تسجيل الدخول風呂から上がり、剛に寝巻きを着せ、頭をドライヤーで乾かしているうちに剛はコクリコクリと船を漕いでいた。「ほら、剛。まだ寝ないの」「んー......うん」「あと少しだからなー」そうして、剛の頭を乾かし終えると剛はもう目が開いていなかった。オレは仕方ない、と思い剛を抱き上げると叶弥に声をかけ自室へと向かった。そして剛をベッドに寝かせると、オレもその横に横たわって目を瞑った。それからどれくらいの時間が経っただろうか。グスッグスッと言う音に目を覚ました。横にいる剛を見ると、涙を流していた。「......さ、ん......おかあさん......」剛の口からは母を呼ぶ声が漏れていた。それはそうだろう。突然母がいなくなり、知らない人ばかりがいる、知らない場所に置いていかれたのだから。オレも経験が無い訳ではない。けれどオレの場合と剛の場合、年齢が違う。小学生であったオレも寂しさに泣くことが無かった訳ではないが、オレには同い年の叶弥がほぼ常に隣にいてくれた。でも剛には年の離れた人間しかいない。それにここには、母親代わりになるような女性もいないのだから。「剛......大丈夫だからな」オレはそう言うと、剛をそっと抱きしめた。すると無意識か、オレの服をギュッと掴んできた。そして、静かな寝息が聞こえてきた。オレはそれにホッと安堵すると、再び眠りについた。翌朝、オレはいつも通りに目を覚ますと剛を起こさないようにそっとベッドを抜け出し、制服へ着替えキッチンへと行こうとした。か、しかし剛が起きた時オレがいないと不安になるだろうと思い、少し早いが剛を起こす事にした。「剛。朝だぞ、起きれるか?」「んー......けーじ?あさぁ?」「あぁ。オレは朝メシと弁当を作りに行かなくちゃいけないんだが......」オレが言葉を続けようとしたその時だった。部屋のドアが開かれ、叶弥が入ってきた。「京、はよ。メシの支度あんだろ?剛はオレが見とくから行ってこいよ」「え?いいのか?大丈夫?」「心配いらねぇよ。ホラ。行ってこい」そう叶弥に言われ剛を叶弥に任せると、オレはキッチンへと向かった。すると朝メシの当番だった若衆がオレの姿を見るなり「おはようございます!」と声をかけてきた。オレはそれに応えると早速料理へと取り掛かったのだった。
「ハァ...。生き返るわァ...」「おい、叶弥。オッサン臭いぞ?」「オッサン!オッサン!」「良いだろ。ウチの風呂は広くてデケェんだからさ。」「京もガキの頃はしゃいでたじゃねぇか。」と言われるとオレはぐうの音も出ない。たしかに、五十嵐の家の風呂は温泉みたいで子供ははしゃぎたくなるだろう。現に剛も湯船に浸かりながらバシャバシャと遊んでいる。「剛。楽しいか?」「おう!楽しいぞ!3人で入っても広い風呂ってスゲェな!」「おいガキ、さっさと100数えて一人で上がれ。オレは京と二人、夫婦水入らずを過ごしたい。」「ヤダ!上がる時はけーじと上がる!それに、お前、いっつもオレのこと"ガキ"って言う!...オレには"剛"って名前があるんだぞ!」「...ハァ。悪かったよ、剛。」「!お、おう!」珍しく叶弥が折れ大人を見せたなと思った。オレはそれがなんだか可笑しくてつい笑ってしまった。「...オイ、京。何笑ってやがる。」「い、いや。フフッ。お前も大人になったなぁと思って。」「ハァ?意味分かんね。オレはもともと大人だ。」「剛に張り合ってたクセに?」オレがそう言うと、叶弥は「仕方ねぇだろ......」と言った。「?何が仕方ないんだよ」「お前の事となると、大人も子供も関係ねぇんだよ」「分かれよ。」とほんのり顔を赤らめていた。「?オイ、きょーや、顔赤いぞ?のぼせたか?」「いや、のぼせてねぇよ。なんだァ?心配してくれてんのか?」「!い、いや!心配じゃねーし!」「本当かぁ?」叶弥はニヤニヤしながら剛を問い詰めていた。そういう所が子供なんだよ、と心の中でツッコんでしまった。「さぁ、もう長風呂になるし全員で上がろう。本当にのぼせちゃう前に、な」「ハーイ!」「しゃあねぇな。京、今度は二人っきりで入ろうな?」「バーカ」本当に叶弥はバカだ。子供の前でそういう事を言わなくても良いだろうが。オレはのぼせてもいないのに、静かに顔を赤らめていた。「?けーじ、上がらねぇの?」「!いや、上がるぞ?今日は上がったらもう寝ような?」「ん......ハーイ」剛は素直で良い子だ。これなら幼稚園でも上手くやって行けるだろう。オレは心の中でそう思ったのであった。
