あんなに傷だらけで、ずっと目を覚まさなかったグレンさんも元気になって、本当に良かったと思う……。でも……。聞かないといけない。二人に、何があったのか。「それより……二人に何があったんですか?なんで……グレンさんはあんなに傷だらけだったんですか……?」私がそう尋ねると、グレンさんが急に口を噤んでしまう。数秒の重い沈黙が部屋を支配すると、やがて言いにくそうにグレンさんが口を開き始めた。「お前たちが情報収集に行った数時間後、とんでもなく強い奴が現れたんだ」「とんでもなく強い奴?」シイナさんの声に、緊張が走る。「ああ。全身に見たこともない鎧を着て、刀を使っていた」(見たこともない鎧に刀……か)エレンの声が、意識の奥で静かに響く。「そいつは……全く俺の攻撃が通じなかった」「なに!?グレン、お前の攻撃がか!?」シイナさんは心底驚いたような様子を見せる。グレンさんの実力を知っている彼だからこその驚きだった。(…………)エレンが沈黙している。何かを考えているみたいだ。「ああ、正直全く底が見えなかったぜ。戦ってる感触としては……エレンに近かったかもな」「エレンに……?」私の声が震える。エレンと同じくらい強いなんて……。「それは……かなり厄介そうですね」シオンさんの美しい顔に、珍しく深刻な表情が浮かんでいる。「厄介なんてもんじゃねぇよ。あいつは俺の攻撃を全部受け止めやがった」グレンさんは、私たちのパーティ内でも屈指の攻撃力を持つ







