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第5話

Penulis: 倉谷みこと
last update Terakhir Diperbarui: 2025-06-19 11:00:43

「そんな、俺たちのことなんて気にしないでくださいよ」

「そうそう、本宮さんがいつも歌う曲でいいからさ」

遼と僕がそう言うと、本宮さんは「そうか?」なんて言って曲を選択する。

本宮さんが入れた曲は、激しい曲調のハードロックだった。イントロを聞いた瞬間、僕が知っている曲だとすぐにわかった。もともと母さんが好きな曲で、幼い頃から一緒に聴いていたのだ。まさか、本宮さんがこの曲を歌うとは思っていなかった。否が応でも、僕のテンションは急上昇する。

本宮さんは、歌も上手だった。普段の声よりも少し低めだけれど、耳の奥に甘く響くような、そんな歌声。この声で口説かれたら、誰だって一発で恋に落ちると思う。

僕は、自分が歌う曲を入力することも忘れて、本宮さんの歌声に聞き入っていた。

そんな中、右腕を軽く叩かれた。見ると、遼がタブレット端末を差し出しているところだった。

うなずいた僕は、タブレットを受け取って曲を探す。何を歌うか決めていなかったから、歌手名を入れて検索しては、あれでもないこれでもないと曲名を見送っていく。悩みながらそれを何回かくり返し、ようやく歌う曲を入力した。

僕がタブレットを本宮さんの前に置くと、本宮さんは歌いながら優しいまなざしをくれた。その瞳にドキッとして、思わず視線をそらしてしまった。ちょうど遼の方に顔を向けた形になり、にやにやしている遼と目が合った。

それが何だか恥ずかしくて、照れ隠しにレモネードを飲む。その冷たさのおかけで、ほんの少しだけ冷静さを取り戻せたような気がした。

歌い終わった本宮さんがマイクを置くと、

「本宮さん。歌、上手いですね!」

と、遼が称賛する。

僕も大きくうなずいた。

「そうか? ありがとな。久しぶりに歌ったから、ちょっと不安だったんだ」

と言って、本宮さんがレモネードをのどに流し込む。

(本宮さんでも不安に思ったりするんだ)

と、僕は純粋な感想を抱いた。

いつも落ち着いていて堂々としているから、ちょっと意外だった。

聞き慣れたイントロが流れ、遼がマイクを握る。人気アニメのタイアップ曲だ。遼とカラオケに来ると、いつもこの曲からスタートする。この曲自体、アップテンポでオープニングっぽい感じがあるから、僕も好きだったりする。

遼の歌を聞きながら、ちらりと本宮さんを見る。彼は、慣れた手つきでタブレット画面を操作していた。迷いのない動きに、僕は本宮さんが歌う次の曲にわくわくしてしまう。

タブレットは、本宮さんの手もとからすぐに遼の前に移動した。遼は、歌いながらそれを手前に持っていくと、モニター画面とタブレットを交互に見ながら操作する。

(相変わらず器用だなー)

遼を見ながら、そんなことを思う。たとえ、歌詞を完璧に覚えていたとしても、僕にはできない。たぶん、どこかで音をはずしてしまうような気がする。

1番のサビが終わった直後に、タブレットが僕に回ってくる。2曲目は何にしようかと、遼の歌声を聞きながら検索する。せっかくなら、歌い慣れている曲にしたい。本宮さんに聞いてもらうのだから、初めて歌う曲で失敗するのは避けたかった。

遼の歌が終わる前に、本宮さんにタブレットを渡す。でも、またすぐに僕のところに戻ってくるだろう。これは、予想ではなく確定事項で。遼がマイクを置くのとほぼ同時に、僕にタブレットが回ってきた。

「もう、早いって!」

苦笑しながら僕がぼやくと、

「いつものことじゃん」

と、遼が笑い声をあげる。

そうだけれどと言う前にイントロが流れ、僕はマイクを握った。僕が最初に入れた曲だ。歌詞がモニターに映し出される前に、3曲目を選んで入力する。タブレットを本宮さんに渡し、小さく息をついたところで歌い始めた。

この曲は、3年前に惜しまれつつも解散したバンドの曲で、いわゆる青春ソングとして親しまれている。歌詞は切ないけれど、アップテンポなので悲しい印象はない。僕のお気に入りの曲の1つだ。

歌いながら、僕は本宮さんをちらりと見た。この曲を知っているのか、曲に合わせて右手がビートを刻んでいる。

(よかった、楽しんでくれてるみたいだ)

