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弟の悲しみ2

مؤلف: 相沢蒼依
last update تاريخ النشر: 2026-08-02 05:43:37

(邪魔すんなよって、どうしてこんなことになったんだ? だって辰之は俺が好きなはずなのに――)

そう考えついた瞬間、昨日叫ばれた言葉が脳裏を駆け巡った。

『兄貴なんて大っ嫌いだ!!』

それまで、見たことのないくらいに怒っていた辰之。目を血走らせて俺を睨みあげ、怒りにまかせて大きな声を出した姿に、俺はひゅっと息を飲んで戦慄くしかなかった。

「辰之くん、また逢いに来るからね」

腰を抱き寄せていた手を放した若林先輩が話しかけると、なぜだか辰之はぎゅっと両目を閉じながら、利き手で口元を押さえた。しかも顔が、さっきよりも赤くなっている。

「辰之おまえ、体調がよくないんじゃないのか?」

「ちがっ…そんなんじゃな、いぃっ!」

あからさまにびくんと躰を震わせた辰之に駆け寄ろうとしたのに、一歩早く若林先輩が慌てて支える。

「俺と離れたくなくて、そんな顔してるんだもんな?」

「そう、です……。寂しくて」

肩で息をしつつ俯きながら答える辰之は、いつもの様子とは思えなかった。

「辰之……」

俺と目を合わせず若林先輩に躰をあずける姿は、まんま恋人同士に見えた。なにか声をかけて二人を引き離したいのに、
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  • こんなに好きなのに、伝わらないのなら――   特別番外編【兄貴の愛情の表し方12】

    音が出ないように椅子から立ち上がり、靴を履いている兄貴の背後に素早く駆け寄る。義母がいないことをしっかり確認してから、広い背中にぎゅっと抱きついた。「えっ?」「兄貴にいってらっしゃいのハグ、しに来ちゃった」「ハグだけ?」 振り返った兄貴は僕の顔を見てから、リビングに視線を飛ばす。母親がいつ来てもいいように、一応注意をしているらしい。「こっちを向いたら、キスしてあげてもいいよ」「そんなふうに強く抱きしめられたんじゃ、振り向けないって」「兄貴なら僕の力くらい、簡単にねじ伏せられるのに?」 上目遣いで訊ねた僕を兄貴は嬉しそうに瞳を細めて見つめつつ、素早く額にキスを落とした。こどもがするようなそんなキスでも、胸がドキドキしてしまったのは内緒だ。(結局兄貴を翻弄しようと画策して、僕のてのひらの上で転がしても、こうしてひっくり返されてしまうんだから、実際のところすごいとしか言いようがない)「辰之に見送ってもらえるとは思ってなかったし、こうやって抱きつかれるのも悪くないなと思うと、やっぱり振りほどけないんだ」「辰之なにしてるの?」 諦めた顔をした兄貴が告げた瞬間に、背後からやってきた義母。僕はそのままの体勢を維持しながら口を開く。抱きしめられた兄貴が僕から逃げようとしたので、腕の力を強めてその動きを止めた。「兄貴が行かないように、ここで足止めしていたんだ。母さんが替えのタオルを持ってくると思ってね」「マジかよ……」「よくわかっているわね」 義母が兄貴にタオルを差し出したので、肩を竦めながら解放してあげる。「毎日じゃないけど、兄貴にタオルを届ける僕の貴重な時間を考えてほしいよ」 兄貴とのふたりきりの時間がこうしてなくなり、こっそり落ち込んでいたときだった。青い何かが、僕の顔にぶつけられる。「んっ!?」「貴重な時間を奪って悪かったな。ついでにそれ、洗濯機に入れておいてくれ」 ぶつけられたものは使用済みのタオルだった。嗅ぎ慣れた兄貴のコロンがタオルから香り、落ち込んでいた気持ちがちゃっかり浮上した。「辰之、遅れるなよ。じゃあ行ってきます!」 爽やかな笑顔を振りまいた兄貴が、元気よく自宅を出て行った。義母と一緒にそれを見送る。(あーあ、兄貴とふたりきりになる時間って、本当に限られるよな。貴重すぎて大事に扱いそうだ……)「宏斗が言ったよ

