ログイン「あれ……、私?」
「もう朝だよ」
「え!?」
目が覚めるとリチャードがベッドの隣の椅子に座っていた。
どうもベッドで横になってそのまま寝入ってしまったらしい。
「久々にリタの寝顔を堪能できたよ」
目じりを下げて満面の笑みを浮かべるリチャード。
普段は私の方がリチャードの寝顔を堪能するのに今日は堪能されてしまったらしい。
何か悔しいのでほっぺたをタプタプしておく。
「おおお、やへるんだ(やめるんだ)」
「恥ずかしい思いをしたからお返しです」
昔より贅肉が増えている気がする。
もう少し運動してもらわないと駄目ね。
……そういえばしばらく夜の営みをしてないし、今日の夜に誘ってみようかな。
十分にほっぺたを堪能した後に離す。
「つらいなら無理して起きてこなくていいからね」
「大丈夫ですよ」
そう言ってベッドから降りて立ち上がる。
その瞬間、頭の血の気が引く感覚があった。
あ、駄目、立ち眩みが……。
「ほら、危ない」
でもリチャードが私を支えてくれた。
まるで私が体勢を崩すのが分かっていたみたいだ。
「今日はずっとここで一緒にいようか」
「お仕事はいいのですか?」
「リタの看病より大事な仕事はないよ」
穏やかに、でも強い意志で答えるリチャードを見て結婚が決まった時のことを思い出した。
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「いきなり貴族の嫁になると言うのは大変でしょうが、必ず幸せにします」
リチャードは私の家に来て結婚を申し込んだ。
ただの平民の家にわざわざ貴族様がやってくるなんて普通ありえない。
ましてや"申し込む"なんて考えられない。
ほとんどは貴族の指示でやってきた部下が"金で買っていく"であり最悪の場合はお金すら支払われず攫われるだけ。
でもリチャードは自分でやってきて私に選択肢を与えた。
「断っても不利益が生じることはない」
「受け入れれば家に対する十全な支援と君への幸せを約束する」
普通なら喜んで受ける話だけど、母や姉は執拗に『断れ』と言ってきた。
その理由は彼の容姿にあるのだと思う。
小柄で丸顔で太った姿は貴族どころか大人にすら見えない。
せめて童顔ならまだしも顔自体は年相応。
母は『小さい大人って感じで気持ち悪い』と言っていたし、姉に至っては『人間じゃない化け物か何か』とまで言っていた。
でも私はそうは思わなかった。
見た目も顔もまん丸なのはむしろ愛嬌があって良い。
ふっくらぷにぷにで触り心地よさそう。
そう伝えたら母と姉に変な目で見られた。
それに私を見つめる彼のまなざしはただ私に愛されたいと願っているように思えた。
一生懸命私を選んだ理由を説明する彼の言葉は一言一言に魂がこもっている気がした。
だから彼を信じて結婚を受け入れた。
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実際、結婚直後は大変だった。
文化の違いや意識の違い、言葉遣い、礼儀作法、その他もろもろ。
覚えること・理解することはたくさんあった。
でもリチャードが助けてくれたおかげでなんとかなった。
その代償としてリチャードが私に求めたのはただ一つ。
「リタ……」
「んっ」
私にキスをしてきた。
相変わらずの甘えん坊さん。
私と目があったことで甘えたくなったのだろう。
間髪を入れずまたキス。
あれ?
何度もする時は軽くするだけなのに今日はしっかりするんだな。
それにしてもこうして近くで見るとリチャードも年を取ったなと思う。
昔に比べて小じわが増えてる。
あ、まつ毛に枝毛がある。
「どうしたんだい?」
「ううん、幸せだなと思いまして」
「っ!……僕もだよ」
ちょっと苦しいぐらい力強くギュッと抱きしめられる。
どうしたんだろう?
まるで捕まえているみたいだ。
私はどこにも行かないというのに。
「リタ、もう離さない」
「どこも行きませんよ」
事故のせいで甘えん坊に拍車がかかってるみたい。
まだ朝だけど少し気持ちを落ち着けてあげよう。
そう思って服を脱ごうとしたらまだ普段着だった。
これでは自分で脱げない。
「脱がすの手伝ってもらえますか?」
「いやリタの体調が悪いのにそんなことしないよ」
そう言いながら私をベッドに寝かせる。
でもその後リチャードも私の横に寝て抱きしめてきた。
「しないのではないのですか?」
笑いながらそう言うと、少し拗ねたような表情をする。
「だって寂しいし隣で寝るぐらい良いよね……?」
「仕方ない旦那様ですね」
「愛してるよ」
やけに『愛してる』が多い気がする。
たしかに普段から多い人だけど今日は輪をかけて多い。
私が死ぬかもしれないと思っていたから不安だったのかな?