ホッとした僕は、すでにタブレットが自分の前にあるのを見て、内心焦った。とはいえ、遼のような器用なことはできない。半ば開き直って、僕は歌に専念することにした。

その後も、僕たちはそれぞれ好きな曲を歌った。英語歌詞の曲やバラード、女性ボーカルの曲など選曲はいろいろだった。中には、僕の知らない曲もあったりして、あっという間に時間がすぎた。

「そろそろ昼飯にでもしようか?」

と、本宮さんが提案する。

スマホを取り出して時間を確認すると、昼の12時をすぎていた。

「もうお昼なんだ、気づかなかった」

僕が言うと、

「マジで!? なんか、急激に腹減ってきたー」

と、遼が情けない声を出す。

「じゃあ、何か頼もうか」

本宮さんが、笑いながらメニュー表をテーブルの上に広げた。

そこには、フライドポテトやたこ焼きやピザなどの定番商品の他に、カレーやラーメン、ハンバーガーなんかも載っている。至れり尽くせりといった感じだ。

「あー、どうしよう」

と、遼がメニュー表を凝視している。

悩む気持ちはよくわかる。メニュー表に載っている写真は、どれも美味しそうだった。

それから数分後、僕たちは注文する品を決めた。本宮さんが取りまとめて、壁に設置してある電話でフロントに注文する。

僕と遼がほぼ同時にお礼を言うと、

「どういたしまして」

と、本宮さんが微笑んだ。

その笑顔に、僕は不覚にもときめいてしまった。僕と2人きりの時に見せる笑顔とは、また少し違うように見えたからだ。

「そういえば、さっき、端末が早く回ってくるのはいつものことだって言ってたけど、カラオケにはよく2人で来るのか?」

と、思い出したように本宮さんがたずねた。

たしかに、僕が1曲目を歌う時にそんなやり取りをしていた。

「はい。必ず優樹とってわけじゃないけど、2人の予定が合えばって感じです」

と、遼が答える。

「でも、遼は、僕より確実に多く来てるよね」

僕がそう言うと、

「まあな。部活の先輩に誘われたり、1人で来ることもあるからな」

と、遼がうなずいた。

そうかと微笑む本宮さん。何だか、保護者的な雰囲気がある。僕がそう感じるだけかもしれないけれど。

「本宮さんって、普段からアクセサリーしてるんですか?」

唐突に、遼がたずねた。

ファッションについて、本宮さんにいろいろ聞きたいと言っていたから、聞くタイミングを探していたのかもしれない。

「ピアスは普段からだけど、このブレスレットは休日だけかな」

と、本宮さんは自分の左手首を見ながら告げた。

「もしかして、優樹からのプレゼント?」

と、遼がにやにやしている。

「ああ。でも、どうして?」

本宮さんが首をかしげる。

僕も不思議に思った。本宮さんへのプレゼントの中身は、話していなかったはずだ。にもかかわらず、遼は言い当てた。

「そんなの、優樹を見てればわかりますよ」

当然とばかりに、遼が言ってのける。

本宮さんはすぐに納得したみたいだけれど、僕は何が何だかわからない。

「自覚ねえの? 顔、めっちゃにやけてんぞ」

「え!? うそ?」

遼の言葉に、僕は驚いて大声をあげてしまった。自分のことなのに、まったく気づいていなかった。

直後、店員さんが、注文した料理を持ってやってきた。急に気まずくなった僕は、店員さんに顔を見られないようにうつむいた。

テーブルに置かれた料理から漂う美味しそうな匂いが、僕の鼻腔をくすぐる。そのおかげか、僕の思考は食べ物の方へと傾いていった。

「冷める前に食おうぜ」

店員さんがいなくなった後、本宮さんがそう言った。

うなずいた僕と遼は、いただきますと言って食べ始める。本宮さんもその後に続いた。

注文した料理は、僕がたこ焼き、遼がカツカレー、本宮さんがピザだった。

僕が選んだたこ焼きは、外がカリッとしていて中はふんわりとしているタイプだ。中身のたこは、大ぶりで食べ応えがある。専門店のたこ焼きと変わらないくらいの美味しさだった。

はふはふ言いながら遼がほおばっているカツカレーは、皿を半分に分けるように白米とカレーが盛られている。それらの上――皿のほぼ中央に、カレーよりも存在感がある大きなカツが鎮座していた。

