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第6話

ผู้เขียน: Hayama
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2026-01-01 12:30:00

私は小さく息を吐き、胸の奥に溜まっていた緊張を少しだけ外に逃がした。

呼吸を整えることで、なんとか自分を保とうとしていた。

この場にふさわしい振る舞いをしなければ。

そう思えば思うほど、体はこわばってしまう。

私は背筋を伸ばし直し、視線をそっと落とした。

そのときだった。

壱馬様が静かに手を伸ばし、私にハンカチを差し出した。

私は思わず彼の顔を見た。

「使ってください」

声は低く、感情を抑えているように聞こえたけれど、どこか柔らかさがあった。

この人は、無関心なのではなかったのか。

それとも、ただ表に出さないだけで、実はとても繊細な人なのか。

その答えは分からなかったけれど、私はその優しさを、確かに感じていた。

私は、彼の無表情に、勝手な印象を重ねていたのかもしれない。

「あ、ありがとうございます」

思わず口をついて出た言葉は、少しだけ上ずっていた。

私はそっと手を伸ばし、彼のハンカチを受け取った。

その布地は、思ったよりも柔らかく、そして温かかった。

彼の体温がまだそこに残っているような気がして、その感覚を振り払うように、袴の濡れた部分を丁寧に拭き始めた。

「洗ってお返しします」

私がそう言うと、壱馬様は軽く首を振った。

「大丈夫です」

彼の声は、相変わらず静かで、感情の起伏はほとんどなかった。

私はその言葉に、少しだけ戸惑った。

本当に、返さなくていいのだろうか。

「でも、」

私は思わず言葉を継いでしまった。

自分でも、なぜこんなにこだわっているのか分からなかった。

ただ、彼の持ち物をそのまま返すことが、どこか落ち着かなかった。

「汚れてないですから」

彼は静かに言った。

けれど、私にはそれが彼なりの気遣いのように思えた。

それとも、ハンカチを口実に会いたがってると思われてる…?

