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第32話:ミルサーレ村

Penulis: 渡瀬藍兵
last update Terakhir Diperbarui: 2025-06-10 19:01:45

夜の湿り気を吸った土が陽の光に温められ、生命力に満ちた若草の匂いが風に運ばれてくる。昨日までの重苦しい沈黙が嘘のように、世界は澄み渡った音色を奏でていた。

私たちはようやく、次なる目的地――メモリスへ向かう準備を整えていた。

「そういえば……まだ、この村の名前を伺っていませんでした」

私は村長さんへと歩み寄り、そっと微笑みながら尋ねた。

“呪われた村”と呼んできたけれど、この村が背負ってきた痛みを、その一言で終わらせてしまうのはなんだか寂しい。この場所が取り戻した“本当の名前”を、ちゃんと私の心に刻んでおきたかったんだ。

「……! おお、この村はミルサーレ村じゃ。昔は、上等なミルクが名物でのう……」

ミルサーレ村。

その優しい響きに、かつてこの痩せた土地に広がっていたであろう、穏やかで牧歌的な風景が目に浮かぶようだった。

「大丈夫ですよ。皆さんは呪いに打ち勝ったんですもの。きっとまた、甘いミルクの香りがする素敵な村に戻れます」

私の言葉に、村長さんは深く刻まれた皺の奥の瞳をわずかに潤ませ、何度も、何度も静かに頷いてくれた。

「では……皆さん、お元気で」

私たちがそう告げて歩き出そうとした、まさにその時だった。

「ちょっと待ったァ!!」

村の後方から、やけにけたたましい声が響き渡る。

そこにいたのは、かつて私たちを襲おうとした元盗賊の六人組。なぜか、お世辞にも立派とは言えない、かなり不格好な馬車を引いている。

「はぁ……はぁ……間に合ったぁ……!」

「ほらよ! あんたらにゃ迷惑かけたからな! 昨日の晩から村の近くで一番速そうな馬、捕まえてきたぜ!」

「馬車もな……あり合わせで急ごしらえしたから、正直、乗り心地は保証できねぇけど……!」

彼らは盛大に息を切らしながらも、照れ臭さと誇らしさがごちゃ混ぜになった、まるで悪戯が成功した少年のような顔で笑っていた。

「マジか! サンキュー!!」

一番に反応したグレンさんが、満面の笑みで馬車へ豪快に飛び乗る。

「せっかくだ。彼らの厚意に甘えよう」

シイナさんが私たちを振り返り、静かに促した。私たちは一人ずつ馬車に乗り込み、ぎしぎしと鳴る座席に腰を下ろす。

「んじゃ、行くぜぇ! きっかり30分でメモリスに着けてやらぁ!」

車輪が不協和音を奏で、馬車はゆっくりと、しかし力強く動き始めた。

身体を揺さぶる無骨な振動は、確かに乗り心地が良いとは言えない。でもそれ以上に、彼らの不器用な優しさが確かな温もりとして、じんわりと心の中を満たしていくのを感じた。

「またねー!! 聖女様ぁ~~!!」

「仲間の皆さんも~~!!」

子どもたちのまだ少し舌足らずな声援が、風に乗ってどこまでも私たちを追いかけてくる。その隣では、村人たち全員が晴れやかな笑顔で、ちぎれんばかりに手を振っていた。

私も、仲間たちも、その光景が地平線の向こうに消えるまで、しっかりと手を振り返した。

──たしかに、ここは“呪われた村”だった。

でも今は違う。

これは、紛れもない「希望への旅立ち」そのものだった。

***

──そして。

「もう間もなくだぜぇ~~!」

外から陽気な声が響き、私は少し身を起こして顔を覗かせた。

視界に飛び込んできたのは、朝日を浴びて白亜に輝く、巨大な城門。その表面には緻密にして華麗な金の装飾が施され、単なる“街の入り口”というより、“王国の玄関口”と呼ぶべき荘厳な空気を纏っていた。

ガタン、と今日一番の大きな音を立てて馬車が止まる。

私たちは順番に、メモリスの大地へと足を下ろしていった。

「おう、ありがとなお前ら! 大助かりだぜ!」

グレンさんが元盗賊たちの背中を感謝の意を込めて力強くバンバンと叩くたび、彼らが「ぐっ」とカエルのような呻き声を上げている。

(グレンさん……その感謝、たぶんすごく痛いと思うんだけど……)

「ありがとう。心から感謝する」

シイナさんは優雅に一礼して感謝を伝える。その横では、ミストさんが門を見上げて唸っていた。

「んー! これはまた壮麗な門ですねー! この規模はもはや“街”ではなく“王国”クラスですよ! 素材は白亜長石、金の装飾は魔力的な意味合いよりも権威の象徴と見るべきか、いやしかしこの紋様の配列は……ぶつぶつ」

分析モード全開。いつも通りのミストさんで、なんだか安心しちゃうな。

先に降りていたシオンさんが、そっと私に手を差し出してくれる。その騎士のように優しいエスコートで、私は無事に馬車から降りた。

全員が地に足をつけたのを見届けると、元盗賊たちは高らかに叫んだ。

「では皆さん!! 達者でな!! いつでもミルサーレ村に来てくれよな!!」

彼らはそう言い残し、満面の笑みで馬車を走らせていった。

「ここが……メモリス……」

私が門を見上げながら小さく呟いた、まさにその時だった。

「「「ぎゃあああああ!!! 馬車が分解したァァァ!!!」」」

盛大な破壊音と共に、とんでもない絶叫が後方から響いた。

慌てて振り返ると、ほんの少し先で荷台と車輪が悲しい泣き別れをした馬車の残骸を前に、彼らが呆然と立ち尽くす姿が見える。

「おーい! 大丈夫かー!?」

グレンさんが門の前から大声で呼びかけると、やがて彼らの中から吹っ切れたような声が返ってきた。

「だ、大丈夫だぁぁぁ!!! 俺たちのことは気にせず行ってくれぇぇぇ!!!」

(本当に大丈夫なのかな……)

心配なのに、どこかおかしくて。

あの人たちらしい、あまりにも豪快な結末に、自然と口元が綻んでいた。

──新たな旅路の、その玄関口。

私たちはメモリスの門番のもとへと、希望を胸に、ゆっくりと歩き始めた。

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