「いくらなんでも、でかすぎでしょ」

僕は、思ったままを口にする。

「だよな。でも、このカツ、思ったよりあっさりしてて食べやすいぜ。一切れやるよ」

なんて遼が言うものだから、少し興味がわいた僕は、お言葉に甘えることにした。

カツを一切れもらい、カレーがかかっていない方を食べてみる。思った以上に衣がサクッとしていて油っこくない。肉自体も柔らかくジューシーで、かなり食べやすい。これなら、カレーの乗せてもぺろりと食べきれてしまいそうだ。

「そのカツカレー、結構な人気らしいぜ」

本宮さんが、そんな情報を教えてくれた。

「でしょうね。正直、こんなに美味いとは思ってなかったもん」

と、遼が舌を巻く。

「それはそうと、本宮さんはそれだけでいいの?」

僕がたずねると、本宮さんは笑顔でうなずいた。

「ここで頼むのは、いつもこれって決めてるんだ。チーズが濃厚で、結構ボリュームあるんだぜ」

と、本宮さんが笑顔で答えた。

たしかに、他の具材が見えないほどたっぷりのチーズが乗っている。チーズ好きにはたまらない代物だ。もしかしたら、本宮さんは、無類のチーズ好きなのかもしれない。後で聞いてみようと思った。

「なあ、優樹はブレスレットしてねえの?」

カツカレーを半分ほど食べた遼が、思いついたように聞いてきた。

「もちろんしてるよ」

そう言って、僕は右手首を見せる。そこには、キャラメル色のブレスレットが控えめながらも存在感をアピールしていた。

ふと、本宮さんが微笑んだ気配がした。気になって彼を見ると、とてもうれしそうな表情をしている。それだけで、僕の心は満たされた。ブレスレットをしてきてよかった。

「いいなー、そういうの」

むくれたように遼がつぶやく。

「いいなって、遼君にもいるんじゃないのか?」

本宮さんが当たり前のようにたずねる。

「いないですよ! ずっとバスケ一筋ですから!」

噛みつくように言って、遼はそっぽを向いてしまった。

「そ、そうなのか? それは、悪いことを聞いちまったな」

すまないと、本宮さんが素直に謝る。

「でもさ、遼だって、彼女作るよりバスケしたいって言ってたじゃん。それで、バスケ部の先輩とか顧問の先生に頼りにされてるんじゃないの?」

僕がそう問いかけると、それはそうだけれどと遼が口を尖らせる。

「正直、優樹がうらやましいぜ。俺も恋人欲しいー!」

遼の魂の叫びが響く。

「まあまあ。そんなに焦っても、いいことないぜ」

しかるべき時に出会いがあるからと、本宮さんが諭す。

もし本当に、すべての出会いが最高のタイミングでやってくるとしたら、本宮さんと出会えた1年前のあの日が、まさにそれだったのだろう。まさか自分に同性の――それも年上の恋人ができるなんて、あの日以前の僕は思ってもみなかったのだから。

「本宮さん。俺……貴方に興味があるんです」

突然、遼がやけに真剣な表情で、そんなことを口にする。

「俺に?」

本宮さんは、不思議そうな顔をして聞き返した。

「ええっ!? ちょっ……遼!?」

僕は、いきなりのことに動揺して声を荒げる。今まで、遼から同性が好きだと聞かされたことがなかったからだ。おまけに、本宮さんに興味があるというのも初耳で。驚きと疑念と困惑とで、心の中はぐちゃぐちゃだった。

そんな僕の胸中を知ってか知らずか、本宮さんは、

「ありがとな。でも、その台詞は、むやみに言わない方がいいぜ。勘違いしちまう奴もいるからな」

と、穏やかな表情のまま遼に忠告した。

(断ってくれた……ってことでいいんだよね?)

僕は、心の中で首をかしげた。

本宮さんの言葉は、一応、断ったと認識できるものだったけれど、どうにも腑に落ちない。というか、何かが引っかかる。それが、何なのかわからなくてもやもやする。

遼は素直に返事をして、

「試しに言ってみたけど、やっぱりだめかー。2人とも好き合ってるもんなー」

と、想定通りだと言わんばかりにつぶやいた。

でも、心なしか残念そうでもある。もしかして、本当は何かを期待していた……?

(まさか、本当に本宮さんを狙ってる?)

急に遼のことがわからなくなって、疑心暗鬼に陥る。

もともと同性を恋愛対象として見ていたのか、それとも本宮さんのかっこよさに触発されたのか。どちらだろうと、僕の胸中は複雑だった。

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