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第90話:夜が明ける前に

Auteur: fuu
last update Date de publication: 2025-12-01 23:00:57

灯の油が細く焼け、私室に甘い香が残っていた。大聖堂の香炉の匂いが衣に移ったのだろう。窓の外はまだ群青。鐘は鳴らない。街は勝利の夜を飲み切って眠っている。

皇子は外套を椅子に置き、肩を落とした。

「……終わったね」

王子は杯に水を注ぎ、彼の手に触れないよう添えて渡した。

「条約婚の署名は済んだ。公開の儀は夜明け。お前は前に立つ」

「うん。怖いより、やる」

声は疲れて低い。それでも芯があった。地下街で商人組合の頭目と渡り合ったときの響きだ。納骨堂の司庫の老女が唸り、聖具庫の鍵を渋々差し出したのを王子は見ていた。

「……納骨堂の祭壇、冷たかった」

皇子が笑おうとしてやめた。指先が僅かに震える。

王子は頷いた。

「冷たさは終わりだ。数珠は返した。骨壺の蓋は封じ直した。大聖堂、地
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