「私も愛していますよ」
そう言った瞬間、ベッドに押し倒された。
する気になったのかと思ったけどそのまま抱きついている。
まるで赤ちゃんのようだ。
もう、こういう時は本当に大きい子どもなんだから。
頭をなでていると段々眠くなってきた。
たしかにまだ疲れているのかもしれない。
でももう少しだけなでていたい……。
最近奥様が寝込まれることが多くなってきました。 医者にも見せているのですがまったく原因が分からないそうです。「ねえアナ、ちょっといいかしら?」 奥様がわたくしを呼びます。 その姿は少し弱弱しくて不憫になります。「私の体調はどうなのかしら?」「すぐ良くなるそうですよ」「そう……」 原因不明とは言えません。 そんなことを伝えたらさらに心労を増やしてしまいます。「リチャードにはずっと言ってるのだけど私を生き返らせないようにね」「っ、それは」「死んだ人が生き返るのは自然の摂理に反するの」 この時、既に奥様には確信があったのでしょう。・・・ 数日後。「リタ、リタ、どうして、どうしてなんだよ……」「旦那様……」 旦那様が冷たくなった奥様を抱きかかえて大声で泣いておられます。 朝、旦那様が目覚めた時は既に息を引き取られていたとのことです。 隣には涙をこらえるお嬢様の姿があります。「すぐ元気になるって言っていたのに」 おそらく旦那様を不安にさせないためにそう言っていたのだと思います。 実際、体調が良くないことはよくご存じでした。「死者蘇生……そうだ、死者蘇生だ」 ゆらりと立ち上がった旦那様がそうつぶやかれました。「魔術師ならリタを生き返らせることが出来る!!」「駄目です、それは奥様から止められています」「僕にはリタしかいないんだ!!」 奥様が懸念された通りになってしまいました。 なんとかお止めしないと。「もう魔術師はいません、死にました」「他にも魔術師は存在する、今すぐ探せばいい!!」「死者蘇生は自然の摂理に反すると奥様は申されていました」「摂理に反しようが世界に反しようが僕はリタに生きてほしい」 駄目です、わたくし達の言葉では旦那様に届きません。 奥様の言葉すら届かないのにどうすれば……。「お母様の墓前ですわよ」 お嬢様の発したその言葉は静かに皆の心に響きました。「レ、レイナ……」「お父様、死者蘇生?というものでお母様が生き返るのは本当なのですか?」「あ、ああ、そうだよ、一度生き返ったことがあるんだ!!」「それをお母様はご存じだったのですか?」「もちろん!! あの時は大変だったんだ」「なら、やめましょう」「は?」「聡明なお母様が、知っていた上でやめろというなら理由があるのでしょう」「
「あなた方だけでは謝罪が足りない、周りも謝罪が必要だ」「は?」「リチャード!?」 旦那様は謝罪を受け入れられませんでした。 これはみんな想定外で奥様すら驚いておられます。「僕のことはいい、でもリタを悪く言ったのは許さない」「ひっ!?」 旦那様に見られた女性が悲鳴をあげました。 よく見ると先ほど奥様に淫売と言った女性です。「リタに謝罪しろ」「リチャード!? 私はそんなこと気にしないわ!?」「僕が気にするんだ、さあ早く」 これほど怒っている旦那様を見るのも奥様の言うことを聞かなかった旦那様を見るのも初めてです。「む、無理やり言うことを聞かせるなんて野蛮です」「そ、そうだ、主催の貴族が謝罪しているんだから受け入れろ」 主催の貴族が謝ってもあなた方が謝ったことにはならない。 そんなことすら分からないのでしょうか?「謝罪がなければ本家に処分を依頼する、リチャード=スオルムの名にかけて」 『本家に処分を依頼する』この言葉で会場が一気に静まりました。 特に主催の貴族達は顔を青ざめさせています。 スオルム家は王族と強いつながりがある家系です。 旦那様はその分家の末席になります。 もちろん直接的な力は何もありませんが本家に頼みごとをする程度は可能です。 ただし頼めば無償で動いてくれる訳ではありません。 十分な代価が必要となります。 今回のようにこうやって名前を出すだけでも寄付とは比べ物にならない代価を要求されるでしょう。 ましてや処分を依頼するとなるといくらになるか想像がつきません。 その分相手に対する効果は絶大です。