そんなつもりじゃなかったけれど、そう思われても仕方がないのかもしれない。

私は、そっとハンカチを畳み直し、彼に返すことにした。

「ありがとうございます、」

彼の手が、私の差し出したハンカチを受け取るその瞬間、指先がほんの一瞬だけ触れた。

けれど、彼はすぐにそれを引き取り、何事もなかったかのように頷いた。

「あの、、壱馬様」

自分の鼓動がひときわ大きく響いた。

喉の奥が乾いていて、声が少しかすれた。

このまま黙って終わってしまうのが、どうしても嫌だった。

今日という日が、ただの形式的な儀礼で終わってしまうのなら、せめて自分の気持ちだけでも伝えておきたかった。

彼の目を見ようとして、けれどすぐに逸らしてしまう。

視線を落としたまま、私は膝の上で手を握りしめた。その手は、少しだけ震えていた。

「はい」

壱馬様の返事は、相変わらず静かだった。

でも、その声は、私の言葉を拒んでいない。

私は深く息を吸い、言葉を選びながらゆっくりと口を開いた。

「今日は私と会ってくださって、ありがとうございました」

私はそっと頭を下げた。

その言葉は、心からのものだった。

形式的な挨拶ではない。

この場に来てくれたこと、私の前に座ってくれたこと、それだけで有難かった。

「いえ」

彼の返事は短かった。

けれどその声には、先ほどよりもわずかに柔らかさがあった。

それが私の思い込みだったとしても、今はそれでよかった。

「もしかすると…両親に勧められて、無理やりここにいらっしゃるのかもしれませんが」

もしかするとなんて、曖昧な言い方をしたけどきっとそうだ。

だけど、そう口にするのは、あまりにも失礼な気がして言葉を濁した。

私自身がそうだった。

自分の意思など関係なく、ただ決まったからと言われてこの場に座っている。

だから、彼もきっと同じなのだろうと、勝手に思ってしまっていた。

彼は何も言わなかった。

その沈黙が、答えのように思えた。

私は視線を落とし、膝の上で組んだ手をぎゅっと握った。

「…もしも、また私と会うように言われたら、その時は断ってください」

その言葉を口にした瞬間、自分の中で何かが固まったような気がした。

たとえ、あとで父に何を言われようとも。

私は、私の言葉で彼に伝えたかった。

「え…?」

彼は驚いたように私を見つめた。

今まで感情を見せなかった彼が、こんなふうに目を見開くなんて。

私は、彼を困らせてしまったのだろうか。

それとも、私の言葉があまりに突飛で、戸惑わせてしまったのだろうか。

けれどもう、後戻りはできなかった。

「急にこんなこと言ってすみません。でも、どうしても伝えておきたくて」

私ははっきりと彼の目を見て言った。

この一言に、どれだけの勇気を込めたか、彼は知らないだろう。

「私のことがお気に召さなかったのですか」

彼の問いは、意外だった。

まさか、そんなふうに受け取られるとは思っていなかった。

彼は、私にはもったいないほどの人なのに。

首を横に振り、急いで否定の言葉を口にした。

「い、いえまさか、そんなわけありません。ただ…理由を聞かれた時は、私の不甲斐なさに嫌気がさしたとでも、仰ってください」

それが一番穏やかに終わらせる方法だと思った。

私が悪者になればいい。

そうすれば、誰も彼を責めない。

「そんなことを言ったら…」

彼の声には、明らかな戸惑いがあった。

私の言葉を、そのまま受け入れることができずにいるみたいだ。

「はい。お父様に、こっぴどく叱られると思います」

私は、少しだけ笑ってみせた。

けれど、その笑みは自嘲に近かった。

叱られる。なんて言葉では済まされないことも、私は知っている。

「じゃあなんで」

彼の声には、静かな疑問が込められていた。

なぜ、私はこんなにも自分を犠牲にしようとしているのか。なぜ、彼にここまでのことを言ってしまったのか。

自分でも、うまく説明できない。

ただ、彼の人生に私のような人間が関わってはいけないと、そう思っただけだった。

「幸せになって欲しいから」

その言葉は、私の中から自然とこぼれ落ちた。

飾り気もなく、ただ真っ直ぐに。

それが、私の本心だった。

彼には、自分の意志で人生を選んでほしい。

誰かの顔色をうかがって、誰かの都合に従って生きるような、そんな生き方をしてほしくなかった。

私は、そうして生きてきた。

そして、これからもそう生きていくのだろう。

でも、彼には違う道を歩んでほしい。

私は顔を上げ、彼の目をまっすぐに見つめた。

その視線に、すべての想いを込めて。

「人の幸せの為に、自分はどうなってもいいと…?」

彼の声には戸惑いと、どこか怒りにも似た感情がにじんでいた。

それは、私が自分を犠牲にすることを当然のように語ることへの、静かな抗議のように感じられた。

私は少しだけ微笑んだ。

「私の幸せは誰も不幸じゃない事です。だから、壱馬様が幸せなら、私も幸せです」

本当は、私だって幸せになりたい。

誰かに愛されて、必要とされて、穏やかな日々を過ごしたい。

けれど、それはきっと叶わない。

だからせめて、誰かの幸せの一部になれたら、それでいい。

私の存在が、誰かの不幸の原因にならないのなら、それが一番の幸せだと思った。

「…では、好きにさせてもらいます」

彼の声は、静かだった。

けれど、その言葉には、確かな意志が込められていた。

きっともう二度と会うことはないのだろう。

そう思った瞬間、胸の奥がひどく冷たくなった。

でも、それでいい。

それが、私の望んだ結末だった。

私はそっと目を伏せ、心の中で彼の幸せを祈った。

どうか。どうか、あなたが選ぶ未来が、あたたかいものでありますように。

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