  • こんなに好きなのに、伝わらないのなら――   特別番外編【兄貴の愛情の表し方11】

    「辰之」「なに?」「あのさ――」 いつも通りのやり取りだった。いつも通りすぎて肩透かしを食らった気分でいると、兄貴の顔が耳元に寄せられる。「おまえが好き」 吐息を含んだ愛の告白と同時に、兄貴の利き手の指先が僕の首筋の肌をなぞった。ゾクリとしたそれにドギマギを隠せず、うっと息を飲む。「辰之はやっぱり隙だらけじゃん」「なっ!?」「もの欲しげな顔、他のヤツの前でするなよ」「そんなのしてないよ」「してるしてる。辰之はストレートな言動に弱いってことを自覚してくれ」 首筋をなぞっていた手が頭に移動し、優しく撫でてから引っ込められた。その動きはまるで、恋人から兄弟の仲の良さにシフトしたみたいな感じだった。「おまえの兄貴としてリードしていくつもりだから、おとなしく従ってくれ」(兄貴としてリードって、恋人じゃなく? おとなしく従えって、なんなんだよ。いったい……)「辰之が俺を諦めないで追いかけてくれたろ。その手段が強引すぎて、呆れるところもあるんだけどさ」「だってそうしないと、兄貴が誰かにとられると思ったし」 呆れるという言葉で表現されたせいで、あの頃の複雑な心境をまざまざと思い出し、唇を少しだけ尖らせた。僕をまったく意識していないちょっと前の兄貴は、今とは大違い。ちょっとしたやり取りも甘いものが混ざるだけで、付き合っていることを意識させられる。「おまえのてのひらの上で踊らされるのは、もうたくさんだよ。今度は俺が辰之を縛りつける」 尖らせていた唇を元に戻し、挑むような眼差しを兄貴に向けた。「兄貴にそんなことができるの? 不器用なくせに」 僕を諦めさせるために若林先輩を介入させるという、大失態をおかしたのにね。「やるさ。辰之が他のヤツに行かないようにしないと」「昨夜だってたくさん兄貴が好きって言ったのに、僕の気持ちは伝わってなかったんだ」「だっておまえは――」 兄貴はなにかを言いかけて、唇を真一文字に閉じる。口の両端がやや下がり気味になっているのは、僕に言いたくないことを飲み込むためだろう。たとえば『だっておまえは俺以外と、関係を持ったことがあるから』なぁんていうセリフだったりして。「と、とにかく俺から目が離せないように、バレーの自主練に行ってくる……」「いってらっしゃーい! カッコイイ兄貴の姿が練習や大会で拝めるなら、たくさん応援

  • こんなに好きなのに、伝わらないのなら――   特別番外編【兄貴の愛情の表し方10】

    「濃くてにがぁいコーヒーに、ミルクと砂糖をたっぷりいれたヤツ」 意味深な流し目で僕を見つめる兄貴に、頬が熱くなってしまった。「あらあら、辰之はコーヒーが飲めなかったはずじゃなかった?」「あ、ぁ兄貴が淹れてくれたのは、結構美味しかったから。おかげで夜遅くまで頑張ることができたし」 しどろもどろに答えると、母さんからは見えないことを言いことに、隣から兄貴の手が伸びてきて、僕の腰をいたわるように撫で擦る。あたたかなぬくもりを布越しに感じるだけで、兄貴の思いやりが伝わってきた。「さすがは俺の弟だよな。最後まで偉かった」「ぶっ!」 飲みかけていたコーンスープを、思いっきり吹き出しそうになり、目を白黒させた。義母は目の前に駆け寄り、ふきんを手渡しながら声をかける。「ちょっと辰之大丈夫?」「大丈夫。兄貴に褒められると思わなかったから、ちょっとビックリしただけ……」「褒めるに決まってるだろ。また差し入れしてやる、頑張れよ」(まったく、ナニを頑張ればいいのやら――) 吹き出したものはなかったものの、義母がふきんを用意したこともあり、手持ち無沙汰を解消すべくテーブルをふきふきした。「だったら僕も、兄貴に差し入れしてあげるよ。なにがいいかな?」 このまま兄貴にやられるのも癪に障るので、動揺を隠すようににこやかに訊ねた。義母の手前、兄貴が卑猥なことを強請ることはないだろう。「そうだな、辰之が丹精込めて濃いめに淹れた紅茶に、ミルクをたっぷり入れたミルクティーがいいな。砂糖の代わりに愛情を込めて」「ぁ、愛情……?」 兄貴から強請られるものの大きさに、心底困り果てるしかない。僕はどうやって、愛情を示せばいいのやら。「宏斗と辰之は、本当に仲がいいわね」 顔を見合わせる僕らを散々眺めた義母は、キッチンに移動した。「兄貴、なにを強請ってるんだよ」 文句を言った瞬間に腰を撫でていた手が尻に移動し、卑猥なまさぐり方で触れる。昨夜の熱が再燃しそうになり、奥歯をぎゅっと噛みしめて表情に出さないように我慢した。「辰之のココ、スポーツをしていないおかげで、綺麗な形なんだよな。俺、結構好きなんだ」「食事中だよ、落ち着かないからやめて」「食事中じゃなかったらいいんだ?」 ニヤニヤしながら僕の顔を見つめる兄貴が、憎らしいことこの上ない! 問答無用でお触りする手の甲を抓