「リチャード殿、それは……」 あわてて主催の貴族達が取りなしに来ました。 処分が来る場合は巻き添えを喰らう可能性が高いので必死です。「この馬鹿が、早く謝れ!!」「だ、だって」「つべこべ言うな、周りを巻き込むな!!」 他の貴族は奥様に暴言を吐いた夫人を取り囲んで謝罪を迫っています。 夫と思われる貴族も必死に謝らせようとしています。「も、申し訳ありませんでした」「次はないと思え」「は、はい」 これを皮切りにして貴族達が次から次へと謝罪に来ていますがそれに対して高圧的にも見える態度で対応されています。 いつもお優しくて誰に対しても強く出なかった旦那様があのように怒りをあらわにされるなんて思いませ
「貴族というのは子どもにお金をたかるものなのかしら?」「は? そいつは成人だろ」「子どもの振りして寄付から逃れようっていうのか?」「あなた方がいつリチャードを成人扱いしたのですか?」「実際に成人だろ」 その言葉を聞いた奥様が周りを見回しながら問いかけます。「誰がそれを認めているのですか?」 その言葉に周りは黙り込みました。「リチャードを成人と認めてくださる方はいらっしゃいますか?」 奥様がさらに問いかけても誰も反応しません。 旦那様の友人の方も声を出されませんが仕方ありません。 下手に発言すれば主催の貴族たちに目をつけられます。「誰も成人と思っていないようですが?」 主催の貴族たちに向き直り改めて問いかけられましたが返答はありません。「平民風情が出しゃばるな!!」「そうだ、ここは平民が話す場ではない!!」「どうせ金目的で子豚のものを咥えこんだんでしょう、汚い淫売が」 主催の貴族が黙ったことでここがご機嫌取りの機会だと思ったのでしょう。 周りにいる夫人たちが口汚い言葉で旦那様と奥様を罵ります。 しかし奥様はその言葉を無視して問いかけます。「あなた方はどのくらい寄付をされるのですか?」 夫人たちの言葉が詰まりました。 おそらく寄付はしていないのでしょう。 普段から見ていても寄付をしているのは旦那様だけです。「まさか平民以下ということはありませんよね?」「平民を嫁にするような格下の貴族だから寄付してるのよ!!」「そうよ、格が足りないから金で補ってるだけ!!」「つまり格はお金で買えると言っている訳ですね」「は?」「補うことが出来るなら結果としては等しくなりますよね?」 奥様の言葉に周りの貴族のみならずわたくしも驚いています。 そのような発想自体ありませんでした。「な、な、何言ってるの、格の違いはお金なんかで補えるわけないでしょ!!」「金、金、金、ってあさましい」 先ほどまでと言っていることが違います。 格が足りないというのはどこにいったのでしょうか。「つまり寄付に意味はないと?」「招いてあげてるんだからせめて金ぐらい出すべきよ」「そうよ、参加料よ」「なるほど、みなさん寄付ではなく参加料であるという認識なのですね」 奥様の声が少し高くなりました。 これは奥様が怒っているときの癖
奥様は貴族夫人として相応しくなるよう大変な努力をなされています。 毎日厳しい教育を受けている様子を見て旦那様はかなり心配しておいででした。「リタ、大丈夫かい? つらくないかい?」「大丈夫ですよ、リチャード」 ジョゼット様のことがあるからでしょう。 ことあるごとに声をかけていらっしゃいます。「心配性ですね、一人で大丈夫ですよ」「だって大変そうだよ」「リチャードも子どものころに一人で教わったのでしょう?」「でも……」「リチャードにずっと見られていたらアナスタシアもやりづらいですよ」「わかった、愛してるよ、リタ」「私も愛していますよ」 渋々といった表情で部屋を後にされる旦那様。 退出前に奥様の手を握って寂しそうにしてたのが印象的でした。「リチャードは甘えん坊ですね」 奥様はよくそうおっしゃいますが今までこのようなお姿はほとんど見たことがありませんでした。 奥様によほど心を開いていらっしゃるようです。 ただ毎日のように『好きだ』『愛してる』という言葉を聞くのでこちらが赤面してしまいます。「今日はリタに我慢させることになると思う」「構いませんわ」 今日は結婚後初めての貴族の交流会です。 