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第530話

Author: ルーシー
そのときの拓海は、目に入るものすべてが癪に障った。

何を見ても腹が立つ。

何を見ても気分が悪い。

道端を横切った猫にさえ、思わず悪態をつく。

「何見てんだよ。

さっさと帰れ!」

怒鳴られた猫は、びくっとして一目散に走り去った。

拓海は振り返り、自分の車へ戻る。

ドアを乱暴に閉め、車内でひとり、拗ねた怒りを膨らませた。

そのとき、スマホが短く鳴った。

ラインの通知音だ。

拓海は慌てて手に取り、画面を見る。

案の定、玲奈からだった。

通知を見た瞬間、頭上にかかっていた霧は一気に晴れた。

だが内容を読んだ途端、また雲が差す。

玲奈のメッセージはこうだ。

【心晴に伝えて。

用事ができたから先に帰る。

明日またお見舞いに行くって】

そこには拓海の名前も、気遣いの一言もない。

彼のことには一切触れていなかった。

拓海は返信しなかった。

それどころか玲奈のプロフィールを開き、「連絡先を削除」の項目まで押しかけた。

一瞬、本気で消してやりたいと思った。

――でも、指が止まる。

消して、もう二度と追加してくれなかったら?

拓海は結局押せなかった。

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