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第5話

Penulis: ルーシー
玲奈が目を覚ました時にはすでに病室のベッドに横たわっていた。

一華は彼女の状態を確認しに来て、あと二日しっかりと休んだら退院していいと伝えた。退院した後も、体調を考えて、一カ月は無理をせずにゆっくり休むよう言った。

玲奈は一華に言われた通りにすることにした。彼女はもうまるまる一カ月はしっかり休養を取ると決めていたのだ。

体は自分のものだから、自分がしっかり愛してあげなければ。

一華が去ってから、玲奈は携帯を取り出してそれをちらりと確認した。案の定、智也からの電話は一つもかかってきていなかった。

昨晩の出来事は、彼らにとって、きっとくだらない些細な出来事だったのだろう。

しかし、玲奈にとってあれは人生における重大なターニングポイントとも言える。

彼らへの執着を捨て去ってしまうのは、実のところ素晴らしいことである。これからの人生は精神的な苦痛に心をすり減らし、もがき苦しむ必要もないのだから。

そして無意識に、あるアプリを開いた。最初にお勧めに上がってきたのはあの深津沙羅の新たな投稿だった。それから名前の下にあるステータスメッセージにはこう一行書かれていた。『相手はきっとあなたの知っている人』

その投稿は、沙羅が小さな子供の手を繋いでいる写真だった。後ろ姿を見ただけで玲奈はすぐにそれが愛莉なのだと分かった。

そして写真と一緒に投稿されていたコメントは『必要とされる感じって本当にイイものだわ』だ。

そしてその背景は、あの小燕邸のリビングだった。

きっと慣れているからだろう、玲奈はただ淡々と乾いた笑いを漏らした。そして「興味ありません」ボタンをタップした。

こっそりと二人の不倫を探る日々は、これで終わりにしよう。

退院してから、玲奈は一カ月だけ家政婦を雇って、身の回りの世話をしてもらい、自分はたっぷり一カ月間ごろごろと過ごした。

一カ月後、彼女はその家政婦に給料を渡し、綺麗なロングスカートを履き、ナチュラルメイクをして、車を走らせ久我山へと向かった。

今日はまた新たな月の15日だ。この日は彼女と智也恒例の第二子、子作りの日だった。

実はこのセックスに関して、玲奈はあまり満足のいく経験をしたことはなかった。智也が毎回彼女と体を重ねるのは、それは義務的なものであって、できるだけ早く終わらせて沙羅の元へと駆けて行ったのだ。

しかし、今夜久我山に戻るのは、決してその子作りのためではない。彼女は智也と離婚についてしっかりと話し合うつもりだったのだ。

白鷺邸に到着した頃には夜の7時になっていた。山田は彼女が帰ってきたのを見て、夕食を準備した。

夕食を済ませた後、玲奈は二階にある書斎へと向かった。

離婚協議書はまだデスクの上に、先月彼女がここを去った時と同じ状態で置かれていて、全く誰かが触れた形跡もなかった。

紛うことなく、智也はこの一カ月の間、ここには一度も帰ってきていないのだ。

9時過ぎまで待って、玲奈がイライラしてきた時、突然ドアの外から足音が聞こえてきた。

ドアを開けてやって来たのは山田だった。

「若奥様、智也様から先ほど電話があり『今夜は用事があるから帰れない、来月また会おう』とのことです」

玲奈はその言葉を聞いて、苦い笑みを零した。

来月だって?

今日、彼女はここへ帰って来たが、来月となると保証はできない。

今まで自分をこのような牢屋に押し込めてしまい、もううんざりだ。疲れ果てた。

少し迷ってから、彼女は立ち上がり山田に伝えた。「次、彼がここに来た時、私から彼に渡すものが書斎のデスクの上にあると伝えてちょうだい」

山田は恭しくそれに応えた。「かしこまりました、若奥様」

玲奈はかばんを手に取り、白鷺邸を後にした。

彼女行く当てもなく車を走らせていた。

車でどこに行けばいいのか迷っている時、多くの若い男女たちが「久我山ホール」の門からちょうど外に出てくるのを見た。

そしてすぐ、そこにいた大勢はそれぞれ帰っていき、最後に出てきた三人に玲奈は視線をそらすことができなかった。

智也と沙羅が愛莉を挟む形で手を繋ぎ、お互いに見つめ合って話をしていた。

「ララちゃん、さっきはキラキラしててとっても綺麗だったわ、まるでお姫様みたい。

ピアノもとっても上手だった。私が大人になったら、ララちゃん私に教えてくれる?

