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第121話

Author: Hayama
last update publish date: 2026-04-14 17:00:00

「お待たせいたしました」

店員の声が耳に届いた瞬間、張り詰めていた空気が少し緩んだ。

テーブルに置かれたタルトと、コーヒーの香りがふわりと広がる。

「ありがとうございます」

礼儀正しく声を添え、軽く会釈する。自分の緊張を誤魔化すために、丁寧な仕草を意識する。

「美味しそう!」

莉沙さんの明るい声に、場の空気が一気に華やぐ。その笑顔に少し羨ましさを覚えながらも、私は同じように微笑みを返した。

「そうですね」

短い返事をしながら、私はタルトの鮮やかな色合いに視線を落とした。

表面にきらめく果実の艶やかさと、ふわりと漂う甘い香りが、ほんの一瞬だけ心を和らげてくれる。けれど、その安らぎはすぐに消えてしまう。

彼女のように素直に「美味しそう!」と言えたなら…。私は、素直になることが怖い。

何をしても否定される世界で生きてきたから、心の奥に染みついた恐れが、言葉を閉ざしてしまう。


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    「お待たせいたしました」店員の声が耳に届いた瞬間、張り詰めていた空気が少し緩んだ。テーブルに置かれたタルトと、コーヒーの香りがふわりと広がる。「ありがとうございます」礼儀正しく声を添え、軽く会釈する。自分の緊張を誤魔化すために、丁寧な仕草を意識する。「美味しそう!」莉沙さんの明るい声に、場の空気が一気に華やぐ。その笑顔に少し羨ましさを覚えながらも、私は同じように微笑みを返した。「そうですね」短い返事をしながら、私はタルトの鮮やかな色合いに視線を落とした。表面にきらめく果実の艶やかさと、ふわりと漂う甘い香りが、ほんの一瞬だけ心を和らげてくれる。けれど、その安らぎはすぐに消えてしまう。彼女のように素直に「美味しそう!」と言えたなら…。私は、素直になることが怖い。何をしても否定される世界で生きてきたから、心の奥に染みついた恐れが、言葉を閉ざしてしまう。「ところで花澄さんは、かずくんといつ結婚するんですか?」思いもよらぬ言葉に、心臓が喉までせり上がるような感覚が走り、呼吸が乱れる。「ゴホッ…、ゴホッ、」驚きでコーヒーを飲み込むタイミングを誤り、咳き込んでしまう。頬が熱くなり、視線を合わせられずに俯く。自分の反応があまりに露骨で、恥ずかしさが込み上げる。「花澄さん、大丈夫ですか!?」莉沙さんの慌てる声が聞こえ、私は咳き込みながらも顔を上げた。視線の先には心配そうに眉を寄せた彼女がいて、その手にはおしぼりが握られていた。差し出されたおしぼりを受け取ると、指先にひんやりとした感触が伝わり、胸の奥のざわめきが少し落ち着く。私は慌てて口元を覆い、軽く押さえるようにして拭った。「すみません、大丈夫です」声はまだ少し震えていたが、必死に笑みを添える。「そんなに驚かなくても」莉沙さんはそう言

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