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それでも愛してるよ

それでも愛してるよ

By:  ロックされた心Completed
Language: Japanese
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私の角膜を受けた夫――賀川陽翔は、私を床にひざまずかせ、犬のように吠えろと命じた。 私の心臓で生きている娘――満には、「あなたなんか、私のお母さんになる資格ない」って、何度も言われた。 人工心臓の鼓動が途切れる直前、私は夫の番号を押した。 しかし、彼は冷たい声で叱りつけた。「澪、いい加減にしてくれ。死にたいなら勝手に死ね。俺は葬式なんて出ないからな」 雪が降りしきる夜、私は残った左目を静かに閉じた。 それから、愛してくれなかった夫は、自らの手でその目をえぐり出した。 私を拒んだ娘は、私と再会するために、何度も命を絶とうとした。 けれど私は、もう二人の愛を期待することはなかった。

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Chapter 1

第1話

賀川陽翔(かがわ はると)は、手にしていたスマホを思い切り私の頭に叩きつけた。

「澪(みお)、お前、頭おかしいんじゃないのか!?わざわざ俺が瑠璃のデッサンモデルをしているときに電話して邪魔するなんてさ。

お前、自分で数えてみなよ。何回かけたと思ってんだ!」

こめかみから流れた血が目に入った。それでも私は、彼のシャツの襟についた淡いピンクの口紅の跡をはっきりと見た。それは神崎瑠璃(かんざき るり)がいつもつけている色だった。

人工心臓のモニターが三度目の警告を鳴らしたあと、医者は「ご家族を呼んでください。できるだけ早く、精密検査を受けたほうがいいです」と言った。

でも、夫にかけた電話は何度も切られた。

夜、ようやく帰ってきた彼は、玄関を開けるなり怒鳴りつけてきた。

まるで、私が瑠璃との時間を台無しにした罪人みたいに。

喉の奥の苦さを飲み込んで、説明した。「最近、心臓の調子が悪くて、医者が――」

その言葉を最後まで言い切る前に、彼は眉をひそめ、苛立った声を浴びせた。

「もういい。どうせ構ってほしいだけだろ。

病気のフリして同情引こうとしてもさ。そんな薄汚い真似を見て、吐き気がするだけなんだよ」

私は痛む額を押さえながら、階段を上がっていく陽翔の背中を見つめた。

思い出そうとしても思い出せなかった。産後の大出血で死にかけた私の手を握り、「一生守る」と泣いてくれた昔の彼の顔を。

人工心臓が最初に警告を出した日。

あの日、私は陽翔に命じられて、瑠璃の欲しがってたバズってる誕生日ケーキを買うために真夏の行列に並んでいた。

灼けるような日差しの下、二時間が過ぎた頃、手首のモニターが警報を鳴らした。

私は力なく、彼に「病院へ連れて行って」と頼んだ。

しかし、彼は鼻で笑った。「お前は別に、心臓の病気なんかじゃないだろ。もう大げさに可哀そうぶるのはやめろよ。

瑠璃の誕生日だって知ってるくせに、祝う気がないなら黙ってろ。わざわざ出てきて人を不快にさせるな、縁起でもない」

そのあと、私は路上で倒れ、通りがかった掃除のおばさんが救急車を呼んでくれた。

二度目の警告の日。

瑠璃が、満(みつる)のために描いた肖像画を私が汚したと濡れ衣を着せた。

彼女は絵の端についたワインの染みを指さしながら、泣き声で訴えた。「陽翔さん、澪さんって、私が満に近づくのを嫌がってるのかな?

でも、これらの絵はどれも私の気持ちそのものなの。殴られても、罵られてもいいけど、私の絵だけは侮辱しないで!」

陽翔は私を冷たい酒蔵に閉じ込め、ドライアイスの上に跪けと命じた。

膝は凍傷で裂け、皮と肉の隙間から膿混じりの血が滲み出す。

私は倒れそうになりながら、震える声で外へ出してほしいと懇願した。

けれど彼は冷たく笑い、酒蔵の鍵を音を立てて閉めた。

二日後、ワインを取りに来た執事がドアを開けなければ、私はそこから永遠に出られなかっただろう。

額の傷を手当てして、私は満の部屋のドアをそっと開けた。

病院の帰りに買ったお菓子を手に提げて。

「満、絵を描いてるの?一緒に――」

満はうんざりしたように私をちらりと見て、顔をしかめた。

「来ないで。瑠璃お姉ちゃんにあげる絵、汚れちゃう」

彼女は真剣な顔で、手元の絵に色を塗り続けた。

右目の角膜を提供したあと、手術の合併症で左目の視力まで極端に落ちてしまった。

私がじっと絵の模様を見つめていると、満は不機嫌そうに口を尖らせ、勢いよく私を突き放した。

「目が見えないくせに、何がわかるの?

これ、昨日パパが私と瑠璃お姉ちゃんにごはん作ってくれたとこ!

パパ言ってた。ママは卑怯で、瑠璃お姉ちゃんの絵をパクったって!そんな人、もう一緒にいたくない!」

娘の嫌悪に満ちたまなざしを感じながら、私はゆっくりドアを閉めた。

胸の奥で、人工心臓が歪むように痛んだ。

彼らが私を恨んでいる理由はわかっている。

満の心臓手術の日も、陽翔が角膜移植を受けた日も、私は姿を見せなかった。

そのとき、彼らのそばにいたのは瑠璃だけだった。

けれど、あのときの私は手術後の療養中だったのに、彼らは私が男と外で遊び歩いていたと思い込んでいた。

片目を失い、人工心臓の鼓動を胸に抱えて家に戻った私を見て、陽翔は私の血が滞ってできた痣を指さし、怒鳴りつけた。

「淫売め、男がいないと生きていけないのか!

俺が心不全になったと思えば男と駆け落ちして、今度は片目が見えなくなって帰ってくるとはな。

澪、お前には俺のそばで一生罪を償わせてやる!」

彼らに、ドナーが私だったとは言えなかった。

愛する夫と子どもに、一生消えない罪悪感を背負わせたくなかったから。

けれど、その沈黙が、彼らの憎しみをさらに煽り、私を容赦なく傷つけさせることになるなんて、思いもしなかった。
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