平民である奥様にはいろいろと厳しいことを言われるでしょう。 旦那様はかなり気にしておいでですが奥様はあっけらかんとしておられます。 会場に到着しました。 周りの目が一斉にこちらを見ます。「まあ、あれが例の……?」「ええ、そうですわ、何でも平民の出だとか」「割れ鍋に綴じ蓋でちょうどいいでしょう」 わざと聞こえるように話しているのでしょう。 奥様にも聞こえたようですがなんの反応もありません。 しかし割り当てられた席に座ろうとした時、顔色が変わりました。「リチャード、それは?」「いいんだ、リタ」 旦那様に用意されていたのは子ども用の椅子。 さらに近くには踏み台まで用意されていました。「座りやすくてちょうどいいよ、ははは」「リチャード……」 最近こういうことが増えてきました。 旦那様が我慢しておられるので耐えていますが招いておいてこの対応は許せません。 しかし使用人の立場では言えないのが歯がゆく感じます。「さあ早くリタも座りなよ」「……ええ」 奥様も戸惑いながら座られました。 全員着席したところで主催の貴族
どうしましょうか。 突然の旦那様の願いに戸惑いを隠せません。 ジョゼット様の件以降、旦那様は婚約者をお作りになりませんでした。 相手が明らかに財産目当てだったのもありますが一番は旦那様が興味を持ちませんでした。 『僕が好きになった人と結婚したい』とおっしゃる旦那様はよほどジョゼット様のことが尾を引いていると思われます。 そんな旦那様が結婚なさるおつもりだと言うのは非常に喜ばしいことです。 ただ相手が平民となると話が変わります。 平民と貴族は住む世界が違います。 それは身分の差と言う意味だけでなく魔力の有無という意味もあります。 貴族の世界は魔力があることを前提に作られています。 わたくし達のような平民では呼び鈴すら鳴らすことができません。 もし平民が妻となれば社交で問題が出ることでしょう。 ただ先ほどの様子だと既に覚悟を決めておられるようです。 ……ならば使用人としては最善を尽くすのみでしょう。「分かりました、さっそく調べてまいります」・・・ 数日である程度情報は集まりました。 名前はリタ様と言うそうで旦那様と同い年の結婚経験なし。 明るく優しく聡明な方で結婚していないのが不思議だとか。 妾であれば文句のない相手なのですが……。 旦那様に報告すると『すぐにでも挨拶に行く』とのことでした。 よほど待ちきれないのでしょう。 準備を整えて彼女の住む家に向かいます。「いきなり貴族の嫁になると言うのは大変でしょうが、必ず幸せにします」 それを聞いた彼女は興味深そうな目で旦那様を見ていました。 彼女の印象は悪くありませんね。 ただ家族の方はひどいものです。 彼女の母は得体の知れないものを見る目だったし彼女の姉に至っては嫌悪感を隠しもしない。 旦那様がひどい貴族であれば何らかの処罰を受けていたでしょう。「断っても不利益が生じることはない」 その言葉で彼女の母が安堵したのがわかります。 大事な娘を無理やり奪われると思ったことは理解できますが旦那様の誠意を理解していないことには腹立たしさを感じます。「少しお時間をいただけないかと」「わかった、しっかり考えてほしい」 旦那様は食い下がることなくその場を後にしました。 旦那様の雰囲気だと断られた時は素直に諦めてしまいそうです。 しかしここまで気に入られているなら妻
それから数年。 婚約の話は何度も来ていたが全て断っていた。 女性が財産目当てに媚びてくる姿があまりに悲しかったからだ。 ジョゼットは一度もそんな態度をしなかった。 お金ではなく僕の方を見てくれた。 もし結婚するならそんな相手であってほしい。 そして今度こそ自分が愛を与える側になりたい。 そんな相手を探していたある日のことだった。 その日は偶然が重なった。 たまたま馬車の幌が一部壊れていたこと、たまたま鳥の糞が落ちてきたこと、たまたまそれが幌の隙間を縫って落ちてきて僕の服についたこと。「運が悪いなぁ」「申し訳ございません、壊れた馬車に乗せたわたくしの責任です」 無表情に見えるけどよく見ると若干眉をひそめて下唇を噛んでいる。 よほど責任を感じているのだろう。