事件が起こったのはその日の夜であった。夕メシを済ませ、皆がのんびりと過ごしていた時であった。剛が爆弾を落としたのである。「けーじ!風呂!一緒に入ろ!約束したろ!!」その爆弾に皆が衝撃を受け、視線をギギギと一点に向けた。そこにはキレる寸前の黒いオーラを纏った叶弥が座っていた。「おいガキ。京と風呂だと?何ふざけてやがる。オレだって京と風呂入ってねぇのに」「当たり前だろ。子供と張り合うな。大人気ないぞ......」「そーだそーだ!オレは子供だからいいんだぞ!」「...剛もあんまり煽らないでくれ......」叶弥と剛の間に火花がバチバチと散っていると、若衆達はそそくさと広間を去っていった。「あーもー!だったら三人で入るぞ。それならいいだろ?」「え...?京、いいのか?」「別にいいだろ。減るもんじゃねぇし」オレがそう言うと、叶弥は嬉々としてガッツポーズをし、天を仰いだ。「京との裸の付き合い......!何度夢に見たことか......!」「ガキの頃はしょっちゅう一緒に入ってたじゃねぇか」「昔は昔!今は今!ガキがいるのは余計だが、それはまぁ許容範囲という事にしてやる。おいガキ。オレと京の邪魔はすんじゃねぇぞ?」「ヤダ!けーじはオレの!ジャマはお前!」「......なんだとこのクソガキ......」「二人とも。ケンカすんなら一緒に風呂入んねぇぞ?」「「それはイヤだ!」」......なんともまぁ、変なところは似ているようだ。「それじゃあ風呂に入る支度するぞ。剛、おいで。叶弥もさっさとしろよ」「ハーイ!」「はいよ」二人ともオレの言葉にすんなりと従ったので、オレは一安心した。叶弥が鼻歌混じりでご機嫌な様子で部屋に行くのを見届けるとオレはしゃがみこみ剛にこっそり耳打ちした。「今日は一緒に寝てやるから、それで許してくれるか?」「!いいのか?!」「あぁ。......でもこれは叶弥に内緒だぞ?バレるとまた邪魔されちゃうからな。いいな?」オレは人差し指を口元に持っていき、シーっとすると、剛は口に両手を当てコクコクと首を縦に振った。「良い子だ。それじゃあ風呂に入る支度をしに行くか」すると剛は、先程のように声には出さずに手をピシッと挙げることで返事をした。そんな剛の様子が可愛らしくて、オレは剛の頭をわしゃわしゃと撫でた。すると剛は嬉しそうに笑
「ただ今帰りました。」「ただいまー!」「おう。京司、剛。おかえり。京司なんか汚れてんぞ?」「あぁ......。ちょっとありまして」オレが言葉を濁そうとしたが、剛が「あのな、あのな!」と意気揚々と話し始めた。「けーじ強ぇんだぜ!デカイクマみたいな男をこてんぱんにしたんだ!かっこよかった!」「......京司。また絡まれたんか」「......ハイ」「まったくお前は......」と凛太朗さんは呆れ返って、「まだここらでお前に喧嘩売るバカがいるのか」と口にした。「剛の前ではしたくなかったんですけどね......。変に剛に危害を加えられるよりはまだ......」「たしかにな。」「あのな、あのな!オレもケンカおぼえたい!」「「え」」「強くなって、今度はオレがけーじを守るんだ!」「剛......」オレは剛の可愛らしい申し出に愛しさを覚えた。もしかしてこれが母性本能ってやつか...?「あのな、剛。ケンカってのはしない方がいいんだぞ?たしかに京司が強くてかっこいいから憧れるのは分かるがな。本当は暴力以外で解決しなきゃならねぇんだ。分かるか?」「...でも、オレ強くなりたい」「なら、柔道とか空手を習うのはどうだ?それならオレは反対しない。どうだ?」「......!強くなれる?」「あぁ。なれるさ」凛太朗さんはそう言うと剛の頭をポンポンと叩いた。剛はその手に目を細めながら笑うと凛太朗さんに抱きついた。「オジさん!オレ、じゅーどーとからてやりたい!」