  • こんなに好きなのに、伝わらないのなら――   特別番外編【兄貴の愛情の表し方9】

    「兄貴?」 声をかけたのに無視したまま、顎に手を当てて考える始末。しっかり下半身がつながった状態でいるのは、正直なところ間が抜けていると思われる。(兄貴はイったばかりだから、復活するまでに時間がかかるのかもしれないけれど、僕だけ散々感じさせられて放置されるのは、ちょっとね……)「そっか。今まで辰之と一緒にイったことなかったな」 これまでの行為から導き出した兄貴の答えに、思わず吹き出してしまった。道理で間が抜けるはずだ。「辰之、そんなに笑うことないだろ」「笑いたくもなるよ。しかもこんな格好で、わざわざ考えることでもないだろうに」 言いながら腰を上下させると、兄貴は慌てて僕の動きを止めるべく両手で肩根を掴み、ベッドに押さえつける。「コラっ! 俺が差し入れしてるのに、おまえが動いたら意味がなくなるだろ」「だったらわかるでしょ? 僕が望んでることくらい」 兄貴の首に両手をかけて、力任せにぐいっと引き寄せた。抵抗せずに顔が近づき、僕の唇が塞がれる。「辰之が望んでること、もっと俺に教えてほしい。全部叶えてやりたいから」 触れるだけのキスのあとに告げられた言葉は、とても嬉しいものだった。「それじゃあ僕もそのお礼に、兄貴に差し入れしてあげるよ」「マジで?」「うん。だって兄貴は僕の願いを絶対に叶えてくれるでしょ? そのお礼をするとなったら、かなり大変そうだけどね」 クスクス笑いながら指摘した瞬間に、僕のナカにある兄貴自身が何のためらいもなく奥を突き刺した。「ひゃっ!」「俺を感じさせてくれる辰之の躰の全部を使って、差し入れしてくれよな」 ちょっぴり掠れた兄貴の声が室内に響いたと同時に、容赦なく腰を前後させる。さきほどよりも濃厚な行為に、あられもない声をあげながら兄貴にしがみつきながら絶頂した。一緒にイクことができた特別な夜は明け方まで続き、当然寝不足になったのだった。 *** 眠気をかみ殺しながら食卓テーブルにつくと、先に起きていた兄貴は眠気を感じさせない顔で、美味しそうに食パンにかじりついていた。こういうところで、体力の違いをひしひしと感じさせられる。(ベッドの中でくたくたになって動けなくなった僕の代わりに、兄貴が動いてばかりいたのに、どうして疲れを見せないんだろ?) しょんぼりしながら隣にいる兄貴を横目で見ていると、笑顔の義母が僕に声