「アナのせいじゃないし他の誰のせいでもないよ」「旦那様、ですが……」 こんなことで誰かを責めて何になるのか。 それに最終的に僕がいいと言ったのだから僕の責任だろう。「ちょうどそこに店があるし代わりを買おう」「……わかりました、すぐ交渉してまいります」 少しためらっていたけど承諾してくれた。 これでいい、そんなに気にすることじゃない。「貸し切りには出来ませんでしたがなんとか使えそうです」「よかった」 本当は貸し切りの方が迷惑にならないと思うけど店側がいいというなら構わない。 みんなを連れて店に入ると店員が怪訝な目で見てきた。 初めての店だから僕の姿に驚いているのだろう。 いつものことだ。「旦那様?」「いいよ、初めてのお店だし」 店員の怪訝な目にアナが気づいたけどたまたま通りがかった店に対してそこまでする必要もない。 貴族に慣れている店ならそういう反応を見せないものだけどここはあまり慣れていないんだろう。 建物の奥側に案内されて服を試着していく。 とりあえず家に帰るまで持てばいいのだからなんでもいいのだけど、アナ含めメイド達が『似合うものしか駄目です』と言っていた。 おかげで何着も試着している。 まあみんな楽しそうに選んでくれているのでいいか。「何あれ? 気持ち悪っ」「しっ、お貴族様だよ、下手なことを言うと首はねられるよ」「怖っ、え、聞こえてないよね?」 悪口と言うのは存外遠くまで聞こえるものだ。 かなり離れた入り口付近の店員が話している
「奥様、朝でございますよ」「ううーん」 いつものように頭のある辺りに手を伸ばすと、その手は空を切った。 目を開けて見てみるとそこには誰もいなかった。「あれ? リチャードは?」「旦那様はもう起きて仕事しておられます」 珍しいこともあるものだ。 私と一緒に寝る時はいつも私に抱き着いたまま起こされるのに。 寝顔を見ながら頭をなでるちょっとした楽しみが出来なくて残念。「あ、服着替えないと」「もう着替えは終わっております」 言われて服を見てみるとたしかに寝る前と変わっている。 リチャードが起きた時にアナに伝えてくれたのかな? ただ何か全体的に動きづらく感じる。 いつも着慣れて
食堂に入ると予想通りリチャードがそこにいた。「おはようございます、リチャード」「っ、あ、ああ、おはよう」 少し驚いた顔をしている彼が私の旦那様だ。 かなりの小柄で丸顔の太った体。 女性と比べてもさらに小さくて子どものような大きさ。 本人はすごく気にしているけど私はかわいいと思っている。 手にはコップを持っている。 リチャードは朝食前に必ずミルクを飲むのでまだ朝食を済ませていないんだろう。 一緒に食べることが出来ると思い椅子に座ろうとするとリチャードが私を抱きしめた。「リタ……よかった……」 そう言って背伸びして唇を合わせてくる。 なんとなくいつもと唇の感触が違う。
「奥様、もうお時間ですよ」 メイド長のアナスタシアの声で目が覚める。 嫌な夢だった。 体がばらばらに引き裂かれる夢。 手足がちぎれていく感覚はものすごく生々しくて、起きた今でも思い出せる。 思わず体を身震いさせてしまう。「どうされましたか?」「なんでもないの、アナが起こしに来るなんて珍しいわね」「ちょっと事情がございまして」 少し困った表情をしているので何かあったのだろう。 普段ならスフィーナやイリーシャが起こしに来るはずで、わざわざアナが起こしに来る必要なんてない。「それにどうしてこんなに真っ暗なの?」 あまりの暗さで夜かと思ってしまった。 窓を見ると外側から何か
事故後に初めて食堂に言った時、リチャードが「事故にあった」「よかった」と言っていた。 あの時のリチャードには驚きと喜びがあった。 私の顔の変化に対する驚きと私が生きていた喜びと考えれば辻褄が合う。 でもこれだけの怪我をしているのに、私に痛みはないのはなぜだろうか? 体を見せない、突然の改築、全身のだるさ、食欲のなさ。 軽く手をつねってみる。 まったく痛みを感じない。 総合的に考えて導き出される結論は……。 そうか、私は事故で死んだのか。 そして何らかの方法で生き返らされた。 ……死者蘇生。 魔術師と呼ばれる存在が使うことが出来る秘術。 死んだものを生き返らせて