「分かった。でもまずは幼稚園に通わないとな」「ようちえん?」「そうだ。同い年の友達いっぱい出来るぞ?」「友達......!!」剛は凛太朗さんの言葉に目をキラキラさせながらオウム返しした。たしかに組にずっといると世話が出来るヤツが限られてくる。オレと叶弥も学校があるから相手をしてやることが出来ない。だから幼稚園に通うのは賛成だ。「剛。幼稚園は楽しいぞ?友達が出来るのもそうだし、園には色んな遊具がある。それに給食だって出るんだぞ?」「けーじも行ってたのか?」「あ。好きだったよ。男の子とも女の子とも仲良くなれるし、組にはいないような優しい先生もいる。それに、オレも平日は学校があるから剛と遊んであげられないんだ」「え......。けーじと遊べないのか......?」オレの言葉に剛はショック
「剛、昼メシ何食べたい?」「んーと......オムライス!」「オムライスか。いいな。......剛?」「......」スーパーに辿り着いた時は元気よく歩いていたし、何を食べたいか聞いた時もハキハキと明るく応えていた。しかし、スーパーは親子連れが多い。剛の視線の先にいたのは母親とその子供だった。その光景を見る剛はなんだか寂しそうで...やばり母親が恋しいのだろう。オレは出来るだけ優しい声で「剛。」と名前を呼んだ。すると剛はハッとして「なんだ?!」と元気に聞いてきた。オレは剛の頭を撫で、剛の手を取りアイス売り場に来た。「好きなアイス選んでいいぞ?」「!......で、でもごはんの前に食べたら昼メシ食えなくなる......」これは涼香さんの教育の賜物だろう。そんな剛にオレは「今日だけ特別。オレも食べたいなー。でも一人で食べるのはなぁー」と言うと、剛は「し、仕方ねぇ!けーじが食いたいなら一緒に食ってやる!」そう言うと剛が選んだのはふたつに分けて食べられる物だった。「これなら一緒に食えるだろ!」とドヤ顔で言ってきた。「剛は優しいなぁ。俺の事も考えてくれたのか?」そう言うと、剛は顔を赤くし小さく頷いた。その様子がとても可愛らしくて、おれはしゃがみながら剛を抱きしめ頬づりをした。「けーじ!さすがに恥ずかしいぞ!」「いいじゃないか。オレがしたいの」「だったら......おりゃ!」「!」剛はオレを思いっきり抱きしめ返してきた。そんなオレ達を周囲の人々は温かい目で見守っていた。それはオレ達を隠れて護衛している若衆もであった。そうして買い物を終わらせ、アイスを食べて家路についているところだった。後ろから「オイ」と声をかけられた。「お前、五十嵐の女だよなぁ?」「......女じゃねぇよ。」「悪い悪い。ま、でも女みたいなもんだろう?五十嵐 叶弥とデキてるってここらじゃ有名だぜ?」「......なら、オレの二つ名も知ってるよな?」「"五十嵐組の番犬"、だろ?まさかこんなヒョロいヤツがケンカ出来るとは思わねぇがな!」声をかけてきた男は思いっきり走り出し、その勢いのままオレに殴りかかろうとしてきた。オレは買い物袋を地面に置くと、遅れてきた護衛の若衆が剛を抱き抱えたのを見届ける。と、その拳を受け止め、腕を引き腹に思いっきり蹴りを入れた。すると男の仲間らしきヤ
朝メシの後、叶弥は凛太朗さんについて組の仕事を手伝う事になっていたので、オレは自室で勉強をして過ごしていた。すると、部屋のドアをドンドン!っと乱暴に叩く音がした。オレはなんとなく想像がついたので、椅子から立ち上がると、ドアを開けた。すると剛がガシッと抱きついてきたのだった。「けーじ!遊ぼうぜ!」「剛。わかったから少し力を緩めてくれ......」「ハーイ!」剛は素直にオレの言うことを聞いたので、頭を撫でた。すると剛は嬉しそうにグフグフと変わった笑い声を上げた。「あのな!あのな!......今日、オレ、けーじと一緒に風呂入りたい!」「風呂?別に良いけど......。なんでだ?」「一緒にいたヤツがな、"シンボク"を深めるには"ハダカのつきあい"が1番だって!」「なる程なぁ......。よし!今日は一緒にはいるか」「ヤッター!」「あ......でも叶弥には内緒な?」「?なんでだ?オレ、アイツに自慢しようと思ったのに......」