  • こんなに好きなのに、伝わらないのなら――   特別番外編【兄貴の愛情の表し方8】

    「あ……っは…ぁ、ん…っも…だめっ!」 快感でおかしくなりかけているというのに、兄貴はガンガン奥を責めたてつつ、僕自身を扱きまくった。荒い息遣いと卑猥な水音が妙なリズムを刻む。イったばかりだというのに、躰がさらなる快感を追いかけた。「辰之が感じると俺も気持ちいいんだ。痙攣しながら俺のを締めつけるこの感覚、やみつきになりそ」「は…あぁ、いっぱぃ突いて感じて。僕の躰で感じ…る兄貴を見せて」「おまえ、どうなってもしらないからな」 嬉しげに細められた瞳が、兄貴の気持ちを表していた。僕自身を掴んでいた手と反対の手が腰に添えられ、兄貴の腰の動きに合わせてこれでもかと深く貫く。「ふっ深いぃっ! 深っ、はぁあ…奥にっ、奥にあたる!」 まるで僕の躰を玩具のように手荒に扱う。だけど全然嫌じゃなかった。肌同士がぶつかる音や、飛び散る兄貴の汗すらも僕の快感に繋がっていく。「イク…イクイクっ、ううっ!」 大きく腰を引いた後にぶちまけられた熱い白濁が、僕のナカを一気に侵食した。じわじわと広がっていくそれをもっと感じたくて、兄貴の腰に足を巻きつける。「宏斗兄さ……きもちいいぃっ!」「この感じ、まるで辰之に搾り取られてるみたいだ」「んぅっ、ま、まだ…足りないよ」「辰之はどん欲だな」 未だに感じているのか、兄貴はつらそうに顔を歪ませながら僕に笑いかけた。「ねぇ兄貴、してみたいことがあるんだけど」「してみてみたいこと?」 その問いかけにすぐに答えようとしたのに、意地悪な兄貴は僕の口を塞ぐ。感じさせるように口内を蠢く兄貴の舌に、簡単に翻弄された。こんなことをされ続けていたら、してみたいことが間違いなくできなくなる。「あ……っは…ぁ、ん…っも…だめっ!」「だめじゃないくせに」「これ以上僕を感じさせないで。兄貴と一緒にイケなくなる」 思いきって告げたセリフを聞いた兄貴は、呆けた顔をしながらフリーズした。

  • こんなに好きなのに、伝わらないのなら――   特別番外編【兄貴の愛情の表し方7】

    「辰之、そんなに感じてるのか? すげぇエロい声が出てる」「もっ…やっ、変にな…るぅ。はぅっ!」 どうにも我慢できなくて、両足を意味なくジタバタさせるしかない。「感じるたびに辰之のナカが、俺の指を締めつける。きっと気持ちいいんだろうな」「んっ…だったら確かめてみなよ。ゴムなしで挿れて」「ゴムなしって、そんなことしたらおまえ――」「兄貴にも味わってほしいんだ。そして乱れてほしい。僕のナカにいっぱい愛を注いで」 快感に打ち震える躰は、さらなる快感を求めた。腰をちょっとだけあげながら両腕で膝裏を持ちあげ、挿入しやすいように兄貴に見せつけると、挿れられた指がずるりと抜け落ち、それを塞ぐように兄貴自身の先端があてがわれる。「早くっ、早くきっ!」 急かす僕の声をなきものにした強引な挿入。いつもより解されていないそこは、兄貴自身の挿入を拒む。「キツっ……、くっ」「ぁああっ! は…ぁっ……!」 無理に押し広げられる感覚は確実に痛みを伴うものなのに、それすら気持ちいいと感じてしまった。まるで兄貴自身のカタチを覚えるようなそれに、愛しさすら覚える。自然と目尻に涙が浮かんだ。「媚薬ローションもそうだけど、辰之のナカも相当ヤバい。俺のに絡みついてくる」「兄貴ぃっ、ぁあ…ふ…ぁも、もっと奥に。深く繋がりたい」「奥のぐりっとするところだろ。そこを狙うと、いつもより短くなるけどいいのか?」 僕のナカを堪能するように浅く出挿りさせていたが、徐々に奥を目指して突き進んでくれる。擦られるたびに沸騰するように腰から下が熱くなり、イキたくてしょうがなかった。「短くて…いい。僕もうイキそ、あっん…」(兄貴と一緒にイケないのはつまらない。さっきから感じさせられるせいで感度が二倍になっているし、散々我慢したあとでこうやって貫かれると、必然的に先にイくことになるんだよな) 与えられる快感をやり過ごすべく、まったく別なことを考えてみる。次にこんな機会があったときには、自分から兄貴のを咥えて感じさせようと思った。もしかしたら、一緒にイケるかもしれないと――。 スムーズにコトを進める計画を、頭の中で入念に練っているときだった。「やぁっあっ!」 目の前に突然火花が散る。完全に油断していた。兄貴の先端が、僕の奥深くを容赦なく貫いたタイミングだったらしい。火花が散ったと同時にイって

