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第60話:告白

Author: 渡瀬藍兵
last update Last Updated: 2025-08-15 12:55:11

「はぁ……はぁ……っ……」

呪詛の最後の残滓が消え、アイナの巨体は、糸が切れた人形のように石畳へと崩れ落ちた。

(とてつもない強さだったな……)

(うん……エレンが……こんなにボロボロになるなんて……今まで一度もなかった)

(ああ、はっきり言ってギリギリだった)

アドレナリンの奔流が引き、代わりに全身を駆け巡るのは、灼けるような痛みと、鉛のような疲労。張り詰めていた意識の糸が、ぷつりと切れる。

「だが……私たちの勝ちだ」

その一言を最後に、私の身体もまた、膝から崩れ落ちた。

「エレンさん!」「エレン!」「エレン様!」

仲間たちが、それぞれの表情に焦りと安堵を滲ませながら、私の元へ駆け寄ってくる。

その喧騒の中、か細い呻き声が響いた。

『ァァァ……』

アイナが、苦痛に身を捩っている。その姿に、シオンの顔が、絶望に彩られた。

(シオンさんに…あんな悲しい顔……させたくない……)

(ああ…私とて同じ気持ちだ)

(だから……エレン、入れ替わろう)

エレナが、静かに、しかし、揺るぎない意志を持って告げる。

それは、仲間たちへ私たちの秘密を明かすということに他ならない。

その言葉の重さに、私の思考が凍てつく。

危険だ。

聖女となる彼女の身が、常ならざる状態にあると知られれば、国が傾く。ベルノ王国にとって、エレナはそれほどまでに重要な存在なのだ。

そして、もう一つの懸念。

仲間たちが、私たちを拒絶する可能性。二人で一つの魂。その特異な繋がりを、彼らが「不気味だ」と感じ、離れていってしまうかもしれないという、冷たい恐怖。

この仲間たちに限って、そんなことはあり得ないと、理屈では分かっている。

だが、エレナのこととなると、私は臆病になる。

(エレナ……本気なんだな?)

私は、魂の奥底で、真剣な声音で問いかける。

(うん……。確かに、ちょっと……ううん。すごく怖い)

彼女の声が、微かに震えているのが伝わってくる。

大切な仲間だからこそ、拒絶されるのが怖い。当然の感情だ。

(でもね、さっきも言ったけど……みんなに隠し事をしなくて済むって、そう考えると、心が軽くなるんだ。ありのままの私たちで連携できれば、もっと強くなれる)

それも、また事実だ。

エレナが表にいる時は、全員で彼女を守る。私が表にいる時は、全員が攻撃に転じられる。私たちの力を最大限に引き出すには、この秘密を共有することが不可欠。

(…………では、本当に入れ替わるのだな?)

(…………うん)

震えの中にも、決して覆らない覚悟の光が宿っているのを、私は確かに感じ取った。

ならば。

ならば、私の為すべきことは、ただ一つ。

彼女の選択を、尊重する。

その選択が、今後どれほどの困難を引き寄せようとも。

この私、エレンが、その全てを振り払う。

「わかった。では、エレナ……君の考えを、私は尊重する」

私の口から紡がれたその言葉に、仲間たちが一斉に驚きの表情を浮かべた。

「えっ?? やはりエレナが近くに?」

シイナが、きょろきょろと辺りを見渡す。

ふふ。皆、さぞ驚くことだろうな。

違うんだ、シイナ。彼女は、近くにいるんじゃない。

この身こそが、エレナなのだ。

だが、エレナと入れ替わるその前に……。

私には、果たさなければならない責務があった。

(エレン……?)

「皆に……話がある」

私の、か細く、しかし、決意を乗せた声に、仲間たちの視線が集まる。

抉られた肩の痛みと、全身の疲労で、立っていることさえ覚束ない。だが、私はふらつきながらも、仲間たちの前に立ち、そして――

「何が起きても、彼女を……彼女だけは、受け入れてやってくれ」

その場に膝をつき、深く、深く、頭を下げた。

このエレンが、生涯で誰かに見せる、最初で最後の懇願だった。

「ちょ、ちょっと待ってください、エレンさん!」

シイナが、慌てたように制止の声を上げる。

「一体……どういうことなんですか?」

「そ、そうだぜ!アンタは魔法を使えないはずなのに、どうしてエレナと同じ光を……!」

グレンの問いに、私は答えない。ただ、頭を下げ続ける。

私のこの行動が、全てを物語っている。

「信じられないかもしれないが……見せた方が、早いだろう」

私は、最後の力を振り絞り、言葉を紡ぐ。

「どうか、頼む。たとえ私を拒絶したとしても、彼女を拒絶するのは、やめてくれ」

そう言って、私は意識を手放した。

深く、温かい、彼女がいる魂の海へと、沈んでいく。

──────

エレナの視点

──────

エレンの、燃えるように激しい守護の意志が、潮が引くように遠ざかっていく。

その温かい残滓を胸に、今度は、私、エレナの意識が、ゆっくりと表層へと浮かび上がってきた。

閉じていた瞼を、そっと開く。

世界が、新しい光で満ちていた。

そして、仲間たちの目の前で、奇跡が起きる。

私の身体から、再び黄金の光が奔流となって溢れ出し、その光が、物理的な肉体さえも変容させていく。

戦いで汚れた黒い装束は、光の粒子となって霧散し、清らかな白い衣服へと再構築される。

血と汗に濡れた銀の髪は、その色を失い、輝くような黄金の髪へと変わっていく。

そして、私が顔を上げた時、その瞳は、戦士の紅ではなく、聖女の慈愛を宿した碧に、澄み渡っていた。

(エレン……あなたが私のことを本当に大切に思っているのが、痛い程に伝わってきたよ…)

ずっと前からわかっていたけど……今回は、特に強く感じたんだ。

それが、嬉しくて、嬉しくて……

だから、今度は、私の番。

私は、息を呑んで立ち尽くすみんなと、まっすぐに向き合った。

「こ、こ、こ、こ、これは一体どういうことですかァ!!!??」

静寂を破ったのは、ミストさんの、悲鳴に近い絶叫だった。彼女は数歩後ずさり、その知的な瞳が、混乱と、それを上回るほどの好奇心に見開かれている。

「うっそだろぉ!??? エ、エレンが……エレナだったってことか!?」

グレンさんは、口をあんぐりと開けたまま、ただただ私と、先ほどまでエレンがいたはずの空間を見比べている。

「…………!!」

シイナさんは、警戒を解かないまま、しかしその表情は驚愕に染まっている。

そして、シオンさんは……誰よりも静かに、ただ、その光景を呆然と見つめていた。アイナさんの変貌を目の当たりにした彼の心に、この奇跡は、一体どう映っているのだろうか。

仲間たちの、それぞれの反応。

恐怖、混乱、驚愕、そして、ほんの少しの期待。

その全てを、私は、受け止めなければならない。

私は、震えそうになる声を、ぐっとこらえ、ゆっくりと口を開いた。

「皆さん……エレナです」

「そして……先ほどまで皆さんと話していたのが、私の最高の相棒、エレンです」

「信じられないかもしれませんが……」

私は、そこで言葉を区切り、精一杯の、本当に、精一杯の笑顔で、こう続けた。

「私たちは……二人で、一つなんです」

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