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第14話

Autor: Hayama
last update Última actualización: 2026-01-09 12:00:00

「俺は、何か見返りを求めて花澄と婚約したわけじゃないよ」

その言葉は、まるで空気の色を変えるように、静かに、けれど確かに私の胸に届いた。

それは、私の中にあった前提を根底から覆す言葉だった。

私は、てっきりそうだと思っていた。

家同士の都合、体裁、あるいは何かの義理。

私に価値があるとすれば、それは誰かの娘という肩書きだけで、私自身には何の意味もないと思っていた。

「…え、」

声にならない声が、喉の奥から漏れた。

私は、壱馬様の顔を見つめたまま、まるで時間が止まったように動けなくなっていた。

彼の表情は変わらず穏やかで、けれどその目だけは、まっすぐに私を見ていた。

その視線に、嘘はなかった。

「やっぱり、そんな風に思ってたんだね」

壱馬様は、私の反応を見て、少しだけ寂しそうに笑った。

その笑みが、私の胸を締めつけた。

私は、彼を疑っていたのだ。

彼の優しさを、どこかで裏があると決めつけていた。

信じたいと思いながらも、信じることが怖くて、心の扉を閉ざしていた。

「で、ですが、それなら私がここにいる意味が…」

戸惑いながらも、どうしても聞かずにはいられなかった。

見返りを求めていないのなら、私は、ここにいていいのだろうか。

何の役にも立たない私が、この家にいて、彼の隣にいて、それで本当にいいのだろうか。

壱馬様の顔を見上げながら、自分の存在が空っぽのように思えて、胸の奥がひどく痛んだ。

「花澄に雑用を押し付けたりなんかしないよ。なんなら何もしなくていい」

そんなふうに言われたのは、生まれて初めてだった。

私は誰かの役に立つことでしか、自分の存在を許されないのに。そう思っていたのに。

私は、思わず口を開いた。

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