  • こんなに好きなのに、伝わらないのなら――   兄貴のほほ笑み6

    *** 部活を終えた兄貴と馬鹿女が向かった先は、市立図書館の自習室だった。 図書館の奥にある自習室が見渡せる本棚の隙間に、うまい具合に体を隠し、ふたりの様子をじっくりと窺う。他にも来館している客がいるので、派手な行動をするとは思えないけれど、相手はあの馬鹿女。油断するわけにはいかない。 兄貴は馬鹿女の横で楽しそうにノートを指さしつつ、ささやき声でなにかを話しかける。僕に向けてくれるのとはあきらかに違う笑みに、胸の奥が軋むように痛んだ。(クソっ、あんな女にそんな笑顔で話しかけるなよ……) どうにも見ていられなくなり、本棚に背中を預けて天井を仰ぎ見た。奥歯をぎゅっと噛みしめながら、持っ

  • こんなに好きなのに、伝わらないのなら――   兄貴のほほ笑み5

    *** 兄貴が部活を終えるまでの時間を使って、この間女子トイレに仕掛けた盗聴器の中身を確認すべく、目立たないであろう図書室の隅の席で聞いていた。(前々回と前回は空振りに終わったけど、今回はどうだろう……) 期待を胸にイヤホンから流れる女子の会話を耳にしつつ、机の上に広げたノートにその内容を端的に書き記した。僕の姿を傍から見る分には、熱心に勉強しているように見えるだろうな。 いろんな女子からもたらされる噂話や愚痴を聞いている最中に、衝撃的とも言える話は突如はじまった。 早口でまくしたてる甲高い声に反応し、相槌する者は僅かだったが、信じられない内容にめまいがしてきた。どうにもメモする気

  • こんなに好きなのに、伝わらないのなら――   兄貴のほほ笑み4

    *** 昼休みが終わる直前になって、先にノートを貸していた箱崎が済まなそうな顔で僕の傍にやって来た。「黒瀬、ノート助かったよ。今日は彼女と遊ぶ約束してたから」「ということは、部活をサボる気だな?兄貴に言いつけてやろーっと」 ノートを受け取りながらふざけ半分で脅した途端に、箱崎は両手を合わせて拝むポーズをとる。「頼むから黙っててくれって。今日は彼女の誕生日でさ、どうしても長く一緒にいてあげたくて」「はいはい、惚気けるのはそれくらいでストップ。見逃してやるよ」「ノートからなにからサンキューな。さすがは黒瀬先輩の弟!」「褒めてもこれ以上なにもしないし。同じ彼女持ちでも、兄貴は部活を

  • こんなに好きなのに、伝わらないのなら――   兄貴のほほ笑み3

    ***『お母さん、今日遅くなる。友達と勉強することになった』 帰りが遅くなってもいいネタを、昼休みになってから義母宛にLINEを送った。兄貴の頭の中では今朝僕の行動を耳にしているおかげで、いつもどおりの時間に帰宅していることになっている。だからこそ慎重に兄貴のあとをつけて、絶対に見つからないようにしなければならない。(兄貴は部活が終わったあとに、友達と勉強会の予定。だけどそこは友達じゃなくて、彼女の可能性が高い。学校の図書室はすでに閉まっているから、市立図書館の自習室で勉強をするのか。あるいは――) こうして頭の中を兄貴でいっぱいにするこの時間が、結構好きだったりする。僕と一緒にいな

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