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③戸惑い

Penulis: 美桜
last update Terakhir Diperbarui: 2025-06-14 08:47:19

「奥様はまだお戻りになってません」

会社での残業を終えたのは11時を過ぎた頃で、それから車で自宅に戻り、玄関を入ったところで出迎えに出てきた家政婦の花田美和にそう言われた。

「なんだって?」

希純は眉を顰め、腕時計を見た。

主婦が出歩くような時間ではない。

子供がいないからと、彼女はちょっと自由にしすぎじゃないか?

普段彼の妻は彼が帰宅した時、家を空けていることなどない。

それどころか何時に帰ろうが、特に言い伝えておかない限り、必ず起きて待っていた。

そんな彼女が今日に限ってまだ帰っていないだと?

希純は今日の昼間、会社の特別室で起こった彼と妻とその妹のいざこざを思い出し、彼女が怒って家出まがいのことをしているのだろうと思った。

彼は携帯を取り出し、美月の番号を出した。

だがすぐに連絡をするのは甘やかしのような気がして、そのまま画面を消し、携帯もしまった。

ふんっ、少し躾が必要だな…。

「旦那様?」

「いや、なんでもない。彼女もたまには遊びたいんだろう。放っといていいよ」

寛容な態度でそう言うと、何か言いたげな花田を残し、希純は階段を上がって行った。

連絡がなくて不安になるがいい。いつまでも甘やかしてもらえると思うなよ、美月…。

真っ暗な寝室に入り、不機嫌に脱いだ上着をベッドに投げ捨てた。

ちっ!主婦としての自覚はないのか!?

彼女がいないことで、彼は全てのことを自分がやらなければならないことに苛立っていた。

俺は働いているんだぞ!ピアノを弾く以外、あとはなんでも好きにさせてやってるのに、一体なにが不満なんだ!?

希純は昼間の出来事に腹を立てていたが、だがふと、美月が身体を震わせながら涙を流していたことを思い出し、胸がズキリと痛んだ。

まさか本当に怪我をしたのか…?

希純は彼女の真っ赤に染まった両手を思い出して、急に不安になった。

だが事前に奈月から彼女の企みを聞いていたことも思い出して、その考えを振り払った。

美月はわざわざ血糊まで用意して、わざとピアノの蓋を自分の手の上に落としたのだ。

ただ夫である自分の関心を引きたいが為に、ほんの少しの高さからとはいえ、大切な手を傷つけようとする行為を躊躇いもなくするなんて、信じ難いことだった。

でも実際、彼女はやってしまった!

憐れを誘うように涙を流し、あまつさえ、それを奈月にされたのだと訴えるとは!

自分の血を分けた妹に濡れ衣を着せて被害者ぶる、その薄汚い心根に嫌悪感しか湧かなかった。

今頃彼女は計画が上手くいかなくて、苛立っているに違いない。きっと恥ずかしくて帰るに帰れないのだろう…。

そう自分を納得させて、希純は無意識に口元をにやけさせた。

妻が自分にそこまで執着している様が、ひどく心地よかった。

胸の中の小さな不安の芽をひねり潰した希純は、シャワーを浴びてさっさとベッドに入った。

妻の帰りを待つ気はなかった。

そうして希純が妻の死を知らされたのは、3日後のことだった…。

美月が家に帰らなくなってから毎日、何度も何度も電話がかかってくる。初めは美月の携帯から。夫がそれに出ないと分かったのか、次は友人や全然知らない番号から。それにも出ないと分かると、次に彼女がやったことは警察を名乗る誰かや、病院を騙る誰かにメッセージを送らせることだった。

あまりにもしつこくてうんざりした希純は、遂に3日目、鳴り続ける着信音に不機嫌に応えた。

「いい加減にしろっ、会議中だぞ!」

手を振って一旦休憩にすることを告げると、希純は低い声で威圧的に言った。

『あぁ、やっと通じた。こちらはY総合病院です。あなたは佐倉美月さんのご家族であっていますか?』

相手はあからさまにホッとしたように、だが、この機会を逃すものかという気迫で喋り続けた。

「……」

『もしもし?もしもし?あれ?聞こえてますか?』

希純が黙っていると、相手は焦ったように早口で問いかけてきた。

「この芝居、いつまで続くんだ?」

『芝居?何を言ってるんですか!いいですか、よく聞いてください!3日前の午後2時過ぎ、佐倉美月さんはタクシー乗車中交通事故に遭われ、深刻な状態で当病院に運び込まれました。警察や我々が何度もご連絡差し上げましたが通じなかったので同意書なしで治療にあたらせていただきましたが、今朝方お亡くなりになりました。つきましてはー』

「は?」

ペラペラと一方的に話されて苛ついたが、その内容に思わずグッと力が入った。

だが最後に聞いた一言に遂に声を発した。

「おい、冗談も過ぎれば笑えないぞっ。美月に伝えろ。今ならまだ許してやる。今日帰らなければ離婚だ、とな!」

希純が怒りを抑えた声音で言うと、彼の耳にため息が聞こえた。

『佐倉さん、これは冗談ではありません。佐倉美月さんは今朝方お亡くなりになりました。つきましては、一度当病院にお越しになってください。いろいろと手続きもございます。それから…ご遺体をどのようになさるかもお伺いする必要があります。本日お越しいただけますか?』

その口調から、この電話の相手が希純のことを腹立たしく思っているのがわかった。

丁寧ではあるが、つっけんどんな口調。

だが希純はまだ疑っていた。

本当ならなぜ誰も知らないんだ?なぜ誰も自分に知らせてこないんだ?家族は自分だけじゃない。彼女の両親や妹、誰も自分に言ってこなかった!

「今から行く。どこに行けばいい?」

『Y総合病院の受付にまずはいらして下さい。ご案内いたします』

「わかった」

電話を切ると希純はすぐに秘書の中津(なかつ)を呼び出し、会議は中止、今日の予定は全てキャンセルすることを伝えた。

「社長、いかがなさいました?」

「Y総合病院に行く」

「お加減でもー」

「美月が死んだらしい」

「え…!?」

驚愕に目を見開いて固まった中津は、手に持っていたファイルをバサバサッと落としてしまった。

「い、いつ…」

「今朝だ。3日前に交通事故にあって、今朝死んだらしい」

「!!」

中津はみるみる青褪めていき、ゴクリと唾を飲み込んだ。

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