「アイツ、ヤキモチ焼きだから邪魔されちゃうぞ?」「?!ヤダ!」「だろう?これは男と男の約束。な?」おれは笑みを浮かべ小指を差し出すと、剛は頬を赤く染めおずおずと小指を絡めてきた。「はい。これで約束。そうだ、昼メシと夕メシの買い出しがあるから手伝ってくれるか?」「!わかった!オレ荷物もちする!」「お、偉いな。頼もしいぞ」そうしてオレは剛と共に買い出しに行くため、凛太朗さんと叶弥の元へと訪れた。「忙しい所すみません。これから剛と一緒に買い物に行ってきます」「マース!」「お、剛手伝いか?偉いぞ」凛太朗さんに褒められると、また嬉しそうに笑った。「オイ、ガキ。何ちゃっかり京と手ェ繋いでやがる」叶弥が剛に凄みをきかせると、剛はオレの影に隠れた。やはり叶弥の凄みは子供を怯えさせるのには十分であった。......いや、大人でも怖い、か。「叶弥。剛がビビってるからやめてやれよ」「いや、京。お前今日オヤジにもベタベタ触らせてて......どんだけオレ以外の男に身体を許してんだよ。」「おい...その言い回しはやめろ。人をビッチみたいに言うな」「けーじ、びっちってなんだ?」......しまった。子供に聞かせていい言葉ではなかった。「ガキ、ビッチってーのはな......」「あー!なんでもないぞ?ほら、剛。お仕事
懐かしい夢を見た。両親を失くした時の夢。あの後凛太朗さんは宣言通り二日後の退院の日に迎えに来てくれた。そんな彼の後ろにはオレと同い年くらいの少年が偉そうに立っていた。「ほら。コイツが俺の息子の叶弥だ。年は前にも話したが京司と同い年だ。叶弥、ふんぞり返ってないで挨拶しろ。」「...五十嵐 叶弥。よろしく。」「田河 京司です...よろしくお願いします。」そうオレがあいさつをし返した途端、叶弥は顔をバッと上げニカッと笑いながら言葉を続けた。「お前が今日からオレの舎弟になるんだよな!な!そうだろオヤジ!」「先ずは友達から始めんか。何をまるで出会って速攻結婚を申し込むみてぇな世迷いごと
ある日突然、両親を失った。交通事故だった。両親とオレの三人で散歩をしていた時、飲酒運転のトラックがオレ達目がけて突っ込んできた。オレ達が渡っていたのは青信号の横断歩道で、トラックは赤信号。完全にトラックの運転手の過失だった。トラックはスピードを落とすことがなかったので、オレ達は避けるヒマを与えられなかった。そんな中でも両親はオレを守るように抱きしめてくれた。お陰でオレは事故から3日後に病院のベッドの上で目を覚ます事が出来た。しかし、両親は直に地面に叩きつけられた為即死だったらしい。そんな事を淡々と医師に告げられた。「君はご両親のお陰で骨折を免れる事が出来た。あと二日程で退院する事ができるだ
オレの祈り虚しく、迎えは黒塗りのベンツだった。周りの生徒達がなんだなんだと騒いでいる輪に近づくと、車の外で待機していた若衆が「若!京司さん!」と大声で呼んだ。すると人集りの輪が解けオレ達に道が譲られる。「入学式お疲れ様です!宴会の準備が出来てるんで、早く組へ帰りましょう!」「...五十嵐組って本当に何かとこじつけて宴会したがるよな。」オレがボソッと呟くと叶弥は「そーでもなくね?」と言う。「だってお前の誕生日はともかく、オレの誕生日までどんちゃん騒ぎじゃねーか。」「そりゃお前、未来の若頭補佐の誕生日は祝わねーとだろ。」「そうですよ!京司さんはオレ達の女神ッス!」「...女神って
こうして無事?出席確認を終えると、大森に引き連れられ、校舎案内となった。そこでは並び順なんて関係ない様で叶弥がオレの元へやって来る。「京ー。お前早速目ぇつけられてんじゃねぇか。」「...お前も人の事言えないだろ。大森、あえて口には出てなかったけどお前の金髪見て眉間にシワ寄せてたぞ。」「マジか。」そう軽口を叩き合いながら校舎案内を終え教室へと戻ってくると、教科書配布やらなんやら細々としたものを行い今日は解散となった。オレは貰った教科書を机の中に突っ込んで帰り仕度をする。すると、大森が「五十嵐ー、田河」ーと呼んできた。「お前らちょっと居残りな。教室で待ってろー。」そう言い残し大森は