ねぇねぇ、ララちゃん」

愛莉は両手で沙羅の手を握り左右に揺らしながら甘えた声で話していた。

この時沙羅は真っ白な長いロングワンピースのドレスを身にまとい、とても美しかった。まるで夜空の星がキラキラと瞬いているかのようだ。

彼女は優しい表情で、愛莉のほうへ軽く屈み、鼻を軽くちょんと突いて微笑んだ。「愛莉ちゃんがレッスンしたいのなら、喜んで」

それを聞いた愛莉は嬉しくて飛び跳ねた後、智也のほうへ顔を向けた。「パパ、ララちゃんってすっごい人なんでしょ?」

智也は目元を緩ませ、頷いた。「そうだよ」

彼は淡々とたった一言「そうだよ」と言っただけだったが、そこには喜びと誇らしさまで感じ取れた。

すると愛莉はさらに嬉しくなったようで「大人になったら、私もララちゃんみたいに素敵な女性になるんだから」と言った。

車のフロントガラス越しに、玲奈はその光景を全て目に焼きつけていた。

娘があんなに誰かを憧れ慕っている様子など、自分には向けてくれたことなどなかった。

しかし、それもそうだろう。結婚してからというもの、彼女はひたすら夫と子供に神経を使い、自分の容姿など構うこともなく、昔の趣味も全て捨ててしまい誇れるものなど何もなくなったのだから。

愛莉の目には、玲奈はただキッチンで忙しくしているだけの女でしかなく、それとは逆に沙羅は穢れのない純潔のお姫様に映っているのだ。

それを思い、玲奈の心はチクチクと痛み始めた。

ホールの入り口で、愛莉が両手を広げ、ぴょんぴょん跳ねまわっていた。「ララちゃん、抱っこしてー」

智也はその時愛莉を制止した。「愛莉、ララお姉ちゃんは今ドレスだから抱っこするのは難しいよ。車に乗ってから、膝に乗らせてもらったらいいよ」

それを聞いて愛莉はぶすっとした表情で不機嫌になってしまった。

沙羅はそれを見て、急いで腰を屈めて彼女を抱き上げた。それと同時に隣にいる智也に笑って言った。「大丈夫、愛莉ちゃんがいいなら、喜んで抱っこするわ」

智也は愛情に満ち溢れた目で微笑んでいた。

沙羅は愛莉を抱いて階段をおりた。愛莉はそんな彼女にぎゅっとしがみつき、思いっきり懐いている様子だった。そして智也は沙羅が着ているドレスの裾を後ろから持ってあげていた。

ビジネス界において成功を収め、業界にかなりの影響力を持ち、どのような批判を受けようとも腰を低くして自分の態度を変えることのないあの男が、ただ一人の女のために、そのドレスの裾を持つため姿勢を低くしている。

彼らは一緒に車に乗り込むと、そこから離れていった。

これがさっき夫が言っていた「用事がある」だ。

玲奈は思わず笑ってしまった。

車の中に暫く座っていると、突然電話がかかってきた。

それは病院からだった。

電話に出ると、玲奈は礼儀正しく「小野先生」と相手の名前を呼んだ。

玲奈は小児外科の専門家で、4年間専業主婦として子供の世話をしてから、病院に就職した。彼女は病院の中ではまだ新米の医者だった。

電話の向こうの小野は言った。「研修期間はもう終わっていいから、来週から病院に戻ってきてください」

玲奈は少し迷ってから、尋ねた。「確か、田舎に行って、小学校で奉仕活動する募集をまだしていましたよね?私、それに応募したいのですが」

小野は少し意外だった。「田舎のほうでの勤務は大変ですよ。あなたにとって昇級には大して役にも立たないでしょうし。確かに募集はまだありますけど、必ず行かなければならないというものでは……」

玲奈はそれでも決断した。「小野先生、私に行かせてください。休みをくれると思ってもらっていいですから」

彼女がどうしてもと言うので、小野もそれ以上は説得はせず、結局それに同意を示した。「分かりました、では、二か月の期間としましょう」

……

そうこうしているうちに、あっという間に一カ月が過ぎてしまった。

愛莉ももう幼稚園に通い始めて一カ月が過ぎていた。

連続で二か月も子作りに励んでいなかったので、智也は家族から催促され、15日のその日、いつもよりも早めに家に帰ってきた。

まだ6時になっていないのに、彼はすでに白鷺邸に着いていた。

山田は智也が先に帰って来たのを見て、とても驚いていた。「智也様、今日はこんなにお早いお帰りなんですか?」

智也は特に説明することもなく、二階にあがりながら、山田に言いつけた。「玲奈が帰ってきたら、寝室に来るよう伝えてくれ」

山田はそれに応え、智也があがっていくのを見送っていた。

書斎を通り過ぎる時、彼はそこの前で止まることなくまっすぐに寝室へと向かった。

彼がここに帰ってきた目的は二人目の子供を作るためだから、寝室以外の部屋に行く必要性など全くないのだ。

お風呂を済ませ、智也はベッドで待っていた。

7時、8時、そして9時と時間が過ぎていった……

3時間が過ぎても玲奈はまだ帰ってこなかった。

智也がもう待てないと思った時、外から足音が聞こえてきたのだった……
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